なぜBTSだったのか。全米1位の背景や意義を米Billboardコラムニストに訊く

今年5月、世界の音楽シーンで1つの歴史的出来事が起きた。韓国の7人組ボーイズグループ・BTS(防弾少年団)の最新作『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』が、アメリカの週間アルバムチャート「ビルボード200」で初登場1位に輝いたのだ。

これは韓国人アーティスト史上初の快挙。シングルチャートにあたる「Hot 100」ではかつて坂本九(“スキヤキ”)が1位、PSY(“カンナム・スタイル”)が2位を獲得したが、アルバムチャートである「ビルボード200」での1位はアジア圏のアーティストでも史上初だという。非英語圏の言語で作られたアルバムが1位の座に就くのは実に12年ぶりとなる。

CINRA.NETでは昨年、アメリカのビルボードのコラムニストであり、ニューヨーク・タイムズやCNNといったメディアにも寄稿や出演をしているジャーナリストのジェフ・ベンジャミンに、アメリカにおけるK-POP人気の現状を訊いた(前編:米ビルボード記者に聞くK-POPの躍進 PSYから防弾少年団まで、後編:米ビルボード記者に聞くK-POPの躍進 防弾少年団はなぜ人気?)。

K-POPはいまやアジアを超えて欧米にまでその人気が拡大しており、アメリカでソールドアウト公演を行なっているグループもBTSだけではない。ではなぜBTSだけが、アメリカのマーケットでここまでの成功を収めることができたのだろうか。今回は再びジェフ・ベンジャミンにメールインタビューを敢行し、BTSのアメリカでの成功の背景やその意義について訊いた。

米音楽史における意義。「素晴らしい作品は世界のどこからでも生まれ得る」

韓国のアーティストが世界最大の音楽市場であるアメリカのチャートで1位を獲得したこと。このエポックメイキングな出来事は、アメリカのポップミュージック史においてどのような意義を持つのだろうか。

ベンジャミン:これはBTSにとってだけでなく、世界の音楽全体にとって大きな出来事だと思います。特にアメリカではヒットシングルを出すのも容易なことではないですが、消費者がアルバム全体――つまり1つの特定のアーティストが発表した作品全体を愛し、アメリカにおいてその週の1番消費され、購入されたアルバムになったということは、消費者がその音楽を理解し、深い繋がりを持ったということです。

人々がその音楽が歌われている言語について偏見を持たなくなり始めている証だと言えますし、また素晴らしい作品、素晴らしいフルレングスアルバムは世界中のどこからでも生まれ得るということを示していると思います。

BTS(防弾少年団)の全米1位に輝いた最新アルバム『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』ジャケット
BTS(防弾少年団)の全米1位に輝いた最新アルバム『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』ジャケット

2017年のビルボードアワード受賞や米テレビ出演も後押し

BTSの快進撃はいまに始まったことではなく、2016年のアルバム『WINGS』は「ビルボード200」で当時のK-POPアーティスト史上最高位となる26位を記録。さらに昨年9月リリースの前作『LOVE YOURSELF 承 'Her'』は7位、そして今作で1位と着々と自らの記録を更新してきた。

『LOVE YOURSELF 承 'Her'』の収録曲“DNA”もシングルチャートである、ビルボードの「Hot 100」で最高67位まで上り詰めている。

BTS“DNA”のPV。日本では昨年の『ミュージックステーション』出演時にも披露された

昨年5月にはアメリカの『Billboard Music Awards 2017』でジャスティン・ビーバーらを抑えてトップ・ソーシャル・アーティスト部門を受賞。11月には『American Music Awards』に韓国のグループとして初めて招待され、『ジミー・キンメル・ライブ!』『エレンの部屋』『レイト×2ショー with ジェームズ・コーデン』などの人気番組にも立て続けに出演を果たし、英語圏のメディアでも多く取り上げられた。

今年の『Billboard Music Awards』でもトップ・ソーシャル・アーティスト部門に輝き、2年連続の受賞となった  ©BBMA2018 / dcp
今年の『Billboard Music Awards』でもトップ・ソーシャル・アーティスト部門に輝き、2年連続の受賞となった ©BBMA2018 / dcp

ベンジャミン:(『Billboard Music Awards』の受賞や『American Music Awards』出演は)韓国のアーティストが他の欧米のアーティストと同様にアワードや番組などでパフォーマンスをし、賞を受けることができるという事実を人々にわからせ、偏見をなくさせることの助けになったと思います。

BTSが『Billboard Music Awards 2017』で受賞した時、彼らはすごくよく話せていたし、クールに映っていました。『American Music Awards』の時も同じでパフォーマンスも素晴らしかったし、かっこよかった。もしこの時彼らのパフォーマンスや振る舞いが上手くいかなかったり、どこかぎこちない感じを見せていたら、もともとついていたファンにもその後のファンベース作りにも影響を与えていたと思います。

でも彼らはどちらの機会にもすごく良い結果を残しましたよね。メンバーのRMなんて英語のスピーチに自然と韓国語を混ぜてたじゃないですか! 彼らのプロ意識とクオリティーの高さは自然とファンの関心を引きつけたのでしょう。

もちろんメディアも彼らの人気は認識していて、BTS側もメディアに対してオープンでした。インタビューや質問の対応も上手かったので、ファンが気に入るコンテンツが作られたのだと思います。

BTSの昨年の『Billboard Music Awards』出演時を追ったドキュメント映像

BTSの成功のカギは「メディア戦略」

BTSのアメリカでの成功は、K-POP自体の人気の拡大にも後押しされている。アメリカでは2012年から韓国カルチャーのコンベンションイベント『KCON』が様々な都市で行なわれており、年々来場者数を増やしているという。『KCON』ではBTSをはじめ、これまで多くのK-POPアーティストがアメリカの観客を前にパフォーマンスを披露してきた。またBIGBANGやSHINee、EXOなど北米ツアーを成功させているグループもいる。

2016年にロサンゼルスで行なわれた『KCON』でのBTSのパフォーマンス

そんな中、アメリカでの人気においては頭一つ抜けた感のあるBTSだが、なぜBTSだけがここまでの成功を収めることができたのだろうか? ベンジャミンは彼らのメディア戦略を指摘する。

ベンジャミン:もちろんSHINee、EXO、BIGBANGといったアーティストたちはレベルの高い音楽とパフォーマンスによって欧米で大きなファンダムを築いてきました。ですが私はジャーナリストとして、BTSの欧米メディアへのアプローチの仕方は、他の多くのK-POPアーティストたちと大きく違うように感じています。

初期に彼らに会ったのは2014年の『KCON』でしたが、その時でさえ彼らはアメリカのメディアに対してとてもオープンで関心を持っているようでした。私は彼らがアメリカのプレスを上手く使って、大きなメディアと仕事をしているのを目にしてきています。多くの場合、K-POPアーティストが上手くアメリカのメディアを利用できる機会はありませんが、BTSはアメリカのメディアに対してこれまでずっとオープンで、積極的に連携する姿勢を見せてきました。

アメリカと韓国ではメディアの性質は大きく異なります。でもメディアの露出機会を捉えて上手く話題作りを行なえていないように見える他のアーティストと比べて、BTSはメディア戦略をよく知っていて、賢くやっていると思います。

焦点はいつも「チーム」に。SNSのグループアカウントの運用も巧み

BTSのアメリカでの成功の要因としてよく挙げられるのがSNSだ。彼らは日常的にTwitterやYouTube、V LIVE(韓国の動画配信アプリ)を更新してファンとコミュニケーションをとっている。しかしこうしたSNSの使い方もまた、BTSだけでなく他の多くのK-POPアーティストがやっている。SNSの使い方においてBTSが他のアーティストと違うところがないか尋ねたところ、次のような回答が得られた。

ベンジャミン:これはBTSが最初に始めたことでないですが、彼らはグループアカウントに力を入れているK-POPアーティストの一番良い例ではないかと思います。過去にはグループアカウントを持っているアーティストはそこまで多くはなく、だいたいはメンバーの個人アカウントに力を入れていて、グループのアカウントがあってもそこに個々のメンバーが投稿する回数は多くありませんでした。

グループ全体として1つのアカウントを持ち、ファンはそこで個々のメンバーがSNSでどんな風に振る舞うのかを知ることができるというBTSのやり方はとても上手くいっていると思います。BTSはグループのアイデンティティーを通して個々のメンバーのアイデンティティーを強化していますが、焦点はいつでもチーム全体にあるのです。

BTSのTwitterより。個人メンバーのアカウントはなく、グループのアカウントにそれぞれのメンバーが投稿しており、メンバーごとに投稿に個性が出る

アメリカのオーディエンスを惹きつけるBTSの魅力とは?

メディアへのアプローチやSNSの使い方は運営側の手腕とも言えるが、それもグループ自体にファンを魅了する力があって初めて効力を発揮する。彼らのヒップホップをベースとしたサウンドは作品ごとに洗練され、多様なトレンドの要素を楽曲に取り入れてきた。また力強く複雑な振付を綺麗に揃えたカル群舞(メンバーの動きが完璧に一致するシンクロダンス)はシアトリカルとも言えるようなパフォーマンスだ。

BTS”Blood Sweat & Tears”パフォーマンス映像

そして歌詞には「10代、20代に向けられる抑圧や偏見を止め、自分たちの音楽を守りぬく」という意味が込められたグループ名(防弾少年団)の通り、厳しい現実を生きる若者が共感するようなメッセージが込められている。こうした魅力は国境を越えてアメリカのオーディエンスにも響いているのだろうか。

ベンジャミン:アメリカのファンが惹きつけられるBTSの魅力の大きなポイントは、彼らが彼ら自身のアートの一部になっているということだと思います。消費者はアーティストが自身の音楽やアートと深い繋がりを持っていることを好みますが、BTSは彼らの個人的な出来事を良いことも悪いことも音楽の中に反映させています。

また彼らは自分たちで作詞作曲し、アルバムをプロデュースします。作品が扱うトピックやコンセプトに多くのファンが共感し、その作品制作にメンバーが深く関わっているとファンが知れば、より意味のある繋がりが生まれるのではないでしょうか。特にBTSは若者の苦しみやメンタルヘルスなどパーソナルな問題にも触れるので、こうしたトピックはファンの共感を呼びやすいでしょう。同じ問題を抱えていても自分では発言しにくいが、BTSが思いを代弁してくれていると感じることもあると思います。

「君はそのままでいい」「自分を下げるな」と女性たちをエンパワーする歌詞を歌う“21st Century Girls”

K-POPは今や欧米のプロデューサーにとっても魅力的な仕事相手

BTSの音楽性の変化はアメリカでの人気にどのように作用しただろうか。BTSはヒップホップボーイズグループとしてデビューし、初期から現在まで力強いヒップホップサウンドをベースにしているが、近作ではよりメロディーに注力したR&Bソングも目立つようになってきた。

ベンジャミン:私もその変化については同意しますが、アメリカのマーケットにおいてはヒップホップがBTSの核になっているということが重要だと思います。力強いヒップホップサウンドが特徴的なBIGBANGやB.A.P.のようなグループも、他のグループに比べてアメリカで成功を収めていました。

BTSはアメリカのトレンドと一致するような様々な音楽性やスタイルに挑戦することに長けていると思いますが、つまるところは必ずしもジャンルがどうということではなく、彼らの質の高いプロダクションとボーカルスタイルがアメリカでの躍進を後押ししたのだと思います。

多様な音楽性やアメリカのトレンドとも一致するようなサウンドの背景には、2016年頃から増えてきた海外のプロデューサーたちとのコラボレーションもあるだろう。BTSの音楽作りにおいて欠かせないのが、所属事務所BIG HITエンターテインメントの代表パン・シヒョクやPdoggといった彼らのファミリーとも言えるプロデューサーたちだが、近作には韓国国外のプロデューサーも多く迎えている。

2017年には“Mic Drop”をSteve AokiがラッパーのDesiignerをフィーチャーしてリミックス。アルバム『LOVE YOURSELF 承 'Her'』の収録曲“Best of Me”にはThe Chainsmokersのメンバーが参加しているほか、今回全米1位に輝いた『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』には再びSteve Aokiや、MNEKが制作陣に名を連ねた。

”MIC Drop (Steve Aoki Remix)”PV

BTSだけでなく欧米のプロデューサーとコラボレーションするK-POPアーティストは増えてきているが、ベンジャミンによればK-POPは欧米のプロデューサーたちにとっても魅力的な仕事相手になってきているのだという。

ベンジャミン:私もこのトピックについては報道したことがあるのですが、多くの欧米のプロデューサーたちは韓国の音楽(日本の音楽も同様です)を作ることはとてもエキサイティングで、クリエイティブ面でも満たされる作業であると言っています。欧米では曲の構成やプロダクション、ジャンルにおいて縛りのようなものがたくさんあるんですが、K-POPではそれらの決まり事を拡張したり、色々と試したりできるのでミュージシャンにとってはとても刺激的なようです。

それから、多くの欧米のプロデューサーがK-POPのファンベースと彼ら自身の繋がりを持っているような気がします。これはアメリカの音楽ファンではあまり見られないことです。たとえばSHINee、神話、EXO、Red Velvet、GOT7をはじめ多くのK-POPアーティストの楽曲を手掛けるイギリスのデュオ・LDN Noiseは、アメリカの『KCON』でパネルトークを行ないましたが、多くのファンが彼らを見に、そして彼らのK-POPシーンでの経験を聞きに集まっていました。他の音楽シーンでプロデューサーがこのような機会を得られることはあまりないのではないでしょうか。

他のK-POPアクトもBTSに続くことができるか?「BTSのアプローチさえとれば可能性はある」

最後に今後のBTSとK-POPのアメリカ市場における展望について訊いた。BTSに続いて今後もK-POPのアーティストはアメリカの市場で存在感を見せていくことができるだろうか?

ベンジャミン:もちろん。BTSがアメリカでとったようなアプローチを身につけさえすれば。活動初期の頃、BTSはアジアではある程度の知名度はあったとしてもアメリカでは同じ基準に達していないことを理解し、アメリカの市場に謙虚に、そして一生懸命にやるという意志をもってアプローチしました。もしほかのK-POPのアーティストが質の高い音楽とパフォーマンスを作り続けながら、BTSのようなやり方でメディアに注力すれば、将来的な成功は見込めると考えられます。

BTSに続いてアメリカでの躍進が期待できるK-POPアーティストの名前も挙げてもらった。

ベンジャミン:同様の成功が見込めるアーティストとして私が一番最初に選びたいのはBLACKPINKですね。BTSのように彼女たちの音楽性はヒップホップをベースにしつつ他のジャンルやスタイルも取り入れています。事実、BLACKPINKのアメリカでの楽曲セールスはかなり好調で、BTSを凌ぐ勢いだったこともあります。

現在アメリカではPRETTYMUCH、Why Don't We、In Real Life、Brockhamptonなどのボーイバンドが人気を集めていて、EXO、GOT7、Wanna OneといったK-POPのアーティストもアメリカでアリーナツアーを行なっていますが、じきにガールズグループ復活の時代が来るのではないかなとも思っています。

BLACKPINKの最新曲”DDU-DU DDU-DU”PV

ベンジャミン:またNCTもアメリカで上手くいく大きな可能性を持っていると思います。特にサブユニットのNCT 127ですね。NCT 127は9人組のとても力強いグループで、英語が話せるメンバーが何人かいます。それに彼らはメディアに対してもオープンなようですし、SNSでもパーソナルな出来事をよくシェアしています。

それからSeventeen、Stray Kids、Red Velvet、Pentagon、(G)I-DLE、Monsta X、少女時代のティファニーにも期待しています。

NCT 127”Cherry Bomb”PV。日本人メンバーも在籍

Seventeen”THANKS”PV

BTSの今後は?「アメリカでの人気に疑問の余地はない」

では、全米1位まで上り詰めたBTSの今後はどうだろう。彼らは北米とヨーロッパを巡るワールドツアーを8月から開催する予定だ。ロンドン公演のチケットは発売開始から約10分で売り切れ、数十万円の値段で転売されているとの報道もあり、熱狂はまだまだ続きそうだ。

ベンジャミン:BTSは彼らのアメリカでの人気をすでに証明し、そこに疑問の余地はありません。BTSに今後求められるのは、彼らに向けられた強い関心をより大きな機会に活かし、他のグローバルスターと並ぶアーティストになることだと思います。

私は彼らは本や映画を発表すべきだと思います。そういったものに投資できるのはとても大きなファンベースをもったスターだけですから。BTSはもっともっとどこでも目にするような存在になれば、世界中に大きなファンベースを持つ欧米のアーティストと肩を並べるグローバルスターになれると思います。

プロフィール
ジェフ・ベンジャミン

ニューヨークをベースに活動する音楽ジャーナリスト、米ビルボードのコラムニスト。The New York Times、Rolling Stone、Nylon、BuzzFeedなどにもK-POPについて寄稿しているほか、The Washington Post、Time、CNN、Entertainment Weekly、NBC、MTVを含む多数のメディアに登場。8年間のキャリアの中で日本、韓国、イギリスなどを飛び回る。これまでにBIGHITエンターテイメントCEOのパン・シヒョクのアメリカ初インタビューをはじめ、BTS、東方神起、少女時代、PSY、SHINee、CNBLUE、EXO、CL、INFINITE、GOT7、B.A.P、Twice、Seventeenらの独占インタビューを手掛けている。



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