グレタ・ガーウィグら、女性監督たちの物語が共感を呼ぶ理由

グレタ・ガーウィグやレナ・ダナムが語る、「性」よりも「生」の物語

昨今、女性監督の活躍がめざましい。『第90回アカデミー賞』の監督賞に史上5人目の女性監督としてノミネートされたグレタ・ガーウィグ監督の『レディ・バード』(2017年)は、米国内で話題が広がり4館から全米1557館に拡大公開された。

「私が知っている女性のほとんどがティーンエイジャーのころ、非常に美しく、とてつもなく複雑な関係性を母親との間に持っていた。どちらかが『正しい』、どちらかが『間違い』という構図は避けたいと思ったの」と語る(『レディ・バード』公式インタビューより)、彼女の洞察力でとらえられた母と娘のラブストーリーには、自伝ではないが彼女自身が考えた生き方が色濃く反映され、それはまるで──「自分が生きている」映画のように感じた。架空の無敵なヒーローやセクシーでモテる女性の映画よりも、悩みながらも生き抜く主人公を軸に、パーソナルな視点で描かれた映画が現在求められているのだろう。

グレタは『アカデミー賞』のコメントで「あなたの映画を撮って」という言葉を残した。物語に描かれる側であった女性が物語を作る側へ。その先駆者は、女優・脚本・監督とマルチな才能かつ独自の美しい幻覚のような世界観で、ガーリーカルチャーを大衆のものにしたソフィア・コッポラだろう。『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)で『アカデミー賞』脚本賞受賞、独自の路線を貫き、作品の評価を得続ける背中はヒーロー以上にカッコいい。

監督・脚本だけでなく、自身が主演も務めるレナ・ダナム監督も話題だ。若手映画作家の登竜門である『SXSW映画祭』で『タイニー・ファニチャー』(2010年)がグランプリを受賞。本当の母親と妹も出演した自叙伝的映画には、思い通りに生きることができない主人公の不器用さや情けなさが愛しく映り、この作品をきっかけに人気海外ドラマ『GIRLS/ガールズ』を手がけた。

「結婚=女の幸せ」という時代ではない。2000年代序盤に流行ったハリウッドの恋愛映画に多く見る、男女の有り様を区別し理想の欲望を傾けた「性」よりも、無数の選択を持つ混沌とした「生」の物語を丁寧に描くことに、女性監督たちは長けているのだと思う。そうした作品に、私たちは共感以上の感情を重ねて、愛おしむのだ。

海外でも実力が認められていく、国内の若手女性監督たち

しかし、映画界のヒエラルキートップである『アカデミー賞』90年の歴史で、女性はたった5人しか「監督賞」にノミネートされていない。そう考えると映画界全体への影響力はまだまだだが、裾野はじわじわと広がってきている。それは日本でも同様だ。

山戸結希監督は自身が企画した『TAMA CINEMA FORUM』の特別上映を「女の子よカメラを持とう」と題し、「女性こそ、自分の中に生きる物語を映画にしてほしい」とメッセージを発した。彼女が先導を切るプロジェクト『21世紀の女の子』では、12名の女性監督で1本のオムニバス映画を作るため、4月までに新たな女性監督を1名募集。脚本か映像作品の提出という、それなりのハードルの高さがあったにも関わらず、このプロジェクトに100名ほどの応募があったと聞き、現在の女性監督の勢いを感じた。

山戸結希監督作品『玉城ティナは夢想する』

ここ数年は実力も高まっており、国内の映画祭にとどまらず海外の賞にも日本の女性監督がノミネートされている。昨年度、井樫彩監督は『溶ける』で『第70回カンヌ国際映画祭』に正式出品。また今年の『第68回ベルリン国際映画祭』には清原惟監督の『わたしたちの家』や山中瑶子監督の『あみこ』と、20代の女性監督2人が招待された。これらの作品は三者三様の物語をつむぎながら、共通して「複雑な選択もすべて認めたいと願う自由さ」と「こだわりの強い意固地さ」という相反するものが共存する、むずかしい女性の様を、同性ならではの視点で切り取っていたように思う。

清原惟監督『わたしたちの家』予告編

山中瑶子監督『あみこ』予告編

コンペ10作品中4作が女性監督作! 『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』

2018年7月におこなわれる『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』でも、「国際コンペティション」にノミネートした10作品中4作品が女性監督作品と、彼女らの躍進を感じる結果となった。この映画祭は『第67回カンヌ国際映画祭』のパルムドールを受賞した『雪の轍』(2014年)のヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督を選出するなど、若手クリエイターを多く排出。今回は過去最多の世界98カ国656本の応募があった。

ノミネート作品に共通するのは、少女から大人まで年齢の幅はあるが、主人公が女性であること。そして、心理描写に重きを置いている点だ。デンマークの新鋭ビアギッテ・スターモス監督の『ダーリンの憂い』は、世界的なバレリーナである主人公が怪我をきっかけに落ちぶれていく様と、彼女の葛藤を描く。本映画祭のプログラミング・ディレクターは「何度も描かれてきたバレエという題材を、パフォーマンスではなく主人公の生き様にフォーカスしている点が現代的なテーマを持っている」と評価する。

ビアギッテ・スターモス監督『ダーリンの憂い』場面写真 / ©Zentropa
ビアギッテ・スターモス監督『ダーリンの憂い』場面写真 / ©Zentropa

クリスティーナ・チョウ監督の『ナンシー』も、嘘をつくことでしかコミュニケーションのとれない不器用な主人公の心情を丁寧に描き出し、『サンダンス映画祭』で「脚本賞」を受賞。対してアウサ・ベルガ・ヒョールレーフズドッテル監督の『ザ・スワン』は、言葉ではなくアイスランドの広大な情景の美しさを心情とシンクロさせることで内面を表現した。

クリスティーナ・チョウ監督『ナンシー』場面写真
クリスティーナ・チョウ監督『ナンシー』場面写真

アウサ・ベルガ・ヒョールレーフズドッテル監督『ザ・スワン』場面写真
アウサ・ベルガ・ヒョールレーフズドッテル監督『ザ・スワン』場面写真

さらに同コンペには、日本人である中川奈月監督の『彼女はひとり』もノミネート。自殺未遂を経験した主人公が幼馴染の同級生の秘密を握り脅迫を続ける作品で、たった60分に濃密な感情の起伏が込められている。黒沢清監督や深田晃司監督などとタッグを組む、日本の女性カメラマン第一人者である芦澤明子を起用した点も物語を力強くしている一因だろう。

中川奈月監督『彼女はひとり』場面写真 / ©彼女はひとり
中川奈月監督『彼女はひとり』場面写真 / ©彼女はひとり

正解と不正解、答えを出せないものが人生には多く存在する。家族、恋愛、友情、仕事……迷いながらも光の射すほうへ向かおうとする、女性監督たちの想いが込められた「自分が生きる映画」はこれからさらに評価されるだろう。いまは時代の転換期をわかりやすく表現するために「女性監督」と言うが、そうした性別の冠も消え去り、こうした作品が多く生み出される未来が来ることをこれから楽しみにしたい。

『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』メインビジュアル
『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭』メインビジュアル(サイトを見る

イベント情報
『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018』

2018年7月13日(金)~7月22日(日)
会場:埼玉県 川口 SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、MOVIX川口
上映作品:
『君がまた走り出すとき』(監督:中泉裕矢)
『ダーリンの憂い』(監督:ビアギッテ・スターモス)
『ブリス、マイ・スウィート・ホーム』(監督:ナウルズ・パギドポン)
『最後の息子』(監督:シン・ドンソク)
『ザ・ラスト・スーツ(仮題)』(監督:パブロ・ソラルス)
『スポットライト』(監督:キリル・プレトニョフ)
『ナンシー』(監督:クリスティーナ・チョウ)
『彼女はひとり』(監督:中川奈月)
『ザ・スワン』(監督:アウサ・ベルガ・ヒョールレーフズドッテル)
『あの木が邪魔で』(監督:ハーフシュテイン・グンナル・シーグルズソン)
『招かれざる者』(監督:エドン・リズヴァノリ)
『あの群青の向こうへ』(監督:廣賢一郎)
『キュクロプス』(監督:大庭功睦)
『情操家族』(監督:竹林宏之)
『岬の兄妹』(監督:片山慎三)
『Birth―おどるいのち―』(監督:若見ありさ、池田爆発郎、大橋弘典)
『ヴィニルと鳥』(監督:横田光亮)
『予定は未定』(監督:磯部鉄平)
『口と拳』(監督:溝口道勇)
『凪』(監督:川野邉修一)
『あいつは、いつも寝てる。』(監督:樽井隆広)
『はりこみ』(監督:板垣雄亮)
『東京彗星』(監督:洞内広樹)
『ふっかつのじゅもん』(監督:白井太郎)
『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(監督:石井祐也)
『22年目の告白―私が殺人犯です―』(監督:入江悠)
『横道世之介』(監督:沖田修一)
『犬猿』(監督:吉田恵輔)
『A.K.ドキュメント黒澤明』(監督:クリス・マルケル)
『映画が時代を写す時―侯孝賢とエドワード・ヤン』(監督:是枝裕和)
『ドキュメンタリー:映画監督ミヒャエル・ハネケ』(監督:イブ・モンマユール)
『怪盗グルーの月泥棒』(監督:ピエール・コフィン、クリス・ルノー)
『怪盗グルーのミニオン危機一発』(監督:ピエール・コフィン、クリス・ルノー)
『怪盗グルーのミニオン大脱走』(監督:カイル・バルダ、ピエール・コフィン)
『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(監督:瀬々敬久)



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