まさかの実話「チャップリン遺体誘拐事件」。犯人の動機は?そして喜劇王が世界中で愛されるワケ

「チャップリン遺体誘拐事件」は実話だった

映画の黎明期、サイレントの時代より数々の作品を生み出し、映画における「コメディー」というジャンルを確立させた一人である喜劇王、チャールズ・チャップリン(1889~1977年)。その死から約2か月後、スイスで実際に起こったという「チャップリン遺体誘拐事件」にインスピレーションを得て生み出されたフランス映画『チャップリンからの贈りもの』が、このたび日本でも公開される運びとなった。


映画の舞台となるのは、1977年のスイス、レマン湖畔にある小さな町、ヴヴェイ。この町の刑務所から、うだつの上がらない中年男、エディが出所するシーンで映画は幕を開ける。刑務所の前で待っていたのは、彼の長年の友人であるオスマン。エディはその後、オスマンとその娘が住むバラックの裏に用意されたトレーラーハウスで、しばらくの間暮らすことになる。

『チャップリンからの贈りもの』 ©Marie-Julie Maille / Why Not Production
『チャップリンからの贈りもの』 ©Marie-Julie Maille / Why Not Production

しかし、エディの職探しは難航。一方、妻の入院費用を工面する必要に迫られたオスマンもまた、経済的苦境に立たされていた。クリスマスの夜、そんな二人の目に飛び込んできたのは、チャップリン死去のニュース。最初は何の気なしにニュースを観ていた二人だが、やがてエディはある計画を思いつく。チャップリンの遺体を誘拐し、遺族から身代金をせしめることを……。

『チャップリンからの贈りもの』 ©Marie-Julie Maille / Why Not Production
『チャップリンからの贈りもの』 ©Marie-Julie Maille / Why Not Production

映画音楽の巨星、ミシェル・ルグランによる、サイレント映画に向けた愛あるリスペクト

社会の底辺を生きる人々がギリギリの暮らしの中で思いついた、とてもずさんな犯罪計画。ともすれば、社会派悲劇にもなり得る題材だが、本作はお調子者のエディと無骨なオスマンが織りなすドタバタコメディーとして描き出されている。とはいえ、単なるコメディーとしては、やや異質な演出が随所に施されているのも、本作の特徴だろう。たとえば冒頭、オスマンの車に乗った二人の深刻な表情をフロントガラス越しに捉えたシーン。そこで唐突にオーケストラによる華美な音楽が重ね合わされるのだ。あるいは、エディが犯行計画を思いついたシーン。そして、その計画についてエディとオスマンが口論するシーン。そこでもまた、二人の会話をかき消すように、いきなり音楽が流れ始める……。

『チャップリンからの贈りもの』 ©Marie-Julie Maille / Why Not Production
『チャップリンからの贈りもの』 ©Marie-Julie Maille / Why Not Production

実は、本作の音楽を担当している御大、ミシェル・ルグラン(ジャック・ドゥミ監督の『ロシュフォールの恋人たち』『シェルブールの雨傘』をはじめとする数多くの映画音楽を手がける)の提案によって採用されたというこの演出手法。本作の監督であるグザヴィエ・ボーヴォワによると、それが意図しているのは、往年のサイレント映画へのリスペクトであるという。会話ではなく動きや表情で、人間の悲喜こもごもを雄弁に描き出していたサイレント映画。いささか唐突にも思えるこの演出手法は、本作がサイレント映画の影響下にある作品であることを、暗に示しているのだ。

ちなみに、劇中で繰り返し流される流麗な楽曲は、チャップリン晩年の代表作『ライムライト』のテーマソング“エターナリー(テリーのテーマ)”をリアレンジしたもの。そう、この映画は、単なるコメディー作品ではなく、『チャップリンからの贈りもの』という邦題のごとく、サイレント映画の影響下にあるどころか、チャップリンという稀代の喜劇王が数々の映画で描き出してきたもの――『ライムライト』に象徴されるような、社会的弱者を温かく見守り、富裕層や権力者を風刺し続けたチャップリンの深い「人間愛」を全面的に継承した作品なのであった。

フランスとチャップリンの絆。チャップリン家お墨付きの一本が生まれた理由

それは音楽だけの話ではない。どこかコミカルな主人公二人の佇まいは、よくよく見ればチャップリンの映画の登場人物そのもの。そんな二人がテレビで眺めているのは、チャップリン初期の名編『チャップリンの霊泉』だ。さらに、チャップリンが愛したというサーカスの描写や、劇中エディが挑むことになる「道化師」という職業が持つ悲哀。そして、メイクから衣装まで徹底的に『ライムライト』を模したクライマックスなど、至るところにチャップリンの記憶が散りばめられている。実在の犯罪事件をモチーフとしながらも、そこにチャップリンのエッセンスをふりかけることによって、深い人間愛に裏付けられた、温かなおとぎ話に変えてしまうこと。けっして姿を現さないものの、この映画のもう1人の主人公は、言うまでもなくチャップリンその人なのである。

『チャップリンからの贈りもの』 ©Marie-Julie Maille / Why Not Production
『チャップリンからの贈りもの』 ©Marie-Julie Maille / Why Not Production

遺族の全面的なバックアップのもと、チャップリンが埋葬された墓地や生前住んでいた邸宅がロケ地として提供されたばかりか、チャップリンの未亡人を孫娘のドロレスが演じ、息子ユージーンもサーカスの支配人役として出演するなど、まさしくチャップリン家のお墨付きの映画でもある本作。このような映画が、1950年代、ハリウッドに吹き荒れた赤狩りの犠牲者となり、一時はアメリカ追放の憂き目にあったチャップリンを一貫して擁護、アメリカでの名誉回復がなされる前に、国の最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章を授与し、パリ名誉市民の称号を贈ったフランスの地で生まれたのは、恐らくある種の必然だったのだろう。日本を含め、今も世界中の人々に愛され続けているチャップリン。彼の映画作品を知る者はもちろん、そうでない者もきっと、その「愛される理由」を確かに感じることができるであろう一本だ。

リリース情報
『チャップリンからの贈りもの』

2015年7月18日(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:
ブノワ・ポールヴールド
ロシュディ・ゼム
キアラ・マストロヤンニ
配給:ギャガ

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