下水道をポップに映像化。ポイントは、主人公の設定・描き方

普段、気づかないシステムへの気づきを与える。クリエイティブの力

「自慢をする人って好かれないですよね。でも、自慢したい。だから、嫌われないための魔法が必要です。それを実現できるのがクリエイティブなんです」

そういったのは、CMディレクターの中島信也だった。2019年、夏。首都大学東京の一室で行われたワークショップでのひとことだった(参考:CMディレクター中島信也の「想像心」で、下水道を魅せる)。その場に居合わせた学生たちは、この中島の言葉を足掛かりに「下水道」をテーマにした30秒の動画制作に挑むことになった。

2018年度から取り組んでいる東京都下水道局によるプロジェクト「東京地下ラボ」。本プロジェクトは、公募で集った学生たちが、学生ならではの視点で下水道の魅力を再発見することを目的にしている。そして、2019年のテーマとなったのが「動画」だった。

主人公の存在が、表現をキャッチーにさせる。中島信也のアドバイス

2月12日。暖冬の影響もあってか、例年よりも穏やかな気候の中で発表会は開催された。場所は東京都庁。審査員の中にはワークショップで講師を務めた中島信也の姿もあった。

審査員を務めた中島信也。学生たちの制作した動画を真剣に観る。

発表された作品は5作。いずれも下水道の魅力を発信しようという気概に溢れたユニークな作品だった。その中で栄誉ある「グランプリ」を受賞したのは、『水にアツいよ!下水番長!』。マンホールがついたリーゼントに、長ランのスタイルが印象的な男性を主人公にした作品だ。

『水にアツいよ!下水番長!』の動画を見る

原田:最初はストーリー仕立てにする予定だったんです。番長と彼女がイチャイチャしながらラーメン屋に入るみたいな(笑)。でも、それだと本当に伝えたいことが伝わらないんじゃないかっていう話になって。それから番長が水を浴びたり、敵と戦ったりというシーンが決まっていったんです。

そう話してくれたのは、制作チームで代表を務めた武蔵野美術大学3年生の原田季和さん。撮影は12月に実施し、それまではずっとアイデアを練る時間に充てたという。

グランプリ受賞の『水にアツいよ!下水番長!』を制作したFチーム

この作品は、下水道が果たしている役割をワンシーンずつナレーションつきで解説していく流れが非常にわかりやすく、そしてなにより主人公がとても印象的なことが大きく評価された。それについて中島は、講評で次のように話していた。

中島:各班ともにアイデアがユニークで、やろうとしていることは評価できました。問題は演出。アイデアがみんなにきちんと伝わるように工夫をする。これが足りない班が多かった気がします。

では、ここでいわれている「演出」とはなんだろうか? 中島は言葉を続ける。

中島:大きなポイントは、主人公をはっきりさせること。これは意外と忘れられがちなんですが大事なことです。僕もCMを制作する際には、主人公をどう描いていくかを一番に考えます。『水にアツいよ!下水番長!』は、それがすごくわかりやすかった。

制作された動画を観る様子

確かに、どのチームも素晴らしかった。が、その中でも「下水番長」というキャラクターのキャッチーさは絶大だった。「下水道」という文字的にも固く、じめじめしたイメージが漂うものを擬人化してしまうことで(しかも番長!)、視聴者にも親近感を持って捉えられるようになるわけだ。ちなみに、「グランプリ」受賞作以外の作品も非常にユニークなので、ぜひともこの機会に視聴してみてほしい。

『地下組織「東京都下水道局」』を見る

『名前変えます宣言』を見る

『干せない日』を見る

『アンダーグラウンドワールド』を見る

お堅いイメージの行政プロジェクトにこそ、クリエイティブを。「東京地下ラボ」の意義

各チーム、制作期間は約半年。この間に学生たちは、先述の中島信也によるワークショップに参加したほか、下水道の普及できれいになった隅田川や東京湾に生息する生物や植物を観察したり、ライゾマティクス・アーキテクチャーの齋藤精一とNOSIGNER代表の太刀川英輔による講演会を公聴したりしながら(参考:ライゾマ齋藤精一×NOSIGNER太刀川英輔が下水道をエンタメにする)、動画制作のヒントを得ていった。

旧三河島汚水処分場喞筒(ポンプ)場施設での見学の様子

そうしたヒントから生まれた発想のジャンプによって、わかりにくいものを一瞬にして理解させられるのはクリエイティブがもたらす魔法のひとつである。普段から堅苦しいイメージのある行政のコミュニケーションにこそ、こうした取り組みがもっと必要になってくるに違いない。実際、東京都下水道局の黒河友貴さんも期待感を口にする。

黒河:行政が制作する発行物は、どうしても内容が堅くなりがちなので、学生たちのユニークな発想が活きると感じています。今回制作された動画もそれぞれに切り口が違っていて、とても面白いと感じました。受賞作だけでなく、すべての作品をなんらかの形で発信できるようにしていきたいと思います。

東京都下水道局総務部 広報サービス課 黒河友貴さん

本プロジェクトは3年をひとつの区切りとしている。初年度となる2018年は、「編集」をテーマにZINEを制作(参考:「下水道の魅力を伝えたい」この難題に、学生はどう応えた?)。『土木広報大賞2019』で最優秀賞に選ばれるなど確かな実績を築くことに成功した。

昨年、作成したZINE

そして、次年度が集大成となる。「ZINE」「動画」に続くテーマはまだ具体的には決まっていないというが、この2年間で積み重ねてきた実績もあるだけに、否が応にも期待が集まるだろう。そうしたプレッシャーをむしろ追い風にして、さらに素晴らしいクリエイティブの見せ方を提示できたら、学生たちはもちろん、行政の在り方も変化していくに違いない。

プロジェクト情報
『東京地下ラボ by東京都下水道局』

下水道の新たな可能性や魅力を発信する東京都下水道局主催のプロジェクト。昨年度の東京地下ラボは、「下水道の魅力を『編集』の力で若者が再発見」をテーマに、参加学生が各グループで雑誌(ZINE:ジン)を制作。今年度は『クリエイティブ』の力をテーマに、30秒の動画を制作し下水道の魅力を発信する。



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