連載:K-POPから生まれる「物語」

中国版プデュ『青春有你2』が問う、「ガールズグループ」の枠組み

さながら異能バトル? 中国版『プデュ』に感じたカルチャーショック

「これは本当に自分の知っている『PRODUCE 101』(プデュ)シリーズなのか?」というのが、今年3月にスタートした中国のアイドルサバイバルオーディション番組『青春有你2』の第1話、恒例のレベル分けテストを見始めたときの率直な感想だ。

本家韓国の『プデュ』シリーズにはつきものだったシリアスな緊張感が会場から一切感じられず、『フリースタイルダンジョン』ばりに野次と歓声と笑い声が飛び交う様子に思わず面食らってしまった。

自分の知っている『プデュ』のレベル分けテストは、集まった100人超の訓練生が事務所ごとに披露するパフォーマンスをメンターがチェックし、AからFまでのレベルに振り分けていく、番組の最初の関門だ。また訓練生は自分たち自身も観客となり、他の訓練生がメンターに容赦なくジャッジを下される様子を固唾を呑んで見守る。見ているこちらも緊張で胃が痛くなるようなステージのはずなのだ。

しかし『青春有你2』のレベル分けテストはというと、まずパフォーマンスが自由すぎる上に、全力で観客を沸かせにきている。中国舞踊にゴリゴリのラップ、ギターの弾き語りにレトロ歌謡──完全に少年漫画の異能バトルトーナメントの様相を呈しているうえ、どれもアイドルを目指す者たちによる「一芸」のレベルじゃないほどにスキルフルなのだ。

レトロなサウンドにユーモラスなパフォーマンスでメンターや他の訓練生を沸かす

それを見守る客席の訓練生たちも、オーディエンスとしてひたすらに盛り上がる。審査する側のメンターさえも、良いステージを披露した訓練生に対し「他にもなにか見せてもらえる?」と催促し、客席に向かって「誰か彼女に挑戦する人いないの?」と煽ってみせる。あまりの自由奔放ぶりにカルチャーショックを感じ、一人では抱えきれなくなりそうになってK-POPファンの友人に「今すぐ見てくれ」と連絡してしまったほどだった。

『青春有你2』は2020年3月から5月まで中国の大手動画サイト「iQIYI」で配信された。日本からもアプリで視聴可能

ステージへの渇望から、多様なスタイルがオーディションに集う

もともとこの番組を見始めたきっかけは、事前の参加者一覧でパンツスタイルにショートカットのボーイッシュな訓練生や、さらにはマニッシュなベリーショート、アフロヘアーの訓練生まで参加しているのを知り、興味を惹かれたからだった。そのときは本当に失礼ながら、それらのスタイルの訓練生は一種の「キャラ付け」だと勝手に思い込んでいた。

しかし実際には、彼女たちはその見かけ上の個性だけではない、確かなバックグラウンドや実力をもっていて、自分なりの確信をもって自身のスタイルを選択していた。そこでようやく、『青春有你2』は歴代『プデュ』シリーズにおいても本当にチャレンジングな試みなのかもしれないと気付いた。

参加者全員で踊るテーマソング“Yes! OK!”。制服風の衣装だがパンツスタイルの者もスカートの者もいる

と同時に疑問に思ったのは、なぜそんな多様なバックグラウンドを持つ訓練生が、わざわざ「ガールズグループ」のオーディションに参加しているのかということだ。

筆者はこれまで、ほとんど中国のアイドルシーンについて知らなかった。訓練生たちのコメントや、書籍などで調べた情報を総合する限り、その背景には、韓国ほどには成熟しきっていない中国のアイドル市場特有の事情があるらしい。中国において、多数のアイドルが所属する大きな芸能事務所が誕生したのはここ10年ほどのこと。K-POPのシステムを踏襲したアイドルが登場したのもここ数年ほどのことだという(小山ひとみ『中国新世代 チャイナ・ニュージェネレーション』、スモール出版、2019年)。

前作『青春有你』からデビューしたボーイズグループUNINE

アイドルに憧れる若者や、歌やダンスでステージに立ちたい若者の多さと比べて、表舞台に上がれる機会が十分でない状況がある。だからこそ、さまざまなジャンルで活動してきた若者が異分野である「ガールズグループ」のオーディションに集まってくるという事情があるのかもしれない。

「デビューできるかどうかに関係なく、このオーディションでパフォーマンスをすれば多くの人に見てもらえる」と訓練生は語る。彼女たちにとって、『青春有你2』はデビューを賭けた闘いである以前に、やっと勝ち取った「表舞台」なのである。

飛び交う「加油」と、競争意識よりも連帯感を共有していく訓練生たち

訓練生たちの共有するそんな思いは、「K-POP」という確立されたシステムのなかでしのぎを削る本国版『プデュ』の競争意識とはまた違った、連帯感を伴う闘争心につながっているように思える。

それを象徴するのが、ステージから客席へ、あるいは客席からステージへと飛び交う「加油(ジャーヨウ)!」の掛け声だ。他の訓練生がステージに臨むとき、仲間のランクが落ちたとき、誰かが難しい課題に挑戦し試行錯誤しているとき、訓練生たちはとにかく「加油!」と大声で叫ぶ。

「加油」には、日本語の「頑張れ」や韓国語の「ファイティン」と比べると、どこか野次のような、あるいはコール&レスポンスのような双方向的な趣がある。相手を激励すると同時に、自分も含めた「私たち」全体を鼓舞し勇気づけるような、あるいは文字通り、場の熱気に油を注ぐような、そんなバイブスが感じられる。

過去の経歴から、インターネットでバッシングを受けていた蔡卓宜(チュア・ジョウイ)を励ます「加油」の声

ミッションが進むたびに、109人の訓練生は9人のデビューメンバーという少ないパイを奪い合う競争相手であるという以上に、渇望してきたチャンスをともに掴んだ、ひとつのチームになっていく。訓練生のひとり、谢可寅(シェイ・クーイン)が順位発表のスピーチで発した言葉──「私たちはみんな、暗闇から這い出てきた光の使者だ」──は、そんな彼女たちの境遇と連帯感を端的に言い表していた。

『プデュ』におけるバトルの位置付けをも揺るがす、勝ち負けにこだわらない姿勢

その連帯感は、『プデュ』というシステムにおける、バトルの位置付けさえも揺さぶる。たとえば視聴者投票でデビューメンバーが決まる『プデュ』シリーズでは、ミッションの課題曲で良いポジションやパートをとれるかどうか、チームとしても個人としても良い成績を修め、ベネフィットの票数を得られるかどうかが、勝ち残るためには重要なポイントになる。

しかし『青春有你2』の訓練生たちはとにかく仲間に教えることに時間を割く。ポジション決めやセンターなどの争奪戦はありつつも、基本的には全員が目立てるように見せ場を分け合う。それどころか、同じ課題曲で2チームに分かれて戦うミッションでは、相手チームの練習がうまくいっていないと見るや、「私たちは同じ曲をやるんだからひとつのファミリーだ」と、勝ち負け度外視で一緒に練習し始めてしまう。

練習スタジオでのパフォーマンス

それはあたかも、『プデュ』という「用意された」サバイバルに対して、全員で抗ってみせるかのようだ。「多くの人に見られたい」という訓練生たちの口癖は、後半では「みんなが見てもらえるように」に変わっている。個人の勝利よりも全体の勝利を志向するような彼女たちの姿勢を見て、『プデュ』にそんな戦い方があったのかと、蒙を啓かれるような気持ちになった。

「教える / 教わる」関係から、循環するメンターシップへ。BLACKPINKのLISAも指導

興味深いのは、その教え合いが、必ずしも実力のある者からない者への指導とは限らないことだ。実力的に劣る訓練生が、スキルも経験もある訓練生にアドバイスするような場面もよく見られる。

実力の有無に関わらず、教えられることがあれば教える。教わる側も、そのことに負い目を感じない。Fランクの評価を受けた訓練生がメンターに対して「自分はこれから努力してうまくなるから大丈夫」と堂々と言い放つ場面も印象的だったが、そもそも実力がないことを良い意味で恥じていないように見える。それに対してメンターが「あなたのその勇気から、私たちも学ばなければいけないよね」と答えるところでは、ストイックなK-POPの師弟関係と異なる、教える者と教わる者の上下関係を自明視しないフラットさが強く印象に残った。

キャリアの長い訓練生でも他のメンバーからのアドバイスに耳を傾ける

番組側は、こうした上下関係の相対化をおそらくかなり意図的に行っている。それが最も象徴的に表れているのが、番組の司会進行と訓練生のメンターを兼任する「制作人」のポジションに、弱冠21歳の蔡徐坤(ツァイ・シュークン)を起用していることである。年齢だけで言えば、彼はなんと最終的なデビューメンバーの誰よりも若い。

蔡徐坤は『青春有你2』の前身番組である『偶像練習生』を1位で勝ち抜き、ボーイズグループ・NINE PERCENTとしてデビューした現役のアイドル。いわば訓練生たちの「先輩」として、訓練生の置かれている立場や心境を理解し、彼女たちに寄り添いながら導いていく。彼が訓練生を慮って自分の経験を語ったり、あるいは番組のディレクターや他のメンターに意見したりする場面は何度も見られた。

現役アイドルであるBLACKPINKのLISAの起用も同様だ。LISAに憧れる訓練生の思いに触れ、「自分も誰かにとっての憧れのアイドルになることができた」と彼女が涙を流す場面は印象的だった。かつて訓練生だった者が教える側に回り、「メンター」を経験することで成長する。『青春有你2』の提示する「サバイバル」像は、大人である制作陣が子供である訓練生を一方的に教え導くのではなく、誰もがお互いを教え合うような循環的なメンターシップによって成り立つものなのである。

BLACKPINKのLISAが訓練生のメンターとして参加。熱い指導を行う

「X」というコンセプトが問いかける、「なぜガールズグループなのか」

ところで『青春有你2』は「X」、つまり「無限の可能性」というコンセプトを掲げている。既存のガールズグループの想定を超えた多様性を示すというニュアンスも含まれている。

そしてこのコンセプトは、それぞれ歌手やラッパー、ダンサーとして個人でも活躍できる実力とスタイルがあるにも関わらず、彼女たちがなぜ「ガールズグループ」に入ろうとするのかという問いと切り離せない。メンターからも何度も投げかけられる問いだ。

もちろん、動機のレベルではすでに述べたように、彼女たちがステージに上がる機会を熱望していたということが回答になるだろう。事実、彼女たちのなかには、「ガールズグループ」のオーディションだけでなく、ラップやダンス、ボーカルそれぞれのサバイバルオーディションを受けてきた過去をもつ人もいる。

『青春有你2』ファイナルに残った20名のフォトシュート

したがって、この問いはむしろ『青春有你2』の制作側が応えるべきものだと言える。彼女たちをあえて「ガールズグループ」として世に送り出すことの意味、その選択肢の魅力、必然性はどこにあるのか。番組の謳う「多様性」が、表面的な差別化要素やマーケティング的な新規性のためのものにとどまらない本質を含んだものであることを説得的に示せなければ、それは欺瞞とは言わないまでも虚しいものになるだろう。

『青春有你2』が「ガールズグループ」をどのようなものとして提示したのかは製作側が訓練生たちに課したミッション、その様子を演出・編集して放送された結果としての番組から判断するほかない。そしてそれは一方では、ある種の行き詰まりを正直に示してしまってもいた。レベル分けテストであれだけの個性を発揮した訓練生たちは、いずれも「ガールズグループ」のフォーマット──歌やダンス、表情管理からなる総合的なパフォーマンスや、苦手なスタイルも含むさまざまな楽曲への挑戦──に適合するプロセスで、持ち味がうまく発揮できず、自信喪失に陥っていたように思える。

レベル分けテスト以降のミッションは、明らかにこうした自信喪失と再構築のプロセスとしてストーリーが組み立てられていた。最初のレベル分けテストのときに持っていた自信と個性を、どのようにして取り戻せるかという物語。しかしそれは、番組側が自ら仕掛けた問いを、自ら解くような袋小路ではないのだろうか。あるいは、せっかく集めた「個性的な」メンバーを、結局はガールズグループの若干のスパイスとしてしか活かせなかったということになるのではないだろうか──。

「ガールズグループ」の「必要条件」をひとつずつ反証する

もちろん、このような疑念は一面的なものである。『青春有你2』を多少とも見進めた人であれば、この番組で訓練生たちが歩んだ過程が、単なる自信喪失とその回復の単純な道のりにすぎないものではないことは感覚的に理解しているはずだ。

なぜなら、「ガールズグループ」の枠組みに訓練生が適合しようと奮闘するそのプロセスは、同時に彼女たちがもつ「ガールズグループらしくない」個性も含めた魅力に、視聴者が魅了されていくプロセスでもあったのだから。

実際のところ、ビヨンセばりの圧ある歌唱にスワッグなラップスタイル、幼い子供のような歌声など、訓練生たちの持ち寄ったパフォーマンスの個性は、グループや楽曲の雰囲気に合わせて多少チューニングしたところで隠しきれるものではなかったように思う。彼女たちが、必ずしも自分の得意分野ではないジャンルに挑戦することで生まれる良い意味で異物感のあるステージは、少なくともK-POPや日本のアイドルを中心に見ているファンにとって、まず見たことがないような新鮮なものに映るのではないか。

ボーイッシュな訓練生とガーリッシュな訓練生の混在するチームで、中性的なスタイルによって両者を架橋した“The Eve”(ボーイズグループ・EXOの楽曲)のダンスカバーにおける许佳琪(シュー・ジャーチィ)。ディーバ的な力強いパフォーマンス能力と、マニッシュな風貌を持ちながら、中毒性のある電波ソング“How can I look so good”を、スタイリッシュかつチャーミングに仕上げてみせた上官喜爱(シャングァン・シーアイ)。もはや「ボーイッシュ」という言葉でもくくれないほどにソリッドで力強いステージングを見せつけた“Lion”での刘雨昕(リュー・ユーシン)。

これらはあくまでも一例にすぎない。それ自体がひとつの実験や発明であるようなステージが、『青春有你2』にはたくさんある。

ラッパーのNINEONE、マニッシュな上官喜爱らが、キュートな楽曲“How can I look so good”に挑戦

刘雨昕らが参加したオリジナル曲“Lion”のステージ

見たことがないようなステージに驚きながらも、同時に「自分はもっと色んなものが見たかったんだ」と気付かされる──それが『青春有你2』の一番の魅力と可能性だった。そして、そのことは結果的に、ガールズグループの必須条件やマナーだと思われていたようなものについて、それを破っても成り立つのだとひとつずつ実証していくことでもあったのではないか。視聴者投票での順位は、十分にその傍証となっている。

109通りに揺さぶられた「ガールズグループ」の枠組み

去る5月30日に行われた『青春有你2』のファイナルで、新グループ「THE9」のメンバー9人が発表された。最終投票で第1位を獲得し、センターでのデビューを勝ち取った先述の刘雨昕は、テーマ曲“Yes! OK!”のセンターも務めた人望の厚い人格者でもあり、本格的なポッピンダンスを踊りこなす実力者でもあり、数少ないパンツスタイルの制服を選んだ訓練生でもある。彼女が『青春有你2』を代表する存在であることは誰も疑わない。

とはいえ、彼女や他の最終デビューのメンバーが、『青春有你2』の回答のすべてというわけでもない。このプログラムの全行程において、「ガールズグループ」の枠組みが109通りに揺さぶられてきたことを確かめずに済ますのは、あまりにも惜しいと言えるだろう。

『青春有你2』から「THE9」としてデビューする9名

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