現代の詩人=秋田ひろむが率いるバンド「amazarashi」

初のドラマ主題歌としてオンエア中の表題曲を中心とした6曲入りの新作『アノミー』を発表するamazarashiをご存知だろうか? 昨年の春にメジャーデビューを果たすも、バンドの実態はいまだ不明。しかし、現代社会の真実を強烈な言葉で暴くその歌詞のインパクトと、文化庁メディア芸術祭のエンターテイメント部門で優秀賞を受賞したPVに代表されるコンセプチュアルかつハイクオリティなビジュアルがネットを中心に大きな話題を呼んでいる注目のバンドである。本稿ではこれまでの歩みを振り返ると共に、amazarashiというアーティストの持つ本質的な魅力に迫ってみた。

言葉と音とアニメーションで善悪の二元論に疑問を呈する

andropやさよならポニーテールなど、プロフィールを詳しく公表せず、匿名性を保ったまま活動するアーティストが近年増えてきている。「相対性理論以降」もしくは「GReeeeN以降」とでも言うべきこの傾向だが、アーティストによってその理由は様々で、純粋に音楽だけで評価してほしいというスタンスの表れでもあれば、当然プロモーション的な狙いがある場合もあるだろう。インターネットがプロモーションにおいて大きな役割を果たすようになった今、正体を隠すことによってネット上での議論を呼び、情報が拡散していくというわけだ。

そんな中でも、現在最も神秘的な存在であり、ネット上で話題を呼んでいるのがamazarashiだろう。現在公表されているプロフィールは「青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド」という情報のみで、顔写真はもちろん、彼が何歳で、バンドメンバーが何人いるのかもわからない。また、現在はライブ活動もしていないので、相対性理論やandropのようにライブに行けば存在が確認できるということもなく、バンドの実態は謎に包まれている。むつ市といえば恐山で有名な土地であり、そんなことも彼らの神秘性を強めていると言えよう。

現代の詩人=秋田ひろむが率いるバンド「amazarashi」
amazarashi『アノミー』イメージイラスト

さらに特徴的なのが、非常にコンセプチュアルなビジュアルで、ジャケットやPVは『AKIRA』や『風の谷のナウシカ』、『エヴァンゲリオン』、『20世紀少年』といった名作を連想させるSF/ファンタジー的な世界観のアニメーションで統一されている。メジャーデビュー作『爆弾の作り方』に収録されていた代表曲“夏を待っていました”のPVはフル3DCGで制作され、文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門で優秀賞、3DCG AWARDS 2010で最優秀賞を獲得するなど、そのクオリティは実に高い。これに関しても、おそらく設定やコンセプトがあるのだとは思うが、それに関しても説明は一切行われず、謎は深まるばかりだ。

そしてもうひとつ、amazarashiの個性を決定付けているのが、その鋭利にして鮮やかな「言葉」である。善と悪の二元論では語ることのできない現代の矛盾を暴き、生きること自体に罪の意識を感じながら、それでも生きていかなけれらばならないことを歌う秋田ひろむの歌詞は、強烈に胸に刺さる。神聖かまってちゃんや世界の終わりにも通じることだが、最近のバンドの歌詞には「死」という言葉や性に関する描写など、これまでは隠蔽されてきた描写が一気に噴出し、一般化していった。これは言うまでもなくインターネットの影響が大きく、匿名性を保って本心を開放できる場が与えられた結果、今まで反道徳的とされていたことは、実は誰もが考えている普通のことだったという事実を反映しているように思う。この春に坂本金八がついに定年退職するらしいが、「『死ぬ』なんて簡単に言うな!」というかつての名言も、今では「『死ぬなんて言うな』なんて簡単に言うな!」という道徳観へとすっかり移行したように感じられる。

秋田の多面的な作家性が凝縮された『アノミー』

そんな中でもamazarashiが特別なのは、秋田ひろむのストーリーテリングの能力の高さと、「詩人」としての魅力である。そう、彼は音楽家である前に、「詩人」なのではないかと思うのだ。「不安や孤独を抱えながらも希望を見出そうとする」という現代の平熱感を提示したコンピレーション『36.5℃』にも収録されていた“無題”の売れない絵描きの話に代表されるように、彼の歌詞はまるで短編小説のようであり、一般的な歌詞と比べて字数がとにかく多い。例えば、同様に字数が多く、ストーリーテリング的な手法も用いる最近のアーティストにThe Mirrazの畠山承平がいるが、彼があくまでヒップホップのリリック的な手法で、語感のリズムを音楽的に捉えているのに対し、秋田の場合は何より先に表現すべき言葉があって、それを補完するために音楽があるという印象が強い。

amazarashiの作品には歌詞カードとは別に詩集が挿入され、またこれまでのどの作品にもポエトリーリーディング的な小曲があることなども、彼らが言葉を主体としたバンドであることを裏付けている。また、前述の“夏を待っていました”や、前作『ワンルーム叙事詩』に収録されていた“クリスマス”など、彼の詞世界では「季節」が大事にされていて、それもまた「詩人」=秋田ひろむを印象付けるのだ。

現代の詩人=秋田ひろむが率いるバンド「amazarashi」
amazarashi『アノミー』イメージイラスト

そして、最新作『アノミー』には、そんなamazarashiの魅力が見事に凝縮されている。「従来の社会規範が緩んだり崩壊したりするため、人々の行為や欲求に規制が加えられなくなり、焦燥や欲求不満が生じる状態」を表す社会学用語の“アノミー”をタイトルに据えた曲で、秋田はこんな風に歌っている。

物を盗んではいけません あなたが盗まれないために
人を殺してはいけません あなたが殺されないために

「窃盗」や「殺人」はなぜ悪なのか? 結局のところ、それは自分自身の身を守りたいだけではないのか? そんな風に、二元論的な善悪のあり方に疑問を呈し、聴く者の道徳観を揺さぶるような歌詞は実にamazarashiらしい。また、かつてピアニストだった泥棒の1人語りを軸としたストーリーテリングが切ない“ピアノ泥棒”、夏・冬に続いて「春」を描いた美しくも痛い“さくら”など、そのどれもが確固とした作家性を感じさせる曲ばかり。また、他の曲に比べると平易な言葉を用い、「歌詞」であることを意識して書かれたような“この街で生きてる”も見逃せない。鋭利な言葉で物事の本質をぐさりと刺すタイプの楽曲と、イメージを限定しない、普遍的な魅力を持ったタイプの楽曲、その2つがあって、はじめてamazarashiの世界が成立するのだと思う。

さて、ここまで書いてきたように、amazarashiの表現の核にあるのが「言葉」であることは間違いないと思うのだが、最後に音楽的な側面にも触れておこう。ポストロックやエレクトロニカを通過したアンサンブルはどの曲も非常によく練られ、そのシネマティックな音像と、「ワンルーム」から発せられる言葉が合わさることで、文字通り「叙事詩」のような壮大な世界観を作り上げることに成功している。また、叙情的なメロディや、エモーショナルな秋田の歌唱の魅力も十分で、そろそろライブが見てみたいという声が出てくるのも当然だろう。もちろん、春の息吹と共に姿を現してくれてもいいし、四季の中でまだ描いていない「秋」を描いた上で、シーンに登場してくれてもかまわない。なんにしろ、この稀有な才能を持つ現代の詩人を、これからも見守っていきたいと思う。

information

アノミー

amazarashi
『アノミー』

2011年3月16日発売
価格:1,529円(税込)
Sony Music Associated Records / AICL-2240

1. アノミー
2. さくら
3. 理想の花
4. ピアノ泥棒
5. おもろうてやがて悲しき東口
6. この街で生きている
※初回特典:特殊ジャケット、オリジナル詩集封入

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オフィシャルウェブサイトで「アノミー」PVが期間限定フル視聴スタート!

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