コンプレックス文化論 第九回「背が低い」其の三 フラワーカンパニーズ 鈴木圭介インタビュー

コンプレックス文化論
第九回「背が低い」

文:武田砂鉄 イラスト:なかおみちお 撮影:柏木ゆか

背が低いキャラは、こうやったらかわいく思われるだろうってことを熟知している。


―あと、猫背もコンプレックスだったと。

鈴木:背が低いから本当は胸を張って少しでも堂々としていなければいけなかったんでしょうけどね。でも、ジョニー・ロットンを見てから、あっ、猫背でいいんだ、むしろパンクスは猫背がいいって思うようになりました。姿勢がいいとダブルの革ジャンって似合わない、着古した革ジャンを猫背で着る。猫背じゃないとバイク乗りになっちゃうから。

―「パンク」か「バイク」かは、猫背で決まる。

鈴木:わざと猫背にしたりしましたからね。ジョニー・ロットンは背が低くて猫背の代表格。自伝『スティル・ア・パンク』を読むと、幼少期はダサい眼鏡をかけて喘息持ちなんですよ。ついでに出っ歯、それなのに笑っている写真がある。あっ、これ、俺じゃん、って。

―コンプレックスの宝庫ですね。

鈴木:毒舌で性格がねじ曲がる、腕っ節では敵わない人ならではの生き方ですよ。『スティル・ア・パンク』は泣きながら読みましたね。

―たとえば青春期の「恋人がいないコンプレックス」って、やがて解消されていきますよね。でも背が低いって解消されることがない。このコンプレックスって、あらゆるコンプレックスの中でも根が深いですね。

鈴木圭介(フラワーカンパニーズ)

鈴木:小学校の高学年くらいから中3くらいまでって、一番体の大きさが変わりますよね。僕は背が低いままだったから、キャラが変わらなかった。問題は、最初一番大きかったのに、徐々に抜かれていって、久々に会うと、えっ、こんなに小さかったのって奴。そういう人のコンプレックスのねじれ方はキツい。「多感な時期に抜かれちゃったチビ」問題。

―背が大きい時代に周りになにかと大きく出ていた場合、後々で微調整が大変になったでしょうね。

鈴木:今は背が低いコンプレックスを、体を鍛える方面でフォローしていくことができますけど、当時は、デカいか小さいかで全部決まってましたから。小さいと、小さいなりの振る舞いが身につくんです。先に行けと言われたら行く、みたいな。中学に入って不良文化が入ってくると、いじめっ子だった奴がいじめられっ子になったり、その逆も起きる。でも、背が小さいと、そこからも除外されるんですよ。

こう言ったら好感度下がるかもしれないけど、ずっと背が低いキャラできたから、こうやったらかわいく思われるだろうってことを僕は熟知しているんですよ。こういう風に言ったらこの人は落ちるなって分かる。弱音の吐き方も分かる。甘え方も分かっている。これ、好感度下がっちゃうな(笑)。

―下がりますね(笑)。

鈴木:でもそれは意識的じゃなく本能的なんですよ。キャラ変更してそうなったのならば、それはテクニックですが、僕みたいにキャラ変更無しでそうなったら、それはもう体に染み付いているってこと。

なんたって中1で29キロです。「未熟児」って呼ばれましたからね。一方その頃、体がデカくなってきた弟の友だちが、なんとなーく不良っぽくなってくる。……だって、シャツがズボンに入ってないんですよ。

―親みたいな指摘(笑)。不良願望ってなかったんですか。普通、「音楽をやること」と「不良願望」が連結することは多いでしょうから。

鈴木:まったくなかったですね。むしろ拒絶反応です。『金八先生』などで荒れる中学校を見て、中学に上がりたくないなぁって思っていた。横浜銀蝿とかちっとも馴染めなかったし。最近ですよ、永ちゃん(矢沢永吉)がすごいって思えるようになったのは。

―パンクやメタルって、反体制ですよね。そこへのシンパシーはなかったんですか。

鈴木:不良と反体制は違っていて、反体制にはシンパシーがありましたよ。それは僕の中ではアナーキーとザ・スターリンの違い。アナーキーの反抗の仕方は共感できずに、ザ・スターリンのような、反抗しているんだかしていないんだか分からない歪んだ自滅が好きだったんですよ。尾崎豊とか、世間に対して文句言っている人には馴染めなかった。大人のことを責めるくらいだったら、もっとやることあるんじゃないかと。

―盗んだバイクで走り出すような奴って、背の順でいうと、後ろのほうの奴らですよね。

鈴木:そうそう。で、後ろにいる奴って、大概、ガラの悪いお兄ちゃんがいる。

―ものすごい、おおざっぱな断定!

鈴木:兄貴から情報が入って、バイクも好きになる。結果、暴走族に流れる。キャロルを聴いて、リーゼントとなる。パンクスってね、弱いほうがイイ。だってほら、ジョニー、弱いでしょう。弱いくせに最後まで悪態つくっていう負けの美学がある。遠藤ミチロウさんが言ってたのは、お客さんを盛り上げるために当時のパンクって最前列のお客を殴っていた、と。でもミチロウさんは逆の発想で、むしろ自分が客席に突っ込んでいって、客に殴らせた。そうすると客は盛り上がる。顔を真っ赤にしてミチロウさんがステージに帰ってくる(笑)。歪んだマゾっ気が出てきて偏屈になる。でも自分は、背が低いこともあって、こういうやり方がいいって信じてやってきました。

「これ以上筋トレするとなべやかんになるぞ」という危機感

鈴木:体が小さくてそのコンプレックスを跳ね返そうとすると格闘技に行くと思うんです。体を鍛えようと思った時期も確かにありました。『がんばれ元気』っていうボクシング漫画が好きで、ボクシングに憧れたこともあった。でも、ある時、肉体を改造すると……なべやかんになる、と気づいたんですよ。同じように背が低いミュージシャン仲間と話していて、全く同じ意見だった。どんなにトレーニングしても最終的にやかんになるぞ、って。

―鈴木さんたちを諦めさせたという点で、なべやかんが音楽界にもたらした功績は大きいですね。やかんになりたくない、音楽やるしかない、って。

鈴木:あの頑張りよう、すっごく分かるんですよ。病的な頑張り。背が低いコンプレックスそのものです。

―誰のための筋肉か、まさに自分のための筋肉。舐められたくないための筋肉を、結果的に笑われている寂しさ。

鈴木:やかんは、僕に肉体改造させなかったストッパーです。ライブを良くするためとか、声を出すための肉体改造は今でもしますけど、「これ以上やるとやかんになるぞ」と、どこからか声がする。

―ところで、原稿などに「こんな小さな体からこんなパワフルな声が」って書かれるの、イヤですか?

鈴木:嬉しいですよ。それをイヤだって言う時期は過ぎましたね。一番嬉しいのは、「あんなに小さいのにこんなにでかい声が出る」っていうの。そこだけはずっと負けたくなかったので。

―無理矢理こじつけますが、“東京タワー”という曲に、<東京タワーみたいになりたかった>って歌詞がありますけど、やっぱりデカいものに憧れがあったんですか。

鈴木:そりゃありますよ、怪獣とかね。特撮好きだったのに、離れてプロレスにいく人いますけど、僕は今でもプロレスって好きじゃない。なんでかっていうと、巨大化しないじゃんっていう。

―あの時代、巨大化しとけばとりあえず満足でしたからね。

鈴木:憧れがあるんでしょうね。東京タワーの話ですけど、今は、スカイツリーがあるでしょう。そうすると、用無しの東京タワーをまた好きになりますよね。今、つらいだろうなって。

―つらいでしょうね、今。

鈴木:こないだ初めてスカイツリーを近くで見たんですけど、それまであまり感心してなかったんだけど、悪くないなって。そのとき、東京タワーにすまんって思いましたよね。

―ライブ中に「見えねーぞ」って言われることないですか?

鈴木:いやもう、自分から言いますから。「見える~?」って。「見えない? じゃあ、上げるわ」って、ビールケースを積む(笑)。だからやっぱり、わかっているんですよ、チビの利用法。柔道って、小さいものが大きい相手の力を利用する武道ですよね。やっぱり大きい者が小さい者に勝っても盛り上がらない。

―舞の海が曙を倒すと盛り上がるけど、曙がリングに突っ伏すと、みんな爆笑するっていう。

鈴木:あと男性アイドルのみなさんは背が低くても関係なく人気が出たりしますよね。彼らが出てきたことによって、背が低いのが認められたんじゃないかと思っているんですよ。洋服屋に「XS」があるのは彼らのおかげでもあると思います。

―なべやかん、ロックンローラー、そしてアイドル、「背が低い」コンプレックスの解消法が選べるようになった。

鈴木:そうそう、まあとにかく、僕の場合は、ストッパー・なべやかんのおかげで今、音楽の道を続けてこられた。感謝です(笑)。


「背が低い」を長年嗜んできた鈴木さんは、低身長の利点も弱点も知り尽くしている。雑誌記事等で頻繁に見かけるもののイマイチ掴みきれない文言に「ロックンロールの身体性」という言葉があるが、鈴木さんはその言葉を直接的に音楽に染み渡らせてきたのだ。フラワーカンパニーズが作り出す音楽がいつも切実なのは、「ロックンロールの身体性」をものすんごいダイレクトに取り込み続けたことと無関係ではない。いまこうして目の前にあるフラワーカンパニーズの音楽は、もしも背が高かったら味わえないものだったのかもしれないのだ。

フラワーカンパニーズライブ情報

 結成25周年ワンマンツアー『4人で100才』

2014年6月28日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:熊本県 Django

2014年6月29日(日)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:大分県 T.O.P.S Bitts Hall

2014年7月3日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 恵比寿 LIQUID ROOM

2014年7月4日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 恵比寿 LIQUID ROOM

料金:各公演 前売3,600円(ドリンク別)

 フラワーカンパニーズ アコースティックワンマンツアー
『フォークの爆発2014~座って演奏するスタイルです~』

2014年8月22日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:福岡県 Gate's7

2014年8月26日(火)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:香川県 高松DIME

2014年8月28日(木)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:神奈川県 川崎 CLUB CITTA'

2014年9月18日(木)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:宮城県 仙台 カフェ・モーツァルト・アトリエ

2014年9月20日(土)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:秋田県 THE CAT WALK

2014年9月27日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:兵庫県 神戸 クラブ月世界

2014年9月28日(日)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:島根県 出雲 APOLLO

料金:各公演 前売3,800円(ドリンク別)

フラワーカンパニーズ | 25周年 特設サイト

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武田砂鉄

締め切りを守るフリーライター。

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