21世紀の女子解放論 もっともっと、気持ちいい毎日を

21世紀の女子解放論 もっともっと、気持ちいい毎日を 第3回 北条かや

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21世紀の女子解放論 もっともっと、気持ちいい毎日を

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北条かや

男性恐怖症のままキャバクラや整形の世界に潜入。意識変化を語る

女の欲望を考える本連載。第3回に登場していただくのは『キャバ嬢の社会学』などで知られる気鋭の著述家、北条かや。社会学のフィールドワークの一環として、キャバクラで働き始めた彼女は、同僚のキャバ嬢やお客としてやって来る男性と接するなかで、「女性とは何か?」というテーマを次第にかたちにしていったという。そのテーマは「美容整形」についてまとめた新刊にも引き継がれている。

美や愛を求めることは多くの女性にとって(そしてもちろん男性にとっても)普遍的な心理と言えるだろう。だがその背景には、社会的な枠組みによって規定される「○○らしさ」のバイアスが存在する。人の欲望とわかち難く結びついた諸要素とうまく付き合っていくことで、人はより豊かに、そして自由に生きることができるだろうか?

田舎で過ごした思春期時代から、キャバクラに入店して見えた世界、そして女性性の歴史まで、幅広い話が展開するインタビューをお届けする。

テキスト:島貫泰介 撮影:豊島望
北条かや

北条かや(ほうじょう かや)

1986年、石川県生まれ。ライター。社会学、若者論、ジェンダーを主なテーマとする。「BLOGOS」はじめ複数のメディアに、社会系・経済系の記事を寄稿する。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修士課程修了。NHK『新世代が解く!ニッポンのジレンマ』、TOKYO MX『モーニングCROSS』などに出演する。2015年5月26日、新刊『整形した女は幸せになっているのか』発売。前著に『キャバ嬢の社会学』がある。

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「キャバ嬢」や「整形した女性」は幸せか?
興味のきっかけは女らしさに対するコンプレックス

『キャバ嬢の社会学』と新刊『整形した女は幸せになっているのか』を読ませていただいて、2冊で1つのテーマを物語っているような印象を受けました。

北条かや

「自分は女として欠陥品なんだな」と思うようになって、自分の身体への嫌悪感が強くなったんです。

北条:そう言っていただけると嬉しいです。どちらもテーマは「女の欲望」で、『キャバ嬢の社会学』を書こうと思ったきっかけは、私が女らしさを肯定できていないのに対して、キャバ嬢の方々は女らしさを全面に出して楽しんでいることに興味が湧いたんです。実際にキャバクラやホステスクラブで参与観察した経験に基づいて書いたのですが、ホステスには整形している人がたくさんいて、『整形した女は幸せになっているのか』はそこから派生して書いた本、とも言えます。今、3冊目を書いているんですけど、テーマは「女の身体」なんですよ。3冊とも、通奏低音になっているものは同じと言える気がします。

北条さんは大学の学位論文も身体論を書かれたそうですが、そもそも身体に興味を持ったきっかけは何だったんでしょうか?

北条:私は長女なんですけど、厳格な家庭だったので、性に関する情報がまったくありませんでした。ただ、私が生まれ育った1980~90年代は、10代の女子向けの雑誌『ポップティーン』での性的表現が過ぎると国会で問題になったり、「コミック本から子どもを守る会」が結成されたりして、エロ本への規制が強化されていった時代だったんです。PTAや教師、保守的な政治家たちが「あんな本を売っているのはけしからん」と言って運動を始めた時期。

『ポップティーン』とか『パステルティーン』は、内容や表現が過激だったらしいですね。

北条:そういった雑誌には15歳くらいの女の子の性体験が載っていたし、そのちょっと上の世代の女の子は、ブルセラショップに行ってパンツを売ったりするような、なんというかカオスな状態でした。性に関する社会状況はカオスであるにも関わらず、私の家庭ではまったくそういう話がなくて。それで家の近所に「ユニー」があったんですけど……。

地域密着型の大型スーパーですね。本屋も洋服店も全部ある。

北条: 友達と一緒にユニーの本屋さんで『パステルティーン』を立ち読みしたり、マンガ『GTO』を「これはすごく性描写が多い」と友達に薦められて読んだりしてみて、衝撃を受けて。

元不良の教師が、問題の多い中学校に赴任してめちゃくちゃな教育をしていく話ですね。

北条:「中学生がこんなに大人っぽいわけがない!」と思ったんですよね。私は石川県の田舎の垢抜けない中学生でしたし、そこで描かれている性的な中学生女子のイメージと、自分の身体がまったく違うというギャップに衝撃があって。

北条かや

地方の若者は性的に早熟だとも言いますよね。初体験年齢が低いとか。

北条:「セックス以外やることがない」というような言われ方をされますね(笑)。でも、『ポップティーン』や『GTO』で描かれていたのは、自分の知らない世界だったんです。中学生って、高校生と比べると、性に関するネタも笑いに変えるようなところがあるじゃないですか。小学校の延長みたいな純朴さもありつつ、人によっては第二次性徴もあって、女子は胸の大小が気になり始めたり、性への興味も増していく。私は胸がないということが中学の時にわかったから、仲のいい子と、当時流行っていた「ミニモニ。」(モーニング娘。から派生したグループ)をもじって、「貧モニ。」というユニットを結成して、笑いのネタにしていました(笑)。小学校時代の延長のような、幼い感覚だったと思います。

そういう時期ありますね。

北条:当時は、胸が小さいということが、コンプレックスではなくネタだったんですよね。楽しい中学時代を送ってました。でも、高校になると違う文化圏で育った子たちが集まってくるんですよ。性や女性らしさに対して異なる価値観をぶつけられたのがショックでした。「北条さん、胸ないよね」ってことを陰口で言われてから、「自分は女として欠陥品なんだな」と思うようになって、自分の身体への嫌悪感が強くなったんです。高校生の頃は、胸の大きい女の子のほうが初体験が早かったんですよ。胸があるから男性から需要があり、交際に至ってホテルに行ったりする。つまり胸がない自分にはその資格がない。そんな短絡的な思考に陥ってしまったんです。

女性は自分が女性であることを認識する機会が多いですよね。それが自己嫌悪にもつながることも多いと思います。

北条:単純に自分個人の経験がその論拠になるとは思わないですが、特に痴漢に遭ったりすると、「こんな身体だからこそ欲情されてしまうんだ」と自分の女としての身体を憎むようなことになりますよね。

もちろん痴漢する犯罪者たちが100%悪いです! そういった女性嫌悪の意識が、『キャバ嬢の社会学』でのリサーチを通じて解放されていくわけですね。

北条:そうです。キャバクラで働いていた頃はちょっと太っちゃってたんですけど、ぽっちゃり体型が好きな男性っているじゃないですか。「太ももがいいね」とか「そのくらいの身体つきがいい」とか言われると、「ああそうなんだ」と思って。対異性ということでは、自分の身体は女として欠陥品ではないんだと思いました。男性は、胸の大小だけで女を判断しているわけじゃないんだな、というか。

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