『シンガポールのクリエイターと街』 第1回:アイウェイ・フー x リトル・インディア

多様な文化を持っているシンガポールは、それぞれの場所にそれぞれ特有のカラーを持っている。このシリーズでは、シンガポールで活躍しているクリエイターに特定のエリアについて伺いつつ、そのエリアが彼らのクリエイティビティにどのような影響を与えているのかを伺っていく。第1回目の登場は、リトル・インディアの住人であるアーティスト、アイウェイ・フー(Aiwei Foo)です。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

シンガポールの「小さなインド」、リトル・インディア

リトル・インディアは、シンガポールの中にある「小さなインド」。他のエリアに比べてもカラフルな場所で、鮮やかな色彩で塗られたショップハウスの壁がずらりと並んだ光景や、サリーや布地や貴金属の装飾品を売っている店が建ち並んでいるのが印象的なエリアだ。通りを歩いていると、お店から漂ってくる美味しいカレーの匂いや、彩り豊かなスパイス、そしてお寺からの焼香の香りがインドそのものの雰囲気を感じさせる。歴史的にも古いヒンドゥー寺院だけでなく、中国寺院やモスクがあるというのが、シンガポールの文化の多様さを象徴していて、このエリアをさらに面白くしている。

HereNowシンガポールのキュレーターの1人であり、シンガポールを拠点に活動しているアーティスト、アイウェイ・フーは、このカラフルなリトル・インディアにアトリエを持つ住人。アートは日常生活の延長線上にあるという、彼女の様々な風変わりでユニークなアイデアから生まれる作品はこのアトリエから生まれている。そんな彼女に、リトル・インディアの魅力や自身の作品について聞いてみた。

リトル・インディアは、「人種のるつぼ」みたいなところ

—まずは、自己紹介をお願いします。

アイウェイ・フー: 私はシンガポールを拠点に活動している、アーティスト兼デザイナーのアイウェイ・フーです。私が作るものは、様々な要素が交わった作品が多くて、ドローイング、写真、テキスタイル、文章、音楽、そしてパフォーマンス・アートにまで幅広く及びます。

—リトル・インディアにはいつから住んでいますか?

アイウェイ・フー: 以前、2004年から2010年までの間、この近所に住んでいたことがあるの。それからは別の場所に引っ越したり、海外に出て行ったりして、また2015年11月に戻ってきました。

—またリトル・インディアを選んだ理由は?

アイウェイ・フー: この近所は、シンガポールの典型的な住宅地域とは異なっているからかな。私が今住んでいるのは、ショップハウス(シンガポール特有の狭く細長い家屋)。そして、前にこの近所に住んでいたときは、ローウェル通り沿いにある黒白の植民地時代風の住宅に住んでいたの。たぶん、私はこういう他とは違う雰囲気の住宅に慣れ親しんでいるのかもね。

—リトル・インディアのどこが気に入ってる?

アイウェイ・フー: 活気があって、「人種のるつぼ」みたいなところ。カオスな面もあるけれど、比較的安全なところも魅力の一つかな。

—リトル・インディアのお気に入りスポットを教えてください。

アイウェイ・フー: ベリリオス・レーン通り(Belilios Lane)とケルバウ通り(Kerbau Road)のコーナーにある『Village Curry』がお気に入り。

—そこでよく食べるものとかある?

アイウェイ・フー:マサラ・ドーサ(南インドのクレープ状の料理)は結構いけるよ。マサラの中に入っている摩り下ろした生姜が良い味出してて、こんなマサラ・ドーサ体験は他にはないね。あと、夜中24時過ぎの『ムスタファ』(24時間営業のリトル・インディア最大のショッピングセンター)は大好き!

—シンガポールのクリエイターは、『ムスタファ』好きな人が多いけれど、『ムスタファ』の魅力って何?

アイウェイ・フー:『ムスタファ』には、要らないものも沢山あるけど、色んな種類の雑貨が揃っているところが素晴らしいと思う。沢山のモノが溢れかえっていて、なかなか欲しいものに辿りつけず、迷ってしまったりするときもたまにあるけどね(笑)。でも、何回も行くにつれて、どこに何があるかわかってきて、友達に迷わないコツを教えたり。24時間営業だから、作品作りに必要なものが夜中に欲しくなったら、夜遅い時間でも気軽に行けるっていうのがここに住んでる特権だよね。

ハンモックで横たわっているだけで、生活を豊かにしてくれる場所

—リトル・インディアに住んでいて、作品作りになにか影響を受けますか?

アイウェイ・フー: もちろん! 作品自体には直接反映はされていないけれど、多種多様な文化やここでの日常生活での出会いはとっても魅惑的で色んなアイデアを生むきっかけを作ってくれるよ。

—最近の作品で、自分が気に入っているプロジェクトを教えていただけますか。

アイウェイ・フー: ここ3〜4年は、主に写真や映像を使った作品を手掛けてきたけど、それまではずっとハンドメイドで作品を作ってきたの。そして今、改めてハンドメイドで作るような作品制作をしたいなと思っています。まだ造り始めたばかりで実験段階だけど、織物作品プロジェクトを計画中です。

アイウェイ・フーは、ファッション・デザインを勉強しにヘルシンキにあるアールト大学に二年間留学。そこで経験した日常生活を、彼女ならではの視点で撮った写真や、呟きや日記をまとめた本「Semi Private Life in Helsinki(セミ・プライベート・ライフ・イン・ヘルシンキ)」を出版している。

—最近出版された「Semi Private Life in Helsinki」を拝見しましたが、とても独創的な視点で作られていますね。いつも写真を撮るときに心掛けていることはありますか?

アイウェイ・フー: いつも作品制作のアイデアのきっかけになるものであったり、奇妙なものであったり、可笑しいと思ったものには惹かれるので、そういうものをよく撮影したりしています。他の人には、あまり注目されないものばかりかもしれないけれど。

—作品を制作するときのインスピレーションは何から来ていますか? また、作品を通して何かテーマはありますか?

アイウェイ・フー: インスピレーションは1つのモノから生まれないと私は信じていて、インスピレーションは何から来るかというと、定義はとても抽象的なものになります。私にとって、沢山のアイデアは偶然に閃くものではなく、自分の日常生活で習得してきた経験や、自己の内面に存在している事柄などの集合体から生まれると思っていて。

—留学から戻ってきてからもう一度住んだリトル・インディアは何か違って見えますか?

アイウェイ・フー: 前にリトル・インディアに住んでいたときは、今とは通りの雰囲気も違っていて、どちらかというと、娼婦街的なエリアだったのね。でも、周りの人が心配していたわりには、意外と安全だった。そこと比べてしまうと、今はわりと静かな環境に私のスタジオはあって、KTVラウンジ(カラオケラウンジ)が下の階にあるけど、そこまで騒がしい場所ではないです。あと、最近は美味しいインド料理屋さんが近所に多いから、お腹を空かした観光客が多い事かな。

—今後の予定を教えてください。

アイウェイ・フー: これから先、色々とやってみたいプロジェクトがあるんだけど、今は近いうちに出版予定の「Semi Private Life in Helsinki」シリーズのAutumn号とWinter号の編集で忙しくて。

—最後にアイウェイにとって、リトル・インディアというエリアはどういう場所ですか?

アイウェイ・フー:リトル・インディアは、私にとってハンモックで横たわっているだけで、生活を豊かにしてくれる場所かな。空だったり、星だったり、月だったり、鳩だったり、ときたま漂ってくるカレーの香りだったり。そんな日々の生活から色んな考えだったり、アイデアが湧き出てくるから好き。

プロフィール
Aiwei Foo
Aiwei Foo

アイウェイ・フー(Aiwei Foo)は、実生活における舞台のようなパフォーマンスと舞台を模倣する実生活とのギャップを探る、シンガポール在住のアーティスト。目からビーム光線を放つ女の子のシリーズ作品「Beaming Girl」などで知られる。近著「Semi Private Life in Helsinki」は、主人公であるビーミング・ガール(Beaming Girl)=自我を通して、ソーシャルメディア上における「プライベートとは?」といったテーマを扱う作品となっている。



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