『シンガポールのクリエイターと街』 第2回:リトル・オン(Little Ong) x チャイナタウン

多様な文化を持っているシンガポールは、エリアごとにそれぞれ特有のカラーを持っている。このシリーズでは、シンガポールで活躍しているクリエイターに特定のエリアについて聞きつつ、そのエリアが彼らのクリエイティビティにどのような影響を与えているのかを探っていく。第2回目の登場は、チャイナタウンにあるシンガポールを代表するクリエイティブ・エージェンシーの1つ「fFurious(エフフューリアス)」のクリエイティブ・ディレクター、リトル・オン(Little Ong)です。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

シンガポールでもひときわ色鮮やかなエリア・チャイナタウン

中国正月を迎えたばかりのチャイナタウンは、普段より一層華やかに装飾される。2017年は酉年にちなんで、鶏を象った電飾が通りに飾られてあり、活気ある小道に一歩足を踏み入れると、軒を連ねる色鮮やかなショップハウスが目を惹く。

このチャイナタウンで、最も煌びやかな中国寺院『仏牙寺龍華院博物館』の近くにあるサゴ・ストリートに、今回の主役、リトル・オンのオフィスがある。ショップハウス脇に『fFurious(エフフューリアス)』という赤くて丸いレトロなデザインの看板が掲げてあり、階段で二階へと上る。ドアを開くと、壁一面にリトルが手掛けてきたポップなポスターや、彼の趣味であろうレトロな小物が目に飛び込んでくる、まるでおもちゃ箱のようなオフィスだ。彼のスタジオにて、このエリアの魅力やシンガポールのクリエイティブシーンについて伺った。

チャイナタウンには、常に新しい出会いがある

—まずは、自己紹介をお願いします。

リトル・オン: デザイナー、フォトグラファー、そしてイラストレーターをやっている、リトル・オンです。シンガポールを拠点に活動しているクリエイティブ・エージェンシー「fFurious」にて、クリエイティブ・ディレクターを務めています。

—「fFurious(エフフューリアス)」って面白い名前だなと思ったんですが、名前を決めた背景は?

リトル・オン: 人がなにか問題にぶち当たったときの感情って、まず「furious(怒り)」じゃないですか。そしてその次に何をするかというと、その問題の解決策を考えますよね。だから、その怒りというのは、問題を解決する良いきっかけのようなものだと思うんです。デザインすることや問題解決することに情熱を向けると、良い答えが生まれてくる。

—もともとスタジオを設けることになったいきさつは?

リトル・オン: 「fFurious」は1999年に発足して、ここのチャイナタウンにスタジオを設けたのは2001年から。それまでは、自宅のベッドルームが作業部屋でした。

—初めは、自宅のベッドルームから始まったんですね。

リトル・オン: そう(笑)。それが1年位続いてから、スペースを借りられる位のお金を稼げるようになったので、チャイナタウンのここにオフィスを設ける事にしたんだ。でも今は、政府の方針が変わって自宅をビジネスの拠点として登録できるようになったから、若手クリエイターは自宅住所を正式に登録して、そのまま家で働いている人が多いけどね。

—リトルがスタジオを設けた時と、今の若いデザイナーと比べたら働く環境もだいぶ変わったんじゃないですか?

リトル・オン: 元々の(シンガポールの)クリエイティブシーンは主に広告業しかなくって、グラフィックの仕事は、あまり注目されてなかった。「Phunk ※注:代表はHereNowキュレーターのジャクソン・タン」や「Asylum ※注:代表はHereNowキュレーターのクリス・リー」というクリエイティブ・エージェンシーと僕らは同期で、昔はみんな、シンガポールのデザインシーンを広めようと躍起になっていたんだ。だから、自分の会社を立ち上げて試行錯誤を繰り返しながら、本物のシンガポールのグラフィックのシーンを作り上げていったんだよ。不思議なことに、1999年とか2000年など、みんな同じ時期に。

—それから変化が生まれたのはいつ?

リトル・オン: 2005年頃かな。その頃から、ようやくシンガポール政府がクリエイティブの重要性に気づいて、政府レベルでクリエイティブ業界に投資をし始めたんだ。それで、僕らの業界に助成金を出し始めたことがきっかけで、この国のクリエイティブ業界が成長していったんだ。

—チャイナタウンをオフィスに選んだのはなぜ?

リトル・オン: 僕は小さい頃からリトル・インディアのショップハウスで育ってきたから、こういうショップハウスの雰囲気は前からとっても気に入っていたんだ。このスタジオを見つけることが出来たのはとってもラッキーだったよ。もともと天井がなく吹き抜けだったから、屋根まで二階分の高さはあるかな。だから空間をとっても広く感じることができて、色んなアイディアを生むにはぴったりの環境だよ。

—なるほど、ショップハウスは人気ですよね。

リトル・オン: ここはシティ中心に近いから、出勤するにもミーティングしに出かけるにも便利の場所だよ。でもなんといっても、チャイナタウンに素晴らしいところは色んな美味しい料理に出会えることかな。この周辺には、お店が沢山ありすぎて選択肢に困らないよ。16年ここで働いているけれど、常に新しいお店を発見することができるしね!

活気に満ち溢れ、色んなことが起こっている、エネルギーに溢れたエリア

—チャイナタウンから作品制作に影響を受けることはありますか。

リトル・オン: この場所の持つエネルギーは気に入っていて、自分たちが制作したいくつかの作品はチャイナタウンから直接的に影響を受けているものもある。例えば、ショップハウスの看板を模した名刺だったり、パンフレットのデザインも古い中国の絵本や壁面に描かれている旧正月用のイラストだったり。よく日中とかにランチしに出かけると、良いエネルギーをもらうついでに、膨大なビジュアル・インスピレーションをもらってくるんだ。

—最近関わっていたプロジェクトや作品を教えてください。

リトル・オン: 仕事の種類はプロジェクトによって違うけれど、いずれもアートやカルチャーに関する仕事が多いかな。ここ最近では、舞台作品『能×3D映像公演「幽玄HIDDEN BEAUTY OF JAPAN」』のイベント関連資料のデザインを担当した。この舞台がまた素晴らしくって、3D眼鏡付きの能面をつけて見るんだ。

あとは、根っからのシンガポール音楽シーンの大ファンだから、「Singapore Gigs」というサイトを立ち上げるプロジェクトに参加出来たことは誇りに思ってる。このサイトはシンガポールのありとあらゆるジャンルのコンサート・ガイドになっているんだ。もし、音楽好きだったら、シンガポールにいる間に、このウェブサイトをチェックしてからライブに行ってみて欲しいね。

—音楽がお好きなんですね。

リトル・オン: そう、子供の頃から音楽が大好きだった。学校でグラフィック・デザインを専攻して、音楽関連のデザインをする事が夢だったからね。

—では、チャイナタウン周辺のオススメスポットを教えてください。

リトル・オン: やっぱりチャイナタウンの中心にある、『チャイナタウン・コンプレックス・マーケット&フードセンター』かな。この地下にある朝市でタマゴを買うのが好きなんだ。タマゴ・パックで作られたアヴァンギャルドなバッグに包んでくれるしね。

あと、『アンソニー・スパイス・メーカー』という店があって、そこでは良質のハーブやスパイスを買うことができて、色んなスパイスをミックスされたカレーも買えるよ。もっとエキゾチックな物に興味があったら、新鮮なうなぎや亀、カエルなども売ってる(笑)。

—色々あるんですね(笑)。

リトル・オン: あとはここの2階にある、でっかいフードセンターに安くて美味しい物を食べに行くときも多いかな。朝食には、ピーナッツ入りの蒸しもち米や、ナシレマ(マレー風ココナッツ・ライスにアンチョビと目玉焼きのせ)、蒸しライス・ロール、焼麺とか。ランチだったら、蒸し餃子入りスープ、叉焼ライス、ラクサや、海南チキンライス……なんて選び放題だし。そして夜になったら美味しいクラフト・ビールを飲みに、スミス・ストリートに行くかな。

—その他には?

リトル・オン: 1階には、着物類、お土産、CD、雑貨を主に売っているお店が多くて、仕立て屋や時計屋もある。これらのお店の中でひときわ目を惹くのは『スティル・キャン・ユーズ (Still Can Use)』という中古レコード店かな。

あと一休みするのに、この建物の5階の広場によく行っていたな。集合団地に囲まれた空間でバスケットボールが出来るんだ。現代のシンガポールでこういう場所が残っているのは、珍しいほうだよ。

あと僕のスタジオからちょっとした所に、バンダ・ストリートにオープンしたばかりのレコードショップがある。『Here(ヒア)』という店名で、レコードのセレクションが新譜から旧譜まで幅広く取り揃えていて、時間があったらお店に行って、音楽を聴いたりディグったりしているよ。

—最後に、あなたにとって「チャイナタウン」とは?

リトル・オン: 16年間もこの場所に居続ける理由は、やっぱりシティの中心に近くて、バスも多く通っているところかな。そして、活気に満ち溢れていて、色んな事が起こっていて、沢山の人が常に行き交っている。でもなによりも、チャイナタウンが一番だと思うところは、やっぱり美味しい食事処が多いところかな(笑)。

プロフィール
リトル・オン(Little Ong)

デザイナー、写真家、イラストレーターとしても活躍する傍ら、クリエイティブ・エージェンシー「fFurious」のクリエイティブ・ディレクターを務める。



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