台北の「今」を生きる、台北駅で聴いた5人の声

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

国際都市「台北」の光と影

近年、国際都市の仲間入りをしたと言われる、台湾の最大都市「台北」。 地下鉄をはじめとした交通インフラの充実、ランドマーク「台北101」の竣工、そしてサービス業や文化産業を中心とした都市計画など、台北はここ15年で大きな変化を迎えてきた。

さらに、2016年にはデザインを通して都市の発展を推進する「ワールド・デザイン・キャピタル」に選ばれるなど、発展の加速度は上がっている。

市民の生活はより安全に、そして豊かに変化してきたはずである。

しかし、うれしいことばかりではない。

たとえば、住宅価格の高騰だ。日本であれば一般人の住宅価格は年収比の5倍であるのに対し、台北では2013年ごろに約15倍に達したという。先進国の仲間入りをするとともに、住宅事情だけでいえば多くの問題を抱え、「世界一住みにくい街」(台湾の有名紙・聯合報より)といった言葉もあがっている。

このように、ここ10数年で国際都市としての成熟と、それと引き換えに国民の生活に大きな影響をもたらしてきた台北。2016年1月には、中国との関係を決めることになる総選挙を迎えるということで、街はやや慌ただしいムードが漂っていた。

台北の「今」を生きる

さまざまな変化を体感してきた台北の人々は、国際都市として移り変わる母国をどうみてきたのだろうか。

そんな疑問を胸に、台湾の主要駅・台北駅で、5名の老若男女に聞いてみると、台北の「今」の輪郭が少しずつ見え始めた。

1.頼れないなら、自分たちで仕事をつくる

年齢:22才(右)、出身地:台北、職業:学生

−台北の好きなところはどこですか?

交通の便がいいことでしょうか。どこにでも行きやすくて、本当に便利です。あとは、夜市にある「牡蠣のオムレツ」が大好きです。台湾のグルメといったら、小籠包か牛肉麺と思われがちだけど、台湾人には牡蠣のオムレツは大人気の料理なんですよ。もっと海外の人にも知ってもらいたいですね。

−台北の今と今後を、どう感じていますか?

台北はいま就職難なんです。仕事につけないと、収入がなくて住む場所も食べるものも手に入れられない。そして、政治はあまりうまく回っていない。ここ数年で、家賃も高くなったけど収入はまったく変わっていない。台北の人々がもっと住みやすくなるための策を考えてほしい。……でも、頼ってばかりではダメなこともわかっています。だから、私たちは企業に勤めるよりも、むしろ自分たちで仕事をつくろうと思っているんです。

2.駅直結のショッピングモールにアニメ。生活に楽しみが増えた

年齢:40代(右)、出身地:高雄、職業:専業主婦

−台北の好きなところはどこですか?

ここ数年で、子どもを連れての外出が楽になりました。そこにすごく助けられています。どこへ行くにしてもMRT(駅)が近くにあるし、駅直結のショッピングモールも増えました。交通の整備や、商業施設が増えたことで生活も便利になって楽しみが増えた気がしています。

−台北の今と今後を、どう感じていますか?

今の若い人たちは、親世代が過保護で甘やかしすぎたせいか欲望が全然なく、野心もなくなってきていると聞くことが多いんです。私たちの世代が苦しい思いをしながらモノを得ていた経験から、自分の子どもにはそうさせまいという思いやりからだと言われているけれど……。そこは少し不安なところです。

でも、ここ数年で世界中の人が台北へやってくるようになって世界中の文化が入ってきたのはすごく喜ばしいことだと思っています。特に、子ども向けのアニメが増えてきているので、それらを参考にしながら新しい台北の文化が生まれればいいなと思っています。

3.国民一人ひとりが環境問題への意識を強くもつべき

年齢:29才、出身地:台北、職業:エンジニア

−台北の好きなところはどこですか?

台北101です。101ができるまでは、グルメしか思い浮かばなかったんですが、101は洗練されたデザインで、国際都市を際立たせてくれる。こういった新しいシンボルがどんどん増えていけばいいなと思っています。

−台北の今と今後を、どう感じていますか?

ここ数年で、地下鉄をはじめ、交通網がしっかりしてきたんです。今も線路が増え続けているので、どこへ行くにも気軽に行けるようになりました。観光客も増えたことで街中にも、案内板や地図が増えたように感じますし、迷子になりにくくなりましたね。

でも同時に僕が心配に思っているのは“環境問題”なんです。街中をみるとゴミのポイ捨てが多い。そんな状況なのに国際都市といわれてもいまいちピンとこないんですよね。国民一人ひとりが意識をもって、環境問題に取り組んでいけば、台北はもっと魅力あふれた場所になると思っています。

4.今後台北がどうなっていくのか予想がつかない

年齢:50歳、
出身地:台北、職業:レストラン経営

−台北の好きなところは?

台北101を眺めているのが好きです。台北の象徴のようで、すごく嬉しくなるんです。あとは、101から見える景色も好きです。

もうひとつは、住んでいる“人”です。台湾の人たちはシャイですが、情熱的で、とても親切。ちょっと時間が経てば、すぐ打ち解けてなんでも助けてくれる。そういったところをもっと海外の人にも伝えられたらうれしいですね。

−台北の今と今後を、どう感じていますか?

今、一番の問題は政治だと僕は思っています。ここ10数年で、物価や家賃はすさまじく高くなっているのに、国民の収入はまったく上がっていません。この問題をまず先に解決してほしいですね。住む場所がなくなってしまったら、生活の基盤がなくなるということですから……。政治が安定しないので、今後台北がどうなっていくのか全然わからないんです。

僕はレストランを経営しているのですが、自分の店を世界中の人が訪れる有名なレストランにしたいと思っているんです。はやく政治が安定して、いまよりももっと世界中からいろいろな人が足を運んでくれる国になってほしいと願っています。

5.まだまだ発展途上。世界で活躍する企業が増えてほしい

年齢:50代、出身地:台北、職業:専業主婦

−台北の好きなところは?

交通網が発達しているところでしょうか。というのも、近年観光客がものすごく増えたんです。東南アジアをはじめとした、さまざまな言語が聞こえてきて「ここは本当に台湾なのかしら?」と思うこともあります。でも、それによって、本当に便利になりました。助かっています。

−台北の今と今後を、どう感じていますか?

生活も便利になって、技術が発展していることは喜ばしいことですが、今の若者世代が楽してお金を稼ごうとしている姿を見て、疑問を感じています。 東南アジアからの移住労働者が増えていることも原因の一つだとは思いますが、汗水たらしてお金を稼ぐ大変さを、おそらく今の若い人たちはほとんど知らないと思います。そう考えると、台北の将来に不安を感じます。

でも、世界でも活躍する台北の企業がもっと増えていってほしいとも期待しているんです。台北は国際都市のひとつに数えられているそうですが、わたしはまだそうは思いません。まだまだ発展途上で日本のうしろを追いかけている。はやく追いついてほしい。そう思っています。

台北で生きていく

交通インフラの充実や商業施設の増加により、生活の質が上がったという喜び。 将来を担っていく若者や子どもたちの行く末を心配する声。 政治への不安がありながらも、自分たちでなんとかしていこうとする姿勢。 そして、異文化を吸収しながら、新たな文化が生まれる期待。

同じ場所で同じ時間を過ごしてきた5人。 想いはそれぞれだが、ひとつだけ5人全員の口から共通して出てきた言葉があった。

それは、「台北で、これからもずっと生きていきたい」という言葉。

都市が国際化すればするほど、外から入ってきた文化により、海外へ憧れを抱き、将来は海外で暮らしたいと思う人も少なくない。だが、今回出会った5人全員がこれからも生まれ育った台北で生きていきたい、という想いを持っていたのだ。

急速に成長する台北。 それらを冷静に見つめながら、彼らは今日も台北で生きている。変わりゆく台北を少し憂いたり、少し期待もしながら。



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