『浮島ブルーイング タップルーム』が、沖縄・那覇で、ビールを通して“まち”を面白くする理由

那覇の牧志公設市場を過ぎ、市場中央通りと浮島通りに接する水上店舗の階段を3階まで上がっていくと、商店街の喧噪から一変、突如、洗練された店内が現れる。ここは、クラフトビールを醸造する「浮島ブルーイング」の直送店『浮島ブルーイング タップルーム』だ。2018年、春に、ビール製造を開始し、この夏、オープンするやいなや、新しいクラフトビールの誕生を喜ぶ多くの地元客が訪れ、すでに牧志の人気のスポットとなっている。

手がけるのは、まちづくりのコンサルティング会社「APOLLOBREW」の代表を務める由利充翠(ゆりみつあき)さん。「APOLLOBREW」は主に、県内の様々な地域の人々と組んでより良いまちづくりのサポートを行なっている会社で、この日も由利さんは、午前中にまちづくりに関わる仕事を終え、午後から店の準備と、多忙な毎日を過ごしている。これまでに飲食の経験はなかったそうだが、この地域、この町、この市場で、どんなことが起きていたら人はワクワクするのか、「まちづくり」という視点から『浮島ブルーイング タップルーム』を見てみると、この店の可能性が頼もしく浮かび上がってきた。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

自らコンテンツとなって、発信していく側にまわりたいと思った

ーまちづくりの仕事をしている由利さんがビール事業を始めたのはどういういきさつがあったのですか?

由利:もともと僕は、琉球大学で都市計画という分野を専攻していて、建築基準法や都市計画法に基づいて、地域をどうやって“いいまち”に誘導していくかということを学んでいました。そうやって学生の頃から、ずっとこの商店街や沖縄市の商店街に関わり続けてきたんです。まちづくりって、いろんな人が関わってやっていくんですが、自分が取り組んでいく中で、規制と誘導みたいなやり方だけではダメだなと感じていて。

つまり、制度をつくって誰かがそれに合わせるというよりも、「その場でかけ合わせるエネルギーをどうつくっていくか」ということをやらなくてはいけないなと、ずっと思っていたんです。それで、なにかを支援していく側ではなく、自分が中心となって走る側にまわりたい、自分自身がコンテンツとなって発信していこうという気持ちが強くなりました。

ー自分がコンテンツとなることが重要だと考えたのは、なにかきっかけがあったのでしょうか。

由利:事業計画をつくったり、調査をして情報提供しても、それが計画通りに実施されているかどうかわからないという不安があるんです。であれば、自分たちが投資、出資する主体となってやっていけることをやりたいと思いました。あとは単純にビールが好きだった、というのもありますね。

ーそれをやっていこうとして、この場所を選んだのは、なぜだったのですか?

由利:僕は愛知県の出身ですが、大学で沖縄に来て、大学院の頃から浮島通りにずっと住んでいるんで、このへんは、自分にとっては「地元」というイメージ。だから、迷うことはなかったです。

ー所縁がある土地だったのですね。ビールの醸造はどういうふうに学ばれたのでしょうか?

由利:興味を持ち始めたのは3年半前くらいです。最初は書籍やインターネットで調べていて、いろんなつくり方とかいろんな種類があるということを知って。そのうち、自分で直接習いにいきたいと思って、東京や横浜に習いにいきました。

そうやって何回か習っている間に、味を追求していくことに対して興味が湧いてきて、免許をとって事業としてやっていこうと決めました。そこから、いま「浮島ブルーイング」で工場長としてやっているスタッフと、神奈川県の風上麦酒製造所というところで一緒に研修を受けて。

ー醸造所は新しい人を受け入れる態勢があるんですね。

由利:受け入れてくれましたね。クラフトビールをつくられている方って、どなたもレシピを隠したりしないんですよ。他の醸造所を見せていただいたり、技術を教えていただいたり、互いに情報交換しながらやらせてもらっています。

「水上店舗」という建物の魅力や、この町の歴史と文化を感じてほしい

ービール事業を立ち上げたとき、お店をやることも視野に入れていたのですか?

由利:そうですね。だけどこんなに大きなお店をやるつもりはなくて、もっとこじんまりしたところでやろうと思っていたんです。ただ、たまたま物件が面白かったのと、タイミングも合って借りることができて。内装デザインをやってくれた『GARB GOMINGO』の藤田俊次さんと相談しながら、いまのかたちになりました。事業としてうまく回すことも大切ですけど、この場所はもちろん、水上店舗という建物の魅力や、この町の歴史文化が色濃く見えたりする地域なので、それも面白いと思ったんです。

ー水上店舗とはどういう建物なのでしょう?

由利:ここの建物の下には川が流れているので「水上店舗」と言うんです。戦後のどさくさで闇市が行なわれていた頃、川にせり出すかたちで床を張って、その上で商売をしていたそうなんですよ。その後、那覇市が川を暗渠(※河川や水路を地中に埋設すること)にすると言った時に、川の上で商売していた人たちが権利を主張して、川の上にそのまま建物を建てたので、現在のような複雑なかたちになったそうです。辺りの人たちに訊くと、戦後、土地の区画がはっきりしない頃に家を建てて商売を始めた人が多いらしくて。

ーその変遷がいまも残っているんですね。そんな那覇の歴史を感じさせる場所に、新しく地元の人たちが集まる店ができるというのは面白いですね。

由利:話のきっかけにもなりますし、このまちがこれから先どうなっていくかという時に、埋もれている資源をうまく活用していく発想が必要だと思っています。

ーお店の内装は、由利さんはじめ、スタッフの方々でやられたそうですね。

由利:ここはもともと美容学校だった築55年の建物なのですが、大工さんに入ってもらって、まず骨組みをつくってもらいました。壁に使っているレンガは100年以上前のものなんです。そのレンガは最初、土だらけだったので、スタッフみんなで6000個くらい洗って、壁にレンガを貼っていく作業も自分たちでやりました。天井は墨を混ぜた琉球漆喰で塗っています。

ーお店の場所自体がメッセージになるということもありますが、店づくりで心がけたことはありますか?

由利:なるべく県内の作家さんや業者さんと一緒につくりたいと思って進めていきました。ランプシェードや照明器具って通販で買うと安いですけど、県内の作家さんの作品をこの場所で見てもらうことで、それがまた次のお客さんにも繋がっていく。店に関わってもらう人をたくさん増やすことで、多くのお客さんにこのまちのことが広がっていくと思ったんです。

ビールを核として、新しいものに出会える店に

ーショップカードを見させていただくと「ビールを巡る大冒険」というキャッチコピーが書かれていますね。

由利:僕ら自身がビールを巡る冒険をしたかったんです。いままで飲んだことのないビールに出会いたかった。冒険して新しいものに目を向けないとそういう体験はできないですしね。料理もそうですけど、食べたことないものを食べてほしいし、ビールというひとつのテーマのもと、その周辺でも新しい体験やいろんな発見ができるような場所になるといいなと思っています。僕らもビールを核にしながら、いろんなことにチャレンジしているので、それを「冒険」と呼ぼうと。

ー提供されている料理もテーマがあるんですよね。

由利:料理は「沖縄と世界の港町」というテーマで提供しています。沖縄は琉球王国時代、中国やアジアの国具備、それから日本との交易の歴史があって、外交文化が根づいています。また、戦前戦後は、南米やハワイへの移民文化もある。うちのシェフは、アルゼンチン生まれの日系二世なんです。沖縄の歴史文化を感じながら、世界のいろんなところに冒険にいけるような物語を、味を通して感じてもらえたら、という思いも込めています。

ーオープン以来、人気でビールの製造が追いつかないという話も伺いました。ご自身では、この店のなにがお客さんを惹きつけていると思いますか?

由利:そうなんですよね。7月のオープン時は一週間でストックしていたビールがなくなるほどの人気でした。「美味しい」と言ってもらえるのはすごく嬉しいのですが、それに加え地元でつくっているビールというもの自体に、みなさんすごく興味があるみたいなんですよ。僕らのビールづくりを「応援したい」と言ってくださる。それが嬉しいし、僕らもそれに応えていきたいです。

ーまだこの冒険は始まったばかりです。この先、この店をどのような場所に育てていきたいと思っていますか?

由利:ひとつは、仕事終わりにひとりでもふらっと寄ってビールを飲んでもらえる場所にしたいです。うちは22時までなので閉まるのが早いのですが、19時とか20時とかに仕事が終わって1杯だけ飲んで帰るという方もいらっしゃって。そういうふうに気軽に立ち寄れる場所になったらいいなと思っています。

それともうひとつ、ここに来る人たちを繋ぐ場所になりたいんです。ここに来るとよく知り合いに会うという方が多いんですよ。面白いことをやったり発信している方たちって、興味が似ているみたいで。そういう人たちがここで出会って、交流や物語が生まれていく場所になると嬉しいです。

プロフィール
由利 充翠

1978年愛知県出身。琉球大学で都市計画を学んだ後、町づくりのNPO、沖縄市役所で働きながら、商店街や地域の活動に関わる。2015年独立。町づくりのコンサルティング会社「株式会社APPLLO BREW」を立ち上げ、2018年4月にはクラフトビール事業を開始し、「浮島ブルーイング」の製造をスタート。同年7月、『浮島ブルーイング タップルーム』をオープンし、“まちを醸して面白くする”仕事を続けている。



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