今、韓国のリトルプレスが面白い。ソウルのアートブックフェア『UNLIMITED EDITION』とは?

韓国の独立系出版(インディペンデントな小規模出版)を代表するイベントであり、2009年よりスタートしたソウルのアートブックフェア『UNLIMITED EDITION』。9回目となる今年は、2017年12月2日、3日に、ソウル市立北ソウル美術館で開催される。昨年は1万6000人もが訪れたというこのフェアを主催する書店『YOUR MIND』の代表・イロ氏に、今年の見どころや、ソウルのリトルプレス事情について話を伺った。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

リトルプレスは、ただ単純につくってみたいという熱量から生まれる

―まず『UNLIMITED EDITION』は、どのようなイベントなのでしょうか?

イロ:年に1回、主に年末に行われるソウルのアートブックフェアです。独立系出版の作り手から参加者を募り、大きな市場を短期間で開くというのがイベントの趣旨です。新作を発表しても、過去作をパッケージングしても、グッズを作ってもいいし、トークイベントなどをすることもできる。様々な方法で小さな出版社たちの声を最大限大きくした時、どのくらい波及力があるかを見るイベントでもあります。今年は190チームが出店する予定です。

―元々、『UNLIMITED EDITION』を始めることになったきっかけはなんだったのでしょう?

イロ:リトルプレスはだいたい、作家自身が誰なのかを積極的に知らせようとしません。小さくクレジットがあるだけで、本人がどんな意図でつくったのかなど、そういった情報はほとんどないんです。しかし読者はそういった見えない情報にこそ興味があります。なぜ作家はこんな本をわざわざ作るのか、ということ。作家には本を通じて、それでも届けたい想いがあるんですね。そうしたお互いの欲求を解決できるのはこういったブックフェアだと思いついたのが始まりです。

—作家と読者が出会うイベントでもあると。

イロ:作家と読者の間には、作品の売買に関する説明以上の、様々な会話が飛び交います。さらにこの場所では、出版社の人や、編集者、デザイナー、アーティストなど様々な人と出会えるから、イラストを描いてくれと提案したり、逆にこの本に参加したいとアピールしたりもできる。つまりは、作品の供給者/消費者という対立的な関係からは出てこない対話が生まれるんです。毎年、『UNLIMITED EDITION』の会場はとても賑やかで、あちこちでエネルギーが溢れてます。

―逆に訪れるお客さんは、何を求めてくるのでしょうか?

イロ:単に良い本を買って終わりではなく、自分も作り手として参加したい、デザインしてみたいなど、様々な想いが生まれるようです。誰かから依頼を受けたのではなく、本人が熱量を持ってつくりたくてつくった本が、韓国にこんなにあると実感できることは、とても良いことだと思います。重要なのは、こんな話をしたいからただ単純につくってみたということなんです。

ソウルでは独立書店が、どんどん減りながら、どんどん増えていく?

―お客さんはどんな人たちが多いのでしょうか?

イロ:作家のファンが大多数ですね。他にも、単に本が好きだという人もいれば、よくわからないけど面白いらしいからと訪れる人もいて、多彩です。昨年は1万6000人が来場したのですが、この規模になると、私たちも把握できないほどの様々な層の人たちが集まります。

―昔から、それほどの集客があったのでしょうか?

イロ:2014年に漢南洞(ハンナムドン)の『NEMO』で行った6回目から、参加者の幅がぐんと広がったと感じています。それまでは身内の人だけが来ている雰囲気だったのですが。とはいえ、今でも完全に大衆化されたイベントではありません。リトルプレスの持っているある意味で閉鎖的な性格を大切にしているので。よく言われるのが、『UNLIMITED EDITION』という名前だけではどんなイベントなのか分からないということ。それは、私たちの狙いでもあるんです。例えば『アメイジング・ブックフェア』だったらもっと人は来るかもしれませんが(笑)。ポスターも一見するとどんなイベントなのか分からないかもしれない。分からない人は来るなという訳ではないですが、そういう縛りを作ることで常に密度の高いブックフェアにしようと考えています。

―それが毎年拡大しているんですね。第1回目のときは、どのような感じだったのでしょう?

イロ:第1回目は、2009年の冬に『IN THE PAPER』という上水(サンス)にあったギャラリーで行われました。その時は3日間で900人が来訪して以来、規模は少しずつ大きくなっています。2012年の3回目には入場客が少し減りましたが、それ以降はずっと増えていますね。

―出展する作家も増えているわけですよね。

イロ:どんどん増えていますね。今年は600チームから申請があったのですが、事情があって参加できない人たちや、もちろん『UNLIMITED EDITION』が嫌いな人たち、様々な理由で申請しない人もいます。それを考えると韓国には800〜1000くらいのリトルプレスを出すチームがあると思うのですが、近年は本当に増えたと言えます。

―書店もそれだけ多いのでしょうか?

イロ:独立書店(リトルプレスを扱う小規模な書店)も増えたと思いますが、ソウルではお店が本当にたくさん生まれて、そして、なくなります。だから正確に独立書店がいくつあるのか数えることは大変難しいです。

―独立書店が増えたのもここ最近なんですね。

イロ: 本格的に増えだしたのは2年前の2015年です。この2年で爆発的に増えましたね。

2017年『UNLIMITED EDITION』の見どころとは!?

―では、今年の『UNLIMITED EDITION』の特徴はどんな感じでしょうか?

イロ:これまでは、ブックフェアと直接関係のないプログラムも多数行っていたのですが、2年前の第7回目から、主に作家たちの声を本とは別の形で届けようと、トークプログラムを重点的に組んでいます。ライブなどもないわけではないですが、関連性があるものを選びました。また実験的に、ディスプレイも大きく変える予定です。

―今年出店する中で、注目している作家はいますか?

イロ:88年ソウルオリンピックのデザインやシンボルをアーカイブしている「Fax community」というチームや、またアニメで主人公が読んでいる本から題名を読みとり、その本についての情報を集めて本にしている「SUPERSALADSTUFF」というチームが楽しみです。日本から来る、ハンコを用いたスタンプ作家・大嶋奈都子さんの作品も気になりますし、また台湾の「nos:books」という出版社があるのですが、このチームが、小さなテレビで見る本、手のひらに載るほど小さいのに分厚い本など、様々なアプロ―チで実験的な本をつくっているのが面白く、そちらも楽しみにしています。

―イロさんは日本のブックフェアにもたびたび訪れていますよね。

イロ:毎回とても興味深い体験をしています。日本は、ブックフェアの中でうまくイベントが組まれているという印象があって、刺激を受けますね。また、彼らが私たちを招待したり、私たちが彼らを招待したりという交流も続けています。今年も、『TOKYO ART BOOK FAIR 2017』のゲストカントリー枠で、私たちが参加しました。ブースを出して、展示もして。これはとても面白かったです。

―韓国以外のリトルプレスにも触れる機会があると思いますが、海外のシーンについてどう考えますか?

イロ:台湾のリトルプレスのシーンはいま急成長していて、おもしろいという話をあちこちで聞きます。逆に日本や韓国は、安定期に入っているとも言えて、飛び抜けて面白い本はなかなか現れないかもですが、台湾ではそういった本がよく生まれていると聞き、すごい興味深いです。今回の『UNLIMITED EDITION』でも、台湾から数チームがやって来るので、楽しみですね。

―では、他の国と比べて韓国のシーンはどう感じますか?

イロ:私の印象ですが、韓国の作り手たちは孤軍奮闘しながらも、シーンをうまく発展させてきたように思います。多彩な本が生まれる環境ではないのに、こうやって登場しているということは、それぞれの作り手たちが、本をつくりたいという欲求のため、多くの犠牲を払っているということ。時間や労働力や技術をふりしぼって、寝る間を惜しんで作っているわけです。多くの国では、本来の仕事に集中することを良しとする人が多いにも関わらず韓国では、本人がしたい話を何とかして本にしようという動きが、私が期待するよりはるかに面白く広がっているようです。『UNLIMITED EDITION』は、そんな韓国の独立系出版シーンを垣間見れるイベントだと思いますよ。

UNLIMITED EDITION 9 SEOUL ART BOOK FAIR 2017
時間 : 10:00~19:00(入場18:30まで)
住所 : ソウル特別市蘆原区東一路1238(ソウル特別市蘆原区中溪洞508)
会場 : ソウル市立 北ソウル美術館 展示室1~2
主催 : YOUR-MIND
URL : http://unlimited-edition.org/


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