東野祥子(ダンサー・振付家) インタビュー

モダンダンスではタブーとされるような部分に面白さを見出してしまいました(笑)

―まずは東野さんの遍歴からお伺いしていきたいと思います。最初はどんな風にダンスと出会ったのでしょうか?

東野:私は奈良県で育ったんですけど、子供の頃はあまりとりえがなくて。それで母親が私にモダンダンスをやらせてみたんです。だから最初はお稽古事だったんですけど、高校生ぐらいから自分の作品をつくりだすようになっていきました。

―高校生の頃はどんな作品をつくっていたんですか?

東野:舞踊コンクールとかに出ていたんですけど、ノイズとか笑い声とかエレクトロニカとか、そういう音楽をバックに、舞台の上で服を破いたり、口をウワーってあけたり、モダンダンスではタブーとされるような部分に面白さを見出してしまいました(笑)。それを平崎喬子先生、泉克芳先生が止めずに続けさせてくれたのが良かったです。その辺りから、ダンスで自分の表現をつきつめてみたいと思って、本格的にやり始めました。

「E/G」 撮影:Banri

―その後、モダンダンスから一転してクラブなどで踊るような活動を始めたわけですね。

東野:自分で作品をつくり始めると、先生についてモダンダンスをやらされるのが窮屈になってしまったんですよ。それでそこを辞めて、DJの二人組と「ERROR SYSTEM」というユニットを組んでライブハウスやクラブで踊り始めたり、「PRETTY HATE MACHINE」という劇団に参加し始めたんです。

―そしてその後、現在も活発に活動しているBABY-Qを立ち上げたんですよね?

「GEEEEEK」

東野:そうですね。ERROR SYSTEMに限界を感じたり、自分ひとりでできないダンスの表現をやりたいと思って、劇団維新派の女優とかミュージシャンとか変な人たちをあつめて集団をつくったのがBABY-Qです。それが2000年のことで、教会とかお寺とか野外とか、およそダンスが観られるスペースとは違った場所で公演を始めたんです。それで2001年に、大阪のアイホールでやった公演を志賀玲子さんに見てもらって3年間「take a chance projects」<のアーティストとして選んでいただき、色々とサポートして頂けるようになって。

―その時の作品が、「トヨタ コレオグラフィーアワード 2004」の最優秀賞「次代を担う振付家賞」を受賞したわけですね。

東野:『ALARM!』という作品で、初めていわゆる「アワード」に出してみたんです。その受賞から色々な話がつながっていって、2005年の「横浜ソロ×デュオ+」で上演した『Zero Hour』が「群舞部門:未来へ羽ばたく横浜賞」を受賞したり、その後にアメリカ・フランス・シンガポールなどで開催されたフェスティバルに呼んでいただいたりと、現在に至る感じですね。今年はメキシコ、キューバ、韓国に行きます。

「味園」っていう廃墟ビルでダンススタジオを始めたら、色んな人がお店をだすようになった

―東野さんは音楽が面白いと評判ですが、どんな音楽が好きなんですか?

東野:ノイズとかハードコアとか、「ウルサい」ものが好きみたいです(笑)。一番最初に影響を受けたのはやっぱりボアダムス。近いところでライブやっていたので。当時はテクノが流行っていて、よくクラブに行くようになったんです。

―ERROR SYSTEMの頃は、クラブで活動をしていたんですもんね。

「E/G」 撮影:Banri

東野:クラブは好きだし、私にとっては練習場所でもあります。それにクラブって人とつながるんですよ。ただ遊んでいるような場所に見えるけど、いろいろな業界の人がリンクして広がっていく。それがとても刺激的で、そこで幅広く吸収したものが自分の力になるし、ダンスシーンの中に閉じこもらない私の作品の世界観につながっているんだと思います。

―大阪ではお店もやってたんですよね?

東野:「味園」っていう廃墟ビルがあって、2003年ぐらいからそこでダンススタジオとカフェバーを兼用したイベントスペースを始めたんですよ。そしたら色んな人がそのビルでお店を始めるようになって、マッサージ屋とかバーとかクラブとか、すごい盛り上がって、みんなのよりどころになってくれた。そこで大阪のアンダーグランドの人たちとつながっていきました。2年くらいはやってましたね。

―それは本当に面白い場所だったと思うのですが、どうして東野さんは東京に活動拠点を移そうと思ったんですか?

東野:大阪はすごい面白いところだけど、ある程度やりたいことはやってしまったと思ったんです。そんな矢先に東京に移るきっかけがあって、わりと軽いノリで東京に行こうと思いました。

―東京はどうですか?

東野:東京はつながる人もジャンルも多いですね。場所もいっぱいあるしお客さんもいるし、だから選ばないと大変だなあと思いました。メディアも多くて、大阪にはメディアなんてあまりないし、あってもみんな知ってる人だから、大阪にいる頃はもっと「広げたい、見てみたい、知って欲しい」という思いもあって、2005年の3月くらいに東京に移ったんですよ。

―「もっと多くの人に伝えたい」という想いが強かったんですね。

東野:なんせダンスは目の前でやらないと伝わらない部分があるじゃないですか? 映像だけじゃ分からなくて、体験しないと感動できないと思うんです。それって私が行かないといけないと思ったのもあります。

「E/G」 撮影:Banri

―ノイズ音楽や小説など幅の広い活動で知られる中原昌也さんとも活動されていますが、東京で出会われたんですか?

東野:最初は随分前に大阪で、違うミュージシャンと踊っていたところに中原さんがゲストでこられてたんですよ。それから東京で何回かセッションをして、自分の作品『E/G』にも出ていただいただきました。『E/G』は三日間それぞれ別々のミュージシャンとやりたいと思って、灰野敬二さん、中原昌也さん、ニューヨーク在住のカジワラトシオさん。3人とも強烈な個性でバトルみたいだった(笑)。すごい面白かったですよ。

―かなり個性的な面々ですよね(笑)。高校時代からノイズ音楽で踊っていたり、本当に好きなんですね。

東野:ノイズの持つ世界観が踊りやすいんですよね。中原さんには『9(nine)』のために曲を作っていただいたりもして、『9(nine)』は大橋可也さんの振付で私が出演しています。

―昨年『9(nine)』の公演中2007年6月セッションハウスにお怪我をされたらしいですが、もう大丈夫なんですか?

東野:そうそう、その本番中に足を怪我して救急病院に運ばれて手術したんですけど、もう大丈夫です。逆に強くなったんじゃないかなって(笑)。「踊れない」っていう経験もすごいよかったです。歩けない、不自由な身体を認識できました。

自分が面白いと思うところに「ダンスがあればいい」

―大橋可也さんもコンテンポラリー・ダンスをリードする作家の一人ですが、一緒に作業されてみていかがでしたか?

「GEEEEEK」 撮影:Banri

東野:真逆だなと思います。でも、表現する根底にある「表現したいもの」は一緒ですね。私も彼もダンス・シーンからはみ出しているんですけど、その違和感を二人とも感じてるから、「ダンスで何をしたいか」という部分は共有できているんですよね。やっぱり伝えたいものがあって、「ダンスってただ綺麗」ではなく、観た人が自分で考えるようなものをつくりたいと思うんです。だから二人とも「あえて」過剰な部分がありますね。

―その「あえて」みたいに、例えばいわゆる日常性に反発する部分はありますか? 『GEEEEEK』では小さな女性が出演していたりしますが。

東野:そうですね。『GEEEEEK』は人が持っている奇形とか異形をテーマにしています。それは肉体的な話ではなくて、精神的な部分で。でも彼女はものすごいポジティヴで、普通の人よりも生き方がパワフルなんですよ。そういうのが舞台に出ればと思って誘いました。

―Baby-Qというダンス・カンパニーは、他のカンパニーとは違う魅力を感じます。

東野:普通のダンス・カンパニーではないんですよ。みんな最初は素人ばかりなので、ダンスが上手なわけではないんです。でも私は、振付とか構成ではなくて、人自身が生み出すものが好きなんですね。だから、ダンサーそれぞれの人間的な部分を振付として表現したいんです。人間誰もが踊れるんだから、その人に染み込んでるものから生み出せたらいいなって。だからBaby-Qって、舞台とかクラブで私が踊ってるのを観て「ダンスをやりたい!」と思った人が集まって、その中で面白い子達が続けてやってきてるんです。大阪から一緒に東京についてきた、「想いがある人たち」もいてくれます。

―これからどんなことをやっていきたいですか?

東野:気持ちいい作品を作りたいし、国内外で踊るし、クラブでも踊るし、映像作品もつくるし、いろいろなものをつくりたいです。それは別にこれまでと変わりばえしないことだけど、ダンスをもっといろいろなものとリンクさせたいんです。自分が面白いと思うところに「ダンスがあればいい」と思います。

「私はそそられる」 撮影:Yoshikazu Inoue

―これから何か具体的なアイディアもあるんですか?

東野:9月に大阪で『バクトオオサカ'2008』という大きなイベントをやります。Baby-Qだけじゃなくて、DJやバンド、ライブペインティングもあって。そういうイベントの中に、ダンス・パフォーマンスが「ある」、言い換えるなら、もっと日常的にダンスを観る環境をつくるようなことをやっていきたいんです。

―確かに、ダンスはもっと浸透できるものだと思いますね。

東野:日本人ってダンスを観ないですよね。「コンテンポラリー・ダンスって何?」っていう人はいっぱいいますし。ダンスをもっと面白いと思って欲しいから、フットワーク軽く色んなところでダンスを観させていくことが大切。それも、ただパフォーマンスするんじゃなくて、演出された、メッセージがあることをやっていく。「大事に思うこと」とか「価値観」とかを変えていこうとするわけですから。

イベント情報
『第4回日本ロックフェスティバル ~高円寺古着屋殺人事件(仮)~』

2008年7月1日(火)~7月7日(月)
時間:平日 OPEN / START 18:00、土日 OPEN / START 15:30
会場:高円寺 無力無善寺
料金:1,000円(+1ドリンク500円) 通し券3,000円(30枚限定)
※BABY-Qは7月2日(水)に出演
主催:日本ロックフェスティバル

『gene ~連綿とつながる記憶~ / 2nd 薫る風』

2008年7月5日(土)、6日(日)12:00~20:00
会場:六本木ヒルズアリーナ
料金:無料
7月5日出演:
湯澤かよこ、宮良牧子、勝井祐二+迫田悠 with 辻コウスケ
7月6日出演:松田美緒、三枝彩子、GOMA with ラティール・シー、三枝彩子、松田美緒 + 東野祥子(ダンス)

『METAFFECTION!! DANCE FLOOR JAM Vol.3』/dt>

2008年7月13日(日)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:Club asia "P"(asia向かい)
ダンス:辻本知彦、木下奈津子、群青、東野祥子、TATSUO(GLASSHOPPER)、MOCCHIN(D'OAM)
DJ:大嶋俊之
ライブ:妙音鳥(Karavinka)
料金:前売4,000円(1ドリンク) 当日4,500円 (1ドリンク)
主催:ART SYNDICAT(アールサンディカ)

『禁断のセッション Vol.5』

2008年7月29日(火)OPEN 19:30 / START 20:00
会場:UPLINK X
出演:東野祥子(ダンス)、ロカペニス(映像)、谷内一光(ライブペインティング) &ゲスト音楽家
料金:予約2,200円 当日2,500円

『MATAR O NO MATAR』

2008年8月5日(火)、8月6日(水)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:SuperDeluxe
出演:BABY-Q+ROKAPENIS+World's end girlfriend +伊藤篤弘(Optrum)+鈴木ヒラク+中原昌也+Killerbong+kreptomaniac+L?k?O BABY-Q の新作パフォーマンスとミュージシャンの壮大なるコラボレーション
料金:予約3,000円 当日3,500円

『BAKUTO OSAKA 2008』

2008年9月6日(土)22:00~翌5:00
2008年9月7日(土)13:00~23:00
会場:名村造船所 (大阪)

大阪で各シーンを作り上げてきたアンダーグラウンドの様々な顔ぶれが集結し、一夜にして大規模な祭りースペクタクルーフェスティバルを開催!
大阪以外からも世界で活躍するゲストアーティストを迎え、総勢100名以上のミュージシャンやアーティストが参加を予定しています。

ダンスパフォーマンス:
ライブ・DJ:赤犬、ヨルズインザスカイ、オシリペンペンズ、neco眠る、PARA、ウリチパン郡、BOGULTA、DODDODO、PARA、ALTZ、NOBU、HIKARU、ざxこxば、水色ブレイン、SOLMANIA、BUN BUN、1★狂、Green Green、KA4U、Sea of Green DJ crew、CMT、DAMAGE、EERECTIONN、ULTRAFUCKERZ、OVe-NaXx、RED、MASTERPEACE、SUPAHAZE、SOULFIRE、the GULITY C.、ガルペプシ
パフォーマンス:monchi、アミーゴス
映像:ロカペニス

プロフィール
東野祥子

1972年奈良県生まれ。10歳でダンスを始め、現在はダンス・カンパニー「BABY-Q」のコレオグラファー(振付家)、ダンサーとして活躍中。また「煙巻ヨーコ」名義で即興アーティストとのセッションを、クラブ・ライブハウス・ギャラリー・野外等で展開。2004年《TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2004》にて『次代を担う振付家賞』を受賞。2005年《横浜ソロ×デュオ〈Competition〉+》にて群舞部門『未来へ羽ばたく横浜賞』を受賞。



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