蝦名啓太(Discharming man)・吉村秀樹(bloodthirsty butchers) インタビュー

毎月数えきれないほどのCDがリリースされている昨今。「本当にオススメなのはどのCD?」という読者の疑問にお応えするべく、HMVとCINRAが共同で「今月のイチオシ」を大プッシュ! 記念すべき第一回目は間もなくデビューアルバムをリリースするDischarming man。キウイロールのボーカル蛯名啓太のソロ・ユニットとして始動した同バンド、現在はメンバーの一人としてレコーディングからライブまで参加しているbloodthirsty butchersの吉村さんと蝦名さんお二人のインタビューをお届けします。心の底から誰にでもオススメできる素晴らしいバンドです。

蝦名啓太(Discharming man)・吉村秀樹(bloodthirsty butchers) インタビュー

俺が今Discharming manでギターを弾いてるのだって、札幌のバンドだからじゃなくて、日本の宝を見つけたと思っているからさ。

―蝦名さんにとって、吉村さんは札幌の先輩バンドマンですよね。

蝦名:先輩も何も…、10歳違うから、先輩の先輩の先輩くらいですね。俺がライブハウスに行くようになった時にはもうブッチャーズ(bloodthirsty butchers)は札幌にいなかったんですけど、初めて音源を聴いた時、感動したと同時に自分の作った曲みたいだと思いました。おこがましいんですけど。

―共感する部分が大きかったんですか?

蝦名:うん、共感も越えて、本当に自分が曲を作っているようだったんです。泣かせたり、怒ったり、なよかったり、奇麗だったり…、それが全て1曲に入っていて。実際に吉村さんと話をしたのは、それから6年後でしたね。

吉村:知り合いのバンドマンに、キウイロールってバンドが東京に来るから会ってくれと言われて、俺は居酒屋でずっと待ってたんだ。

蝦名:そう、待たせちゃって…。札幌で吉村さんの伝説を色々と聞いていたから、これはもう何回か殺されるんじゃないかと思いましたね(笑)。

吉村:いつの間にか人を殺したことになって、挙げ句の果てにクマまで殺したことになってる(笑)。

蝦名:バイオレンスな話が多かったですから(笑)。でも会ってみたら、厳しい部分はもちろんあるけど、それ以上に寛大な人だった。やっぱりブッチャーズにはすごい影響を受けてるから、ちゃんと接してくれたのが本当に嬉しかったですよ。

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―札幌って、ブッチャーズやイースタン(eastern youth)、怒髪天やDMBQなどなど、パンク魂をもったバンドを沢山輩出していますよね。何か理由があるんでしょうか?

吉村:結果としてそうなっているけど、本人たちはそんなことを気にして活動してたわけじゃないと思うんだよね。俺が今Discharming manでギターを弾いてるのだって、札幌のバンドだからじゃなくて、日本の宝を見つけたと思っているからさ。そう感じてしまったんだよね。

蝦名:「札幌」っぽいというか、吉村さんの影響が強いんだと思いますよ。音楽はもちろんだけど、吉村さんの伝説とか人との付き合い方とか、違う世代の俺にまでフィードバックが来ている。なんか吉村さんを持ち上げてるみたいだけど、これって本当のことだと思うんですよ。

吉村:まあ北海道出身だから北海道でいいんだけど、北海道っぽいっていうのは何? って思うなぁ(笑)。もちろんさ、ギターを弾くときに「雪が降ってたらいいな」ってイメージしながらチャラーンと鳴らしたりはするけど、それくらいのことだよ。

蝦名:だから、こういうバンドたちが出てきているのは理屈じゃないんです。危険なのは、そういうイメージとかサウンドだけを逆輸入しちゃってるバンドで。

くだらないこだわりは全部、吉村さんが無くしてくれたんですよ。

―吉村さんはどうしてDischarming manに参加することになったんですか?

蝦名:Discharming manのライブを観て気に入っていただいて。それでまず、「交換日記をしよう」って言ってくれたんです(笑)。

―交換日記ですか!(笑) 意外なエピソードですね。

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蝦名:歌詞を一行ごとに書き合ったり、曲を一緒に作ったりしたら面白そうってことだったんですけど(笑)。結局交換日記はできなかったけど、シングルを録る際に吉村さんにギターをお願いしたら、快く引き受けてもらえて。それ後ブッチャーズの企画にDischarming manを出してもらった時に、その曲だけ吉村さんにギターを弾いてもらったんですね。そしたらめちゃくちゃ良くて。

―そして今では、全曲を弾いてもらっているわけですね。吉村さんも、蝦名さんにシンパシーを感じる部分があったんですか?

吉村:俺って人の曲は一切覚えないんだけど、エビの曲はスルッと演奏できちゃうんだよね。実際すごくやりやすいから、合ってるんだろうね。

―表現したいものが似ているんですか?

吉村:う~ん。似てる部分は確かにあるよ。

蝦名:あるんだけど、全部同じわけでもないんですよ、当然だけど。

吉村:感情表現的な話になると込み入っちゃうけど、例えばギターだけの話をすると、ギターって指で6本の弦を押さえるでしょ? 実は俺たちの音楽、1本か2本押さえれば済むんだよね(笑)。

蝦名:それは実際、結構重要な部分かもしれない(笑)。楽器に左右されないというか、曲を作るにしても形に左右されずに自分で生み出してるところとか、アプローチの仕方が近いと思いますね。

―とはいえ吉村さんはブッチャーズやソロでの活動もあって、相当忙しそうですね。

吉村:そりゃぁもう、このバンドが好きだから仕方ないんです。このバンドに俺が彩りを加えられるのも嬉しい、それだけだよ。

―それで済んじゃうところが、本当に素敵だなって。

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吉村:もちろん色々なことが複雑に絡み合って一緒にやっているんだろうけど、やっぱりバンドをやるからにはゲストっぽいことは嫌だからさ。

蝦名:Discharming man自体が一つの場所みたいになればいいし、メンバーのみんなが俺を使って遊んで楽しんでくれればいいなって思うんですよ。 自分が音楽をやりやすい状態にしようと思ってソロになったけど、結局やりやすいとかやりたくない、じゃないんですよ。いいライブをしたい、もっとカッコいい曲を作りたいって思ったし、自分は曲を書いて歌うのが役目だって思えるようになった。くだらないこだわりは全部、吉村さんが無くしてくれたんですよ。

吉村:エビが一人になってさ、エビを中心としたユニットがDischarming manだし、エビが何をやろうとDischarming manなんだよね。その軸がちゃんとあって、これまでエビが色んな表現を試してきた。それで、俺が参加したシングルが“360°”っていう曲で、つまり一回転してまたエビがバンドとしての表現になってくるわけ。

―なるほど。キウイロールを解散してソロ活動になって、そしてまたバンド編成へ。「バンド」に対する考え方も、随分変わったんでしょうね。

蝦名:そうですね。キウイロールを解散した時は、複数人で動くのがダメでアレルギーになっちゃったんです。でも今は、歌いたいことを歌えればそれでいいと思うから、やれないことはやらない。信頼できる人たちに周りを固めてもらえたら、それが一番だなって。 やることを限定したのってある意味で挫折でもあったんですけど、やっぱりその方が自分の歌をしっかり歌えるんですよね。その結果として活動の動きが大きくなっているし、これでいいのかなって。多分、一人で背負い込んでいた部分が大きかったのかもしれないですね。

吉村:色んなものが取れていって、広く考えられるようになっていったよね。俺が加わって重くなったらいけないと思っていたけど、巧く調和してやれているからいいことだなぁって思うしな。

人生なんてすぐに終わっちゃうから、踏み切って生きていたいと思うんです。

―背負い込んでいた色々なことを信頼できる人たちに委ねられて、いい循環が生まれているんですね。

蝦名:こうやって話をするのが楽しいし、人にちょっかい出すのが好きだし、結局俺は人のことが好きなんですよね。最初は自分のやりたいことをやる為に始めたけど、今はDischarming manの中でみんなが楽しんで笑って心を動かしている、そういう感じになってきて。もう自分もいなくていいんじゃないかとすら思いますね(笑)。

吉村:そうそう、それが調和なんだよね。だからエビも、この状態を録音しておきたいと思ったんだろうし。

蝦名:本当にそうですね。もうライブ盤でもいいから、この状態のDischarming manを出したいと思って。その結果として今回こうしてスタジオ録音盤を出すことができたけど、既発曲も入っていて、ライブ盤だしベスト盤、みたいな内容になっていますね。

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―もの凄いエネルギーが凝縮されているアルバムになりましたよね。

蝦名:うん(笑)。当たり前だけど、今まで生きてきた中で一番好きなアルバムになったし、音楽を作り出した中学生時代の自分からこれまでの全てがここに詰め込まれていると思います。

―喪失感を歌っているところはあっても、キウイロール時代に比べると、閉じこもらないで外に向かっていますよね。

蝦名:そこは変わったところですね。曲に責任を持ちたいし、投げっぱなしになっちゃうのは嫌で、聴いている人をちゃんとケアしたかったんです。聴き手に対して自分なりの提案はするけど、最終的には背中を押せる歌でありたいと思う。やっぱり聴いている人に楽しんでもらいたいですし。

―「人が好きだから」っていう言葉に象徴されていますよね。

蝦名:人に対して諦めている部分もあるんだけど、それでも「ちょっとさ!」って思っちゃうところもあって。

―全て分かり合えるなんてことは確かにあり得ないですけど、それでも信じていられたらいいですもんね。

蝦名:そうなんですよね。

吉村:それは芸術にとってひとつの特権でもあるよね。色んな表現ができるしね。

―ブッチャーズの音楽にも、そういう姿勢がありますよね。

蝦名:間違いなくありますね。

吉村:どん詰まりな音ばっかりだよ、俺は(笑)。

蝦名:そんなことないですよ!(笑) 元気づけられるし、泣けるし。

吉村:音楽っていうのは、歌詞だけじゃないし、音だけでもないから。俺のそういう音を含めてバンドだからね。

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―蝦名さんのライブを観てると、歌わなきゃ生きていけない、みたいな感じもありますよね。

蝦名:あの、そんな人間最低ですよね。

一同:(笑)

蝦名:いや多分、歌ってなければ他の事を見つけていると思うんですけど。でも逆に、「みんな大丈夫かな?」って思う時があるんですよ。俺なんかすごく楽しいし日々気持ちを出せているから、日常のストレスが何にもないんです。

―みんな何かしら我慢してたりしますからね…。蝦名さんがそういう生き方をするのはやっぱり難しいですか?

蝦名:うーん。多分出来るんでしょうけど、避けてるし、したくないし。人生なんてすぐに終わっちゃうから、踏み切って生きていたいと思うんです。子供みたいな話だし、大きなリスクもつきまといますよ。だけど、それゆえに出てくるものがあると思うし、そうやって生きている人じゃないと出せないものってあると思う。どっちがエラいってわけじゃなくて。

吉村:音にね、そういうのが強調されて出てくるよね。広がりがあるし。ぼくは42歳で、まあ不安だらけですけど?(笑)、でもね、この歳になって新しいバンドでギターを弾けるなんてことがあって面白いし、俺のギターが役立つところが他にもあったんだ! って感じで(笑)。そういうのがスゲー楽しいわけ。

今の音楽聴いてたら、「本当に大丈夫かな?」って思うよ。腹立つよ、実際に。怒りがデカイかもね。それが自分のパワーになってるかな。

―吉村さん、素敵すぎるなぁ(笑)。

吉村:もともと俺ね、ブッチャーズでは他に歌う人がいなかったら歌っていて(笑)。本当はギターを弾いているのが幸せで、さらに言うと、コードだけ弾いてればいいんだ。チャリン チャリン チャリーンってね。ファズで歪ませてブバーっていう感じじゃなくて。これ、本音。ブッチャーズでは我慢できなくなってファズを踏んじゃうけど、Discharming manでは本当に好きなことだけやらせてもらっていて、スタイルは変わらないけど、もう一つの自分に出会ったりするよね。

蝦名:吉村さんって、アコギが素晴らしいんですよ。多分そういうところの凄さが、Discharming manでは出ているんでしょうね。

―コードを弾くだけでいいっていうのは、どういう楽しみ方なんですか?

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吉村:Gコードが好きだな~。Eコードが好きだな~。Fコードが好きだな~って楽しみながら(笑)。同じコードでも鳴らし方にこだわりがあってさ。

蝦名:この間も打ち上げで、Gコードについて3時間以上講義してましたからね(笑)。その後、解放弦の鳴らし方で1時間(笑)。

吉村:ギターなんて、結局押さえなくていいんだってね(笑)。

―すごいですね(笑)。これは難しい質問かもしれませんが、蝦名さんはどんな喜びをもって音楽活動を続けていますか?

蝦名:俺はまだ若いからかもしれないけど、捨て身な部分があって、自分がどうなってもいいと思っているんですよ。だから、自分を使って実験している感じなんです。実験して失敗するかもしれないし、ただ何にも起こらないだけかもしれないし。

吉村:最後は真っ黒になるかもしれないし、真っ白になるかもしれないし。

蝦名:そうそう。でも、やらないと何にも起こらないから。「やらない」っていう選択肢も自分の中にはあるのかもしれないし、決して「やるしかない」と思っているわけではないんですよ。ただ「やろう」と思っているだけで。

吉村:だから「走る」じゃなくて「歩く」でもいいしね。あとは自分の中での価値でしかないよね。

蝦名:そうですね。だからやっぱり「やってみる」ってことは重要なんじゃないですかね。俺よりもすごい曲を書いたり、歌を歌える人なんていっぱいいるかもしれないけど、その人たちがやらなかったらそれは出来ないわけで。物申すわけではないけど、やってない人は多いのかなって思います。バンドをやるとかいう物理的なことではなくて、姿勢としてね。だから「みんな大丈夫かな?」と思っちゃう時があるんですよ。

吉村:今の音楽聴いてたら、「本当に大丈夫かな?」って思うよ。腹立つよ、実際に。怒りがデカイかもね。それが自分のパワーになってるかな。

蝦名:それはあります。世直しじゃないですけど、そういう想いをもっているのも音楽をやる理由の一つにはなっていますよね。

―その意味で今作は、誰が聴いても楽しめる内容になっていますね。

蝦名:本当に、子供からおじいちゃんまで聴いてもらえる作品がやっと作れて嬉しいんです。大衆性っていうか。

吉村:あとはもう、北海道っていう距離的なリスクを乗り越えてどんどんライブをするしかないよね。

―今後の活躍が本当に楽しみです。

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吉村:新しい作品を作って、とにかくライブをやって。出会いと共鳴でこういうことになったわけだから、やらないともう仕方ないでしょ。俺はブッチャーズとDischarming manでの活動がバッティングせずにうまくやれてて、ブッチャーズは混沌が売りなんだけど、Discharming manでチャランチャランって弾いてると、気分良くブッチャーズに帰れるんだよね。たとえ二つのバンドがバッティングするようなことが起きたら、一緒にやっちゃえって感じだしさ(笑)。もうそれでいいんだよね。それ以上は何にも考えない。いい奴らといい音楽をできるっていうのは、共鳴できるっていうのは、どんどん前に出していかないといけないことだから。

―吉村さんとしてもいい循環になっているんですね。1月20日のブッチャーズとDischarming manの2マンライブも、大変でしょうけど本当に楽しみにしています。

蝦名啓太(Discharming man)・吉村秀樹(bloodthirsty butchers) インタビュー

リリース情報
Discharming man
『dis is the oar of me』

2009年1月21日発売
価格:2,800円(税込)
TRCP-48 Traffic/5B Records

1. 因果結合666
2. 逃飛行
3. 怯えた剣
4. THE END
5. スロゥ
6. 360°
7. 不思議な船
8. 消してみな
9. 消してみな
10. プラスティックマン
11. だいなしにしちゃった

プロフィール
Discharming man (ディスチャーミングマン)

札幌を中心に活動を開始し、2004年12月に札幌で行われたライブを最後に解散したバンド「キウイロール(KIWIROLL)」のボーカル蛯名啓太のソロ・ユニット。2009年1月21日にはデビュー・アルバム『dis is the oar of me』をリリースすることが決定。札幌の先輩バンドでもあるBloodthirsty Butchersの吉村秀樹がプロデュースを務めるほか、ライブメンバーとしてバンドに参加している。

吉村秀樹 (bloodthirsty butchers)

1967年生まれ。言わずと知れたbloodthirsty butchersのリーダーであり、Guitar&Vovalである。吉村秀樹の奏でるギター、詞の世界は、多くの人々の心を動かしている。それは、ジャンル、年齢、国境を超えたミュージシャンからも絶賛される事からも実証できる。最近では、バンド以外にも吉村秀樹ソロとしてライブで弾き語りを行っている。ソロでも、ブッチャーズの世界へと引き込まれると好評である。2008年からDischarming manのギタリストとしても活動している。



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