綾瀬はるか主演『おっぱいバレー』監督 羽住英一郎インタビュー

男だとか女だとか、イヤらしいとかイヤらしくないとか、そういうことを考える前にピクっときてしまうから、この『おっぱいバレー』というタイトルはズルい。男性諸君の妄想はもはや、映画作品一つで支えきれないほどに膨らむわけだけど、観た後に不思議と裏切られた気がしない。主演の綾瀬はるかとダメダメ中学生と「誰にとってもエバーグリーンな世界」を描いた羽住英一郎監督。これまでも『海猿』や『銀色のシーズン』など多くのヒット作を手掛けてきた監督に、今作への思い入れと、ご自身のエンターテインメント観を伺った。

あいさつに全部「おっぱい」をつけるルールにしたんです。

―今回、羽住監督ご自身がプロデューサーに「絶対自分が撮る!」という熱い想いを伝えてスタートしたと伺いました。

羽住:まず、このタイトルにすごく惹かれました(笑)。それで、原作を読む前にあらすじを聞いたんです。徹底的にダメな中学生たちが、新しくバレー部の顧問になった女性新任教師と「試合に勝ったら先生のおっぱいを見せてくれる」というとんでもない約束をとりつけて、俄然がんばり始めるっていうストーリー。すごくシンプルで面白そうだし、きっと笑えて、色んな逆境もあって感動できるんだろうな、っていうイメージができたんです。

―映画をつくる時に、最終的な形がイメージできるかできないか、っていうのは大きいのですか?

羽住:そうですね、最終的にどういうパッケージにできて、お客さんがどういう気持ちで劇場を後にするかっていうのを、しっかりイメージしてつくっています。もちろんそれだけじゃなく、今の世の中にその作品をつくる必要があるのか、っていうことも大事です。いくらヒットする映画だとしても、つくる意義がないと、なかなかモチベーションが上がりません。映画をつくるって、本当にたくさんの人手と時間が必要ですから。

―次にキャスティングについてお伺いします。この「おっぱい先生」を誰にするかっていうのは、かなり大事なところだったと思いますが、綾瀬はるかさんが抜擢された経緯をお聞かせください。

綾瀬はるか主演『おっぱいバレー』監督 羽住英一郎インタビュー

羽住:そうですね、美香子先生役は、キャスティングで一番肝の部分でした。まずこの先生役の前提として、女性に嫌われてはいけないんです。女性が敬遠して、男性だけが下心で観に来るような映画にしちゃっては意味がありませんから。つまり、「おっぱいを見せる約束をする先生」っていうのは、下手をすると女性の反感を買うわけですよね。その時に女性から見てもイヤらしくなくて、健康的でさわやかなイメージを持っている人、それで綾瀬はるかさんがぴったりだと。満場一致でした。

―やっぱりご本人も、最初は抵抗がおありだったんですかね。

羽住:最初にタイトルを見た時は、ちょっと不安になったらしいです(笑)。でも、原作と脚本を読んでもらって、イヤらしい話ではないというのがすぐにわかって安心した、って言ってましたね。それから、その時綾瀬さんは美香子先生と同じ23歳だったんです。色んな悩みを抱えながら頑張る美香子を、等身大の自分で演じられるかもしれない、ということでオファーに応えてくれました。

―子供たちも、見事にエッチな中学生を演じていました(笑)。

羽住:子供たちはオーディションで選びました。基準は、いかにダメオーラが出ているか(笑)。芝居が上手いとか、運動神経がいいとかっていうのは気にせずに、そこにいるだけで「ダメだな、コイツら」って思わせるような子供を選びましたね(笑)。

―それは、なかなか撮影が難しそうですね…

綾瀬はるか主演『おっぱいバレー』監督 羽住英一郎インタビュー

羽住:さすがに撮影を始めた時はこれで映画として成立するかな、っていう不安もありましたね。でも、綾瀬さんや子供たち、みんなで合宿しながら撮影をしていく中で、生徒と先生の関係っていうのが出て来て、自然な雰囲気で進めることができました。

―撮影中に工夫したことはありましたか?

羽住:思春期の子供たちは、芝居とは言え綾瀬さんを目の前にして、おまけに大勢の大人に囲まれたところでエッチな話しをするっていうのは、恥ずかしんですよね。でも、こちらとしては、せっかくダメオーラを出してる彼らを選んだわけですから、そのダメダメっぷりを炸裂させてほしい(笑)。「おっぱい」と言う度に照れられては困るんですね。

―普通は大人でも照れますけどね(笑)。

羽住:そうなんです。だから、「おっぱいはチャオと同じだ」って言って、あいさつに全部「おっぱい」をつけるルールにしたんです。「おはようおっぱい!」とか「おつかれおっぱい!」とか(笑)。キャストだけじゃなく、スタッフも全員、もちろん綾瀬さんにも…。そうしたら、彼らも恥ずかしくなくなったようで、いい雰囲気の中で撮影することができましたね。

友達からエッチな写メールをもらうのと、神社の裏でエッチな本を見つけるのとでは、そんなに変わりがないんじゃないかな、って(笑)。

―撮影は北九州だったんですよね?

羽住:原作設定は静岡で、時代設定も現代なんですが、映画では30年前の1979年という設定にしました。それで、当時の街並があるところを色々探しているうちに、北九州にたどり着いたんです。

―そもそも時代設定を30年前の1979年にされた理由はなぜだったんでしょう?

羽住:まず「おっぱい見たさにがんばるダメダメ中学生」という設定が、今の中学生にすると、少し感覚がずれてしまうんじゃないかと思ったんです。インターネットがあるから、色々な画像がすぐに見れてしまうわけです。そうすると、おっぱいを見たいが「パソコンの画面じゃなくて、生のおっぱいが見たい」っていうことになる。それを実写化しようとすると、本気でイヤらしくなってしまいますよね。そうではなくて、思春期の男の子達の純粋な気持ちを表現したかった。それで、情報がまだ溢れていなかった30年前の1979年という設定にしたんです。

綾瀬はるか主演『おっぱいバレー』監督 羽住英一郎インタビュー

―なるほど、たしかに現代にすると面倒な問題が色々ありそうです。

羽住:先生と生徒の関係はもちろん、モンスターペアレンツや、学校側の問題とか、シビアになってしまう部分がたくさんありますよね。現代の設定で始めると、こういう問題を取り上げずには話しを進められなくなります。そういう学校教育の問題を描くのであれば、また別の作品で表現すれば良い訳で、今回はそれが目的ではありませんでしたので、よりシンプルにするために30年前にしました。

―ちょっと映画から話しがそれてしまいますが、監督がおっしゃる通り、今の子供たちの環境って、インターネットの普及もあって、すべてがオープンですよね。それを受けて、ぼくたち昔の人間は、「昔は見られないから良かった」というようなことを言うわけです。最近では、アダルトサイトにアクセスできないような規制をかける動きもあるわけですが、監督はどのようにお考えですか?

綾瀬はるか主演『おっぱいバレー』監督 羽住英一郎インタビュー

羽住:今回はオーディションで子供役を選んだので、ものすごい数の中学生に会ったんです。普通はセリフを読ませて決めたりするんですが、先ほどもお話しした通り、「ダメオーラをだしているヤツら」を選ぶオーディションだったので、ほとんど下ネタトークでのオーディションでした(笑)。もちろん中学生だから友達同士ではそういう話しを絶対しているんでしょうけど、やっぱり相手が大人だから、最初は恥ずかしがっているわけなんです。でも、だんだん打ち解けてきて、「エッチな本とかどこに隠してるの?」とか「ベッドの下はすぐ見つかるよ」なんて言ってましたね(笑)。

―それは楽しいオーディションですね(笑)。

羽住:話しを聞いていると、たしかに今の子供たちは情報が溢れているんです。でも、よく考えてみれば、ツールが変わっているだけなんですよ。「友達からエッチな写真がついたメールをもらったりしました。」とか言っているんですけど(笑)、それって神社の裏でエッチな本を見つけるのと、そんなに変わりがないんじゃないかな、って(笑)。他にも、ぼくらの頃は友達と広辞苑でエッチな単語をひいて喜んでいたわけですが、子供たちに聞くと「ぼくらもやってますよ、電子辞書で」って(笑)。だからツールが変わっても、人間は変わっていないんですよね。そういう意味では今回子供たちとふれあってみて、無理に規制しなくてもいいんじゃないかな、って思うようになりました。

―なるほど、そういう意味では今も昔も変わらないんですね。

羽住:この映画の時代設定を30年前に設定したと言いましたけど、それで「昔の日本は良かったよな」って言いたいわけじゃないんです。環境が少し違うだけで、どの時代にもそこで生きている人間自体は変わらなくて、みんな同じなんだっていうことを伝えたかったんです。

エンターテインメントって感情を動かすことなんです。

―最近日本映画の調子がすごく良いですが、そこには、先ほど監督がおっしゃっていた「シンプル」っていうのがとても重要な要素であるような気がしています。

羽住:現在の日本映画がどういう状況なのかは分析しきれていませんが、やっぱりこの「おっぱいバレー」はシンプルにしたいっていうのがありました。原作を読んだ時に、プロットがとても優れているストーリーだったので、そこにあまり余計なものを入れたくないな、って思ったんです。

何と言っても、ずっと「おっぱい」なんですよ(笑)。普通の映画だったら、最初はおっぱいが目的だったのに、最終的には「あいつらには負けたくねぇ」って本気でがんばったり、途中で仲間が脱落して友情が芽生えたりとか、目的が変わるはずなんですよね。それこそが成長だし、それこそがドラマなわけですよ。だけど、彼らは最後までおっぱいなんです(笑)。おっぱいを見たいと言うことは最後まで全くブレないんですけど、なぜか見ている方が一瞬感動してしまうっていう。

―「感動」っていうのも映画としては大事なポイントかと思います。この他にも監督は『銀色のシーズン』や『海猿』などのヒット作も手がけていらっしゃいますが、どれも見事に泣かされてしまいました(笑)。

羽住:ぼくが映画をつくる時に一番大事にしているのが、感情を動かすっていうことなんです。その感情は、笑うでも泣くでも、ハラハラするでもワクワクするでも、どんな感情でもいいんです。感情が揺さぶられることが映画の醍醐味だと思います。もちろんそれはいい話しに限ったことではなく、後味が悪いならそれでもいいんです。ものすごくシリアスな映画を見て、深刻な問題をつきつけられて、暗くなって帰るっていうのもアリだと思います。エンターテインメントって感情を動かすことなんです。せっかく劇場に来てもらって「何もなかった」っていう映画にはしたくないんです。

―感情を揺さぶられた後に、お客さんに持ち帰ってもらいこと、残したいことっていうのもあるんでしょうか?

羽住:もちろん「いい映画だったな」っていうのは必要ですよね。他にも、たとえば『銀色のシーズン』であれば、自分があきらめてやりかけだったことを、もう一回がんばってみようかって思ってもらえたらいいなっていう想いがありました。

綾瀬はるか主演『おっぱいバレー』監督 羽住英一郎インタビュー

―羽住監督は映画だけでなく、数々のヒットドラマも手がけていらっしゃいます。映画とドラマで、つくる時の違いはあるんでしょうか?

羽住:実際のつくり方の違いはありますよ。ドラマは制作期間が短い。撮影の時間自体は映画とあまり変わりませんが、その前の準備と撮影した後の時間のかけ方が、映画の方が沢山の時間をかけますね。そういう手順の違いはありますが、その先に楽しみにしている人がいて、その人を楽しませるっていう意味では変わりません。

―お仕事をされていて、「やってて良かった」って思う瞬間はどんな時ですか?

羽住:それはやっぱり、劇場で映画を観てくれた人が満足気な表情を見せてくれた時ですね。これはもう最高のやりがいを感じます。

―では最後に、映画「おっぱいバレー」の公開が迫っていますので、読者へメッセージをお願いします。

羽住:やっぱり『おっぱいバレー』っていうタイトルに抵抗がある方がまだまだいらっしゃると思うんです。でもこの映画はどんな方でも楽しめるものになっています。美香子先生と同年代の女性であれば彼女が持っている悩みを共有できるでしょうし、「男の子ってこんなことばっかり考えてるんだ、可愛いね」とか、男子学生だったら自分のことかのように感じられることが多いと思います。また、ぼくのようなアラフォー世代は、まさにこの時代設定がどんぴしゃです。当時の音楽で構成されていますし、懐かしがってもらいたいですね。是非ハードルを飛び越えて、誰にとってもエバーグリーンな『おっぱいバレー』の世界を楽しんでいただければと思います。

作品情報
『おっぱいバレー』

2009年4月18日 全国ロードショー

監督:羽住英一郎
脚本:岡田惠和
原作:水野宗徳『おっぱいバレー』(リンダパブリッシャーズ)

キャスト:
綾瀬はるか
青木崇高
仲村トオル
ほか

共同配給:ワーナー・ブラザース映画、東映
製作:日本テレビ放送網、エイベックス・エンタテインメント、ROBOT、ワーナー・ブラザース映画

プロフィール
羽住英一郎

1967年3月29日生まれ・千葉県出身。数々のTVドラマの演出を手掛け、04年『海猿』で映画監督デビュー。その後も『逆境ナイン』(05年)、『LIMIT OF LOVE 海猿』(06年)、『銀色のシーズン』(08年)などヒット作を次々と手掛ける。ROBOT所属。



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