『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』 牧野耕一監督×片山 勇インタビュー

たぶん、男なら誰もが憧れと嫉妬が混ざった感情を抱くのではないだろうか。この映画の主役、イサム・カタヤマは自然体でかっこいい。言葉に深さを持たせる独特の声。革ジャンを着て海外の街を颯爽と歩く姿。たくさんの仲間に囲まれて笑う様子からは、その人望の厚さがうかがえる。

レザーブランド「BACKLASH」のオーナー兼デザイナーである、片山勇氏のドキュメンタリー映画『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』の公開に伴い、主演の片山勇氏と、本作の監督・構成・撮影・編集・共同プロデュースを一手に引き受けた牧野耕一氏にインタビューを敢行。撮影に至った経緯やこの映画に込められた想いなどをお伺いした。これまでメディアに出ることのなかった片山勇氏とは一体どういう方なのか? 革に対する熱いトークから、笑みがこぼれるプライベートトークまで、気さくに語っていただいた。
※一部ネタバレが含まれますのでご注意ください

自分の全てが、彼の映像でどんな風に映し出されるのか楽しみだった

―かっこよくて、本当にこんな方が存在するのだろうかと思いました。映画を見た後に、実際にお会いするのはとても緊張します。

片山:そうですか?(笑)

牧野:怖いですから気をつけてください。アニキ、今日は刃物持っていないですか?

片山:ないない(笑)。

イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』 牧野耕一監督×片山 勇インタビュー
牧野耕一

―ほんとに仲がよろしいですね(笑)。 まずは、本作の制作に至ったきっかけを教えてください。

牧野:片山さんとは、10年来のおつきあいになります。ファッション業界で裏原系などのグループ分けがあるんですが、片山さんは、そのなかのグループの実質的なリーダーなんです。

これまで片山さんは、デザイナーやミュージシャンや、工場など本当に数多くの人を精神的にも金銭的にもサポートしてきました。人に対して、惜しみなくお金も時間もかける。こんな方を撮ってスターにして、たくさんの方々に紹介したいと思ったんです。

―とはいえ、片山さんはこれまでメディアに出ることを避けていらっしゃったんですよね?

『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』 牧野耕一監督×片山 勇インタビュー

片山:これまでメディアに出なかったのは、イメージを限定されるのが嫌だったからです。どうしても見た目だけで、「バイカー系で怖い、不良っぽい」というイメージを持つ人がいますから。

牧野:片山さんはずっと出たくないって言ってました。それが、ある日一緒にお酒を飲みに行って、だいぶ酔っぱらった頃を見計らって映画を撮りたいって言ったんですよ。そうしたら、条件を出されて・・・。

片山:ドキュメンタリーを撮るのなら、1年間、一緒に暮らしながら撮影するのが条件。

牧野:それが出来なければ、映画はなし。1年間ずっと一緒ですよ?

片山:結局、1年半になったけどね(笑)。これまで牧野監督は、東京スカパラダイスオーケストラの映画を何本か撮っています。スカパラのメンバーは、自分の友人でもあるんですが、その映画を観て、改めてかっこいいなと思ったりして(笑)。彼の映像は色彩も音楽もよくて、すごくセンスのいい映像だと感動しました。今回の映画は、自分自身のドキュメント。自分の全てが彼の映像でどんな風に映し出されるのか楽しみだったんです。

人の気持ちが動く仕事をやっている以上、絶対に手を抜けない

―映画に片山さんの色々な表情が映し出されているのは、お二人の信頼関係があったからこそなんですね! けれど、四六時中カメラを向けられていかがでしたか?

イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』 牧野耕一監督×片山 勇インタビュー
片山 勇

片山:こんな経験は初めてなので、最初は撮影されることに慣れませんでした。でも、撮影が全部終わって観てみると、撮られていたことを覚えていないシーンがいくつかあったんです。

例えば、僕が泣いているシーンがあるんですが、その時に撮られていた記憶がないんですよ。こんな自分の姿は恥ずかしいんだけど、映画にとっては重要な一部になっていて、これには牧野監督の技量を感じました。

―牧野監督の印象に残っているシーンは?

牧野:僕が個人的に好きなシーンは、片山さんが突然、「一番嫌いなのは、自分のことばっかり考えてるやつ。そいつ、終わるよ」って言うところ。あの時、かなりドッキリしましたよ。いきなり恐い顔して、なんで突然そんなこと言い出すんだって! 一体、今誰のことを思い出したのかと思いました(笑)。

一同:笑

片山:この映画には、家族でも知らない一面が描かれているんじゃないかな。友達にもよく「片山さんってこんな弱いところがあるんだ」って驚かれたりしますよ。泣いてかっこ悪いのも、一生懸命になっているのも自分。強さや弱さも全て写されていて、正にこの映画はドキュメントになっています。

―確かに、全てを隠さず映し出されているから、観る人にも感慨深いものがあると思います。

牧野:片山さんは、とても大切なメッセージを発していると思います。恥を恐れず、素直になれ、と。恥をかくのを避けて通っている人や失敗した時に素直に謝ることのできない人がいますが、片山さんは絶対そういうスタイルは許さない人です。正直、僕も一緒にいてそれが怖く感じたこともあります。

『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』 牧野耕一監督×片山 勇インタビュー

―「BACKLASH」は、その高い技術とデザイン性によって、海外のバイヤーだけでなく、たくさんのミュージシャンやアーティストから絶大な人気を誇っていますね。

片山:海外に行けば、BACKLASHは無名ブランドになります。それでも評価して買ってくれるのは、僕たちが本当に製品を愛して気持ちを込めて作っていることが伝わっているからだと思います。言葉が通じなくても伝わるものがあるんだと感じています。

牧野:僕もそうなんですが、片山さんも、それが10万円の仕事であろうと100万円の仕事であろうと絶対手を抜けないですよね。

片山:商品を欲しいと思ったり、映画を見て感動したり。そこでは人の気持ちが動いています。人の気持ちを動かす仕事をやっている以上、絶対に手を抜けないですよね。僕は革に対して、常に真剣に、妥協せず、よりよくするために手をかけます。だからこそ、この仕事で人の気持ちが動いたらすごく嬉しいし、動かなかったら、自分自身まだまだだなと思います。

革で生きると決めてこれまでやってきて、これからも革で生きて行く。

―そのストイックさが、片山さんご自身はもちろん、BACKLASHに人々が惹かれる理由だと思います。 1着が完成するまでにどれくらいの期間をかけられるんですか?

片山:デザインから完成まで約3ヶ月くらいですかね。

牧野:国内でも販売しているのなら日本人の購買時期に合わせるべきなのに、片山さんは春夏ものと秋冬ものの年2回の制作しかやりません。普通はこんなやり方をしていたら絶対ブランドも潰れるし、飯だって食べていけないと思います。言わば奇跡の人ですよ。

―きっと、ビジネスマンとしてのセンスもお持ちなんですね。

牧野:そうなんです。片山さんがすごいのは、経営者としても尊敬できるところなんです。BACKLASHのスタッフにも毎月のお給料だけではなく、一人一人が将来独立できるように積み立ててあげているんです。人を繋いで、人を育てて・・・。結局、片山さんは人を幸せにすることでしか自分自身も生きていけない。

『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』 牧野耕一監督×片山 勇インタビュー

―確かに、人との繋がりは大きいですね。映画を観て、片山さんは人を本当に大切にされる方だと感じました。

片山:家族も、スタッフも仲間もいるからこそ、そのお陰で今自分が革と向き合って仕事が出来ると思っています。

―なるほど。お家を1歩出れば、優しいお父さんから「イサム・カタヤマ」に変わるそうですが・・・。

片山:どうなんでしょうか、目つきが違うんですかね? それは自分ではわかんないですけどね。家に帰ると普通の親父なんです(笑)。

牧野:片山さんは、こんなにストイックな生き方をしているのに、生活はいたって普通。レザーブランドのデザイナーって、高級車に乗っていて家も豪華だと思うでしょ? 実際は車も普通だし、家のソファだって合皮ですよ。世界で売れてるレザーブランドのデザイナーなのに!

片山:合皮(笑)。

牧野:ある日、夜に片山さんの家に行ったら、片山さんは部屋着でソファに座りながらぼーっとテレビを見てて。その姿は確かに普通の親父ですよ(笑)。

一同:笑

―そのギャップも片山さんの魅力でしょうね(笑)。 この映画を観て、片山さんの人に対する想いだったり、妥協を許さないクリエイティブな姿勢に反応する方は多いのではないでしょうか。

片山:僕は革で生きると決めてこれまでやってきて、これからも革で生きて行く。今自分がどこに向かえばいいのか迷っている人、そもそも自分が何が好きなのか、何をしたいかも分からない人がいると思います。

そんな人がこの映画を観ることで、自分の好きなことを見つけることができたらいいなと思います。勇気が出るというより元気がもらえる映画ではないでしょうか。映画を観て、元気になってください!

イベント情報
『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』

2009年7月25日(土)よりシネマライズ、8月8日(土)よりライズXにてロードショー

監督・構成・撮影・編集:牧野耕一
製作総指揮:片山勇、牧野耕一

キャスト:
片山勇
THE ANONYMOUS
谷中敦(東京スカパラダイスオーケストラ)
GAMO(東京スカパラダイスオーケストラ)
田中知之(FANTASTIC PLASTIC MACHINE)
熊谷和幸(ATTACHMENT)
濱中三朗(roar)
高原啓(Roen)

配給:トルネード・フィルム

プロフィール
片山勇

1965年広島生まれ。レザーブランド「BACKLASH」主宰。手染めや複雑な加工を施されたレザーウェアは芸術品とも言われ、MADE IN JAPANのレザーとして、世界各地の一流ショップのバイヤーたちから注目されている。デイビッド・ベッカムやOasisのリアム・ギャラガーも片山ブランドを身にまとう1人。数多くのアーティストやミュージシャンたちの熱烈な支持を集める、伝説のカリスマ・デザイナー。

牧野耕一

1973年岐阜県生まれ。日本芸術学部映画学科に入学し、映画の世界を目指すようになる。東京スカパラダイスオーケストラを撮った『CATCH THE RAINBOW~東京スカパラダイスオーケストラ ヨーロッパツアー ロードムービー』(2004)で映画シーンに名乗りを挙げる。音楽と色彩、唯一無比なカットラインによって作り出される映像は観る人を虜にし、今後の映画界に確実な足跡を残す1人だと言われている。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Movie,Drama
  • 『イサム・カタヤマ=アルチザナル・ライフ』 牧野耕一監督×片山 勇インタビュー

Special Feature

メタ・サピエンス──デジタルとリアルが溶け合う世界を探究する

デジタルとリアルが融合する世界。世界はどう変化し、人々はどう進化するのだろうか?私たちはその進化した存在を「メタ・サピエンス」と名づけ、「Humanity - 人類の進化」「Life - 生活・文化の進化」「Society - 社会基盤の進化」の3つの視点からメタ・サピエンスの行動原理を探究していく。

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて