『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー

細田守監督による劇場公開アニメーション作品『サマーウォーズ』(2009年)が、平成21年度(第13回)文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞した。前作の『時をかける少女』(2006年)が国内外で高く評価された監督が産み出したのは、意外な組み合わせのアクション・アニメーション。ネットの仮想空間「OZ」に現れた悪漢のサイバー攻撃で現実世界のシステムが狂わされ、破滅へと向かっていく事態を、長野県の由緒ある一家と数学が得意な少年、そしてネットのユーザーが協力して立ち向かう壮大な物語だ。今回、この人気作に込められたテーマや、文化庁メディア芸術祭独特の面白さなどについてじっくりとお聞きすることができた。なお、2月3日(水)より行われる文化庁メディア芸術祭では、細田監督も登壇する受賞者シンポジウムや、『サマーウォーズ』の上映もある。インタビューの末尾に詳細情報を掲載したので、こちらもぜひチェックしてみてほしい。

(インタビュー・テキスト:田中みずき 撮影:小林宏彰)

世界映画史上初? 親戚による「アクション映画」

―アニメーション映画『サマーウォーズ』での平成21年度(第13回)文化庁メディア芸術祭・アニメーション部門の大賞受賞、おめでとうございます。作品を拝見して、まずインターネット上のデジタル世界と、田舎の親戚という土臭い世界との組み合わせに驚かされました。物語は、高校生の小磯健二が夏休みに憧れの先輩・夏希の帰省に同行し、婚約者のふりをするよう頼まれるところから始まりますね。そもそも、この映画を作るきっかけは何だったのでしょう?

『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー

細田:自分自身が結婚したという体験が大きかったですね。実は、それまで結婚のイメージって「面倒くさそう」とか「契約に縛られる」というあまり良くないものだったんです。でも、先方のご家族に挨拶に行ったときに、それまで会った事もない人と次の瞬間には家族になる、ということが、とても不思議で面白かったんですね。その体験を映画にしてみようと思ったのが、制作のきっかけです。

―家族の絆が失われがちな昨今にあって、大人数の親戚を描く作品は、とても新鮮な印象を受けました。

細田:『サマーウォーズ』は、「家族の映画」というよりは「親戚の映画」にしたかったんです。家族の映画はたくさんあると思いますが、親戚の映画ってなかなかないんですよね。しかも、親戚が主人公のアクション映画は、世界映画史上でも初めてじゃないですかね。ただ、作っている時は「親戚の映画なんて誰が観に来るんだ」という不安が、常に頭にありましたが。

―しかし実際には、観客動員数が123万人を越える大ヒットになりましたね。ちなみに、作品の舞台になっている長野県の上田市は、細田監督の奥さんの故郷だそうですが、実在の場所を選んだ理由はなんだったのでしょう。

細田:最初は舞台を別の所にしようかと思っていました。でも、上田の印象や歴史を知っていくうちに、上田でなければいけないと考えるようになったんです。かつては真田氏が治めていた土地で、徳川秀忠軍を二度も打ち破ったという歴史的な事実があると聞いたんですが、上田市の人たちはそのことをすごく誇りに思っているんです。そうした大きな相手にも負けない心意気を、いまだに地域の方が持っていることがとても印象的で、映画のストーリーにも合っていたので舞台に決めたんです。

―夏希の一家の大黒柱は男性ではなく、栄さんというお婆さんですね。なぜ、お爺さんではなく、お婆さんだったのでしょうか?

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細田:子どもの頃、お婆ちゃんの家に預けられたことがあって、すっかり「お婆ちゃんっ子」になってしまい、その体験が本作に反映しているんでしょうね。

CGの良さも出しつつ、手描きの良さも伝えられるアニメを

―次に、作中で登場人物が亡くなるシーンについてお聞きしたいと思います。前作の『時をかける少女』では、時間を遡る力を持った主人公が、友達が亡くなる事態を避けるために時間を戻しますよね。しかし本作では、主要登場人物の死を周りの人が受け止めます。現実的な死を描こうとされたのはなぜでしょうか?

『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー

細田:映画の演出をしてきて十数年経つんですが、今まで作品の中で一人も人間を死なせなかったことに、ささやかな自負があったんです。ほかの演出家に聞いてみると、いっぱい死なせているらしいんですが(笑)。いままで東映動画で子どもに向けてアニメーションを作ってきたので、観てくれる子どもたちのことを考えると、作品の中で誰かが死ぬことにすごく抵抗があって。

―なるほど。細田監督にとって「死」を描くかどうかというのは、とても重要なことなんですね。

細田:今回の『サマーウォーズ』でも、本当は死なせたくはなかったんですが、物語的な必然から、「死」を描かざるをえなかった。僕にとって大きなチャレンジでした。

―「生」を象徴するような場面とも言えるかもしれませんが、健二が夏希の親戚一同とご飯を食べたりお風呂に入ったりして暖かく暮らす様子は、平面のセル画で描かれますね。そして、彼らがアクセスする「OZ」の世界は、3DCGで描かれます。一つの作品の中でセル画と3DCGとを組み合わせて使っているわけですが、その際に意識なさったのはどんなことでしょうか。

細田:ひと昔前だと、ネットの世界は「サイバーでソリッド、かつ最先端」という印象があったと思います。でも、いまやネットの世界はもっと身近なものですよね。現代を描くのだから、そういった身近さをしっかり描きたいと思い、「ネット」と「親戚」を組み合わせて描いたんです。しかしそうすると、得てして「ネットが駄目で家族が良い」とか「家族が古くてネットこそ最先端」などといった二元論に陥りがちなんです。でも僕は、どちらも肯定的に描きたくて、ネットの世界はCG、現実の世界は手描きで作ることにしました。CGの良さも出しつつ手描きの良さも出すことで、それぞれの世界をうまく対比させてみたかったんですね。

『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー

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―確かに、どちらの良さも生かされ、かつ実写では表現できないような独特の世界観が構築されていました。

細田:「これからフルCGの映画が来る」とか、「手描きアニメのほうが良いに決まっている」といった対立ってありますよね。そうではなくて、どちらも良いところがあると思うんです。だから、どちらの特性をも上手く使っていけば良いのかなと思っているんですね。

家族の問題を普遍化すれば、世界の問題に行きつく

―それでは、さらに作品に込められたテーマについてお伺いしていきたいのですが、夏希の叔父の侘助は、アメリカ帰りですね。そして「OZ」は『オズの魔法使い』を意識させるものだったり、さらにアバターにはアメリカのとある有名なキャラクターを意識させるものがあったりと、アメリカを意識させる要素が頻繁に登場します。

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細田:「OZ」については、よく訊かれるんですが、実は僕が昔働いていた東映動画の横にある大きなスーパーの名前が「LIVINオズ」といって、そこから取っているんです(笑)。東映にいた頃は、自分の下宿と仕事場、そしてスーパーの「オズ」、その三点しか行き来しないわけですよ。で、何でもあった夢の世界が「オズ」なんです(笑)。今やその横にシネコンまでありますからね。

―「OZ」の由来は意外なところにあったんですね(笑)。

細田:そうなんです。ただ、さっきの質問に戻ると、アメリカを連想させる要素を入れているのは確かです。家族や親戚といったドメスティックなものと対比されるものが何かと言えば、グローバリズムであり、パクス・アメリカーナ(アメリカ合衆国の覇権によって作られる平和)ではないかと。この二つの衝突については、非常に今日的な問題ですよね。

『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー

―ローカルなコミュニティと、グローバルな動きとが相互に及ぼし合う影響について、ということですね。

細田:はい。でも、実はそういう対比以上に気にしていたのが、家族の外側に敵を作るのは嫌だな、ということでした。なるべく身内の中に原因があり、その解決をするという筋立てにしたかったんです。グローバルとドメスティックの二項対立でどちらが良いかということではなく、世界で起こっている問題は家族の中の問題に収斂できるのではないかと。これを逆に言えば、家族の中で起こっている問題を普遍化すれば、世界の問題に行きつくんじゃないかと考えているんですね。

世の中や人生を肯定できる映画を作りたい

―本作は、ある家族の内部にある問題を突き詰めることで、世界全体について考えようとする作品なわけですね。だから、世界の問題の方をないがしろにしているわけでは決してない、と。

『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー

細田:はい。本作を見た人の批評に、「ひとつの家族だけで物事が展開して、大きな組織が動かないのはご都合主義」というものがあるのですが、これは的外れなんですよ。むしろ、ひとつの家族に隠喩されたものの中に、世界全体の問題を読み取って欲しい。身近な所から世界へと繋がる視点を持って欲しいんです。例えば、日本は近年、海外の事件に対して「海の向こうの話」という態度を取りがちなように思いますが、世界の問題を家族の問題に収斂させることで、自分たちの問題として描けるのではないかと思うんですね。

―すると、一部のハリウッド映画にあるような「アメリカ合衆国が世界を救う」という物語ではないと。

細田:もちろんそうですね。少し前までのアメリカ映画って、ナチスや共産党、アフガニスタンのテロ組織などの悪役と正義との対立構造を使って、物語を展開していましたよね。でも、日本人にはそうした対立概念は通用しないんです。それを踏まえて、日本でアクション映画を撮るならば戦う相手は誰かと考えたところ、それは自分自身の中にいるんじゃないかと。今はアメリカ映画の中にも、そういった作品が増えていますよね。これは9.11以降に訪れた大きな変化でしょうね。

『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー

―それでは、続いて『サマーウォーズ』についてお聞きしたことを踏まえつつ、監督ご自身のことについてもお聞きします。細田監督が、作品を作る上で心がけていらっしゃることとはなんでしょうか?

細田:僕はいつも、世の中や人間の人生を肯定できるような映画を作りたいと思っているんですね。しばしば、「人間というものは、どうしてこんなに理解し合えないのか…」といった辛辣なテーマを扱う映画ってありますよね。その方が名作っぽく見えるというか(笑)、肯定的な映画は、ばかばかしいとか能天気とか、軽く思われがちなんです。でも肯定的な映画を作るのは、楽なことのように見えて実際はすごく難しいんですよね。だからこそ、挑戦したいんです。それとアニメーションなので、子どもに観てもらうという意味でも肯定する力を失わないようにと思っていますね。

―そのために工夫をされていることはなんでしょうか?

細田:そうですね、できるだけ多くの人と共有できるものを題材にすることですかね。それを見つけるのは結構大変なことだと思います。観る人を選ぶような作品にも可能性があるとは思うんですが、あらゆる人がYouTube等で面白い作品を見つけて楽しむような時代には、作品に公共性があるかどうかが以前より重要になってくると思うんです。それに、観る側も「プロだから」「アマチュアだから」と分ける視点が無くて、その作品を通じて共有できるものがあるかどうかを重視しているように思います。

観ることも楽しいですが、作るのはもっと楽しい

―有名なのかどうかではなく、作品個々のクオリティが、よりシビアに問われるようになってきているんですね。

細田:そう思いますよ。今の若いクリエイターたちは、このことをしっかり踏まえているので頼もしいですね。それから、文化庁メディア芸術祭に絡めて言うなら、この芸術祭の面白いところって、アニメーション部門であれば短編も長編も、商業作品もそうでないものも、全部一緒くたに評価する点だと思うんですよ。しかも、同じ評価軸でね。これって、世界的に見てもきわめて珍しい賞だし、かつ非常に面白いんですね。若いクリエイターたちの考え方にも、とても合ったイベントだと思います。

『サマーウォーズ』細田守監督インタビュー

―それでは最後に、自分でもモノづくりをされている読者の方々に向けて、アドバイスをお願いします。

細田:アニメを観る人には、ぜひ自分でも作ってみてほしいですね。観ることも楽しいですが、作るのはもっと楽しいので。それから、先ほども言ったように文化庁メディア芸術祭の評価形態はとてもユニークなので、個人製作のものも、大きな資本提供を受けたものも、同一線上で評価できる場になっています。とかく「アニメーションはお金をかけないと作れない」などと思われがちですが、今はコンピューターひとつでも作れますので、ぜひチャレンジしてみてほしいですね。

イベント情報
プロフィール
細田守

1967年9月19日生まれ。富山県出身。金沢美術工芸大学卒業。91年に東映動画(現・東映アニメーション)に入社し、アニメーターとして活躍。97年には『ゲゲゲの鬼太郎(第4期)』で演出デビュー。現代美術アーティストの村上隆から依頼されたLOUIS VITTONのプロモーション映像『SUPERFLAT MONOGRAM』(2003年)などの監督を手掛け評判となる。05年にはアニメーション制作会社マッドハウスにて『時をかける少女』を監督し、各国で多数の映画賞を受賞。最新作の『サマーウォーズ』は国内外での受賞など高い評価を得、観客動員数は123万人を突破している。



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