GOLD PANDAインタビュー

イギリスBBCや、アメリカの有力インディ・メディアPitchforkから「2010年期待の新人」と呼ばれる、イースト・ロンドン出身のトラックメイカー、ゴールド・パンダ。ヒップホップからミニマル・テクノ、ダブステップなど様々な要素をミックスし、オリエンタルな要素を含んだ流麗なメロディと合わせた彼の音楽性は、ボアダムス以降のスピリチュアリティを持ったUSインディ・バンドに対する、UKクラブ・シーンからの回答なんて言い方もできるかもしれない。それもそのはず、彼は大の日本びいきで、かつて日本で暮らしていたこともあるだけに、日本語のリスニングもばっちり。パーティー好きのロンドンっ子ではなく、日本人らしく繊細で、ちょっとおたく気質のある、愛すべきキャラクターなのでした。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

日本人の丁寧な人柄が好きだし、あと街の見た目が好きなんだ。

―以前日本に住んでいたそうですが、いつ頃、どのくらいの期間住んでいたのですか?

GP:2004年から2005年だったかな? 25歳になるとワーキング・ホリデイのビザが取れなくなっちゃうから、その前に行こうと思って。日本では英語を教えて、音楽を作って、普通の生活を一年間していました。

―曲のタイトルにもなっている川崎の宮前に住んでたんですよね?

GP:ミヤマエク、サギヌマ。

―(笑)。元々日本に興味があったんですか?

GP:初めて日本に来たのは1999年で、2週間ぐらいいたのかな? 僕は旅行とか観光も好きだけど、ノーマルな生活の一部になることが好きで、とにかくすごく楽しかったんだ。それから実際に住んでみるまで、6回ぐらいは遊びに来てる。

―どういう部分が気に入ったんですか?

GP:よく言うように日本人の丁寧な人柄が好きだし、あと街の見た目が好きなんだ。高いビルが立ち並んでたりね。

僕は悲しい気持ちになったり、落ち込んでるときに音楽を作ることが多くて、その気持ちを曲に入れるんだ。

―でも実際に住むとなると苦労する部分も多かったんじゃないですか?

GOLD PANDAインタビュー

GP:ロンドンには色んな人種がいるけど、日本はみんな同じ人種だと思うので、その中で自分が一人日本語も話せずにいると、他の人と自分が全然違うんだなって感じることはあるね。市川によく泊まるんだけど、あの辺りには外国人もいないから孤独を感じることもあるし。例えば日本人の友人とレストランに行くと、店員さんが必ず僕じゃなくて友人の方ばかり見て話していたりとか。ときどきだけどね。

―そういう日本での生活が自分の音楽にも反映されていると言えますか?

GP:僕は悲しい気持ちになったり、落ち込んでるときに音楽を作ることが多くて、その気持ちを曲に入れるんだ。東京ってこんなにたくさん人がいて、みんな忙しそうにしてるけど、孤独を感じるんだよね。僕の音楽って、そういう都会で感じる孤独のサウンドトラックなんだ。

―その感覚は実際に東京で生活している日本人である僕でも感じることで、それって国籍が違っても感じることなんですね。

GP:うん、ロンドンでも同じ気持ちを感じることはあるしね。

―じゃあ日本の音楽からの影響はありますか?

GP:僕はレコードからサンプリングして曲を作るんだけど、日本にいるときにハード・オフで50円ぐらいのレコード、主に演歌をいっぱい買ったんだ。演歌とか日本のサウンドって、すごく悲しい要素があるでしょ? 中国とか中東の音階もそうで、そういうのが好きなんだ。今は琴を習いたいと思ってる。

―へえ。ちなみに日本語の「わびさび」っていう言葉はご存知ですか?

GP:…聞いたことはある気がする…どういう意味?

―ええと、日本人でも説明するのが難しいんですけど、辞書的な意味で言うと「質素で静かないい雰囲気」というか、それこそ演歌とかで感じられる感覚。ゴールド・パンダの音楽には「わびさび」に通じるものがあるなって思ってたんですよね。

GP:ワビサビ…確かに悲しげな感じがする言葉だな…覚えておくよ(笑)。

僕は同じタイプの曲を作り続けるのが嫌なんだ。

―ぜひぜひ。あとロンドンってさっきも言ってたように多くの人種が住んでるじゃないですか? アジア人のコミュニティもあったりすると思うんですけど、ゴールド・パンダの曲のオリエンタルな旋律はそういうコミュニティとの接点も背景にあったりするんでしょうか?

GP:うん、僕はロンドンのタワー・ハムレッツというところに住んでるんだけど、そこはインド、パキスタン、バングラディシュの人がたくさん住んでるところで、モスクから流れてくる音楽を聴きながら育ったんだ。お婆ちゃんがインド人だったから「SUNRISE RADIO」とかいうインドのラジオ・ステーションもよく聴いてたし。もちろんヒップホップ、グライム、ガラージとかも大好きだから、ドラムマシンのビートと、オリエンタルなサウンドをミックスして作るっていう方向性を、今後もやって行きたいと思ってる。

GOLD PANDAインタビュー

―なるほど、そういう背景があったんですね。

GP:ロンドンにはいろんな国の人がいる分、周りにいる人から影響を受けやすいんだ。例えば僕の友人でアンディ・ジェンキンソンっていうスクウェアプッシャーの弟がいるんだけど、彼はトルコ人がいっぱい住んでるエリアに住んでるから、その影響を受けてる。僕と彼はそれぞれDE DE MOUSEのリミックスを手がけたんだ。

―そう言えば“Win-San Western”って、ちょっとスクウェアプッシャーっぽいですよね。

GP:彼やエイフェックス・ツインのようなWARPのアーティストは、ドラムンベースのようなハードなビートを、美しいサウンドとミックスさせたよね? 僕はそれにも影響を受けてるんだ。

―ゴールド・パンダってダブステップとの関連性で語られることが多いけど、あまりダブステップっぽくはないように思うんですね。もっとメロディアスで、ミニマルで、曲によってはエレクトロニカっぽかったりする。実際ご自身では自分の立ち居地、ダブステップのシーンとのつながりをどのように捉えていますか?

GP:つながりは全然ないよ。ダブステップのリスナーが僕の音楽を好きだとも思わないし(笑)。音楽を売るときにメディアは名前をつけたがるけど、ダブステップとは何なのかっていうのを明確に言える人はいないんじゃないかな? だから今流行のインディペンデントなソロ・ミュージシャンによるダンス・ミュージックっぽいのは、何でもダブステップって呼んじゃう傾向があるよね。ダブステップ自体はグレイトだと思うんだけど、僕は同じタイプの曲を作り続けるのが嫌なんだ。ミニマルっぽいのを作ったら、じゃあ次はダブステップっぽいのを作ろうかなって感じだから、僕の音楽にどう名前をつけていいかわかんないんだろうね。

―もうひとつメディアの話で言うと、「ロック・リスナーに聴かれるべき」っていう紹介のされ方もしてますよね。

GP:確か一番最初にそれを書いたのは『SNOOZER』のSoichiro Tanakaだったと思う。意図的ではないんだけど、インターネットとかを見ると、確かにロックとかインディのリスナーに支持されてるみたいだね。僕はクラブでプレイするよりも、ロック・バンドと一緒にライブハウスでプレイするのが好きだから、それも理由かもしれない。

―なぜライブハウスが好きなんですか?

GP:雰囲気が全然違うからね。ライブハウスはみんながステージを見て、「何してるんだろう?」って興味を持ってくれるけど、クラブはただダンスして、飲んでって感じだからさ。

感情っていうのは、実は自分でもどうやって曲に込めればいいかわかってなくて、自然と起こってることなんだ。

―今回一ヶ月近く日本に滞在して色んな場所でプレイしたかと思うんですけど、特に印象的だった会場はありますか?

GP:DOMMUNEだね。サウンドが素晴らしかった。僕は自分のサウンドにあんまり自信がないから(笑)、普段だと音が大き過ぎたり、低音が出過ぎてるように感じることがあるんだけど、あそこのサウンド・システムはすごくよかった。僕はビッグ・クラブで、「さあ、俺を見ろ!」って感じでプレイするよりも、小さなところでプレイするほうが好きだしね。まあ、どのショウも楽しかったよ。自分では「しまった!」と思うようなときも、「そんなことないよ、よかったよ!」ってみんな言ってくれたし(笑)。

―日本のオーディエンスって集中してステージを見るから、曲間でもシーンとしてることが多くて、海外のミュージシャンの中にはそれが苦手っていう人もいるんですけど、実際やってみてどうでした?

GP:いや、素晴らしかったよ。居心地もすごくよかったし。まあシーンとなったり、ブーイングが出たりするのが怖かったから、曲間もノイズを出してたんだけど(笑)。実は高校の頃は俳優になりたくて、演技の学校に通ってたんだ。そこで言われたのが、お客さんの反応を見て、その人がどう考えてるかをジャッジするなってことで、あくびをしてたとしても、演技に退屈してるんじゃなくて、仕事を12時間した後だからかもしれないだろ? って。だから自分は周りの反応は気にせず、自分の音楽に集中するだけさ。ちなみに、その学校は卒業できなかったんだけど(笑)。

―(笑)。あとB級映画も影響源のひとつだって聞いたんですけど?

GOLD PANDAインタビュー

GP:うん、日本で言う古着屋みたいな、チャリティー・ショップっていうのがロンドンにはあって、洋服だけじゃなくて、レコードとか食器とかなんでも中古で売ってて、よく使ってたんだ。もちろんサンプル用のレコードも買ってたんだけど、古いB級のホラー映画のVHSとかもよく買ってたんだよね。『STREET TRASH(邦題:吐きだめの悪魔)』とか『BODY MELT(邦題:バイオ・スキャナーズ)』とか、くだらないのに惹かれるんだ。そういう映画の安っぽさには影響を受けてるかもしれない。

―ハイファイ過ぎるものより、チープな、手作り感があるものがいい?

GP:そうだね。なぜ高いシンセサイザーを買わなくちゃいけないのか理解できないよ。安いカシオので十分なのに。僕は2台キーボードを持ってるんだけど、1000円ぐらいで買ったカシオのと、大き過ぎて買う人がいなくて100円ぐらいなってたヤマハのエレクトリック・オルガンなんだ。全部中古だよ(笑)。

―でもその一方でさっき出たDOMMUNEのような新しいメディアもあるわけで、そういった新しい技術やメディアとの付き合い方に関してはどう考えていますか?

GP:この前シミアン・モバイル・ディスコとライブをやってアップルからiPodをもらったんだけど、自分ではiPodって買ったことがないんだ。こういうのがあると音楽を全部聴かなくなっちゃうでしょ? 好きな場所だけ聴いて、すぐスキップしちゃう。そうなるとアルバムを聴かなくなって、作品として見なくなっちゃうから、それはあまりよくないことだと思う。でも今の自分があるのはMySpaceがあったからで、レーベルからのオファーも彼らが僕のMySpaceをチェックしたからなんだ。だから、いい面と悪い面、両方だよね。

―では最後の質問です。お客さんをダンスさせること、実験的な音楽を作ること、エモーショナルな音楽を作ること、この3つの中で最も重要なのはどれですか?

GP:ダンスではないな…R&Bとかヒップホップ、レゲエは大好きなんだけどね。うーん、選ぶとしたらエモーショナルであることかな。クレイジーなサウンドを作るのが好きだし、新しいことに挑戦するのも好きだから、実験的であることも重要なんだけど…感情っていうのは、実は自分でもどうやって曲に込めればいいかわかってなくて、自然と起こってることなんだ。でも、だからこそ、エモーショナルであることはとても重要なことだと思うんだよね。

リリース情報
GOLD PANDA
『COMPANION』

2010年4月21日発売
価格:2,200円(税込)
VARICOUNT records TBCD-1038

1. Quitter's Raga
2. Fifth Ave
3. Like Totally
4. Back Home
5. Mayuri
6. Long Vacation
7. Lonely Owl
8. I Suppose I Should Say 'Thanks' Or Some Shit
9. Heaps
10. Bad Day Bad Loop
11. Triangle Cloud
12. Win-San Western
13. Police

プロフィール
GOLD PANDA

UK イースト・ロンドンのプロデューサー/ トラックメイカーで、UK の名門インディレーベル、Wichita(Bloc Party, Simian Mobile Disco, The Cribs, Peter Bjorn And John, Clap Your Hands Say Yeah, etc)がマネージメントとして手掛けるアーティスト。現在まで3枚のEP( 'Miyamae'[Various]、 'Quitters Raga' [Makemine]、'Before' EP[self-released])をリリース。既にBloc Party、Little Boots、 Zero 7、Simian Mobile Disco他のリミックスを手掛け注目を浴びています。毎年恒例のBBC のサウンドオブ2010(2010年にブレイクが予想される15組のアーティストの特集)や、Pitchforkのリーダーズポールの2010 年期待の新人の一人に選出されるなど、今年のブレイク候補と世界的に大きな注目を浴びているアーティスト。



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