楽ではなかったデビューへの道程 MASTERLINKインタビュー

現在CINRA.NETで好評連載中の『音楽を、やめた人と続けた人』の主人公が5年間の沈黙を破って新作を発表したPaperBagLunchboxなら、本稿の主人公は2002年の結成から8年目にして、遂に初のフル・アルバム『Muziiic Store』を発表する3ピース、MASTERLINKである。初めて送ったデモテープでメジャーデビューの話が舞い込み、「なんて楽チンなんだろう」と思ってから随分と月日は流れた。ときには飼い殺しにされ、音楽を続けるのか、辞めるのか、葛藤を繰り返し、ようやくデビューに至ったという、非常に珍しいバンドだ。そして、『Muziiic Store』は、これまでリリースされた2枚のシングルの「ドリーミーなエレクトロ」というイメージに留まらない、ヘヴィ・ロックやUKロックなどの雑多な音楽的要素が詰まった、まさにMASTERLINKの8年間を凝縮した作品となっている。バンドの中心人物であり、歯に衣着せぬ発言が気持ちのいいVo/GのNARUに、紆余曲折を経て本作にたどり着いたバンドの歩みを訊いた。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

いきなり(メジャーデビューの話が)来たから「なんて楽チンなんだろう」って思ったけど、そんな上手い話ではなかったですね。

―まずは、バンド結成のいきさつから教えてください。

NARU:自分とベースのKOJIが中学1年から同じクラスだったんです。彼がベースをやってるって聞いて家に遊びに行って、音楽をやってるかっこよさにピンと来て、自分もギターやろうってなって、最初は二人で始めて。自分はそれまでヴァイオリンをやってて、ロックをやるっていうのは全然頭になかったんですけど。

―バイオリンはいつからやってたんですか?

NARU:4歳から始めて、小学校のときに3年間アメリカに行ってたんですけど、学生のオーケストラ団みたいのに入ってて、そこでもずっとやってたんです。母親が音大に行っててオペラをやってたり、父親もチェロをやってたりして、クラシックがずっと身近にあったので。

―ご両親共にクラシック畑だったんですね。でも中学生だったNARUさんにとって、クラシックよりロックの方が魅力的だったわけですね。

NARU:やっぱりクラシックは自由度がないっていうか、楽譜を見てやるのが基本ですからね。ロックはわりと自由だから、自分達の進歩がどんどん見えてくるっていうか。ヴァイオリンは楽譜を見てきれいに弾くっていうのが大事だけど、バンドは自分たちの個性が重要じゃないですか。

―それで、MASTERLINKとしての活動がスタートしたのが2002年ですよね?

NARU:そうですね。ちょうどその頃ちゃんとした曲ができたのでデモ・テープを送ったら、たまたま某メジャーのレコード会社の人が聴いてくれて、「うちから出そうか」って話があったんです。結果的にそこではデビューできなかったんですけど、それからちゃんとバンドをやって行こうって決めて。

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NARU

―初めからプロ志向だったんですか?

NARU:「バンドをやるなら当然メジャー・デビューだろう」って頭にあったから、とりあえずデモを作って送って、メジャー・デビューできるならバンドを続けようみたいな感じでした。

―メジャーにこだわったのには何か理由があったんですか?

NARU:中学生だから単純だったんですよ(笑)。

―(笑)。でも、そういう発想でやってたら、いきなりホントに話が来ちゃったんですね。

NARU:そうですね。いきなり来たから「なんて楽チンなんだろう」って思ったけど、そんな上手い話ではなかったですね。

いつまで経っても社長のハンコが押されないっていう、飼い殺し的な状態が続いて。

―それでデビューしちゃってたら、多くのバンドマンから恨まれてたでしょうね(笑)。でも、そうは行かなかったと。

NARU:まあ、「次もすぐ来るかな」ってそのときは思ってたんです。

―挫折みたいな感じではなかった?

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NARU:初めてデモ・テープを送ってそういう反応があるってことは、「他に送ってもすぐ来るのかな?」って甘い考えがずっとあって。それからはそのときお世話になっていた事務所に「プレゼンテーションのためにライブをやった方がいい」って言われて、そのためのライブをひたすらやってました。たまにメジャーの人が見に来てくれたりはしたんですけど、結局5年ぐらい経っちゃって(笑)。焦ってはいたんですけど、これが普通だからもうちょっと頑張ろうって思って、気づいたらいい年になってて。それでもう辞めようかと思ってたときに、別のレコード会社からやりたいって話をいただいて、「やりたいって言ってくれるならやるか」ってもう一回だけやろうと思ったのはいいんだけど、そこでまた空白の2年が生まれて。

―その「空白の2年」っていうのは?

NARU:いつまで経っても社長のハンコが押されないっていう、飼い殺し的な状態が続いて。でも給料も出てるし、「まあ、いいや」と思ってたんだけど、なんだかんだで「話がなくなった」とか言い出したんで、もう頭に来て、今度こそ辞めようと思ったんです。けど、そうしたら今の会社から連絡があって、「またなくなるかもしれないけど、話だけは聞いておこうかな」と思って行ったら、すぐ契約をしていただけたので、今回は良かったなって。

―これまでかなり山あり谷ありだったんですね。

NARU:頑張ろうと思ったときは来ないで、辞めようと思ったときに来るんですよね(笑)。

メンバーが辞めていったり、いろんな悩みや葛藤があったので、そのときの歌詞はすごく暗いですね。

―“SUPER SPEED”の歌詞とかには当時の不安な心境が表れてるように思うんですよね。<少しでも油断したら君もDrop out>とか。

NARU:そうですね。その暗黒時代の曲は歌詞に心境が反映されてますね。“Traveling”とかはメジャーが決まったときに作った曲で、「これから頑張っていこう」みたいな曲なんですけど、“Loversday”、“February Heart Break”、“Emotion”、“Just Imagine”あたりはプレゼンのためにライブをやんなきゃいけないっていうプレッシャーの中で作ったので、歌詞でハッピーなことは言ってないと思います。

―特に「喪失感」を強く感じます。

NARU:中学からの同級生でもう一人ギターがいたんですけど、もうダメだって離脱していったんです。そうやってメンバーが辞めていったり、いろんな悩みや葛藤があったので、そのときの歌詞はすごく暗いですね。

―そういったことを通り過ぎて、本当にようやく作品が世に出るわけですね。

NARU:ずいぶん時間が経っちゃいましたけどね(笑)。

これまで色々あったことを忘れないためにも、過去の曲は絶対に出したいと思ってた。

―では『Muziiic Store』についてですが、これまでのMASTERLINKはエレクトロのイメージが強かったものの、それだけではない多彩な楽曲が収められていて、この8年間の変遷が凝縮されたアルバムなのかなと思うのですが、いかがですか?

NARU:そうですね。音楽の流行り廃りというか、バンドを始めたときはDragon Ashが人気だったし、最近はエレクトロがメジャーな音楽として成り立ってると思うんですけど、そういう時代に沿った音楽を作ってきたつもりなので、こうして一枚に並べるとバリエーションに富んでるように聴こえますよね。

―そうやって時流を意識しつつも、NARUさんにとって常に大事にしている部分というとどんなところになりますか?

NARU:自分にとって曲の中で大事にしてるのは、メロディだったりコード進行なんです。自分たちのスタイルは打ち込みと生の融合っていう、今じゃ珍しくもなんともないですけど、生音と打ち込みを使って、メロディとコード進行を大事にしようっていう、そこは絶対ぶれずにやりたいし、やってきたつもりで、あとは自分の感情の赴くままに作ってる部分が多いですね。

―サウンドやアレンジよりも、重要なのはメロディであり、コード進行だと。

NARU:そうですね。そこがホントの核で、エレクトロなものを作ろうっていう意識はさほどなくて、自分たちの中の一要素でしかない。エレクトロっていうジャンルを目指してるわけじゃなくて、エレクトロ風になっただけで。

―NARUさんはエンジニアの勉強もされてて、ミックスもご自身でされてるんですよね?

NARU:エンジニアにはちゃんとついていただいて、細かいところのディティールは良くしてもらってるんですけど、方向性はわりと決めさせてもらいました。エンジニアになりたいっていうのと同時に、自分たちのデモをブラッシュアップするために、エンジニアになったらいいんじゃないかっていうのもあって、専門学校に行ってたんです。その知識も多少使いつつ、自己流の、よくわかんないミックスになってると思うんですけど(笑)。

―さっきバンドの核はメロディやコード進行っていう話がありましたが、やっぱりサウンドも当然重要なわけですよね。そのバランスはどう考えていますか?

NARU:聴いたときの和音を重視していて、メロディに連動したミックスになってるんです。気持ちよく音がバラけて聴こえるっていうミックスを目指してるわけじゃなくて、気持ちよく歌とトラックが混ざるミックスを目指してるんで、そこはある意味連動してると思うんです。

―メロディが中心にあるとはいえ、「歌を聴かせる」っていうのとはまたちょっと違うわけですよね?

NARU:歌を聴かせる曲を目指さなきゃいけないし、目指したいと思ってる部分もあるんですけど、結局は全体を聴いたときの気持ちよさを目指しちゃうんですよね。

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―「歌を聴かせる」っていうのはある意味大衆性とかポピュラリティの獲得に欠かせない要素になるかと思うんですけど、そういったことはどうお考えですか?

NARU:なんせもう辞めようかなと思ったときにデビューしてきてるから、自分たちがやりたいことをやればいいと思っちゃうんです。もちろん、みんなに聴いてもらいたいんで、そういう曲も作って行きたいとは思ってます。今まで積もり積もったものが出せたんで、これで次のステップに行けるかなって。これまで色々あったことを忘れないためにも、過去の曲は絶対出したいと思ってたんで、これまではこの曲たちをどう出すかしか考えてなかったんですけど、そこを出せれば、次に行けると思うんです。

―では、その次とは?

NARU:今まで自分の殻に閉じこもりがちだったんですけど、色んな人が動いてくれることによって、人の思ってることも取り入れて、より良いものを作れたらいいんじゃないかって思い始めてるんです。あと大げさなことを言えば、何で日本の音楽は海外でこんなに受け入れられないのかっていう疑問があって、アニメとゲームは日本がリードしてる部分があるし、音楽も聴く耳さえ持ってもらえば受け入れられると思うのに、今はごく一部の人しか出ていけてない。そこをもうちょっと、アジア圏だけでもいいから広がっていけたらなっていう思いはあります。もうちょっとグローバルな音楽の展開ができればいいなって。

聴いてくれてる人たちが、「辞めないで」とか「良かった」って言ってくれるから、自分たちはここまで来れた。

―あとはデザインもご自身でやられてるんですよね?

NARU:大学のときにデザインをやってて、音楽もそうですけど、自分の思ったものをそのまま形にできるのが好きなんです。発注を受けてやりたくないんですよ(笑)。アーティストになるっていうことは、自分でこうしたいと思ったことができるということですよね。

―完璧主義的なところがある?

NARU:浅く広くかもしれないですけど(笑)。たとえばPhotoshop(画像編集ソフト)にしても、使い方をちゃんと理解しているわけじゃないんですけど、いろいろ試しながら自分が良いと思うものが作れれば良いと思っているんです。そうやって自分の感性を無理やりツールを使って出してるだけなので、結構荒かったりはするんですけど、それでも良いんじゃないかって。芸術に答えなんてないし、「こうしなきゃいけない」っていうのがないのがいいところだから、ちょっとぐらいおかしかろうが、それはそれと思ってやってます。だから、完璧に自分で全部やりたいという主義はありますけど、モノとして完璧である必要はないですね。

―それこそ今の時代って色んなものが細分化されてて、音楽も音楽だけでは成り立たなくて、他のアートと結びついてこそ成り立つっていう考えもあると思うんですね。そういう風に、音楽だけじゃなくて、様々なアートを含め、トータルで表現したいという気持ちはありますか?

NARU:そうですね。自分は音楽バカではないですし、特別音楽が好きっていうわけでも、ぶっちゃけないと思ってて。ただ、自分たちのバンドを構成する上での表現手段として、見た目・アート・音楽とか、全部が自分の中で処理されて、出てきたものがMASTERLINK像なんです。曲を作るときも頭の中で景色を描きながら、「こんなシチュエーションで」って作る部分もあって、写真を見て曲がインスパイアされてもいいし、曲を聴いて「こういう人たちかな?」って思ってもらってもいい。MASTERLINKっていうバンドに対して、どの入り口から入っても統一感が出せればなって。

―なんかMASTERLINKっていうバンド名がぴったりですね。まさに自分がすべてを取り仕切るMASTERで、その一つ一つがLINKしてるっていう。では最後に、今後について聞かせてください。しばらくライブはやられていないようですが、今後のライブに関してはどうお考えですか?

NARU:ちょっと前まではプレゼンテーションのためのライブをやるっていうことが頭にあって、ライブが大嫌いなバンドだったんです。楽しいと思うライブを一度もしたことがなかった(笑)。でも、やっと気楽に、自分たちの自己表現として楽しいライブにしたいなと思えるようになってきて。この1,2年やってなかったんですけど、それが逆にいい休み期間になったなと思って、今はまたライブやりたいなって思ってます。なんせ打ち込みが多いので、どういうスタイルでやったら自分たちらしく、自分たちが納得できるライブができるのか、ちょっと模索しなくちゃいけないんですけど。

―お客さんとのコミュニケーションに関してはどうお考えですか?

NARU:何度も音楽を辞めようと思ったときに、結局は周りの聴いてくれてる人たちが、「辞めないで」って言ってくれたり、「良かった」って言ってくれるから、自分たちはここまで来れたっていうのがあるんです。自分たちが音楽をやってなかったら、そういう人に出会う機会もなかったので、Twitterで自分たちのことを言ってくれた人には全員返信したりとか、一人でも多くの人にありがとうって伝えたいと思っていて。自分たちの夢を叶えさせてくれたのは、少なからずそういう聴いてくれる人たちが原動力だったりするんで、そこに対しては誠実にありたいですね。

リリース情報
MASTERLINK
『Muziiic Store』

2010年12月8日発売
価格:2,500円(税込)
pure:infinity JBCP-9002

1. Light
2. Traveling
3. SUPER SPEED
4. Miss You
5. Loversday
6. February Heart Break
7. Emotion
8. Lovin' you
9. Just Imagine
10. Oneday
11. SUPER SPEED DAISHI DANCE REMIX -Full Extended ver.-
12. SUPER SPEED SHINICHI OSAWA REMIX
13. Traveling TAKU REMIX -Radio Edit-

プロフィール
MASTERLINK

2002年結成、NARU(Vo.)、KOJI(Ba.)、YASU(Dr.)からなる3ピースバンド。2010年6月、デビュー。ロックという枠にとらわれず、PUNK、HIP HOP、ELECTRO、CLASSIC等、幅広いサウンド・ルーツを持ち、打ち込みを取り入れた先鋭的なサウンド、UK、USから影響を受けた洋楽テイスト溢れるメロディ、海外在住経験のあるNARUの英語と日本語で歌う親近感のあるリリックが特徴。デジタルとアナログが融合した人肌を感じるエレクトロサウンドが独自の音楽世界を創る。



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