寒さから育った温もり sleepy.abインタビュー

生まれ育った環境や人間性が、奏でられる音楽からここまで感じ取れるバンドも珍しいかもしれない。結成以来、一貫して北海道を拠点に活動するsleepy.ab(スリーピー)が、通算6枚目のオリジナルアルバム『Mother Goose』を発表した。前アルバム『paratroop』より活動の場をメジャーに移し、より人肌感の増した今作を聴くと、寒さの厳しい土地で暖をとる姿、春の訪れを喜ぶ感情、湿気の少ない澄んだ空気、ちょっとばかり奥手な性格など、変わらずに北海道で日々を送る彼らの姿を強く感じることができるはずだ。楽曲制作の背景から、ビックリする音楽を始めたきっかけまで、成山(Vo,Gt)と山内(Gt)の人間性を時間の許す限り探ってみた。

(インタビュー・テキスト:タナカヒロシ 撮影:柏井万作)

北海道でいう冬眠が明けたような、ちょっとキラキラした春っぽいイメージを落とし込めたかな。

―メジャー移籍後2枚目のアルバムになりますけど、活動の仕方に変化はありました?

成山:いまも札幌在住なので、大きく変わることはないんですけど、今回のアルバムに向けてということで言えば、初めてシングルを出すということで、バンド内でも大きい話し合いがありましたね。

―どんな話し合いが?

成山:いまの音楽シーンのなかでも、自分たちは真ん中にいるタイプではないので、どういうものが「sleepy.abらしさ」なのかとか。シングルというものに対しても、4人とも考えることは違うだろうし。だから、まずは各々が考えるシングルを作ってこようという話になって。それで全員で曲を出して、そのなかでも一番ポップなベース・田中の曲に。

―それが“君と背景”ですよね。確かにすごくポップな曲だと思いました。

成山:ポップなものでなきゃダメだなという感じもしてたんですよね。sleepy.abが持つ人懐っこさというか、人間性みたいなところが出た曲だったなと思って。冬から春にかけて制作をしたんですけど、北海道でいう冬眠が明けたような、ちょっとキラキラした春っぽいイメージもあったので、そういうのを落とし込めたかなと。ただ、メロディーがポップなゆえに、アレンジで何かをやらないと「らしさ」がなくなっちゃうと思って。だから山内(プロデュースも担当)には「光の量を濃くしてください」と。

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成山剛

山内:意味がよくわからなかったけど(笑)。

成山:でも、「うん」って言ってたよね(笑)。結果的には、輪郭を出したことで、浮き立ったなと思って。

―いままでは抽象的なイメージもありましたもんね。

成山:そうですね。山内が最終的に色を塗るみたいな作業をすることが多いんですけど、くすんだ色とか好きじゃない?

山内:くすんだ色(笑)。

成山:“君と背景”に関しては、「原色で来たね」みたいな感じはしましたね。

―くすんだ色が好きっていうのは、北海道という土地柄とか、自分が生活している空気感とか、そういうのが影響してるんですか?

山内:そういう性格になっちゃってるのかもしれないですね。部屋にこもって作っちゃうみたいな。

成山:北海道の距離感とか閉鎖感とか、いい意味でそういうのがあるのかなって。

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右:山内憲介

―そこは自分たちで意識してる部分?

成山:昔は全然意識してなかったんですけど、東京でライブするようになってから、「北海道っぽいですよね」とか言われるようになって、「へー、そうなんだ」って。初めは「田舎者なのかな?」とか、そういうことを言われてるのかなと思ってたんですよ(笑)。

―ははは(笑)。今回のアルバムじゃないですけど、“ねむろ”っていう曲もありますよね(2008年発表『archive』収録)。

成山:(生まれ育った)根室の原風景みたいなものは、俺のなかですごいありますね。ポツンと人が佇んでる感じというか。人口的なものもあるけど、根室って本当に寂しいんですよ。霧がすごくて、ほとんど晴れることがなくて。あっちでは海霧(じり)とか、ガスがかかってるとかって言うんですけど。ガスがすごい日は、前を走ってる車のテールランプが見えないくらい。札幌に出て来てから、こんなに透き通ってるんだ! と思いましたもん。不思議なところなんですよね。

―北海道のなかでも、出身地はバラバラなんですか?

成山:実は札幌出身は誰もいなくて。函館(山内)とか、岩見沢(田中)とか、恵庭(津波)とか。「北海道っぽい」とか、それを客観的に見れてるような気がするのは、ほんとここ最近ですよね。寒いからこそ家にこもるあったかさっていうか、暖炉の前であったまる感じとか、距離感とか、温もりとか、そういうことが北海道っぽいのかなとは感じてます。

自分が心を開いた分、お客さんも開いてくれた感覚があって。そこからちょっと変わってきた。

―sleepy.abはいい意味でマイペースなイメージがあるんですけど、お客さんのリアクションとかも気にされたりするんですか?

成山:わりと俺は気にするタイプですね。それによって成長してきた気がします。昔はお客さんのことを見れなかったし、なんか怖かったし。だけど“メロディ”という曲がサードアルバム(2006年3月発表『palette』)に入ってるんですけど、自分のなかでは何かを飛び越えた曲だったんですよね。私的なものっていうか、ちょっと応援するような、メッセージ性が強い曲で。最初は自分のなかでも「どうかな?」っていう不安があったんですけど、メンバーにも押されて、お客さんの前で歌ったら、自分が心を開いた分、お客さんも開いてくれた感覚があって。「あれ?」って。そこからちょっと変わってきたんですけど。

―自分が心を開いた分、聴く人も心を開いてくれた。

成山:当たり前のことなんですけどね。でも、それを音楽で体感したのは、すごくよかったなと思うんです。けっこう感動的だったなって。

―音楽で心を開くというのは、不特定多数に自分のことを曝け出すわけだから、ちょっと抵抗ありますよね。

成山:何言われたってしょうがないですもんね。そういう意味で初期の頃は葛藤があったんです。Radiohead、Blur、Oasisとか大好きで、90年代のUKの影響をすごく受けていたんですけど、そのフォロワーみたいな言われ方もして。だけど、それだけじゃないなと自分で思ってたし、そこで『palette』というアルバムができて、ちょっと違う形に昇華できたというか、オリジナリティを出すことができたので。

人の意見とか人の目とか、全部気にしちゃうタイプなんですよ。

―お客さんの反応を気にするみたいなものは、いまも結構あるんですか?

成山:お客さんだけじゃなくて、人の意見とか人の目とか、全部気にしちゃうタイプなんですよ。このアルバムを作るにあたって、歌詞を書くために、東京の図書館に行ったんですけど、コンプレックスでやられて帰ってきちゃって。かっこつけて図書館なんて行ったのが間違いでしたね。「なに田舎者が来てんだ」みたいな感じに見られてる気がして。

―完全に自意識過剰ですよ(笑)。

成山:なんかセレブみたいな人もいるし、みんな有意義に生きてる感じがして。うわーっとなって、5分で帰ってきました(笑)。

―けどやっぱり、人の目を気にするところは誰にでもあると思うんです。それでいて見られなければ見られないで寂しかったり。

成山: “かくれんぼ”って曲がまさにそうなんですけど、「隠れてるけど見つけてよ」っていう。めちゃくちゃめんどくさいんです(笑)。逆に山内はまったく気にしないタイプで。

山内:そうですね。

成山:ほんと、真逆なんですよ。



―でも、さっきの図書館の話とかって、全然いいと思うんですよ。個人的な意見ですけど、小さなことをものすごく大きく膨らませられるような人じゃないと、歌詞って書けないと思うんです。

成山:ははは(苦笑)。

―だって、普通の人とそんなに変わらない生活をしてるなかで、感動させるものを書かないといけないわけじゃないですか。

山内:これでよかったんだ(笑)。

成山:例えばその、大げさすぎてウソになるときがあるんですよね。別の記憶が結びついて、違うことになってる場合があったり。それでよく怒られるんです。

―でも、歌のなかなら全然いいんじゃないですか?

成山:いや、日常なんですよ。逆に歌ではそんなことしなくて。

―それはちょっと困りますね(笑)。

成山:日常会話って、別に盛るどころじゃないよね?

山内:うん、完全にウソだからね(笑)。

学生の頃から、あまり誉められることがなかったので。ただ誉められたかったのかもしれないですね。

―アーティスト活動は基本的に見られることが前提じゃないですか。見られるのが好きじゃないのに音楽をやってるのは、やっぱり音楽をやることのほうが、その恥ずかしさより強かったということですよね?

成山:なんだろうな、学生の頃から、あまり誉められることがなかったので。誉められたのは音楽くらいだったと思うんですよね。そういう体験って大きいじゃないですか。だから、ただ誉められたかったのかもしれないですね。

―ちなみに音楽を始めたきっかけはなんだったんですか?

成山:なんかリンクしたなと思うのは、小学校の学芸会で、ひとりで歌わされる役目になったことがあって。親戚の結婚式から帰ってきたら、「成山くん歌ってるとき声が大きいよね」くらいの感じで勝手に決められてて。

―いないからこいつにしちゃえみたいな(笑)。

寒さから育った温もり sleepy.abインタビュー

成山:そこから1ヶ月くらい、ひとりで体育館の校長先生が立つようなところで練習させられたりして。まわりが部活やってるなか、毎日泣きながら歌ってたんですよ。けっこう大きい学校で、1000人くらい生徒がいたんですけど、本番はそれに保護者とかお客さんもいて、すごい人の数で。そこで思い切って歌ったときに、お客さんがうわっ! って拍手をくれたんですよ。それでもう自分は、しびれる感じというか、ひくひくしてる感じというか。


―それは何歳のときですか?

成山:小学校5年生ですね。でも、それから音楽と絡むことがなかったんですよね。中学でも高校でも。で、高校卒業を控えて、進路を決めるときに、人よりすぐれたところなんてあったかなぁと考えて。

―学生時代にバンドやってたわけじゃない?

成山:そうですね。

―ギターを弾いたりは?

成山:弾いてないですね。

―えっ、まったく?

成山:はい。専門学校に行ってからですね。その小学校のときの話以来、人前で歌ったこともほとんどなくて。

―それで音楽の専門学校に行こうと思ったんですか?

成山:それしかなかったんですよ。人よりちょっとでもいい経験をしたとかっていうレベルのことは何もなくて。勉強もそうでもないしなって思ったときに、逆に賭けですよね。

―ものすごい度胸ですよね。

成山:いま考えたら絶対にありえないんですよ(笑)。根室から札幌に行くだけでも10時間かかるし、そこにひとり暮らしをするとか、いまの発想ではできないですよね。

専門学校で素人だったのは俺と山内だけで。ドレミファソラシドからやってた。

―ものすごい人生歩んでますね(笑)。

成山:山内もまったく音楽経験がなくて。水産高校だったんですよ。

―水産高校!?

成山:缶詰を作りたいって。

山内:そうですね。

成山:だって、水産高校って、包丁さばきとか、魚の名前のテストとかなんですよ。

山内:そうです。包丁とぐのがすごい好きで(笑)。

寒さから育った温もり sleepy.abインタビュー

―ははははは(笑)。

成山:なんで音楽を?

山内:よく遊んでた友達が大学に行くとか言いだしたんですけど、そういう進学系の本を見たら、音楽の学校なんてあるんだ!?みたいになって。しかも、自分みたいな人間でも行けるっぽいことに気付いて。それで音楽やりたいと思って。

成山:ギターすら持ってなかったんですよ。

―それでギター科みたいなところに入ったんですか?

山内:そうですね。ギターをやってみたかったんですよ。

成山:専門学校って、各地のエキスパートみたいな人たちが来てたりするんですよ。

―そりゃそうですよ。

成山:みんな中学高校からやってる、ソロとかワーッと弾けちゃうような人が来てて。そのなかで素人だったのは俺と山内だけで。ドレミファソラシドからやってたから。山内はひとりだけ残されてたよね。

山内:最初はエレキギターとかわからなくて。

成山:エレキとアコギの違いも知らなかったんですよ。みんなエレキを持ってるのに、山内だけ間違って普通のアコギを買っちゃって。ソロまわしをみんなで弾く授業があったんですけど、山内だけアコギだから、みんな音を小さくして、山内の音量に合わせて(笑)。

―そこから始めてメジャーデビューしてるって、本当にすごいですね!本当に驚きました。その後の話をもうちょっと聞いてみたいですが、時間もあるので次の質問にいくと、sleepy.abはこれからも北海道在住で活動されるんですよね?最終的にはどこに辿り着きたい?

山内:なんだろう…。ライブとか、ここでやりたいなと思っても、いろんなお金がかかったり、いろんなことで無理な場所とかあるじゃないですか。

成山:例えば?

山内:函館の山の上とか。そういう景色がきれいなところでやってみたいんですけど、山の上にどうやって機材を持っていくのかとか、現実問題がよくわかんないんですよ。そういうことを考えなくても、やりたいことをなんでもできるようになりたいです。

成山:アコースティックツアーでいろんな場所でやったんですよ。プラネタリウムとか、酒蔵とか。なんか、その場所の空気とか、力みたいなものを一緒に感じて、それがまたおもしろくて。そういう意味でも、北海道でのライブにも、全国からお客さんに来てもらえるようなアーティストになれればいいなと思うんですけどね。

―sleepy.abが東京に出てくるんじゃなくて、お客さんが北海道にsleepy.abのライブを観に行くような。

成山:そうですね。いまでも北海道で観てみたいっていうのは、みんな言ってくれるので。現にKitaraっていうクラシックホールで、弦を入れてやったときは、各地から観に来てくれた人もいたし。それがもっと大きくなればうれしいですね。

イベント情報
『Mother Goose Tour』

2011年4月5日(火)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:新潟県 CLUB RIVERST

2011年4月6日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:石川県 金沢 VANVAN V4

2011年4月8日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:大阪府 AKASO

2011年4月9日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:愛知県 名古屋 APOLLO THEATER

2011年4月16日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:福岡県 福岡 ビブレホール

2011年4月17日(日)OPEN 16:30 / START 17:00
会場:岡山県 岡山 CRAZYMAMA 2nd ROOM

2011年4月20日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 HooK

2011年4月23日(土)OPEN 17:45 / START 18:30
会場:北海道 札幌 道新ホール

2011年4月29日(金・祝)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 東京グローブ座

2011年4月30日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:東京都 東京グローブ座

リリース情報
sleepy.ab
『Mother Goose』

2011年2月23日発売
価格:2,500円(税込)
PONY CANYON / PCCA-03352

1. 街
2. ドングリ
3. 君と背景
4. マザーグース
5. かくれんぼ
6. Maggot Brain
7. エトピリカ
8. シエスタ
9. way home
10. トラベラー
11. 夢織り唄
12. アルフヘイム

プロフィール
sleepy.ab

札幌在住の4ピースバンド。シンプルに美しいメロディ、声、空間を飛び交うサウンドスケープで「absolute」な音世界をすでに確立している。国内外アーティストからも注目され、『ARABAKI ROCK FES』、『RISING SUN ROCK FES』、『SUMMER SONIC』、『RUSH BALL』、『FUJI ROCK FES.』などの大型フェスにも出演。



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