外から見た日本の文化 スコット・マーフィー インタビュー

3.11に日本を襲った東日本大震災のニュースは、言うまでもなく世界中に広がり、日本を愛するアメリカ人の元へも届いた。2001年にバンドのメンバーとして初めて日本を訪れたスコット・マーフィーは、日本人の人柄と、アメリカともヨーロッパともまったく異なる日本の文化に魅せられ、独学で日本語を習得、現在までに『GUILTY PREASURES』と題されたJ-POPのカバー集を多数発表している他、オリジナルの作品も発表している。今回はシリーズの最新作、アニソンをカバーした『GUILTY PREASURES ANIMATION』の発表に伴い、改めてスコットと日本の関係を話してもらったのだが、やはり語気を強めたのは震災について話が及んだときだった。世界中が日本を見守っていることを、僕らは今一度再認識すべきだと思う。

バンドでいろんな国に行ったけど、日本に来て初めて、自分が外人だって感じて。

―スコットは2001年にALLiSTERのメンバーとして初めて来日したんですよね?

スコット:そうなんですけど…実は、3~4歳のときに、空港だけ(笑)。

―あ、トランジットね(笑)。でも日本に興味を持つようになったのは2001年に来たときですよね。ちなみに、それ以前は日本に対する知識ってあったんですか?

スコット:全然知らなくて、日本といえば任天堂とかアニメーション、忍者、侍、芸者っていうイメージだった。だから実際来てみて芸者がいなくて、びっくりした(笑)。

―(笑)。そんな中で日本のどんな部分に魅せられたのでしょうか?

スコット:最初は日本人の熱さとか、優しさ。日本ではALLiSTERのアルバムはまだ出てなかったのに、空港に着いたらファンが待っててくれたし、ライブをやったら、英語がしゃべれないのに歌詞を全部歌ったりしてて、すごくびっくりした。レーベルの人とかライブハウスの人もすごく優しくて、次のツアーまでにみんなとしゃべれるようになりたいと思って、日本語を勉強しました。

―独学で勉強したんですよね?

スコット:はい。でも、まだそんなに上手じゃない。

外から見た日本の文化 スコット・マーフィー インタビュー
スコット・マーフィー

―いやいや、こうして会話ができてるんだからすごいですよ。日本に住んでいたわけでもないんですよね?

スコット:最近は頻繁にアメリカと日本を行ったり来たりしてるけど、住んだことはないです。僕はバンドで世界中いろんな所をツアーで回ってて、移動時間が長かったから、そのときに日本の本とか映画なんかを見て勉強してました。

―アメリカ以外のいろんな国に行ってるのに、その中でも日本は特別だったんですか?

スコット:そうですね。僕のお父さんは航空会社で働いてるから、子供の頃からいろんな国に行ったりしてるし、もちろんバンドでもいろんな国を回ったんだけど、日本に来て初めて、自分が外人だって感じて。「これ何?」「何でそうやってるの?」ってどんどん質問が湧いてくるくらい、欧米と日本の文化が違うんです。その違いをわかりたくて、言葉だけじゃなく、文化も勉強しました。

―最初は日本のどんなところにびっくりしましたか?

スコット:「そんなに自動販売機はいらないんじゃない?」と思いました(笑)。何でも買えて、すごい面白い。あと、何をしても日本人が「すいません」「ごめんなさい」って言ってて、何もやってないのに、何で謝ってるのか不思議でした。

―ああ、それは日本人独特ですよね。じゃあ、日本食はどうでしたか?

スコット:寿司とか刺身は食べたらすごいハマりました。2001年に居酒屋に行ったのは今でもよく覚えてて、すごいちっちゃいプレートでいろんなものが出てきて、「これなに? これなに?」って(笑)。シシャモとか「え? 妊娠してるの?」ってすごく不思議だった。

―シシャモはすぐに食べれました?

スコット:最初はバンドのメンバーと、「誰か食べてみて!」「えー、こいつ ホントに食べた!」って感じだったけど(笑)、食べたらホントに美味しかった。

―僕ちなみにシシャモちょっと苦手なんです(笑)。あの食感が…

スコット:美味しいけど、ちょっと寂しい…妊娠してるのに…ごめんなさい(笑)。

2/4ページ:僕はいろんなことをやりたいから、もしも日本に住んで、カバー曲をやるだけだったら困るかもしれない。

僕はいろんなことをやりたいから、もしも日本に住んで、カバー曲をやるだけだったら困るかもしれない。

―そんな中で日本の音楽、J-POPにも魅力を感じたんですよね?

外から見た日本の文化 スコット・マーフィー インタビュー

スコット:最初は曲のメロディに乗ってる日本語の歌詞の響きが新鮮だった。メロディはすごくわかりやすくて、一回聴いただけでもすぐに覚えられるし。今日もずっとAKB48の“ヘビーローテーション”がしつこいくらいに頭の中で鳴ってて(笑)。


―じゃあ、次の『GUILTY PREASURES』には“ヘビーローテーション”が入るかもしれないですね(笑)。

スコット:アメリカでは100%英語の曲しか流れないから、初めて違う国の言葉でもいい曲があるんだなって思ったんです。

―日本の曲がアメリカで売れるためには、やっぱり言語の問題は大きいですよね?

スコット:それはそうだと思う。アメリカにもすごいいっぱいバンドがいて、いろんな音楽があるから、歌詞のわからない音楽にはなかなか手が出ないと思う。

―でもスコットはいいと思ったんだよね?

スコット:うん、聴いたことない感じで、すごい新鮮だった。

―スコットみたいにJ-POPを気に入ってくれる海外のビッグアーティストも時々いて、例えば、Weezerのリヴァース・クオモとかがそうなんですよね。

スコット:リヴァースと今一緒に曲を書いてるよ。

―え! そうなんですか!

スコット:先週までロスでレコーディングしてました。とりあえず、一緒にアルバム作ってみようかって。

―それは英語ですよね?

スコット:日本語です。僕が全部日本語の歌詞を書いてます。

―へー、それはすごい! 今回の『GUILTY PREASURES ANIMATION』にもオリジナルの“世界の果てへ~Around The World”が入ってるけど、日本語で歌詞まで書くっていうのはすごいですよね。

スコット:でも、すごく難しいです。

―普通にしゃべるのともまた違いますもんね。

スコット:そうです。でも日本語でライム(韻を踏むこと)はあんまりしないので、それは楽です。ただ英語ではライムしてるから、やっぱり日本語でもやりたい…

―そこまでできたら本当にすごいですよね。でもその一方で、アメリカの知り合いの中には、「スコットは日本で何をやってるんだろう?」って思った人もいると思うんですね。

スコット:うん、今でもいっぱいいると思う。

―やっぱりそこには葛藤がありましたか?

スコット:僕はいろんなことをやりたくて、今はALLiSTERが復活したからアメリカではそれメインにやってるし、リヴァースとのプロジェクトもあるし、日本ではカバーもオリジナルも出してる。もしも日本に住んで、カバー曲をやるだけだったら困るかもしれないけど、今はいろんなことができてるから、僕にとってはすごくいい状態なんです。

―「カバーの人」じゃなくて、いろんなことをやってる中で、カバーもあるっていう。

スコット:うん、それが一番いいです。僕の好きな曲を、どんなアレンジにしようかって考えながらカバーをするのはすごく楽しいけど、オリジナルを作るのもやっぱり好きだから、どっちもやりたくて。そのバランスが難しいんだけど。

―でも相乗効果もあるでしょうね。カバーがオリジナルに反映されることもあるだろうし。

スコット:そうですね。この前マイケル・ジャクソンの『スリラー』を丸ごとカバーして、マイケル・ジャクソンの歌い方に影響を受けて、その後に書いてる曲はもうちょっとエモーショナルな歌い方になってたりするかも。

3/4ページ:「気を使う」とか「空気を読む」とか、難しいです。アメリカ人はストレートに言うから。

「気を使う」とか「空気を読む」とか、難しいです。アメリカ人はストレートに言うから。

―今回の『GUILTY PREASURES ANIMATION』はタイトル通りアニソンのカバー集ですが、そもそも日本のアニメ自体に興味があったんですか?

スコット:最初は勉強のために日本の映画をいっぱい見てたんですけど、ジブリの映画を発見して、すごい好きになった。

―へえ、特に何が好きですか?

スコット:『もののけ姫』が一番好き。

―やっぱり日本独特のものを感じます?

スコット:ジブリはホントにいいと思います。絵もそうだけど、メッセージも入ってるし、すごく面白い。

―アルバムには『天空の城ラピュタ』の“君をのせて”も入っていますが、選曲はスコット自身がしたんですか?

スコット:全部自分で曲を決めて…あ、“創聖のアクエリオン”だけは最初知らなくて、でも昔の曲ばっかりじゃなくて、最近のアニメも入れたいと思って、インターネットで調べて。でも、アニメ自体はまだ見たことない(笑)。

外から見た日本の文化 スコット・マーフィー インタビュー

―“ブルーバード”にはアイドルグループのぱすぽ☆がフィーチャリングされていますよね。さっきAKB48の名前も出ましたが、日本のアイドル文化についてはどう思いますか?

スコット:不思議な感じ。アメリカではそういうグループはいないし、制服とかも日本独特。ヴィジュアル系とかもアメリカでは全然ないし。

―ヴィジュアル系も元々は海外のゴスから影響を受けてると思うんですけど、それが日本で独自に進化して、今では海外から見て不思議なものとして映るっていうのは面白いですよね。

スコット:そうだね。でも、その面白さは、いいかどうかとは別(笑)。

―(笑)。じゃあ、アイドルに限らず、日本人の女性の魅力はどこに感じますか?

スコット:繊細さかな…でも日本人でもアメリカ人でもひとりひとり違うから…あ、でもアメリカ人の女の子の良さは、自分の思ってることをはっきり言うこと。ストロングで、自信を持ってる。

―日本人はもうちょっとはっきり言った方がいいと思う?

スコット:そう思うことはいっぱいある(笑)。日本人はホントに思ってることを言わなかったりするから、何を思ってるのか、いつもハテナ。僕が日本語をしゃべれるから、日本の文化も100%わかってるって思われることもあるけど、かなり難しい。「気を使う」とか「空気を読む」とか、難しいです。アメリカ人はストレートに言うから。

―日本人の悪い所であり、いい所でもあるんですけどね。

スコット:傷つけないように…

―そうそう、やっぱりよくわかってるね(笑)。じゃあ、あと“はじめてのチュウ”なんですけど、この曲はHi-STANDARDっていう日本のバンドもカバーしてて、結構定番のカバーだったりするんだけど、それは知ってましたか?

スコット:Hi-STANDARDのCDは高校生ぐらいのとき持ってたんですけど、レコーディングの後に「Hi-STANDARDもその曲カバーしてるよ」って言われて、聴きました。英語で歌ってるんですよね?

―そうそう。

スコット:同じ曲だけど僕のとは違うアレンジになってて、面白かった。

―Hi-STANDARD自体はアメリカにいるときから知ってたんですね。

スコット:「Fat Wreck Chords」っていうレーベルからCDが出てて、高校生の頃はそこから出たバンドのCDは全部買ってました。パンクファンの中で、そのレーベルの存在はあまりにすごかったんです。

4/4ページ:あの日(震災の日)はすごい携帯にメッセージと電話があって、9.11のときのことを思い出しました。

あの日(震災の日)はすごい携帯にメッセージと電話があって、9.11のときのことを思い出しました。

―震災のことも聞いてみたいんですが、当日は日本ではなくアメリカにいたんですよね?

スコット:そうです。何かしたいってすごく思って、できる事がないか考えてみて、結局アメリカでライブをやって、そのお金を東北に送りました。

―アメリカでもチャリティ活動は活発ですか?

スコット:うん、今でもいっぱいある。お店とかに箱があって、お金入れたらレッドクロス(赤十字)に送るっていうのは多いし、『Songs For Japan』っていうCDも出てるし。

―スコットもチャリティアルバムに参加してましたもんね。あと今回の震災を受けて、日本人の礼儀正しさが海外でよく報道されてるという話を聞くのですが、実際どうなのでしょう?

スコット:それはアメリカのニュースでもいっぱい言ってる。アメリカ人だったらもっとパニックになったり、食べ物を盗んだりしているだろうけど、日本人はすごく偉いっていう情報が結構あります。

―そっかあ。スコットは日本に詳しいって周りの人にも知られているだろうけど、いろんなことを聞かれたりしたんじゃないですか?

スコット:うん、いつも日本とアメリカを行き来してるから、あの日はすごい携帯にメッセージと電話があって、「今日本にいるの?」ってみんながすごい心配してくれて。実は9.11のときにはニューヨークにいて、そのときもすごいメッセージが来たんですね。そのときのことを思い出しました。

―へえ、それはすごく不思議な体験でしたね。被災地も少しずつですが復興しつつあるので、今度はライブとかで、ぜひ日本を元気づけてほしいです。

スコット:うん、これから何かできれば、ぜひやりたい。

―では最後に、これからスコットが日本で叶えたい夢があれば、教えてもらえますか?

スコット:うーん…日本に来て、全国40ヶ所ぐらいツアーやったり、『SUMMER SONIC』にも2年連続で出れたし、『HEY!HEY!HEY!』にも出たし(笑)、カバーアルバムも5枚出して、幕張メッセでELLEGARDENと一緒に3万人の前でライブをやって、ホントに夢みたいな感じで…だから、最後は紅白かな(笑)。

リリース情報
スコット・マーフィー
『GUILTY PLEASURES ANIMATION』

2011年6月29日発売
価格:2,000円(税込)
UPCH-1838 / ユニバーサルJ

1. サザエさん
2. おどるポンポコリン
3. はじめてのチュウ
4. ブルーバード feat. ぱすぽ★
5. ルパン三世のテーマ'78
6. タッチ
7. 創聖のアクエリオン
8. 君をのせて
9. およげたいやきくん
10. 世界の果てへ ~Around The World【~Scott Murphy Original Song】(ボーナストラック)
※ジャケット写真 ©伏見つかさ/アスキー・メディアワークス/OIP/

『GUILTY PLEASURES DVD2 SCOTT MURPHY JAPAN TOUR –GOOD BYE 2010 SPECIAL NIGHT-』(DVD)

2011年6月29日発売
価格:3,500円(税込)
UPBH-1283

プロフィール
スコット・マーフィー

アメリカ・シカゴ出身、在住のロックミュージシャン。1995年にメロディック・パンクバンド「ALLiSTER」を結成し、2001年にジャパンツアーで日本初来日し、これをきっかけに日本に恋をし、独学で日本語を猛勉強し、2006年に現在のJ-POPカバーアルバムの前進である『GUILTY PLEASURES』をALLiSTERとしてリリースし、じわじわとロングヒットをし20万枚をセールス。その後、ソロである「SCOTT MURPHY」名義でリリースした、4作の日本語カバーアルバムはトータルで50万枚を突破するセールスで話題を呼んでいる。2011年初となる作品は日本が世界に誇る文化である「アニメ」に焦点をあてた、アニメソングのカバーアルバムとなっており、レーベルメイトでもあるアイドルグループ「ぱすぽ☆」とフィーチャリグした“ブルーバード feat.ぱすぽ☆”も収録される。この夏は北海道でおこなわれる『JOIN ALIE』にSPARKS GO GOとタッグを組んで出演することが決定している。



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