MiChi×近藤麻由(アートディレクター)対談

エレクトロ、ロック、ポップスを縦横無尽に駆け巡るサウンド、バイリンガルを活かした独自の言語感覚で、2008年に彗星のごとくシーンに登場するや、瞬く間に次世代のポップアイコンとして注目を集めたMiChi。翌年リリースされた1stアルバム『UP TO YOU』は10万枚を超えるヒットを記録し、その後もシングルのリリースこそ続けていた彼女だったが、2ndアルバムの完成には実に2年半という歳月を費やした。その間、「気持ちが落ちた時期もあった」と語る彼女が『THERAPY』と名付けたアルバムは、さらにセンスを磨いたサウンドが輝きを増す一方で、困難を乗り越え再び前を向いた心の動きが手に取るように伝わってくる作品となっている。また、そうした彼女の内面はアートワークにも現れており、歌詞と絶妙にリンクした写真で構成されたブックレットも、アルバムの世界観を感じるうえで欠かせないアイテムとなっている。ファッション系のアートディレクションを数多く手掛け、DJとしても活躍する今作のジャケットデザイナー・近藤麻由にも加わってもらい、ジャケット制作の裏側を中心に今作について語ってもらった。

MiChiちゃんって、女性的でいて、逞しさもあって、でもセンシティブで。すごく現代の女性が共感できるとアーティストだと思う。(近藤)

―ふたりはもともとお知り合いだったんですか?

近藤:私が一方的にMiChiちゃんのことを知っていたんですよ。パーティーでお見かけしたりとか、楽曲も知っていたし。

MiChi:MiChiも「PUNKADELIX」(近藤のDJ活動の際のプロジェクト名)知ってたよ!

―お互い知ってたけど、声はかけてなかったんですね(笑)。近藤さんがMiChiさんのジャケットを手掛けられたのは、昨年のシングル『Find Your Way』『TOKYO NIGHT』に続いて3回目になりますけど、そもそもなぜ近藤さんにオファーを?

MiChi:やっぱり、センスがいいから…(照)。彼女がやってるものに対して、すごくいいなと思えたし、同じような感覚を持っていると思ったんです。今回もいろいろアイディアを出してきてくれたんですけど、それを見て「あ、もうバッチリ!」「それ超好き!」みたいな感じだったし。

MiChi
MiChi

―近藤さんはオファーを受けたときは、MiChiさんに対してどんなイメージを?

近藤:底知れぬイマジネーションを感じましたね。私は普段ファッションの仕事でモデルさんの撮影が多いんですけど、やっぱりファッションとはエネルギーの種類が違うんです。その人自身から生まれるものっていうか。服とかじゃなくて、結局は本人のパワーみたいな部分が前に出てくるんです。それで、『Find Your Way』のときに、MiChiちゃんの好きなPVを見せてもらったり、好きな洋楽を聴かせてもらったりしてたんですけど、すごくファッショナブルでかっこいいイメージに加えて、ちょっとスピリチュアルなイメージがあったんですよね。それが強く印象に残ってて。そういう要素をジャケットのビジュアルでも表現できたらなって思いました。

近藤麻由
近藤麻由

―今回のジャケットは写真を中心に構成されてますけど、どんな方向性にしようと?

近藤:私は写真がよかったら、極力デザインはシンプルにしたいっていうところがあって。わりと引き算タイプなんですよね。だから、そもそもグラフィックで作り込もうとは全然考えてなくて。MiChiちゃんのいまの等身大の女性像をシンプルに出したいなって。MiChiちゃんって、女性的でいて、逞しさもあって、でもセンシティブで。すごく現代の女性が共感できるとアーティストだと思うんです。

2/4ページ:東京の人って、なんか雑多な感じというか、いろんなものがあって。それがいまのリアリティというか。で、MiChiちゃんもすごいそういう部分があるなと思ってて。(近藤)

普通の人が見たらわからないくらいの違いなんだけど、発するメッセージが全然違うんですよね。(MiChi)

―スタイリストやフォトグラファーも、近藤さんが決めたんですか?

近藤:そうですね。私から提案させてもらって、MiChiちゃんにもその人たちの作品を見てもらって。今回はフォトグラファーは男性で、スタイリストは女性なんですけど、男性が見るMiChiちゃん像と、女性が見るMiChiちゃん像がうまくミックスされたかなって。

MiChi:写真を撮ってくれたTISCHさんは、『Find Your Way』でも撮ってくれてるんだけど、その前から気になってたんですよ。だから、麻由ちゃんがTISCHさんの名前を出したときに、「絶対彼がいい!」って。

近藤:絶対2人は合うなと思ってたの。撮影のときも、私が放っといてもいいセッションになってて。自然を切り取ってる感じというか。今回のジャケに関しては、ブックレットのなかでそういう写真を多く使ってるんですけど、本当にいい表情がいっぱい撮れてて。選ぶのが大変だった(笑)。

MiChi:大変だったねー。超時間かけてみんなで選んだんですよ。

―この写真が表紙になったのは、何が決め手だったんですか?

MiChi『THERAPY』ジャケット
MiChi『THERAPY』ジャケット

MiChi:バランスはね、もちろんあるけど。

近藤:やっぱり表情かな。

MiChi:目、大事だよね。

近藤:強さもあるけど、なんか抜けてる感じがあるのがいいなって思いました。

MiChi:他の候補もあったんだけど、それはちょっと目がパッチリしすぎて、かわいい方向に行ってたので。たぶん、普通の人が見たらわからないくらいの違いなんだけど、発するメッセージが全然違うんですよね。

東京の人って、なんか雑多な感じというか、いろんなものがあって。それがいまのリアリティというか。で、MiChiちゃんもすごいそういう部分があるなと思ってて。(近藤)

―MiChiさんからリクエストしたことは?

MiChi

MiChi:これまでのMiChiのジャケットはビビッドな感じが多かったんだけど、もう27才になるから、ちょっとやさしめにというか、大人っぽさを意識したかった。だから、あんまりハードになりすぎず、かわいくなりすぎず、バランスを取りたいなって。だから、すごくきれいなドレスを着てるんだけど、そのまま1枚で着るんじゃなくて、その上から男性っぽいテーラードジャケットを着て、ちょっとバランスを崩したり。もともと崩すファッションが好きなんですけど、左手に旅人みたいな感じでミサンガをたくさんつけたり、髪の毛もボサッとさせてみたり。そういう細かいバランスはすごい話し合ったんですけど、基本的に麻由ちゃんと同じポイントで「あ、いいね」ってなれたんですよね。だからすごくやりやすかった。

近藤:例えば『Find Your Way』のときは、足下をわざと裸足にしたんですけど、都会的なMiChiちゃん像に、土っぽさというか、人間っぽさみたいなものを入れたいなと思ったんですよね。それで、今回はちょっと民族的なモチーフだったり、本人の私物をミックスして。そういうミックス感って、東京の人っぽいなと思うんですよね。東京の人って、なんか雑多な感じというか、いろんなものがあって。それがいまのリアリティというか。で、MiChiちゃんもすごいそういう部分があるなと思ってて。

―そういうミックス感は音楽にも出てますよね。ストレートなダンスミュージックもあれば、バンドであるthe telephonesとコラボしたり、アコースティックな曲もあったり。

近藤:この表紙の『THERAPY』の文字も、MiChiちゃんに書いてもらったんですよ。フォントをどうしようかって、ちょっと悩んで。『THERAPY』っていう言葉にしっくりくる、いわゆるパソコン上の文字っていうのが、自分のなかでイメージできなかったんですよね。それで、撮影現場でMiChiちゃんにお願いしたら、すごいいっぱい書いてきてくれて。ちょっと組み合わせ少し変えたりして。

MiChi:これ、組み合わせ変えてたんだ! MiChiも知らなかった(笑)。『THERAPY』って文字が意外と難しくて、50回くらい書いたんですよね。選ぶの大変だったと思うんだけど、すごいバランスいいよね。「MiChi」っていうゴシックのフォントと、手書きの「THERAPY」と、まさにこのドレスとジャケットみたいな感じ。決めてるけど、どっかで崩すみたいなバランスがすっごい好きだった。あと、昔インディーズで出した『MiChi MadNesS』っていうCDのジャケットも全部手書きなんですよ。なんかそこにリンクした部分もあったし。人間味が出るよね、この手書きな感じが。そこは「あ、さすが!」と思いました。

3/4ページ:「みんなはこういうふうに思ってるんだな」とか、「こういう悩みを抱えてるんだな」っていうのは、聞いててすごくインスパイアされるんですよね。(MiChi)

「みんなはこういうふうに思ってるんだな」とか、「こういう悩みを抱えてるんだな」っていうのは、聞いててすごくインスパイアされるんですよね。(MiChi)

―アルバムのタイトルやジャケットにも関わってくると思うんですけど、今回の作品で発したかったメッセージは?

MiChi:今回、アルバムができるまで、けっこう時間がかかったじゃないですか。いろんなことを感じながらここまできて、気持ちが落ちたときもあったんだけど、そこから抜けるために自分にいろんなセラピーを与えてきたんですよ。人と話すことだったり、音楽で救われたり、あとは「何もしない!」って宣言して、本当に何もしなかった時期もあったし。いまそれを抜け出せて、アルバムができて、今度は私の曲を聴いてくれた人に、「ちょっと楽になったな」とか、「やっぱりもうちょっとがんばってみよう」とか、自分なりのセラピーみたいなものを感じ取ってもらえたらいいなって。

MiChi

―そういう話はジャケットを作る前に聞かれたりしたんですか?

近藤:そこまでは聞いてないですね。ただ、曲はひと通り聴いて、歌詞も読んだりして、けっこう深いところにいってるなっていうのは思ってましたけど。メッセージはすごくポジティブなんだけど、そこに行き着くまでに紆余曲折があったんだろうなって。深さのあるポジティブ感っていうか。だからビジュアルも、そういう人としての深みみたいなものを出していかないといけないなって。

―僕、いままでMiChiさんを何回か取材させてもらってるんですけど、けっこう悩みがちなイメージがあるんですよ(笑)。

MiChi:そうだね。ちょっとはマシになったよ(笑)。

―でも、悩めば悩むほどいい曲が出てくるアーティストだと思うんです。やってる側は苦しいと思いますけど(笑)。今回の作品でも、本当にたくさん悩んだと思うんです。でも、世の中には他の人が歌ってもいいような曲っていっぱいあると思うんですけど、 MiChiさんの歌は、悩んで悩んで、最終的に抜け出せたからこそ、MiChiさんじゃないと歌えない言葉になってるというか。そこが聴いていてグッとくるんですよね。

MiChi:ありがとうございます。

近藤:でも27才とかって、悩んだり抜け出したりが激しい年じゃないですか。私もそうだったけど。同世代の女の子はすごく共感するんじゃないかな。

―アルバムのなかでも、女の子の悩み聞いてるような曲がありましたよね。

MiChi:あー、“YEAH YEAH YEAH!!!”ね。それは友達から来たメールをそのまま歌詞にした感じなんだけど、いまイギリスに留学してて。やっぱり同じ年でも仕事とか違うし、悩みも変わってくるじゃないですか。「やりたくない仕事やってどうしよう?」とか、「夢はあるけど、もう諦めようか、でも…」とか、「じゃあ、結婚するか」とか(笑)。

近藤:結婚とか考えるお年頃だよねぇ。

MiChi:友達からそういう相談を受けることも多くて。「みんなはこういうふうに思ってるんだな」とか、「こういう悩みを抱えてるんだな」っていうのは、聞いててすごくインスパイアされるんですよね。

―近藤さんもMiChiさんくらいの年の頃って、悩みとかありました?

近藤:めちゃくちゃありましたよ。会社やめてフリーになったのが、ちょうど26〜27才だったので。20代で独立して、アートディレクターと言ってもなかなか大変だし、自分の技量とかも追いついてないし。これでいいのか? とか、いろいろ悩みましたよ。男性関係もそうだし(笑)。

MiChi:そのくらいの年が転換期になる人って、けっこういるよね。

近藤:いまの話を聞いて、その頃のことを思い出しましたね。今度“YEAH YEAH YEAH!!!”を聴くときは、ちょっと違って聴こえるかも。

4/4ページ:アートワークも全部含めて、ひとつの作品として見てほしいですよね。全部リンクしてるので。(MiChi)

アートワークも全部含めて、ひとつの作品として見てほしいですよね。全部リンクしてるので。(MiChi)

―いままでと「これはやり方が違うな」と思ったものはありました?

MiChi:麻由ちゃんもそうだし、TISCHさんもそうだけど、ファッション系のチームだったところですかね。でも、アーティストとして見せるっていうのにすごくこだわってくれて。

―そういうのは、近藤さんがDJとしても活動されてることも大きかったりするんですか?

近藤麻由

近藤:どうなんでしょうね。よくインタビューとかで、DJとアートディレクションのリンク感を聞かれるんですけど、たぶんアートディレクターだけやってたら、MiChiちゃんみたいな世代の女の子たちにはなかなか出会えないと思うんです。DJをやっているお陰で、そういう人たちとリアルに出会えるのが、自分的にはプラスになっていて。私は雑誌とかほとんど見ないんですけど、その子たちがいま、どういうファッションが好きで、どういう音楽が好きで、どういう髪型が好きとか、そういうのがリアルにわかるという部分で、すごくプラスになっていると思うんですよね。

―アルバムに関して、DJ目線で気になる部分はありました?

近藤:ダンスミュージックがすごく好きなんだなっていうのは、楽曲を聴いてもわかりますよね。MiChiちゃんはまわりのお友達にDJの子も多いから、パーティーで会ったりもするし。

MiChi:この前もバッタリ会ったよね。MiChi、けっこう激しく酔っぱらってたけど(笑)。

近藤:あと、DJ目線じゃないけど、個人的に“THERAPY”はグッときましたね。ポエティックな歌詞っていうか。若い人でも書けないし、大人すぎても書けないしっていう感じ。

―歌というより、「語り」に近い感じの曲ですよね。

MiChi:“THERAPY”はMiChiのなかでも新しかったね。初めてやってみたけど、こういうアンビエントな曲調もすごい好きだし、これからへのヒントになる曲かもしれない。Next StepのMiChiみたいな。

近藤:それと、“もっと。”も好きだったんですよ。この歌詞とこの写真が、私のなかですごいリンクしてて。ブックレットでは、この曲のページにこの写真を絶対に合わせたいと思ってたので。

『THERAPY』ブックレット
『THERAPY』ブックレット

MiChi:うん、ここMiChiもいいなと思った。このレイアウトとか。自分のなかでも大事な曲なので。

―歌詞の意味と写真もリンクさせて?

近藤:そこはけっこう考えましたね。“YEAH YEAH YEAH!!!”のページの写真もすごく気に入ってて。ちょっと少年っぽい感じとか。

『THERAPY』ブックレット
『THERAPY』ブックレット

MiChi:確かに。ちょっと動きのある感じとかね。

―買った人には、歌詞の意味と写真を照らし合わせながら見てほしいですね。

MiChi:そういうのって、作ってる側じゃないと絶対にわからないじゃないですか。どういう思いで作ってるかとか、どこまでこだわってやってるかとか。アートワークも全部含めて、ひとつの作品として見てほしいですよね。全部リンクしてるので。

リリース情報
MiChi
『THERAPY』

2012年3月21日発売
価格:3,059円(税込)
Sony Music Associated Records / AICL-2349

1. MadNesS Vol.3
2. TOKYO NIGHT
3. LOVE is.
4. Together again
5. YEAH YEAH YEAH!!!
6. Special Someone
7. WoNdeR WomaN
8. Light Up
9. Take It Easy!
10. もっと。
11. Find Your Way
12. THERAPY
13. ONE

プロフィール
MiChi

2008年Sg『PROMiSE』でメジャーデビュー。インディーズ時代のiTunesでの実績、CMソングとして起用されたこともあり大ヒット。2009年1st AL『UP TO YOU』をリリースしオリコン4位を記録。同年のファーストツアーは全会場SOLD OUT。その後も精力的にSGをリリースし、2012年2月2nd ALをリリース。

近藤麻由(MAYU KONDO)

アートディレクター、クリエイティヴディレクターとして、アパレルメーカーのクライアントを中心に広告やカタログのファッションヴィジュアル撮影のディレクション、グラフィックデザインを手掛け国内外に於いて活動している。また、「PUNKADELIX」名義でDJとしての顔も持つ。2010年より自身によるインディペンデント誌"RUBYPAPER"を発行し、2011年9月1日に第二弾となるissue02をリリースした。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • MiChi×近藤麻由(アートディレクター)対談

Special Feature

coe──未来世代のちいさな声から兆しをつくる

ダイバーシティーやインクルージョンという言葉が浸透し、SDGsなど社会課題の解決を目指す取り組みが進む。しかし、個人のちいさな声はどうしても取りこぼされてしまいがちだ。いまこの瞬間も、たくさんの子どもや若者たちが真剣な悩みやコンプレックス、生きづらさを抱えながら、毎日を生きている。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて