『天才の孤独』(後編) 吉岡哲志が陥った「方向喪失」

京都の豊饒なる音楽シーンを象徴するような大所帯バンドLLama。しかし、実はその中心人物=吉岡哲志にとって、京都は決して居心地のいい場所ではなかった。ストイックで天才肌の吉岡が抱える孤独にスポットを当て、メンバーの半数が入れ替わりながらも、彼らが4年ぶりの新作『インデペンデンス』を発表するまでの道のりを、ライターであると同時にバンドマンでもある筆者が綴っていく。

前編はこちらから

ライク・ア・ローリング・ストーン

京都の音楽コミュニティを象徴するような大所帯バンドLLamaの中心人物であるにも関わらず、実は人付き合いが苦手な吉岡哲志。2008年に「音楽的にやりたいことをやり切った」と語るファースト『ヤヲヨロズ』を発表後、バンドの方向性を見失うと共に、メンバーの脱退が相次いだことから、一度はバンドの解散を決意する。しかし、「最後のライブを全部新曲で」というひょんな思いつきから生まれた楽曲“インデペンデンス”が、思いもよらずバンドの新しい方向性を指し示す曲となっていた。

そこで吉岡は、最初期からのパートナーである藤井との相談の結果、やめるつもりだったLLamaを続ける決意をし、ライブはひとまず置いておいて、できあがった曲をとりあえず形にしてみようという結論に至る。そこでドラマーとして声をかけたのが、吉岡がPAをしていたライブハウスの厨房にいた石渡新平だった。CINRAでもインタビューを行っているバンドOUTATBEROなどでも活躍し、吉岡にはないポジティブさを持った彼の存在に後押しされ、吉岡はバンドに対するモチベーションを取り戻していく。そして、その頃には吉岡のバンドに対する考え方にも、少しずつ変化が表れ始めていた。

LLama
LLama

吉岡:バンドって人間がたくさん集まるわけで、良くも悪くもなるようにしかならないんだなって。以前8人でやっていたときは、僕が「こうあるべき」って統率しようとしてる部分もあったんですけど、その意識は完全になくなって、とにかく転がる方向に転がしてみて、その上でより良くしようっていう感じに変わってきましたね。

まさに、ライク・ア・ローリング・ストーン。バンドは転がる石であり、その行方はメンバー自身にもわからない。ならば、それがどう転がっていくのかを楽しむだけだ。この吉岡の意識変化はバンドにプラスに作用したようで、2010年の6月には、初のワンマンライブを行うまでにバンドの状態は回復していく。が、しかし。転がる石はよい方向に転がることもあれば、当然逆の方向に転がることもある。ワンマンを終え、「さあ、レコーディング」というタイミングで、今度はギタリストの井口翔太がバンドを去ることとなる。

この脱退は吉岡にとって大きな痛手だった。そもそも井口は吉岡がプールの監視員のバイトをしていたときの後輩で、まだ20歳前の、『YOUNG GUITAR』を愛読するハードロック好きだった井口に、「こういう音楽もあるよ」と新たな扉を開かせたのが吉岡だった。井口は徐々に吉岡に影響され、LLamaの活動とは別に、自分でも自分の音楽を作ろうと努力するなど、言わば吉岡の背中を見て育ってきていたのである。その彼が、「毎日音楽のことを考える生活に疲れた、もうやりたくない」と、音楽から離れて行ってしまったのだ。これが吉岡にとっていかにショックだったかは、僕には想像すらつかない。

ライブハウスの居場所は物販席

人付き合いの苦手な吉岡が、なぜ井口とは師弟のような関係性を築けていたのかと言えば、それは彼ら2人が似た者同士だったからである。つまり、井口も基本的に人付き合いが苦手なタイプだったのだ。ライブ後の打ち上げにも行かず、2人で時間をつぶすということもしばしばだったという。

吉岡:そういう人がバンドからいなくなって、ライブハウスで居場所がなくなっちゃったんですよ。演奏中はあるんですけど、それ以外の時間をどうしていいかわからなくて。お客さんとはすごい話してみたいんですけど、そんな社交的に話しかけられる感じでもないんで、物販のとこで話しかけられるのを待つ、みたいな。でも見てると、「あ、また新平のとこ行った」「あ、また立樹の方行った」って感じで、結局あんまり話しかけられないんです(笑)。

吉岡哲志
吉岡哲志

何を隠そう、僕自身も同じタイプだったりするので、物販に座っている吉岡の姿は容易に想像がつく。自己分析も含めて考えると、基本的にお酒に弱く(吉岡に確認はしてないものの、きっとそうなのでは?)、「ライブ終わった! さあ、乾杯!」という感覚があまりないというのもあるだろうし、あとこれは裏を返せば自分の音楽に対する自信の表れでもあるように思う。あまり表には出さずとも、きっとお客さんからのリアクションがあるに違いないと期待している自分がいるのだ。とはいえ、ミュージシャンとお客さんという壁は意外と高いもので、座っているだけではお客さんもそう簡単には話しかけてこない。と、おそらく吉岡もそれをわかっていながら、こういった行動を選んでしまうのだろう。

ともかく、それでも転がり始めた石は止まることなく、バンドはアルバムのレコーディングへと突入していくのである。

吉岡:(井口が抜けたときは)もうだいぶ僕もへそを曲げていて、ずっとネットゲームばっかりしてましたね(笑)。というか、僕個人で言えば、アルバムを作り終えるまで、ずっと混沌としてたんです。全部録り終えて、やっと「除霊してもらった」ぐらいの感じかもしれないですね。

2/2ページ:「孤立」から「確立」へ

「恥ずかしい」と思える感性の繊細さ

レコーディングを前にして、LLamaはもう1人の新メンバーを迎え入れることとなる。いつも練習しているスタジオで、「トランペット欲しいな」という話をしていたところ、「僕できますよ」と、スタジオのフロントから声をかけてきた竹内良太だ。しかし、実は竹内は小中学校の頃に「音を出したことがある」程度の素人。それでも、吉岡は彼をメンバーに迎え入れる。

吉岡:人が集まって転がっていく。それを良くしようって意識になってたから、「こいつが入ったらどこに転がるんだろう?」っていう、半ば投げやりな気持ちもあったんだと思います。変なとこに行くんなら、とことん行ってしまってもいいかなって。実際入ったときにはホントに下手だったんですけど、すごい頑張り屋さんで、目に見えて上達していったんですよ。「できる?」って聞いて、「やります!」って言われると、なんか信じられたんですよね。

こうして6人のメンバーが集まったLLamaは、いよいよアルバムのレコーディングに突入する。ここで『ヤヲヨロズ』のときと同様に、吉岡の作品作りへのストイックなまでのこだわりが顔を出す。アルバムのリリース元は、吉岡がエンジニアとして関わったPaperBagLunchboxの作品をリリースしているwondergroundからと決まっていたのだが、そのエンジニアとしてのギャラをすべてアルバムの制作費に当てたのだ。さらに、吉岡は当時働いていたウェブの会社も、レコーディングの前に辞めてしまう。もちろん、「音楽で食っていく覚悟を決めた」からではない。あくまで、「作るモード」だからだ。こんな大胆な決断に、怖さはないのだろうか?

吉岡:怖いっていうより、「恥ずかしい」っていう気持ちの方が強いですね。仕事を辞めて、貯めてたお金が尽きて、実家に帰ったんですけど、「吉岡さんとこの子、いつも家におるなあ」みたいな(笑)。音楽に集中する環境を作るためには、仕事をしてる場合じゃないっていうか、普通に会社に行って、周りに気を使いながらその日の仕事をこなすっていうサイクルの中で、アフター5で自分の音楽を作るっていうのは、僕にはできないんで。

 

もはや「ストイック」を通り越して「極端」というか、やはり天才型の発想だなあと、僕からすると思ってしまう。ただ、この「恥ずかしい」という気持ちは、実はとても重要なものだ。人見知りというのも、「恥ずかしい」という感覚が基にあるものだと思うが、この感覚は、表現をする人間にとって欠かせないものだと思うのだ。商売をする上では、「厚顔無恥」とまでいかなくとも、面の皮の厚いタイプが有利なのは間違いない。しかし、表現をする人間にとっては、「恥ずかしい」と思える感性の繊細さこそが、絶対に必要なのではないだろうか? 音楽を第一に考えて大胆な行動をとる傍らで、「恥ずかしさ」はいつまでも拭い去ることができない。僕はそこに吉岡の表現者としての魅力を見たようにすら思う。

「孤立」から「確立」へ

1枚目で音楽的にやりたいことをやり切り、「バンドは転がっていくもの、その上で何をするか」という考え方を得た結果、2枚目で向かった方向性は「外側に開かれているもの」だった。人付き合いは人一倍苦手だが、音楽に対する情熱は人一倍持っている吉岡は、自分の音楽をより多くの人に届けたいと考えるようになっていたのだ。

吉岡:音楽をやってる人は「LLamaすごいね」って言ってくれるんですけど、そうじゃない人に「いいなあ」とか「楽しい」って思ってもらえることの方が、僕にとっては大事だったんです。音楽的には色々凝ったことをしてるので、音楽をやってる人が聴いたら「面白い」とか「新鮮だ」って思うのは、「そりゃそうだ」と思うんですけど、それがリスナーの人にも届いてほしいと思って。

この目的に向かって、吉岡は自分の歌のあり方に関し、PaperBagLunchboxのレコーディングでの様子から、wondergroundの加藤孝朗にディレクションを求めた。それは技術的なことではなく、「第三者にどう聴こえるか」という、「向き」についてのやり取りが主だったという。それはきっと、シャイであるがゆえに内向きになりがちな吉岡の歌を、外側へと向かわせる作業だったのだろう。

そういった試行錯誤の末に、LLamaの4年振りとなる新作は完成する。まだリリースまでは多少の時間があるが、再びバンドを取り戻したことによって生まれた躍動感と、外側を向いた吉岡の歌が印象的な、素晴らしい作品であることを保証する。ウリチパン郡とROVO(もしくはBOREDOMS)が同居した、祝祭的で、スピリチュアルなポップミュージックとでも言っておこうか。アルバムタイトルには、LLamaを解散から救い、アルバムの1曲目に据えられた“インデペンデンス”がそのまま使われている。

吉岡:あの曲を書いたときはすごい落ち込んでて、(“インデペンデンス”というタイトルも)元々はすごい暗い意味というか、「この世界さよなら」ぐらいのつもりで書いた言葉なんです。でも、その意味合いが自分の中で変わってきてて、同じ言葉なんですけど、ネガティブな感じからポジティブな感じに向いてきてるというか。

―「孤立」ではなく「確立」に変わったという感じでしょうか?

吉岡:そうですね。旗を上げる力強さみたいなものがあると思うんです。

アルバムの発売日は7月4日。まさにこのアメリカの独立記念日が、LLamaにとってのインデペンデンス・デイになるだろう。

どう見られようとも構わない

この記事用のインタビューは、リリースよりもかなり早い段階で行われたものだが、今頃吉岡はアルバム用のインタビューをたくさんこなしている時期かもしれない。なにしろ、外に届けることを目的に作られた作品なのだ、メディアへの露出も多ければ多いほどいいだろう。とはいえ、同じように外側を向き、活動を活発化させた盟友のPaperBagLunchboxが、残念な形で活動を終えたことも、彼はすぐ近くで見てきている。プレッシャーは感じないのだろうか?

吉岡:僕は音楽を作るっていうことには自分の価値観や意志があるんですけど、それ以外の、例えば「どんな服を着たいか」とか、そういう価値観は全般的にあんまり持ってないんです。今後LLamaで露出していく中で、自分がどう見られたいとかも全くないので、「いや、なんでもやりますよ」ぐらいの感じなんですよね。自分が「こうしたい」っていうのは、音楽を作ったところで達成してるんで、それ以外にこだわりはないんです。

 

そう、サバサバと語る吉岡の表情は、彼自身が言ったように、まるで除霊でもされたかのようにさっぱりとしたものだった。バンドに対する考え方を見直し、外側に向いた音楽を作り始めた今の吉岡であれば、人見知りな性格も直っていきそうなものだが…

吉岡:いや、もう30なんで、いきなり人付き合いが上手くできるようになるとは思わないですね。だって携帯電話にも、バンドのメンバーと、益子(樹)さん(アルバムのマスタリングエンジニア)と、(山田)杏奈ちゃん(吉岡とのユニットpairで作品を8月発表予定)と、加藤さんと、数年振りに最近できた彼女ぐらいしか入ってなかったりするんで(笑)。自分と人が関係して起こることっていうのは、僕が「こうしたい」と思ってもそうならないことが多いんで、やっぱりその人と回り始めてから、「どこに行くのかな?」って感じなんですよね。

「あ、彼女はいるんだ」と心の中で突っ込みつつ、これから吉岡がどこへ向かって転がっていくのか、ますます興味深く思えたのだった。

イベント情報
LLama presents 『lla』in Tokyo

2012年6月13日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 O-nest
出演:
LLama
nhhmbase
nego
宇宙遊泳
料金:前売2,300円 当日2,500円(共にドリンク別)

ライブスケジュール

2012年5月25日(金)
会場:愛知県 名古屋 CLUB ROCK'N'ROLL

2012年5月31日(木)
会場:東京都 代官山 晴れたら空に豆まいて

『SAKAE SP-RING 2012』
2012年6月2日(土)
会場:愛知県 名古屋周辺会場
※LLamaはMUJIKAに出演

リリース情報
LLama
『方向喪失フェスタ 12418EP』

2012年4月18日からタワーレコード限定発売
価格:500円(税込)
wounderground / WRCD-58

1. 方向喪失フェスタ
2. ベラドンナ
3. 霹靂 -instrumental-(ボーナストラック)
※ライブ映像DVD-R特典付

LLama
2nd album『インデペンデンス』

2012日7月4日
価格:2,425円(税込)
wonderground / WOCD-59
全9曲収録

プロフィール
LLama

吉岡哲志、藤井都督、越智弘典、妹尾立樹、石渡新平、竹内良太、日下部裕一のPAを含む7人で活動中。構築と即興のコントラストで創造される世界観は、現代の日本で忘れられている日本固有のメンタリィティを感じさせる新しいポップミュージック。2008年6月にはメンバー自身の手によって録音から全てを手掛けられた1stALBUM『ヤヲヨロズ』をSundayTuningよりリリース。以降、KYTE(UK)との全国ツアーやPARAとの2マンライブなどで注目を集め、2010年6月には地元京都で初のワンマンライブを行い、大成功を修める。2012年4月18日にTOWER RECORDS限定EP「方向喪失フェスタ 12418EP」、7月4日には待望の2ndアルバムリリース!



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