忘れられない気持ちがある 荒川ケンタウロスインタビュー

荒川ケンタウロスが1stミニアルバム『遊覧船の中で見る夜明けはいつも以上に美しい』で見せた輝きは鮮烈だった。年齢的には20代後半でありながら、バンド経験の少ないメンバーも含んだことによる初期衝動的な輝きによって、すべての楽曲がキラキラとまばゆい光を放っていたのだ。そんな作品と共に、2012年を全速力で駆け抜けたバンドを取り巻く状況は、1年前とは比べものにならないほど広がったと言える。しかし、その輝きが強くなればなるほど、そこには影も生まれるというもの。「もっと先へ進みたい」という気持ちが生まれた一方で、これまでにはなかった問題も当然浮かび上がってきている。

「街」をテーマにしたという2ndミニアルバム『Apartment』は、そんな現実と向き合いながらも、それでも色褪せることのない輝きを見事に示した作品である。前作よりもちょっとだけシリアスに、しかし、楽しむことは忘れずに、しっかりと未来を見つめている5人の姿がここにはある。楠本(Gt)、一戸(Vo,Gt)、場前(Key)の発言から、2012年の荒川ケンタウロスを追った。

地方遠征、野外フェスティバル出演……動き始めた物語

荒川ケンタウロスにとっての2012年は、間違いなく飛躍の年だった。デビューシングル『天文学的少年』に続いて、1stミニアルバム『遊覧船の中で見る夜明けはいつも以上に美しい』を2011年11月に発表すると、「タワレコメン」や「iTunes今週のシングル」に選ばれるなど、大きな注目を獲得。2012年は初の地方遠征にも乗り出し、『SAKAE SP-RING』や『MINAMI WHEEL』といったサーキット型のイベントへの出演も大盛況で終えている。彼らの物語は、大きく動き始めたのだ。

楠本:予想外でないと言ったら偉そうですけど(笑)、地道にやってきた成果が出たんじゃないかと思ってます。自分たちのやってることに自信はありましたけど、やっぱり不安もあったので、それが結果として表れたことで、確信に変わった気がします。今は「もっと行ける」っていう気持ちが強いですね。

一戸:初めての遠征のときは、「ライブをやったこともない、友達もいない場所でやって、うちらを聴きに来てくれる人がいるんだろうか?」って思いながら行ったんですけど、でも行ってみたら来てくれる人がいて、それを重ねていくうちに、自信がついてきた気がします。

場前:都内のライブにしても、チケット予約とか全然なかった頃に比べて、今はライブをやれば予約をしてくれる人がいて、そういう実感と、「ここからもっと広げていきたい」っていう欲求が合わさってる感じですね。

地方遠征が初めてだった彼らにとって、神戸の『COMIN'KOBE』や富山の『BEATRAM MUSIC FESTIVAL』といった大型フェスティバルへの出演ももちろん初めて。中でも、『BEATRAM MUSIC FESTIVAL』への出演には、それぞれの感慨があったようだ。

『COMIN'KOBE』での演奏風景
『COMIN'KOBE』での演奏風景

一戸:僕はフェスって今まで一度も行ったことがなかったんですけど、その日に夕暮れどきのステージを見て、「ああ、あそこに立ちたい」ってすごく思いました。僕らは小さいステージだったので、大きいステージに対する憧れが生まれましたね。

楠本:2005年にフィッシュマンズが(忌野)清志郎さんとかいろんなボーカリストを迎えて『RISING SUN ROCK FESTIVAL』でライブをやるって決まったときに、お金なかったんですけど、どうしても行きたくて、青春18切符で、鈍行で、2日間かけて北海道に行って、寒さで死にそうになりながら見た思い出があるんです(笑)。そのときも黄昏どきから夜にかかる時間帯で、それも思い出しつつ、次はもっとでかいステージでそれを味わいたいと思いました。

左から:場前、一戸、楠本
左から:場前、一戸、楠本

2012年の様々な活動を通じて得た自信は、バンドをもっともっと前に進めたいという欲求を呼び起こすこととなった。前作から、ちょうど1年ぶりのリリースとなる2ndミニアルバム『Apartment』は、そんな欲求の中から生まれた作品だ。

一戸:前回CDを出したときは、出せたことが嬉しかったんで、「これを果たして誰が聴くんだろう?」って気持ちだったんですけど、今回は「このCDを売りたい」ってすごく思ってます。もっといいライブがしたいし、もっと売れたいっていう意識が強くなってますね。

こんな発言の一方で、楠本は自分たちの「変わらなさ」についても語る。

楠本:自信がついたっていうのはあるんですけど、じゃあこの1年で劇的に変わったかっていうと、特にそういうわけではないと思うんです。「音楽でやっていきたい」っていう気持ちは1枚目を出したときからあったんで、そこはずっと変わってないと思うんですね。自分勝手にやってるわけではないので、周りの反応に対してちゃんと応えたいとは思うんですけど、「楽しいからやってる」っていう部分も変わらないですからね。

「若い頃に持っていた気持ちを忘れない」ことの難しさ

『Apartment』は「街」をテーマにした作品となっている。生まれ育った街、青春時代を過ごした街、映像の中でしか見たことのない街……聴いた人それぞれが曲の中の街に自分の体験を重ねることで、初めてこの作品は成り立つと言ってもいいのかもしれない。そんな本作を象徴するのが、1曲目に収録された“アパート”である。

楠本:僕は地方(山口県下関市)の出身なんですけど、実は生まれてからすぐ数年間だけ東京で過ごしてるんです。大学生になって、また東京に出てきたんですけど、そのとき住んでいた街と、かつて親が住んでいた街が近かったんですよ。それで考えたのが、今の自分の人生の物語っていうのがあるけど、当時の両親にも同じくらいドラマチックな物語があったんだろうなってことで。若さに溢れてて、自分と同じように、希望とか挫折とかがあったと思うから、それぞれの時代を生きている人が、そのときの感覚を忘れないでほしいなって。

楠本

くるりの“東京”やサニーデイ・サービスの“東京”など、様々なアーティストの“東京”を集めた『東京こんぴ』というオムニバスが今年出ていたが、この曲はまさに荒川ケンタウロスにとっての“東京”だと言っていいだろう。そして、ここで歌われている「若い頃に持っていた気持ちを忘れない」ということは、彼らが前作から一貫して描き続けている大切なテーマである。しかし、『Apartment』という作品からは、その気持ちを保ち続けることがいかに困難なことであるかということも、同時に感じられる。人生というのは「別れ」の連続であり、親や恋人と別れたり、住み慣れた街を離れたり、何かを経験して純粋さを失っていく中で、若い頃の気持ちを保ち続けるのは本当に難しい。しかし、それでもなお、その気持ちを忘れたくないと願っているからこそ、この作品はグッとくるのだ。

楠本:僕が“アパート”で一番大事にしてる歌詞が、<希望におぼれる都会の隅で暮らす僕です 鈍くかがやくその星が君に見えるだろうか>っていう部分なんです。東京で頑張ってる人はたくさんいるけど、成功する人ばかりではないじゃないですか? 光り輝いてるわけではない、鈍く輝いてる自分でも、どこか離れたところにいる親や恋人は見ててくれるだろうかっていう、そういうことも言いたかったんです。

収録曲の中で最も新しい曲だという“superstar”からも、同様のテーマが透けて見えてくる。<僕のこの両手は 何かを成し遂げるとかまだ分からない>という歌い出しから始まるこの曲は、まさにこれから世に出ていこうとしている荒川ケンタウロスが、子供の頃に憧れたスーパースターと自分を重ねているような、そんな風にも感じられる曲である(本作のジャケットも手掛けている黒木ユタカが監修したこの曲のPVも、バンドの架空のドキュメンタリー風で面白い)。

楠本:実際には自分たちの現状に照らし合わせた曲ではなくて、自分が中学とか高校の頃にこれを聴いててほしかったなっていう思いがあるんです。あの頃こういう歌詞を歌ってくれるバンドがいたら、「一歩飛び出してみよう」って思えたんじゃないかなって。

個人的にこの曲で大好きな歌詞が、<誰かに憧れ 真似をすることから始めりゃいいんだよ>という部分。「君は君らしく」と歌う曲は数あれど、「真似をすればいい」と歌う曲は珍しいが、楠本の実体験を基にしたこのラインは、そっと少年の背中を押してくれるに違いない。荒川ケンタウロスの楽曲は、若い頃の気持ちを見失いがちな大人にこそ響く部分がある一方で、今まさにその若さを謳歌できる十代にも、きっと響くことだろう。

この5人だからこそすごいものができる

これまで発表されている荒川ケンタウロスの楽曲は、すべて楠本が作詞作曲を担当していたが、『Apartment』では初めて他のメンバーも作詞作曲を担当している。ボーカル・一戸の手による“春”と“まちぶせ”だ。前作発表時のインタビューで、「最終的に全員が作詞作曲に関わることが理想なんです」と語っていた楠本にとっては、本作は理想への第一歩ということになると思うが、当の一戸本人はと言えば、自分の曲に対するこだわりがあったわけではないという。

一戸:正直、自分の曲が収録されたことに関しては、特になんとも思ってないんです(笑)。アルバムとしていい作品になるのが一番だと思ってるんで、自分どうこうっていうのは全然考えてなくて。そもそも最初から「僕の曲を入れよう」って決めてたわけじゃなくて、曲を選曲するときに、選ばれたのがたまたま僕の曲だっただけなので。結果的にはカラーが増えてよかったと思うんですけど、「やった! 自分の曲が入るんだ!」って感じはなくて……逆にびっくりしました(笑)。

一戸

メインのソングライターである楠本と、フロントマンである一戸のキャラクターの違いは、荒川ケンタウロスのひとつの個性だと言ってもいい。2人の書く詞にしても、前述のように聴き手へのメッセージを含んだ楠本の詞に対し、震災後に感じたことが元になっているという“春”も、上京のシーンを映像的に描いたという“まちぶせ”も、一戸にとっては日記を書いているような感覚に近いようだ。しかし、結果的には「新たな一歩を踏み出す」という意味で“superstar”と“春”が、「変わっていく2人の関係性」という意味で“ニュータウン”と“まちぶせ”が、それぞれ明確なリンクを見せているのが面白い。

一戸:テーマが似てるなっていうのは僕も思ってて、逆にそれでアルバムのテーマが偏っちゃって、バラエティーがなくなっちゃうんじゃないかって思ってたんです。でも、「街」っていうテーマが出てきたことによって、作品としてのまとまりが出て、すごくいいアルバムになったと思います。

楠本:ぺーじゅん(一戸)が書いてくる歌詞も、意味合い的に「わかるわ」って思うし、その感覚が他のメンバーも含めて近いから、バンドとして上手く行ってるんじゃないかなって。偶然集まった5人なんですけど、結果的には、この5人だからこそすごいものができるんじゃないかって、今は思いますね。

このバンドとしての一体感は、楽曲のアレンジにも大きく反映されているという。

楠本:元々バンドを組んだのが初めてだったり、オリジナルをやるのが初めてのメンバーもいたんで、前作はみんなでいろいろ話しながらやってたんですけど、今回はそれぞれのアレンジ力がアップして、黙っててもいいアレンジが出てくるようになったんで、バンド力が上がったなっていうのは思いましたね。

場前:前はまず楠本さんと土田くん(Ba)がいて、そこから始まるって感じだったんですけど、今はぺーじゅんも尾越くん(Dr)も、いろいろ言うようになりました。そういう変化が生まれたことで自分が変わったところはあって、以前はみんなが意見を言ってくれても、「でも自分が考えたのが一番いいな」って意識がちょっとあったんですけど、今は何か言われたら「それもやってみよう」ってなって、結果そっちの方がよかったっていうこともいっぱいありましたね。

場前

死んでしまった愛犬に気づかされたこと

アルバムのラストを締めくくるのは、すでにライブでもおなじみの名曲“コース”。実は7、8年前に書かれていた曲だそうで、楠本にとって「ホントに、やっと出せた」一曲なのだという。

楠本:これは僕が昔飼ってた犬の曲で、僕ホントにその犬が大好きで、いつも一緒に散歩に行ってて、だから、散歩の「コース」ってことなんですけど(笑)。その犬が、僕が大学に進んで1年後ぐらいに死んでしまったんです……。それで僕は、その日のうちに山口に飛んで帰って、横になってる犬を抱きしめたらまだちょっと温もりがあって……とにかく大泣きしたんです。そのとき思ったのが、それまで自分は犬を飼ってる感覚だったんですけど、ずっと自分を見守って、育ててくれてたんだと思って。その気持ちを今もずっと忘れずに持ってるんですよね。

ここで話を一番初めに戻そう。昨年のリリース以降、荒川ケンタウロスを取り巻く状況は大きく変わりつつあり、メンバーには「バンドを前に進めていきたい」という強い欲求が芽生えつつある。しかしその一方で、彼らはそれぞれの生活をしながらバンド活動を続けていて、そのバランスを取るのに苦労していることも事実だ。また、バンド経験の少ないメンバーが集まったからこその初期衝動的な輝きというのも、ミュージシャンとしてのテクニカルな成長とは相反する要素かもしれない。

そんな、彼らにとって岐路というべきタイミングだからこそ、楠本にとっての青春の1ページを刻んだ“コース”が今作のラストに置かれているということは、とても意味があるように思う。つまり、この曲は「若い頃に持っていた気持ちを忘れない」という荒川ケンタウロスのメッセージの原点となっている曲であり、彼らは今このタイミングで、自分たちの原点を改めて見つめ直したのだ。

“コース”を世に送り出した今、彼らはしっかり「先」へと視線を向けている。この日の取材の最後にメンバーと今後について交わした会話を、そのまま紹介しよう。

楠本:これからは行けるところまで行きたいと思ってます。音楽好きの人だけが聴くとか、年齢制限とかもなく、万人が聴いてくれるようになったら嬉しいんで、ホントにどこまでも行きたいなって……今でこそ思いますね。正直、最初から「音楽でやっていきたい」とは思っていたものの、前のバンドが解散して、(荒川ケンタウロスは)趣味で始めたところもあったんです。でも、今は「これで行こう」って決めました。

一戸:早くプロになりたいです。高いレベルに行かないと、やれないことがいっぱいあると思うし、これからもっといろんなことを見ていきたいんで。

左から:場前、一戸、楠本

―今のバンドの課題はどこだと思いますか?

一戸:演奏力と新しい引き出しですね。今回すごく荒川らしいアルバムになったと思うんですけど、次の作品を作るってなったときの引き出しをもっと増やさないといけないなって思います。

楠本:ホントそう思いますね。これまでの2作とも荒川らしさは全面に出せたと思うんですけど、これから先もっとバラエティーに富んだものを出したいですし、やっていかないといけないと思ってるので。

一戸:逆に、楽しみだよね。やってないことの方が遥かに多いわけだから。「こんなのやってきたのか!」って驚きを与えたいし、それができるか楽しみですね。

―場前くんは今後についてどう考えていますか?

場前:僕もどこまでも大きくなりたいです。僕は正直初めは趣味100%でしたけど、「あれ? タワレコにCD並んじゃってるよ?」ってなって、そういう人生でなかなか味わえない経験をこの先もっと多くしたいので、苦しいこともいっぱいあるとは思うんですけど、進んでいきたいなって。

楠本:あの……最初に「変わってない」って言いましたけど、やっぱり大分変わってるみたいですね(笑)。

<君をとりまくことの全てが奇跡そのものだよ>と歌った天文学的少年たちは、いつしか青年になっていたのかもしれない。それでも、彼らの輝きが少しも色褪せていないのは、きっと彼らが今でも奇跡を信じているからだろう。

リリース情報
荒川ケンタウロス『Apartment』(CD)

2012年11月21日発売
価格:1,800円(税込)
exPoP!!!!! Label / EXPP-1003

1. アパート
2. superstar
3. 夕凪
4. ニュータウン
5. 春
6. まちぶせ
7. コース

イベント情報
『荒川ケンタウロス レコ発ワンマン「Apartment」〜いつかは持ちたい一軒家〜』

2013年2月16日(土)
会場:東京都 新宿 MARZ

プロフィール
荒川ケンタウロス

2009年7月頃から、国分寺を拠点に活動を開始。地道なライブ活動を続けていたが、2010年、著名アーティストが数多く出演してきたイベント『exPoP!!!!!』に一般公募枠で出演。以降、sleepy.ab、音速ラインとの共演やするなど、2011年に入り急速に注目を集め始める。同年11月に1stミニアルバム『遊覧船の中で見る夜明けはいつも以上に美しい』をリリース。キャッチコピーは、「小粋にポップでゲームのような軽快さと、ドラマティックさのエッセンスが、ずん胴鍋でごった煮。そんなエクセレントな時間を、おしゃまな5人組がお届けします」



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 忘れられない気持ちがある 荒川ケンタウロスインタビュー

Special Feature

coe──未来世代のちいさな声から兆しをつくる

ダイバーシティーやインクルージョンという言葉が浸透し、SDGsなど社会課題の解決を目指す取り組みが進む。しかし、個人のちいさな声はどうしても取りこぼされてしまいがちだ。いまこの瞬間も、たくさんの子どもや若者たちが真剣な悩みやコンプレックス、生きづらさを抱えながら、毎日を生きている。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて