夢を見ることで得られたもの ART-SCHOOLインタビュー

日々ミュージシャンを相手に取材をさせてもらう中で、もちろん多くの人が音楽に対する愛情を真剣に語ってくれるのだが、その中には「この人は音楽なしには生きられないだろうな」と、大げさではなく感じる人がいる。ART-SCHOOLの木下理樹は、まさにそんな人物だ。2000年に結成されたART-SCHOOLは、海外のオルタナティブロックからの影響を独自に昇華し、日本では数少ない危うげな魅力を持ったロックバンドとして、孤高のポジションを築いてきた。その道のりは決して平坦ではなく、これまでに幾度となくメンバーチェンジを繰り返してきたが、木下と戸高賢史という2人の正式メンバーに、サポートで中尾憲太郎(元NUMBER GIRL)と藤田勇(MO'SOME TONEBENDER)が参加した現在のラインナップは、自他ともに認める最強のラインナップである。昨年、USハードコア界の重鎮スティーブ・アルビニが所有するシカゴのエレクトリカルオーディオでレコーディングを敢行し、傑作『BABY ACID BABY』を発表したのも記憶に新しいところだ。

今まさに乗りに乗っているART-SCHOOLが約半年というスパンで完成させたのが、ミニアルバム『The Alchemist』。今回の取材では、この作品と現在のART-SCHOOLの状態についての話を足掛かりに、ツールの発展に伴う録音環境の変化や、洋楽を取り巻く状況など、移り変わりの激しい音楽業界について、木下に広く話を訊いた。現状を冷静に見つめながらも、彼が唯一危惧していたのは、音楽なしには生きられなかった自らの経験に基づいた、とても重要な問題だった。

益子さんとやるんだったら、音の余韻を感じさせるような、立体的な音像の美しさを作りたいと思ってました。

―『The Alchemist』は、新体制になってアルバムを1枚作り、さらにツアーを経験したことによって、バンドとしてのケミストリーが飛躍的に高まったことを証明する作品だと感じました。

木下:そうですね。今の四人で過去曲とかの練習もしてツアーに臨んだんですけど、バンドがまとまってきたから、ステージ内にすごい磁場みたいなものができてきて。それをずっと感じてたので、「この勢いのままミニアルバムを作りたいな」ってツアー中から思ってましたね。なんていうか……すごく楽しかったんですよ。みんなプレイヤーとして一流で、僕は彼らのことが大好きだし、自分の追い求めてきた音を再現してくれる人たちだから、このまま春まで何もやらないのはもったいないと思っちゃって。

木下理樹
木下理樹

―そのバンドとしての変化は、例えば、オーディエンスの変化にも表れていましたか?

木下:ダイブしてくる人が増えましたね。あとは音に圧倒されてたり……。相当太い音ですから。

―『The Alchemist』の1曲目の“Helpless”から、まさに音に圧倒されました。

木下:まともな人は聴かないですよね(笑)。

―(笑)。『BABY ACID BABY』はシカゴのエレクトリカルオーディオで録音を行ったわけで、理樹さんの中で音に対するハードルっていうのはますます上がってると思うんですけど、今回はどうやって録音したんですか?

木下:以前も一緒にやってる益子(樹)さんのスタジオでマスタリングまでやったんですけど、大概エンジニアとスタジオの選定でその作品の色が決まるんです。だから、益子さんとやることになったときに、「じゃあ、こういう音像にしよう」っていうのを決めましたね。逆に言ったら、アルビニのスタジオに行って、超爽やかなネオアコみたいのをやってもしょうがないわけじゃないですか?

―今回の作品に収録された“フローズン ガール”はネオアコ寄りな曲ですよね。

木下:だから、これはアルビニのスタジオではやらないです(笑)。益子さんとやるんだったら、音の隙間を作るというか、余韻みたいなものを感じさせるような、立体的な音像の美しさを作りたいと思ってましたね。あとは、楽曲の持つそもそものポテンシャルを演奏とか録音で広げていけたらいいなと。だから今回は、「これ以上弾く必要がない」って思ったらそこで止めるようにしてます。

―より自由度が上がってると言えそうですね。

木下:でも、そこで気をつけなくちゃいけないのが、「どんなことをリスナーに感じてほしいのか」ってところで。僕はもともと平面的な音楽が趣味ではなくて、そこは益子さんとずっと共通してるところなんです。益子さんって何かを説明するときに、そんなに技術的なことは言わないんですよ。あの人自身アーティストだから、「ダリの絵が浮かぶんだよね」とか、そういうことしか言わなくて。

―ダリの絵というと?

木下:例えば、白いキャンパスに奥行きを出すために、「こことここに色を配置して」っていうことを言いたいんだと思います。要は、音も見えるものですからね。スピーカーに真っ白な砂を置いたら波動が視覚的にも見えるわけで。その音の配置のセンスが益子さんはすごく優れてると思うんです。なおかつ、こっちが考えてる「こう処理したいんですよね」ってことも、その意図をちゃんとわかってくれるから、すごくやりやすかったですね。

結局、いつの時代でも才能のある人っていうのは、どんな形態であれ飛び抜けてくると思うんです。

―「エンジニアとスタジオ選びでその作品の色が決まる」っていうのは興味深い話で、先日ナイジェル・ゴドリッチ(RADIOHEAD第6のメンバーとも呼ばれる、世界的に著名なプロデューサー)に取材をする機会があったんですけど、ラップトップ時代になって、クオリティーの差はあれども、アーティスト自身が制作を1から10までできてしまうようになったことで、プロデューサーとかエンジニアの需要が以前より減ってきてるっていう話をしてたんですよね。

木下:ナイジェルがそういうことを言うようになると、いよいよ音楽業界もおしまいなのかなって気もしますけど……(笑)。でもナイジェルが言いたかったのは、そのアーティストのいい部分を見抜いて、「君はこうだから、ここがいいんだよ」って言ってあげる役目が改めて必要だってことなんじゃないかな。

―それはまさにそうで、バンドが漠然と「こうしたい」と思ってることをくみ取って、その船の行く先を「こっちだ」って指し示してあげることが大事だと言ってました。

木下:ホントに、それは必要だと思います。あとラップトップの話で言ったら、GRIMESがガレバン(ガレージバンド / 簡易な音楽制作ソフト)でほとんど作ってるけど、すごく人間臭い仕上がりですよね。つまり、アナログレコーディングだからいい、ラップトップだから悪いってことではないと思うんです。

―大事なのは手段ではなくて、その人の人間性が出てるかどうかだと。

木下:GRIMESはピッチとかもほとんど直してないんじゃないかな? フワッフワッしてますからね(笑)。でも、それが彼女の個性であってね。ラップトップってすごく簡単なようで、個性を出すという意味ではホントに難しいんですよ。手軽には作れるんだけど、みんな同じ音になっちゃいますから、そこでの差別化がやっぱり難しいですよね。結局、いつの時代でも才能のある人っていうのは、どんな形態であれ飛び抜けてくると思うんです。路上でギター1本で歌って、それをテレコで録音したものでも、めちゃくちゃ才能のある人だったら、その人の名前を耳にするようになるんだと思うし。

木下理樹

自分を表現するために音楽をやってるんでしょ?

―確かに、ツールに翻弄されてしまっては本末転倒ですもんね。

木下:いろんなエンジニアさんと話すと、若くて演奏技術がそこまでないバンドの場合、編集で演奏を直しちゃうことが多いそうなんです。でも僕は、「自分を表現するために音楽をやってるんでしょ?」ってすごく思う。安易に編集するよりも、むしろ揺らいでるぐらいの方が人間らしいと思うし、そこは益子さんもすごく気を使ってるみたいですね。

―そこを直してしまうと、さっきのラップトップの話のように平均化していってしまうわけですよね。そうじゃなくて、そこを個性だと解釈して、伸ばしてあげることが必要だと。

木下:そう、それでもダメだったら、そこまでの才能だったんだって諦めますよ、もし自分だったらね。僕はジョン・フルシアンテがすごく好きなんですけど、、演奏めちゃくちゃだし、なんかよくわかんないけど、でもグッと来るじゃないですか?

―すごく普通のフレーズなんだけど、ジョンが弾くとかっこいいとかありますよね。

木下:やっぱり、人間性ですよね。あの人はすごく人間性が深いんだと思う。

―その意味では今のART-SCHOOLって、今回だと益子さん含め、自分の個性を理解した、人間性の深い人たちの集まりだと言えるんじゃないですか?

木下:周りには恵まれてると思います。みんなストイックだし、真面目だし、一音一音の説得力も全然違って、だから今やっててすごく楽しいんです。

ART-SCHOOL
ART-SCHOOL

―単純に、曲作りのペースも上がってるんですか?

木下:原型を作るまでが結構大変ですけど、一度原型ができて、それをみんなに渡したら、仕上がるのはすごく早いですね。

―これまでのART-SCHOOLはなかなかメンバーが落ち着かず、今の二人もサポートメンバーではあるものの、バンドが遂に1つの理想形にたどり着いたということでしょうね。

木下:僕がずっと苦しんでたのは、自分の頭の中で鳴ってる音が、なかなかバンドで表現できないっていうことだったんですけど、今の四人ならそれを再現することができるので、ホントに楽しいんですよ。

「夢を見る」っていうのは、「現実を見る」っていうことよりも、もっとしんどい作業かもしれない。

―今日は最近の「洋楽」をめぐる話もしたいと思っていて。My Bloody Valentineの新作がリリースされたり、NINE INCH NAILSの来日が決定したりと、90年代の洋楽を聴いて育った身としては嬉しい反面、今の若い人は洋楽を聴かなくなっているという話もよく耳にするようになりました。まずは、ざっくりお伺いすると、今の「洋楽」をめぐる状況について、どんな印象をお持ちですか?

木下:日本の音楽のレベルが上がったから洋楽離れが起きてるとは全然思わないですね。寂しい状況ではありますけど、YouTubeで何でも聴けるようになったことの弊害というか、自分で探さなくても簡単に聴ける分、感動は薄いんだろうなと思います。でも、僕より年上の人が「昔から洋楽を聴いてる人はそんなにいなかったよ」って言ったりもしてましたけどね。まあ何にせよ、しょうがないですよね。「今のテレビは面白くない」って言ってるのと同じような感じに思ってしまう。

―この話は、洋楽を聴いてきた人間のぼやきにならないようにしないといけないんですよね。もう少しお訊きすると、理樹さんが洋楽にはまっていったのはどういうきっかけだったんですか?

木下:僕は小学校のときに『MUSIC LIFE』(1998年12月号に休刊した音楽雑誌)を読んだのがきっかけですね。『ROADSHOW』(2008年11月に廃刊となった映画雑誌)と同じ棚に、『MUSIC LIFE』があったんですよ。一時期はライターになりたいと思ってて、調べないと情報が何もない時代だったから、小さいファンジンを隅から隅まで読んだりね。でも、今の若い子の聴き方が悪いとも思わなくて。この状況は当然ますます加速していくと思うので。

―少し前まではCDと雑誌やライナーノーツのような文字情報がセットでしたよね。YouTubeメインで聴いてると、そこは切り離されちゃう。例えば、「ART-SCHOOLがスティーブ・アルビニのスタジオで録音」っていう情報に対して、「すごい!」って興奮したり、そういう風に周辺の情報を知っていったらもっと音楽を聴くことが楽しくなるよっていう提案は、ライターをやってる身としてはぜひしたいところなんですけど……。これもちょっと小言っぽいですけどね(笑)。

木下:確かにそうなんですけどね……。難しいなあ。『TOKYO ROCKS』にblurとか来ますけど、「あんまり話題になってないなあ」と思っちゃいますよね。もし(他の出演者のファンにとって)blurが休憩タイムとかになったら、さすがにそれは可哀想だなって(笑)。

―その状況は見たくないなあ(笑)。

木下:でも僕が危惧するのは、音楽業界が小さくなったことによって、若い子たちがバンドをやらなくなってしまうことだけですね。「音楽をやっても食えないから」っていう考えには至ってほしくないんです。確かに僕は洋楽が好きで、情報がなかったから調べましたけど、それがいい悪いは全然わからなくて、もっと昔の人だったら、「CDが出た時点で俺たちは冷めたんだよ」って言うかもしれないじゃないですか?

―「レコードひっくり返す手間がないとダメなんだよ」みたいな。

木下:あるいは「カセットじゃないと」とかね(笑)。ただ、今からバンドをやろうとか、音楽を面白いなって思ってる人たちに、少なくとも「ネガティブなものでもないよ」ってことを、「提示したい」っていうのともまた違うんだけど、「夢はあるよ」っていう風には言いたいかな。

木下理樹

―ああ、なるほど。

木下:単純に、音楽にもうちょっとロマンがあればいいんじゃないかとは思いますね。「夢を見る」っていうのは、「現実を見る」っていうことよりも、もっとしんどい作業かもしれないけど、それでも僕は音楽と出会って、ロマンとか夢を見たから生きてこれたと思うし。僕が育ったのはかなりひどい環境でしたけど、でも、「ミュージシャンになろう」っていう夢を見つけたんでね。それは文字通り、ロックが自分を助けてくれたと思ってるんです。僕は僕が夢を見つけたのと同じように、誰かにも夢を見つけてほしいと思ってやってますからね。それ以外に音楽をやる必要なんてないし……。紅白に出たくてやってるわけじゃないんで(笑)。

―(笑)。

木下:“Helpless”で紅白に出れるわけもないんですけどね(笑)。

―理樹さんのように本当に音楽を必要として、本当に音楽を愛する人が増えれば、日本の音楽をめぐる状況はきっと良くなっていくと思うんですね。「洋楽」っていうのもそのためのワンテーマというか、「本当に音楽を好きになる」ための、そのきっかけ作りの1つかなって思うんです。

木下:よく言われる話ですけど、発する側がどんなに深くても、受け手側が浅いとすり抜けてしまうんですよね。わかりやすい、共感できる歌詞を書くとか、浅いところに浅いものを提供するのはすごく簡単な構図ですけど、その隙間を埋める作業っていうのを、僕らはアーティストとしてやっていかなきゃいけないとは思ってますね。

リリース情報
ART-SCHOOL
『The Alchemist』

2013年3月13日発売
価格:1,800円(税込み)
KSCL-2199

1. Helpless
2. フローズン ガール
3. The Night is Young
4. Dead 1970
5. 光の無い部屋
6. Heart Beat

プロフィール
ART-SCHOOL

2000年に結成。木下理樹(Vo/Gt)のあどけなく危うげなボーカルで表現する独特の世界観が話題に。度重なるメンバー変遷を経て、2012年からは木下、戸高賢史(Gt)の2人に、元NUMBER GIRLの中尾憲太郎(B)、MO'SOME TONEBENDERの藤田勇夫(Dr)がサポートで加わる。同年『BABY ACID BABY』をリリースした後、わずか7か月後というハイペースでミニアルバム『The Alchemist』をリリース。ART-SCHOOL史上最高のグルーヴを封じ込めた。

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