勝ち組にならなくてもいいじゃん やけのはらインタビュー

やけのはらの新作『SUNNY NEW LIFE』が素晴らしい。リリックを読みながら聴き進めていくと、社会や未来に対する漠然とした不安が解きほぐされていき、アルバムを1枚聴き終えたときには、とても清々しい気分を味わうことができる。もちろん、音楽が物理的に何かを解決するわけではないし、インタビュー中でも語られているように、今は多くの人がもっと享楽的な行為であったり、自己啓発本の類を頼りにしているのかもしれない。しかし、このアルバムは聴き手を強制的にレールの上に乗せるのではなく、あくまで個を尊重し、一人ひとりの持つ可能性を、「NEW LIFE」を後押ししてくれる。「自分にとって本当に大切なものは何なのか?」ということを、じっくりと考えるためのヒントをくれる。それこそが、この作品のスペシャルなところなのだ。インテリジェンスを感じさせる語り口と、ときおり見せるシャイな表情が魅力的なやけのはらは、やはり日本屈指の素晴らしいリリシストである。その飄々としたたたずまいの裏側には、ロマンチストとしての素顔に加え、気高さすら感じられた。

もっと一人ひとりが自分にとっていい暮らし方を模索して、それをやっていくのがいいんじゃないか?

―アルバム、とても素晴らしい作品だと思いました。前作『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』は、DJから見たフロアに対する目線というのが1つの立脚点になっていましたが、『SUNNY NEW LIFE』は、普段の暮らしが立脚点になってますよね。

やけのはら:アルバムは、全体のまとめ方やトーンを変えていくものだと思っているので、前回が街に繰り出してる感じだったら、今回は部屋にいる感じというか、そういうイメージは最初からありました。

―背景には震災以降の空気があるのではないかと思うのですが、作り手としての意識の変化はありましたか?

やけのはら:震災の前から、部屋の中で友達や恋人と少人数で聴くような、パーソナルなアルバムのイメージはあったんです。もともと考えていたことと、震災を経て、自分から見える世の中の気分がリンクしてできたアルバムなので、震災で突然何かが大きく変わったっていうわけではないですね。

やけのはら
やけのはら

―でも、リリックの中に「光」や「未来」という言葉をたくさん使っていたり、アップリフティングなフィーリングを持たせたのは、震災以降の空気に対するリアクションなのではないですか?

やけのはら:それはそうなんですけど、今ある問題って2011年に急に始まったわけじゃないですよね。例えば経済循環の問題だったら、連綿と続いてた日本の高度成長や、もっと前の鎖国から全部繋がってるのかもしれなくて、綻びが急に出来たわけではないと思うんです。そうやって視野を広げて考える中で、「人はどう生きればいいんだろう?」まで言うと大げさですけど、雑な言葉で言っちゃえば、「人を蹴落としてまで何かしなくてもいいんじゃないか?」とか、「もっと一人ひとりが自分にとっていい暮らし方を模索して、それを実践していくのがいいんじゃないか?」っていう、暮らしの提案をしたかったんです。

―そういう意味での、「NEW LIFE」なんですね。

やけのはら:社会や経済のシステムの中で生きていく中で、「今のままの歯車でやっていくのは違うんじゃないか?」っていうのは、3.11以降いろんな人が感じてることだと思うんです。そういう疑問が生まれたなら、そこを出発点にしてもっと「暮らし」について考えてみたいなと。最後の“where have you been all your life?”はズバリそういうテーマなんですけど、「どこで、どういう風に、何を楽しいと思って暮らすか」ってことに興味があるんです。

980円のカーディガンを見て、無邪気に喜ぶ人に「ちょっと待って」という気持ちはあります。

―今の社会や経済のシステムに直接言及している曲というと、“JUSTICE against JUSTICE”あたりでしょうか? 誰もが何らかの正義に加担したりするけど、その正義は決して絶対的なものではありえないという。

やけのはら:その曲で言いたかったのは、「すべての争いに正当性はない」ってことなんです。昨年末の選挙のときに作った曲で、そのころ男性性、女性性をよく考えていたのですが、石原慎太郎的な大きな声で何かをねじ伏せようとする発想に凄く違和感を感じて。石原の中に見えた男性的なマチズモから、争いについて考えた曲ですね。

―石原慎太郎が提示するような、かなり極端に見える考え方が一部で受け入れられるのは、自然災害や近隣諸国との軋轢の中で、どんどん思考が内へ内へ向かってしまってるからだと思うんですね。でも、大事なのはもっと開かれた視野や、想像力を持つことで……。何が言いたいかというと、“IMAGE part2”って素晴らしい曲ですよね(笑)。

やけのはら:一つひとつの物事を自分で認識して、確かめて、判断していきたいよねっていう姿勢は、自分の根本的なテーマとしてあります。個の視点は大事にしながら、視野や想像力は高く広く持っていたいなと。例えば、ものをいっぱい買うと楽しいとか、電車に乗ってるほんの5分の時間で友達とやり取りしちゃうとか、そういう一つひとつに対して、「それをする必要ってあるのかな?」って一度立ち止まって、確かめてみたいなと。携帯1つをとっても、使われている特別な部品がアフリカの一部の地域でしか取れなくて、それをめぐって内戦が起きているとか、そういう話も聞いたことありますし。

やけのはら

―知らず知らずのうちに自分が何らかの加害者になっている、そういう構造の中で生きているわけですからね。

やけのはら:ファーストフードには昔から出来るだけ行かないようにしてますけど、自分が買ってるものを作ってる企業のこともよくわからないし、見えなくなってる構造の裏に、いろんなものが積み重なってるんだろうなとふと感じる局面が今たくさんあるわけじゃないですか? 科学や文明も進歩しているんだし、そういうのを見なかったことにして表面的な享楽を続けるんじゃなくて、ちょっと道筋を変えて、もっと調和の時代に進めないかなという意味での「NEW」なんです。

―搾取の構造みたいなものを常に気にしていたら生きていけなくなってしまうけど、一人ひとりがそういう視点を持つことが大事ですよね。

やけのはら:980円のカーディガンを見て、無邪気に喜ぶ人に「ちょっと待って」という気持ちはあります。どうして980円で売ることができるのか、そこから1ステップ2ステップぐらいの想像力は持つべきだと思うんです。表面的な楽しみを供給されて、反射的に飛びつかされちゃう構図はすごくよくあって。その楽しさを我慢するっていうとおかしいけど、安い服や食べ物に囲まれて、暮らしとしても文化としても、ホントに豊かなのかな? って。

―物質的な豊かさなのか、精神的な豊かさなのか、何が本当に大切なのかっていうことを、改めて考えるべきタイミングであることは間違いないわけですね。

やけのはら:そうですね。もちろん、大切なものは一人ひとり違うと思うんですけど、ささやかでもきっかけになれればいいとは思いますね。

暴力的な派手な音に対する興味が減ってきて、よりしなやかな音像、柔らかな雰囲気を出したかったんです。

―少し前に出たアナログフィッシュのアルバムで“City of Symphony”という曲に参加されていましたが、あの曲も今日話したような社会の構造だったり、一人ひとりの暮らしっていうのを「レイヤー」という言葉で表した曲でしたよね。

やけのはら:“City of Symphony”は「多様性と自己判断」の曲で、つまり結局形を変えて同じようなことしか言ってないんです(笑)。

―そういったリリックを書く背景にある想いは、「怒り」なのでしょうか?

やけのはら:「怒り」というか「違和感」ですね。僕みたいな性格だとずっとそういう感覚がつきまとうんです。「あれ? みんなこれ好きって言ってるけど、俺は好きじゃないぞ」とか「やっぱり、ホントはこれ好きじゃないんだよなあ」と思ってしまう。好きなものとそうじゃないものがはっきりしてるというか。

―「人と違うことをしたい」っていう部分もあるわけですよね?

やけのはら:昔はそれもあったと思いますね。特に、音楽の内容に関しては「人と似ちゃいけない」ってずっと思ってましたし。

―さっきの980円のカーディガンの話に戻ると、そこに違和感を抱かない人も実際のところ多いと思うんですね。やけのはらさんが社会の構造に対して敏感なのは、何かルーツがあるのでしょうか?

やけのはら:親とかですかね……。享楽的なことに身を投じるのは良くないっていう雰囲気があって、バラエティー番組よりNHKを見なきゃいけないみたいな感じでした。中学生のときはカラオケがブームでしたけど、カラオケなんてはしたないっていう意識がありましたしね。僕自身、昔から柔らかいものや丸いものが好きで、あんまり下品なものが好きじゃないっていうのは良くも悪くも一貫してあります。

―『SUNNY NEW LIFE』も、社会への違和感を背景としつつも、サウンドはとても軽やかで、柔らかい質感ですもんね。

やけのはら:もともとの好みもあるし、このアルバムはより一層アコースティックな楽器を増やしたりして、古いレコードの質感を意識しました。さっき男性性、女性性の話もしましたけど、暴力的で派手な音に対する興味が減ってきて、よりしなやかな音像、柔らかな雰囲気を出したかったんです。

やけのはら

―ゲストとしてキセルのお二人、ceroの高城晶平さん、平賀さち枝さんらが参加されてて、「フォーク」っていうのが1つキーワードになっているようにも感じたのですが?

やけのはら:自分のキーワードとして「フォーク」っていうのはないんですけど、アコースティックな楽器を増やしたいというのはありました。あと、前作のときからシンガーソングライターのつもりで歌詞を作っていて。もともとラッパーっぽい歌詞の作りじゃなくて、ボーカルの被せもなくて、ほとんどメインの1本だし、自分の中では弾き語りというか一人で音に対して歌ってる感じなんです。

―では逆に、やけのはらさんの中でゲストの人選に何らかのキーワードみたいなものはありましたか?

やけのはら:自分の中でキーワードというのは特になくて、いろんな流れやタイミングですね。キセルさんは、人柄やアコースティックなイメージが近作に合いそうだなと思ったのもあるし、ライブをご一緒する機会があって一緒に作った曲があったので、それを入れさせてもらいました。平賀さんの場合は、前作には女性のゲストがいなかったので今作では入れたいと思っていて、曲調的に彼女が合うんじゃないかと思ったので声をかけたんです。

―意識的に若い人を選んだというわけでもないですか?

やけのはら:なかったですね。自分より若い人にとっても面白い存在でいたいっていう気持ちはありますけど、人選に年齢はあんまり関係ないです。ceroの高城くんとかすごく趣味人だし、普通に友達と話してる感じですし。

いわゆる勝ち組にならなくてもいいじゃん、自分が生きやすい形でいいじゃん。

―アルバムのジャケットもすごく印象的でした。

やけのはら:これは信藤三雄さんから写真をお借りしました。たまたま入ってたスタジオが信藤さんの事務所の近くで、スタジオに遊びに来てくれたことがあったんですね。そのときに見せてもらった写真がアルバムのイメージに合いそうだったので。

やけのはら『SUNNY NEW LIFE』ジャケット
やけのはら『SUNNY NEW LIFE』ジャケット

―「この家からNEW LIFEが始まる」といったイメージを受けます。

やけのはら:まあ、「NEW LIFE」といっても具体的に「こうしましょう」って言いたいわけではないんですけどね。僕ができるのは考えるきっかけを提案するところまでで、その先のイメージはそれぞれの人が描くものだと思うので。でも、あえて分譲住宅とかがジャケットだったら斬新ですね。「都心まで45分」みたいにめちゃくちゃ具体的にして(笑)。塾をどうするかとか、人生設計をアルバム1枚で全部提案してくれるっていう(笑)。

―斬新ですね(笑)。でも、さっきの「多様性と自己判断」っていう話からするとそれはちょっと……。

やけのはら:なんか言葉でまとめるとめっちゃ固いですね(笑)。心配になってきた……。あ、後ろにカッコつけて読み方振ってもらえますか? 「多様性(ペロ)」とか「多様性❤」 とかにしといてください。

―(笑)。ただ、やけのはらさん自身が、その自己判断の先に何を見ているのかは気になるところです。

やけのはら:そこには何もないんじゃないですか? 生まれて死ぬだけなので。

―生まれて死ぬだけだけど、自己判断の過程で何か見通しがよくなったり、気持ちが楽になったりはしたいですよね。

やけのはら:それはそうですね。日本って自殺者が多いし、仕事や未来に対して、「何かをしなきゃいけない」とか「こうなっちゃいけない」とか、生き方のハードルを上げられて、そこから脱落できないという図式に疲れちゃってる人がいっぱいいると思うんです。昔はもっと生き方の多様性があったと思うんですけど、今は生き方が1つしかないように思わされちゃう風潮がすごく強い気がしますね。電車広告の「99%の負け組と1%の勝ち組」みたいな洗脳っぽい感じに対して、いわゆる勝ち組にならなくてもいいじゃん、自分が生きやすい形でいいじゃんとは思うんですけどね。

やけのはら

―今、コンビニの自己啓発本の数とかヤバいですよね。

やけのはら:ここ10年ぐらいですごく増えましたよね? 大きい本屋に行っても、売り上げベスト10の半分くらいが「勝ち上がる100の方法」とかで。くだらないと思いながらも、心の隙間が欲していて読んじゃうんでしょうね。昔はそこまでなかったから、今はみんなやっぱり病んでて、ラクしたいんだろうなって。「何もしないで100万貯める方法」とかわかりやすいけど(笑)。

―間違いなく、どんどんそういう方向に行ってますよね。

やけのはら:芸人が生活保護を受けてたことに対してみんな一斉に悪口言ったりして、すごくギスギスしてる。不正にもらうのはもちろんだめなんですけど、ホントはもっと違うところで額の違う既得権益を受けてる人がいくらでもいるわけじゃないですか。今は、ただのストレス発散のためのスケープゴートみたいな感じで、目に見えたところを叩くみたいなムードがありますよね。そういう状況も踏まえてこのアルバムを作ったというか、「人それぞれのいろんなやり方が、いろんな豊かさがあるかもしれないっすね(ペロ)」みたいな。

―どうしても(ペロ)がついちゃいますか(笑)。

やけのはら:僕は今日話したようなことを、難しかったり、偉そうにならないように、手を変え品を変えいろいろやってるような感じなんです。

リリース情報
やけのはら
『SUNNY NEW LIFE』(CD)

2013年3月20日発売
価格:2,381円(税込)
PECF-1069

1. INTO THE SUNNY PLACE
2. HELTER-SKELTER
3. RELAXIN'
4. I LOVE YOU
5. SUNNY NEW DAYS
6. IMAGE part2
7. TUNING OF IMAGE
8. CITY LIGHTS
9. JUSTICE against JUSTICE
10. AIR CHECK
11. BLOW IN THE WIND
12. D.A.I.S.Y.
13. where have you been all your life?

イベント情報
『Erection presents YAKENOHARA 「SUNNY NEW LIFE」Release Party supported by felicity 』

2013年5月3日(金)OPEN / START 18:00
会場:東京都 代官山UNIT
出演:やけのはら
ゲスト:
VIDEOTAPEMUSIC
DORIAN
MC.sirafu
LUVRAW
高城晶平(cero)
平賀さち枝
LUVRAW & BTB
THE OTOGIBANASHI'S
DJ:
高城晶平(cero)
shakke
料金:前売2,500円(ドリンク別)

プロフィール
やけのはら

DJ、ラッパー、トラックメイカー。『FUJI ROCK FESTIVAL』、『METAMORPHOSE』、『KAIKOO』、『RAW LIFE』、『SENSE OF WONDER』、『ボロフェスタ』などの数々のイベントや、日本中の多数のパーティーに出演。年間100本以上の多種多様なパーティでフロアを沸かせ、多数のミックスCDを発表している。2009年に七尾旅人×やけのはら名義でリリースした「Rollin' Rollin'」が話題になり、2010年には初のラップアルバム「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」をリリース。2012年には、サンプラー&ボーカル担当している、ハードコアパンクとディスコを合体させたバンドyounGSoundsでアルバム「more than TV」をリリース。2013年3月、新しいラップアルバム「SUNNY NEW LIFE」をリリース。



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