音楽家・やけのはらと考える、自分を知るための方法

リミックスアルバムの取材というのは難しい。もちろん、音楽的な特徴を解析することは重要だし、幅広い年代の楽曲が収められている作品であれば、そこからアーティスト自身の歴史を振り返る事もできるだろう。とはいえ、そこに込められる意図という意味では、オリジナルアルバムのときほど明確でないことも多い。今回「やけのはらのリミックスアルバムの取材」が決まったときも、最初は「どんなアプローチで取材をしようか?」と考えたのだが、作品のタイトルが『SELF-PORTRAIT』であると知って、すぐに「これはオリジナルアルバムと同等の意味がある作品なのでは?」という考えが頭をよぎった。

他者とは自己を映す鏡である。自分が思う自分の姿よりも、他者を通じてみる自分こそが本当の姿であるというのは、真理に近いと言っていいだろう。やけのはらはこれまでの作品で「自分」を全面に押し出すことなく、その代わりに、常に何らかの提案を作品に込めてきた。そんな彼が他のアーティストのリミックス集に「自画像」というタイトルをつける意味とは? それはまさに、他者を通じて自己を知るということの作品化なのでは? そんな予想を持って取材に臨んだわけだが、結論から言えば、この予想は半分当たりで半分はずれ。しかし、やけのはらとの対話を通じて、『SELF-PORTRAIT』という作品が持つ意味合いをはっきりと浮かび上がらせることはできたのではないかと思う。

リミックスって、歌や歌詞といった中心軸に対して、自分なりの衣を着せるような作業で、シンプルに音楽と向き合えるんです。

―リミックスアルバムに『SELF-PORTRAIT』というタイトルをつけるというのが、非常にやけのはらさんらしいと思いました。

やけのはら:そうですか? 実はこれ、ボブ・ディランの『SELF PORTRAIT』というカバーアルバムがあって、そこから取ったシャレなんです。オリジナルアルバムは何らかの意思のもとにまとめているので、それをタイトルにすればいいんですけど、今回はそういうはっきりとしたコンセプトがないので、ボブ・ディランの方法をそのまま拝借して『SELF-PORTRAIT』にしました。

やけのはら
やけのはら

―ただ、やけのはらさんはご自身の作品ではあまり「自分」っていうものを出さないじゃないですか? 一方で、リミックスアルバムというのは、他者を通じて自分を見つめる作業でもあって、むしろそういう作品にこそ自分が反映されやすいから、『SELF-PORTRAIT』っていうタイトルをつけたのかなって思ったんですよね。

やけのはら:確かに、普通の暮らしの中でも、他者と接したときこそ自分がよく見える場面は多いですし、タイトルにはそういうニュアンスも含まれていると思います。今、気がついたんですけど、せっかく『SELF-PORTRAIT』なんだから、今回はジャケットに自分の顔を出したほうがよかったかな……。オリジナルでは自分の顔を出していないので。

―それこそ、ホントに自画像を描くという手もありますよね。

やけのはら:そういう案も出たんですけど、僕は絵が描けないので、一応これが僕の自画像ということで……(笑)。

やけのはら『SELF-PORTRAIT』ジャケット
やけのはら『SELF-PORTRAIT』ジャケット

―そもそも、このタイミングでリミックスアルバムを出そうと思ったのは、やけのはらさんご自身のアイデアなんですか?

やけのはら:そうです。5年ぐらい前から出したかったというか、出せる量がたまっていたんですけど、今ひとつきっかけがつかめなかったんです。でも、前のアルバム『SUNNY NEW LIFE』を出して、次のアルバムが出るまでに、きちんと整理してから次に進みたいなと。

―音楽活動にもいろいろな作業がありますが、中でもリミックスはお好きなんですか?

やけのはら:好きですね。リミックスって、歌や歌詞といった中心軸に対して、自分なりの衣を着せるような作業で、それがすごくやりやすいというか。自分の曲を作るときに一番苦しいのは、その「軸」を作る作業だったりするんですけど、最初から中心軸があるものの形を整えたり、変えたりする編集的な作業というのは、シンプルに音楽と向き合えるので楽しいですね。

―この作品は、いわゆるダンスミュージックよりも、歌や歌詞が軸にあるバンドやシンガーソングライターの曲が多いですよね。

やけのはら:自分でも改めて、ロックやポップスの人が多いなって思いました。逆に思ったのは、もっと全然違うオファーも欲しいというか(笑)。ラップの人のリミックスや、トラック提供って、知っている人ぐらいにしかしてないんです。

―あくまで予想ですけど、きっとやけのはらさんのポップス的な側面、シンガーソングライター的な側面に惹かれて、リミックスを依頼しているんでしょうね。

やけのはら:変にこじつけるのも恥ずかしいですけど、今はこういう感じの音楽の人が自分に興味を持って聴いてくれてるのかなって、見えてきたところはありましたね。

2011年から2012年あたりのリミックスはすごくアンビエント的なものが多くて、「大丈夫かな?」って心配になるぐらい(笑)。でも意外とその要素ってオリジナルアルバムには入っていないんですよね。

―アルバム序盤は、中村一義さん、奇妙礼太郎さん、シグナレスのゆーきゃんさんと、非常に声に記名性のある人の曲が続きますが、やっぱり声色に特徴のある人はリミックスのイメージも浮かびやすかったりしますか?

やけのはら:ケースバイケースですね。中村一義さんの曲(“希望”)は、原曲は倍のテンポのロックナンバーで、ギターリフがガンガン鳴ってるんですけど、「全然真逆のものも合うんじゃないか?」という発想で作りましたね。オリジナルに近いバージョンを作っても意味がないし、かといってリスナーが興味を持てない方向に振り切ってもしょうがない。ちょっとずらすぐらいの感じというか、「あんまりこういうアレンジ聴いたことないかもな」という方向に行ってみて、原曲との距離を楽しんでる感じですね。

―そうやって1曲ずつ楽しみながら方向性を決めていくと。

やけのはら:だから、できあがったものを自分で聴いてみて、ホントに曲調がバラバラだと思ったんですよ。頼まれたことに対してのリアクションをまとめたものなので、あんまりコントロールされてないというか。

―ただ、音色的な意味では作品にちゃんと統一感があって、『SUNNY NEW LIFE』に引き続き、本作でも柔らかな、丸みのある音がベーシックになっていますよね。そこにやけのはらさんの作家としての記名性を感じました。

やけのはら:ありがとうございます。でも、今回の作品を改めて聴いてみると、2011年から2012年あたりのリミックスはすごくアンビエント的なものが多くて、「大丈夫かな?」って心配になるぐらいなんですけど(笑)、そういうアンビエントやダブの要素って、意外と自分のアルバムには大きく入っていなかったりするので、リミックスだからこそ出てしまった面白さだと思いましたね。

―オリジナルとは違う要素が入っているのには、いろいろな理由があると思うんです。2011年ごろのリミックスにアンビエントが多いのは、間違いなく当時の時代背景が関係してると思うし、ダブに関して言えば、例えば、シグナレスがもともとそういう要素を含んでいたからこそ、出てきたんだろうし。

やけのはら:シグナレスで言うと、原曲(“ローカルサーファー”)はテクノみたいなアレンジで、それを逆に、「あらかじめ決められた恋人たちへ」(シグナレスのもう一人のメンバーである池永正二がリーダーを務めるダブバンド)がやりそうなダブにしたっていう。原曲と聴き比べたときに、リミックスのほうがオリジナルに聴こえるようなアレンジにするというアプローチでしたね。

―そういう原曲との差のつけ方は面白いですよね。

やけのはら:そうですね。リミックス集なので、「元に対してこういう風になってるんだ!」っていう発見が一番面白いと思うし、今ってYouTubeで元の曲も簡単に聴けたりすると思うので、「これがこんな風になってるんだ」っていう按配を楽しんでもらえれば一番嬉しいですね。

やけのはら

自分なりにストライクゾーンに入れてるつもりではあるんですけど、俯瞰してみると、ど真ん中ではないなって。ギリギリは散々狙ったので、誰が見てもストライクゾーンってわかるところに魔球を投げたいですね。

―リミックスアルバムって、ある意味原曲と真っ向から向き合う作業でもあるというか、対象と向き合うことで自分を発見して、それによって人生が豊かになるようなものだと思うんですね。

やけのはら:そうですね。自分の世界とは少しずれているものにも目を向けることで、逆に自分のことがもっとよく見えるようになったり、世界が広がったりすることは多いですし、自分が作ってるものもそうでありたいという意識はありますね。聴いている間だけで完結するのではなく、何かの気づきになったり、どこかにつながっていくものが面白いと思います。さっき話した、原曲とリミックスを聴き比べて、それぞれの解釈の違いを楽しんでもらいたいというのも、そういうニュアンスがあるんですけど、うまく言えてますかね……?

―前の取材でもおっしゃっていましたけど、それって、やけのはらさんが多様性を大事にしているということにつながってくると思うんです。冒頭で、タイトルはシャレだとおっしゃっていましたけど、シャレというのも目の前の現実をある意味で飛び越える性質を持っているし、普段は気づきにくいけど、世界の捉え方というのは目の前にあるただ1つだけじゃなくて、心持ち次第で幾通りも存在するんだという感覚というか。やけのはらさんの作品は、今回のリミックスにおいても、その提案が含まれてると思います。

やけのはら:それをそのまま太字で載せましょう(笑)。すごくきれいにまとめてもらいましたね……。そうか、多様性っていう言葉でいいのか。うん、そうかもしれない。いろんな解釈の仕方を楽しんでほしいから。

―それは、意識としては自覚的なものだと言えますか?

やけのはら:今回は作っている期間が長いので、すべての曲に対して「多様性」というキーワードを掲げて制作にあたっていたわけではないですけど、僕がずっと重要視してるのはそういうことで、「こういうのもいいんじゃない?」とか「こういう風にしたら面白いですよね」とか、それは常に一貫したテーマとしてありますね。

―オリジナルアルバムより制作期間が長いからこそ、幅の広さがより強調されている面もありますしね。

やけのはら:実際、どういう風に聴こえました……? さっきも言ったように、音楽的にはバラバラだけど、自分としては「何でもアリですね」と言われると全然違うというか。例えばロックでまとめるとか、1個の枠に力点を置いてるわけじゃないという意味では、「何でもアリ」だと思われるかもしれないけど、逆に自分が「アリ」だと思うところは少ないという自覚があるんです。ところが、繰り返しになりますが、パッと聴いたときに、自分でも音楽的にバラバラだなとも思ったという矛盾があって。どう思います? 「さっきハウスだと思ったら、次アンビエントか」というふうに聴こえます? それとも、意外とサラッと聴けました?

―個人的には、ちゃんと統一感があると思いました。もちろん、細かく区別したらいろんな曲が入ってると思いますけど、やっぱり音色やムードには統一感があって、何でもアリっていう感じは全然しなかったですね。

やけのはら:そっか、スーッと聴けるんだ……。まあ、リミックスは、隙間産業とも言えるんですよね。どうしてもひねってしまうというか、一番王道っぽいところに対して、そこからどうずらすかというアプローチが多いので、それはちょっと今後の課題かもしれないです。アクロバチックに回転しながらも、ど真ん中に飛び込むように。

やけのはら

―変化球ではあるけども、ちゃんとストライクゾーンに入ってる感じは既にしますけどね。

やけのはら:もちろん、自分なりにストライクゾーンに入れてるつもりではあるんですけど、俯瞰してみると、ど真ん中ではないなって。シングルヒットしそうなアレンジとか全然作れていないし、それは課題かもしれない。……よかった、見えてきた!(笑) ウルトラCの魔球を、ストライクゾーンの端じゃなくて、真ん中に投げられるように、これからまた肩を作っていきます。ギリギリは散々狙ったので、誰が見てもストライクゾーンってわかるところに魔球を投げるっていうのを、今目標にしました。

人との出会いや、流れみたいなものは、できるだけ丁寧にすくい取っていこうと思います。ずっと一人で家で踏ん張ってても、自分から出てくることなんて限界がありますから。

―ちなみにやけのはらさんって、普段の生活からいろんなところにアンテナを張ってるわけですか?

やけのはら:どうですかね……僕は、ほぼ家にいるんです(笑)。会社勤めの人に比べて、ものすごいミニマムかもしれなくて、1日中半径2メートルぐらいのところにしかいないことも……。おかしいな、多様性を訴えてるわりには、自分はものすごい単一色な生活をしてる気が……。でも、イベントでいろんなところに行ったりもするので、生活は極端かもしれないですね。40都道府県ぐらい行ってるけど、その一方で、アルバムを作ってるときなんかはずっと家にいるっていう。

―それこそ、今回のジャケットのイラストを描いている方は、地方のイベントで知り合った方なんですよね?

やけのはら:その人と初めて会ったのは熊本県の天草で、父親と一緒にイベントに来てくれてたので、印象に残ってたんですよね。そういう出会いや、流れみたいなものは、できるだけ丁寧にすくい取っていこうと思います。ずっと一人で家で踏ん張ってても、自分から出てくることなんて限界がありますから。……あれ? 変なとこにつながっちゃうな。他者と触れ合うことで……。

―うん、やっぱりそこにつながりますよね(笑)。

やけのはら:はい。僕にとって音楽を作ることっていうのは、他者と触れ合って、より自己を見つめることの繰り返しなんでしょうね。

やけのはら

―さっきおっしゃったように、普段スルーしてしまいがちな、ささやかな出来事をちゃんとすくいあげていくことってホントに重要で、それが作品の懐の広さにもつながっていくんだと思います。

やけのはら:それに、そのほうが楽しいですね。前のアルバムの写真は信藤(三雄)さんにお借りしましたけど、まさか自分がジャケットで写真をお借りすることになるなんて思ってなかったですし、この絵を担当してくれた子も、最初に会ったときに初めてクラブに行ったと言っていましたし、まさかその人の絵を使うなんて思ってなかったですけど、でもそういうのが面白い。

―ジャケットには「SP1」と記されていますし、リミックスアルバムは今後も続けて発表されるご予定ですか?

やけのはら:『SELF-PORTRAIT』って長いから、ロゴっぽく短くして載せたいと思ったときに、「1」がついていたほうが、デザイン的にきれいだったんですよ。「1」ってつけちゃうと、やる気満々みたいで恥ずかしいかなとも思ったんですけど、「SP01」みたいに、「2桁行く気?」まではいかないのでまあいいかなと(笑)。自分としては、ライフワークとして、オリジナルアルバム以外で出させてもらったのもまとめていきたいと思っているので、力強く「1」をつけさせてもらいました。

―オリジナルアルバムと相互に補完し合う、同じぐらいの意味合いや熱量がある作品だと言えそうですね。

やけのはら:そうですね。企画盤っていうイメージではなくて、健康に生きてる限り、シリーズものとしてやりたいというか、1個の自分の軌跡のようなイメージですね。

リリース情報
やけのはら
『SELF-PORTRAIT』(CD)

2014年3月19日(水)発売
価格:2,415円(税込)
felicity / PECF-1093

1. THEME of SP1
2. 中村一義 / 希望(やけのはら Remix)
3. 奇妙礼太郎 / サン・トワ・マミー(YAKENOHARA LOVER'S TRAP MIX)
4. シグナレス / ローカルサーファー(やけのはらREMIX)
5. Aira Mitsuki / High Bash(Yakenohara Version)
6. SKIT of SP part1
7. YAKENOHARA / oolong dub
8. YAKENOHARA / BABY DON'T CRY
9. idea of a joke / オースティン(やけのはら younGSoul REMIX)
10. SKIT of SP part2
11. ランタンパレード / ひとりの求愛者 立春編(やけのはら LOST DATA MIX)
12. アナログフィッシュ / TEXAS(やけのはらバージョン)
13. Spangle call Lilli line / dreamer(YAKENOHARA DUB)
14. メレンゲ / フィナーレ(やけのはらMIX)
15. SKIT of SP part3

プロフィール
やけのはら

DJ、ラッパー、トラックメイカー。『FUJI ROCK FESTIVAL』、『METAMORPHOSE』、『KAIKOO』、『RAW LIFE』、『SENSE OF WONDER』、『ボロフェスタ』などの数々のイベントや、日本中の多数のパーティーに出演。年間100本以上の多種多様なパーティでフロアを沸かせ、多数のミックスCDを発表している。2009年に七尾旅人×やけのはら名義でリリースした「Rollin' Rollin'」が話題になり、2010年には初のラップアルバム「THIS NIGHT IS STILL YOUNG」をリリース。2012年には、サンプラー&ボーカル担当している、ハードコアパンクとディスコを合体させたバンドyounGSoundsでアルバム「more than TV」をリリース。2013年3月、新しいラップアルバム「SUNNY NEW LIFE」、2014年にリミックス集「SELF-PORTRAIT」をリリース。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 音楽家・やけのはらと考える、自分を知るための方法

Special Feature

coe──未来世代のちいさな声から兆しをつくる

ダイバーシティーやインクルージョンという言葉が浸透し、SDGsなど社会課題の解決を目指す取り組みが進む。しかし、個人のちいさな声はどうしても取りこぼされてしまいがちだ。いまこの瞬間も、たくさんの子どもや若者たちが真剣な悩みやコンプレックス、生きづらさを抱えながら、毎日を生きている。

記事一覧へ

JOB