秘宝じゃなくて至宝になった、Turntable Filmsの大きな一歩

常日頃から国内インディーシーンの動きを追っている筆者にとって、京都はいつだって気になる場所だ。いや、これはもはや自分だけの話ではなく、ここ数年のインディー音楽に関心をもってきた人々の共通認識なのだとすら思う。たとえば、「SECOND ROYAL」や「生き埋めレコーズ」といった、京都を拠点とするインディーレーベルの目覚ましい活躍ぶり。または『ボロフェスタ』や『京都音楽博覧会』『いつまでも世界は…』などの地域に根づいたイベントの数々。あるいはそうした動きを支える地元のライブハウスやレコードショップ。そして何よりも、その町からゆたかな音楽を発信しているミュージシャンたちは、京都から離れた場所で暮らす自分のようなリスナーの興味をいつもくすぐってくる。

そんな現在の京都インディーシーンにおける顔役ともいえるバンドが、Turntable Filmsだ。2012年にSECOND ROYALから発表したファーストアルバム『Yellow Yesterday』によって、地元京都に拠点をかまえながらも着実にその名を全国へと浸透させた彼らは、その後も東京のシャムキャッツとスプリットシングルをリリースしたり、リーダーの井上陽介が後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のソロプロジェクトにギタリストとして参加したりと、その活動の範囲を少しずつ拡大させてきた。そして、11月11日にリリースされるセカンドアルバム『Small Town Talk』は、その後藤正文が主宰するレーベル「only in dreams」からのリリース。これがもう、とにかく素晴らしい作品に仕上がっているのだ。

今作はTurntable Films初の全編日本語詞によるアルバム。それだけでなく、かねてから井上が憧れの存在としてその名を上げてきたカナダのソングライター、サンドロ・ペリがミキシングを担当していることなど、『Small Town Talk』はなにかと気になるトピックの多い作品だ。ということで、今回のインタビューは、まずそのあたりから一つひとつ紐解いていきたいと思う。

今回は自分が日本語詞で作った初めてのアルバムだったから、できればそれをもう一回、まったく違う人の手に委ねてみたかったんですよね。

―2012年に『Yellow Yesterday』をリリースしたとき、井上さんは「いつかサンドロ・ペリと一緒にやるのが夢だ」とおっしゃっていて。

井上:言いましたねぇ。もちろん覚えてますよ。

―それが早くも今回の作品で叶ってしまったんだと思うと、ここまでの3年半という月日は決して長くなかったようにも感じます。そもそも井上さんがサンドロ・ペリの音楽と出会ったのは、トロントに留学していたときだったんですよね?

井上:はい。とは言っても、そのときは別に話しかけたわけでもなくて、ただのいちファンとしてライブを観たってだけなんですけどね。当時は彼もそこまで有名ではなかったし。それが2011年に『Impossible Spaces』というアルバムを出したあたりから、一気に彼の知名度が上がって。

井上陽介(Turntable Films)
井上陽介(Turntable Films)

―サンドロ・ペリを中心としたトロント界隈の盛り上がりは、そのあたりから日本にも少しずつ伝わってくるようになりましたよね。

井上:そうですね。中でもサンドロは、音楽的に僕がやりたいと思ってもやれなかったことを実現させている人なんですよね。だから、今回は思い切ってミックスの作業をお願いしたんですけど、そうしたらサンドロの手が空くのを半年くらい待たなあかんことになっちゃって(笑)。それでも「ま、ええか」と。もちろん、日本のエンジニアさんと一緒にやることも可能だったけど、今回はそれとは違うやり方にしたかったので。

―というのは?

井上:それこそ今回のアルバムは、自分が日本語詞で作った初めてのアルバムじゃないですか。つまり、今までの作品とはまったく違うやり方で作ってる。だから、できればその作品をもう一回、自分とはまったく違う角度から見てもらいたかったんです。もっと言うと、僕らが作った音楽を、サンドロ・ペリの耳でもう一度作り直してほしかった。


―つまり、今回のミックスは日本人以外のエンジニアに任せたかったということ? 日本語の意味にとらわれず、あくまでも語感や響きで判断してほしかったというか。

井上:そうそう。だから、今回は彼に任せた時点で「サンドロが音を作ってくれたら、そこからはもう何も直さない」と思っていました。それはなぜかっていうと、僕は「サンドロ・ペリの耳を通した」自分たちの音楽が聴きたかったから。単純な話、僕はサンドロ・ペリの一ファンでもあるし、「彼が手がけた僕らの音楽を聴いてみたい」という気持ちも当然あったので。

―なるほど。サンドロとのコンタクトは、井上さんが直接とったんですか?

井上:はい。「自分は日本でTurntable Filmsというバンドをやっている、井上陽介という者です。以前、トロントであなたのライブを観たこともあって、今回はぜひミックスをお願いしたいんですけど、いくらでやってもらえますか?」みたいなメールを送って。そうしたら返事が来たので、こっちもすぐに「もうちょっと安くしてくれ」と。

井上陽介(Turntable Films)
Turntable Films

―あははは(笑)。

井上:サンドロ、すごく紳士的な人なんですよ。こっちの質問にも丁寧に答えてくれるし、ホンマええ人。しかも、彼は日本の音楽もよく聴いているみたいで、「細野晴臣は天才だ!」って言ってましたね。今回のアルバムのこともすごく褒めてくれて。「すごく楽しんでミックスしました」と言ってもらえたときはもう、天にも昇る気持ちでしたね。

誰かの書いた日本語詞にめちゃくちゃ感銘を受けたっていう経験が、多分ないんです。

―サンドロ・ペリにミックスを頼んだ理由には、日本語詞との関連もあったわけですね。そうなると、当然気になるのは「なぜ今回は日本語詞なのか」ということなんですが。

井上:はい。今まで自分が英語詞で歌ってきた理由はすごく単純で、自分の書いたメロディーに日本語を乗せるのが無理だったからなんです。つまり、いちばん大事なのはメロディーなんですよ。そこで自分のメロディーに合う言葉を選んでいったら、結果としてそれが英語になったというか。

―自分の書いたメロディーにうまく乗るのであれば、日本語でもかまわなかったということ?

井上:自分にそれを作る力があるなら、もちろんそれでもよかったと思います。だから、日本語詞を書くってことは、自分のなかでいつか挑戦したいことのひとつではあったんですよね。そこで、今までICレコーダーやiPhoneに録りためてきたメロディーのストックを、「これは日本語でいけるかも」「これは英語じゃないと無理」のふたつに分けてみたら、日本語を乗せた曲のカタチが、ちょっとだけ見えてきて。そんなときにくるりの岸田さんから「次は日本語で書いた方がええんちゃう?」みたいに言われて、これは(日本語詞に挑戦する)ちょうどええタイミングなのかな、と。きっかけとしては、そんな感じでしたね。あと、今回のアルバムに入ってる“Cello”と“Breakfast”ができたときに「これ、意外といけるかも?」みたいな自信も湧いてきて。

Turntable Films『Small Town Talk』ジャケット
Turntable Films『Small Town Talk』ジャケット

―今回の作品を聴いていて、すごく印象的だったのは、井上さんの歌い方がすごくソフトになっていることだったんですよね。恐らくこれも歌詞の変化に起因していることだと思うんですが。

井上:多分、そうなんでしょうね。とは言いつつ、「今回は優しく歌おう」みたいな意識はまったくなかったんですけど、改めて聴き返してみたら「あぁ、たしかに優しいわ」と思いました。僕が日本語で歌うと、そういう声になるんかな。ただ、歌詞の意味合いとかについては、僕はけっこう無責任に捉えているところもあって。

―というのは?

井上:よくいうじゃないですか。歌詞を聴いてたら「この曲、めちゃくちゃ俺の気持ちを歌ってるやん!」みたいに感じることがあるって。僕、それがよくわからないんですよね。誰かの書いた日本語詞にめちゃくちゃ感銘を受けたっていう経験が、多分ないんです。だからこそ、自分が日本語詞を書くことへのプレッシャーとかは特になかったし、それを聴いた人がそれをどう捉えてもかまわないというか。むしろ、自分の歌詞をどう解釈されても嬉しいんですよね。

―なるほど。あと、今回のアルバムでは音作りにおいても大きな変化を遂げていますよね。実質上、『Small Town Talk』は3名のサポートメンバーを含む6人で作った作品だと思うのですが、このバンド編成になった経緯を教えていただけますか。

井上:そもそも今回のアルバムに関しては、(正式メンバーの)3人だけで作るっていう考え方が、最初からなかったんですよ。それより、ここ数年はいろんな人と一緒にやりたかったんです。それこそ、多いときは11人編成でライブをやったときもあるし。

―2012年4月に京都の磔磔で開催されたワンマン公演のときですよね。

井上:そう。あのときは、The Bandの『The Last Waltz』(実質的な解散コンサートで、ボブ・ディランやニール・ヤング、エリック・クラプトンなど豪華なゲストミュージシャンが多数参加した)みたいなライブがやりたかったんです。でも、さすがにその編成でツアーを回るわけにもいかなくて(笑)、少しずつ人数が減っていっていくうちに、おのずと6人でバンドの土台が出来たので、「じゃあ、次のアルバムはこれでいこうかな」と。

井上陽介(Turntable Films)

―なかでも、今作は岩城一彦さんのスライドギターはかなりフィーチャーされていますね。全編でこんなにスライドギターが鳴っているポップスのアルバムって、あんまり聴いたことがないかもしれません。

井上:あははは(笑)。自分でも、(アルバム全編でスライドギターを弾かせるのが)無茶振りやってことは重々わかってました。でも、むしろそれがいい制約になると思って、「どんなことがあっても、今回はこれでがんばらなあかん」と。もしあそこで普通のギターをOKにしてたら、今頃4人くらいのロックバンドらしい編成だったのかもしれない。でも、今回はそういう、よくあるようなフォーマットに則らないものがやりたかったから。

今は自分のペースでやることのほうが大事。なによりも今回のアルバムでは、自分がやりたいことだけをやりたかったので。

―今作からはリズムワークの変化を強く感じました。たとえば、前作には“Animal's Olives”というタテノリの曲がありましたよね。でも、今回の作品にはヨコノリの16ビートがけっこう多くて。ここにも意識の変化が表れていると思ったんですが、いかがでしょう。

井上:そうですね。それこそ『Yellow Yesterday』を作っているときは、ヨコノリさせないようにしていたんです。特にドラムに関しては。というのも、演奏の下手な人がアコギの曲にヨコで乗ろうとしたものって、僕からすると、ものすごく単調に聴こえるんですよね。それに僕は、たとえばグレン・コッツェ(アメリカのバンドWilcoのドラマー)みたいな、8拍のリズムに対して奇数で割り込んでいくようなスタイルが正解だと思ってるから、『Yellow Yesterday』ではそういうことがやりたかったんです。

井上陽介(Turntable Films)

―なるほど。

井上:で、そのヨコノリをなぜ解禁できたかっていうと、ここまで散々タテで頑張ってきた分のバックボーンができたからなんです。つまり、そういう蓄積のあるやつが改めてヨコで叩くと、ちょっとイビツなものが出てくるんじゃないかなと思って。

―技術面の自信がついてきたっていうこと?

井上:もちろん、それもあるでしょうね。それに、『Yellow Yesterday』を作れたことで、自分もいくらか落ち着いたんだと思います。いい意味で大人になれたというか、「自分のエゴはソロで満たせばいいんだから、バンドはバンドにしかやれない音楽をやった方がいい」と思えたので。

―レコーディングのやり方を変えたのも、そういう理由で?

井上:そう。今回のアルバムは前作みたいに時間をかけて音を重ねたりせず、一発でバッと録りました。ただ、制作に取りかかるまでの土台作りには時間をかけたから、今回のアルバムはサポートメンバーを含めた6人の「チーム」で作った感覚なんですよね。で、そのチームをサンドロ・ペリが監督してくれた、みたいな感じというか。

―そのサンドロのミックスを半年間も待てたというところに、今の井上さんの精神的な落ち着きが表れている気もします。

井上:(笑)。ミックスを半年間も待てたのは、それだけサンドロに頼みたかったっていうのはもちろんだけど、「ここで焦ったところで、何かが変わるわけでもないよな」と思えたからなんですよね。「3年も、3年半も一緒やろ」って。まあ、これでもし僕が1年に1枚だすことを信条としていたら、話は別なんやろうけど、それよりも、今は自分のペースでやることのほうが大事だと思ってるし、なによりも今回のアルバムでは、自分がやりたいことだけをやりたかったので。

井上陽介(Turntable Films)

嫉妬心の塊みたいな状態になって、自分の立ち位置とかも考えるようになった時期もありました。

―そういう気持ちのゆとりを持てるようになったのは、何かきっかけがあるんですか。

井上:うーん……。僕、JET SET(京都のレコード店)で働いてたんですけど、日頃レコード屋さんにいると、それだけで日本の新しい音楽がどんどん入ってくるんですよ。で、そういうのを聴いてたりすると、やっぱり嫉妬するんですよね。

―それは、聴いた作品の内容がよかったから?

井上:もちろんそれもあるんやけど、単純にそれが売れてるってことに嫉妬してたときも、正直ありましたね。それでもう、嫉妬心の塊みたいな状態になって、自分の立ち位置とかも考えるようになっちゃって。それこそ、「なんか、今はシティポップとかがキテるらしいな。俺らもそんな感じの曲をひとつくらいはぶちこんだ方がええんちゃうか?」とか(笑)。

―あははは(笑)。でも、たしかにそれはつらい時期だったと思います。

井上:それが、1年半前くらいにその仕事を辞めたら、そういう情報がまったく入ってこなくなって。というか、もともと僕は日本の音楽をそんなに聴かへんから、その動向すらまったくわからなくなったんですよね。そうしたら気持ちがすっかりフラットになって、ホンマに自分が好きな音楽だけに向き合えるようになったんです。

―他者からの評価があまり気にならなくなったということ?

井上:そうですね。とはいいつつ、「音楽的に評価されたい」みたいな気持ちがゼロになったわけじゃないですよ? 「自分の作っているものに、みんながもっと気づいてくれたらなぁ」とは、もちろん今でも思ってて。ただ、こうして自分が好きなことだけをやっておきながら、「今の音楽シーンが俺たちを評価しないのはおかしい!」と言うのは、ちょっとおこがましいような気もしてるんですよね。だって、今回のアルバムはホンマに自分の好きなことだけをやっちゃってるわけだし、やりたいことはぜんぶやらせてもらえたんだから。

―でもその結果として、今回のアルバムはものすごくスタンダードなポップスに仕上がっているじゃないですか。枕詞が要らない作品というか。そこがホントすごいなと思って。

井上:うん。今回はまさにその「スタンダード」なものを作りたいと思ってました。でも、ジャンル的な呼び名は、やっぱり何かほしいかな。

―へえ! なんでほしいと思うんですか。

井上:それこそ、初めて知り合った人に「どんな音楽やってるの?」と訊かれたとき、「○○です」みたいに言える言葉が、何かひとつくらいはあった方がいいじゃないですか。でも、それが「J-POPです」とかだと、なんかモテなさそうな感じがするんで(笑)。

井上陽介(Turntable Films)

―あははは(笑)。そもそも『Small Town Talk』がJ-POPなのかっていうと、僕はそれもそれで違う気がしますけどね。

井上:たしかに。このアルバムをJ-POPだといって聴かせたら「ぜんぜんちゃうやん!」と言われるのかも……って、そんなことはどうでもええか(笑)。

リリース情報
Turntable Films
『Small Town Talk』(CD)

2015年11月11日(水)発売
価格:2,300円(税込)
only in dreams / ODCP-011

1. Light Through
2. What You Find
3. Cello
4. Nostalgia
5. Modern Times
6. Slumberland
7. I Want You
8. Breakfast
9. A Swollen River
10. Into The Water

プロフィール
Turntable Films (たーんてーぶる ふぃるむず)

井上陽介(Vo&G)、谷健人(Ba)、田村夏季(Dr)が京都にて結成した3ピース・バンド。2010年2月にミニ・アルバム「Parables of Fe-Fum」でデビュー。うち2曲が京都FM”α-station”のヘヴィ・プレイに選出され大きな話題を集めると、「ボロフェスタ」「京都大作戦」「都音楽祭」といった人気フェスにも次々と出演。2012年4月にリリースされたファースト・フル・アルバム『Yellow Yesterday』で、日本のインディーロ作・シーンでの確固たる地位を獲得。翌2013年4月29日、同郷のバンド”くるり”との共同イベント「WHOLE LOVE KYOTO」を京都KBSホールにて、同年8月からは、シャムキャッツとのスプリットアナログ盤を携えての全国ツアーを敢行、共に大成功を収めた。そして2015年11月、アルバムとしては実に3年7ヶ月振りとなる2ndアルバム「Small Town Talk」を、 ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文が主宰するレーベル「only in dreams」よりリリースする。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 秘宝じゃなくて至宝になった、Turntable Filmsの大きな一歩

Special Feature

coe──未来世代のちいさな声から兆しをつくる

ダイバーシティーやインクルージョンという言葉が浸透し、SDGsなど社会課題の解決を目指す取り組みが進む。しかし、個人のちいさな声はどうしても取りこぼされてしまいがちだ。いまこの瞬間も、たくさんの子どもや若者たちが真剣な悩みやコンプレックス、生きづらさを抱えながら、毎日を生きている。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて