夏目知幸が10年を振り返る。心情描写をしていたバンド初期

全4回にわたってシャムキャッツの歩みをその歌詞から振り返るトークイベント『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』。9月20日に開催された初回では、デビュー作『はしけ』(2009年)から『たからじま』(2012年)までのバンド初期作品にスポットをあて、ネタばらし的な話から、作詞に関する当時のこだわりなどを夏目がざっくばらんに明かしてくれた。

ここに掲載したのは、その一部である。ちなみに終盤には第2回のイントロダクションにあたる話もでてきます。あと、当日はちょっとここでは明かせないような際どい話もチラホラ出てきたんですが、そのあたりは来場された方だけの秘密ってことで! では、最後までお楽しみください。

「誰かが仕込んだことには加担したくない」みたいな気持ちが俺はずっと強いんですよね。

―『はしけ』再現ライブ(8月21日に東京・渋谷のTSUTAYA O-nestで開催された)、いつになく緊張してたみたいですね。

夏目:ここ最近のライブでいちばん緊張しましたね。『フジロック』よりも圧倒的に緊張した(笑)。

―10年前に作ったアルバムを曲順に演奏してみて、どうでしたか? 何か再発見はありましたか?

シャムキャッツ『はしけ』ジャケット

夏目:ひとつ思ったのは「ずっと同じこと言ってんだなー、俺」ってこと。全体をとおして言いたいメッセージが、今とあまり変わってないというか。最初のプリミティブな状態はこれだったんだなって。

―同じことを言ってるというのは、具体的にはどういうことなんだろう?

夏目:なんていうか、「誰かが仕込んだことには加担したくない」みたいな気持ちが俺はずっと強いんですよね。そこは今もあんまり変わってなくて。

夏目知幸(なつめ ともゆき)
東京を中心に活動するオルタナティブギターポップバンドシャムキャッツのボーカル、ギター、作詞作曲。

「忘れる」と「うんこする」の差がずっとわからないんですよ。

―『はしけ』は“忘れていたのさ”という曲から始まって、その後も<忘れる>という言葉が頻出しますよね。ここには当時の夏目くんの心境が何かしら反映されているんでしょうか?

夏目:それもあると思います。“忘れていたのさ”ができたのは、藤村(シャムキャッツのDr)がバンドの練習を忘れて遅刻してきたのがきっかけなんですけど、たしかに自分も忘れっぽくて。

で、これはよく思うことなんですけど、いい人って「記憶力がいい人」なんですよね。たとえば洋服屋さんに行ったとき、店員さんに「以前はカーキを買われてましたよね? たまには明るい色もいいんじゃないですか」とか言われたら、「わ、この人覚えてくれてるんだ! いい人~」ってなるじゃないですか。

―たしかに。

夏目:でも俺、そういうのまったく覚えてないんですよ。人の名前すらどんどん忘れる(笑)。だからテキトーな人だと思われるし、忘れると怒られるんですよね。でも、俺はそこにちょっと反発があるというか。「忘れる」と「うんこする」の差がずっとわからないんですよ。

―(笑)どういうこと?

夏目:忘れるっていうのは、生理現象じゃないですか。だから、「なんで忘れたの!」って言われても、「なんでそんなことで怒られるんだろう……」と思っちゃう。「たしかに僕は忘れた。そのことは謝るよ。でも、忘れたことを怒るっていうのは、どういう感性なんだろう?」っていうのが正直あって。でも、やっぱりみんな忘れることを気にして生きてるんですよね。俺もそうだし。

―“僕の都合”の歌い出しも<僕は忘れる>ですが、これは?

夏目:それも今の話そのままですね。「忘れる人ってテキトーだと思われるけど、いや、別にそんなことはないんだけどな」みたいな。で、これは“アメリカ”にも言えることなんですけど、“僕の都合”は起承転結というか、ストーリーがある歌詞の初期段階なんです。自分が忘れたことに彼女が愛想を尽かしちゃって、風船みたいに飛んでっちゃう。で、その風船がしぼんでって落ちてくところを拾うっていう話。

―頭のなかに浮かんでいるストーリーから生まれたのが“僕の都合”だと。実際にそこで仕上がった言葉は、けっこう抽象化されてますよね。

夏目:そうですね。かなり散文的というか。ただ、このときは技術的なことはあんまり考えてなかったと思う。今だったら「サビ頭はもうちょっと印象的じゃないと、人の心に残らないだろうな」みたいな、そういう教科書が頭のなかにあるんですよ。でも、このときはそれがまったくなくて、ただ自分が気持ちいいように言葉を並べてるっていう。

―ルールがなかったと。

夏目:でも「接続詞はなるべく使わない」ってことはこの頃から意識してたかも。「but」はたまに使わざるを得ないときがあるんですけど、「だから」とか「そして」とかを使っちゃうと、歌詞にする意味があまりなくなっちゃうっていうか。

―どういうこと?

夏目:文字数がもったいないってのもあるし、やっぱり何かと何かを連結させる言葉を使うと、イメージを限定しちゃうんですよね。その言葉の並びから勝手に何かを想像できる余地が消えちゃうというか。たとえば、「お腹空いてるからお好み焼きが食べたいんです」って、当たり前すぎるじゃないですか。でも、実際は人間ってそんなに「~だから」みたいな感性では生きてないんじゃないかなーと僕は思ってて。

―人の思考や行動はもっと脈絡がなかったりするんじゃないかってこと?

夏目:そうそう。でも、当時は多分そんなこともぜんぜん考えてなくて。あんまり歌詞のことで悩んでたりしてなかったんじゃないかな。

―なるほど。とはいえ、たとえば“キウイか椎茸”とかって、何の思惑もなしには、なかなかつけない字面だと思うんだけど。

夏目:たしかに(笑)。

―でも、実際はそういうシュールな歌詞もわりと天然で書いてたってことですか?

夏目:うん。『たからじま』までは思いっきり天然だったと思います。あと、『はしけ』と『たからじま』のあいだにデモシングルを3枚だしてるんですけど、自分としてはその時期にひとつスタイルができたかな、とすこし思ってましたね。シュールさがありつつ、言葉数がすくなくて、イマジナリーな歌詞を書けてるなって。

当時の俺は疲れ切ってて「ああ、これは砂の気持ちだな」って。

―シャムキャッツ初期の代表曲“渚”(2011年リリース。『たからじま』にも収録)についてはどうでしょう? この曲って『たからじま』の収録曲のなかでも特に内省的というか。<砂の気持ちになったよ>って、本当に素晴らしい歌詞だと思うんだけど。

シャムキャッツ『たからじま』ジャケット
シャムキャッツ『たからじま』を聴く(Apple Musicはこちら

夏目:名フレーズですよね(笑)。

―うん(笑)。気持ちの沈んだ感じがよく表れてる。

夏目:『はしけ』を出した後、ちょっと心が疲れてしまったというか。とにかく当時はいろいろイヤんなっちゃって、「何やってんだろ、俺。もうやめたいな」みたいな感じだったんです。でも、意外とメンバーもやる気ありそうだし、もっと前を向けるような曲を書かなきゃなって。

で、東京駅のバイト先から京王線で浦安に帰ると、その間に葛西臨海公園があって。せっかくこのあたりに住んでるんだし、海の歌を作りたいなーと。でも、当時の俺は疲れ切ってて、カラカラな状態で、自分の気持ちを掬い上げるとパラパラと飛んでいきそうな気分だったんです。それくらいに不安定で。「ああ、これは砂の気持ちだな」って。

―ああ、そういうところから浮かんだフレーズなんですね。

夏目:でも、走りだしたい。海辺を走るグラビアアイドルの胸が揺れてる。でも、現実的にはそんなに揺れるほど胸がでかい人はなかなかいない。実際はそこそこあるくらいの人がいちばん多い。ないこともない胸。俺もやる気はないこともない――そんな感じで言葉が先にできてきて、とにかくこれは砂の気持ちだなと。

同時に、そのときの自分は「勝手にしやがれ」みたいな気持ちにもなっていて。それを俺なりの言葉にできないかなと思って絞り出したのが<何をしようが勝手だよ>だったんです。そうやってできたのが“渚”。でも、当時は「うわ、つまんない曲できちゃったな。ふつ~」と思ってましたね。

―今はどうですか? 気に入ってる?

夏目:まあ、いい曲だなとは思うけど。演奏していてそんなに楽しくはないですね(笑)。集中するのが難しい曲というか。

―“渚”は当時の鬱々とした心情がよく表れた曲じゃないですか。今でも歌っててエモーショナルになったりしないの?

夏目:なるときはなるんですよね、やっぱり。エモい曲だし、なんやかんや思い出のある曲だから、ライブ録音とかを確認してみると、じつはこの曲をやってるときがいちばん気持ち入ってたのかもなーって思うこともたまにあったりして。そこは自分でもわからないんです。

―じゃあ、『たからじま』1曲目の“なんだかやれそう”はどうですか? これも感情を爆発させた曲だと思うんですが。

夏目:いやー、これもどうなんでしょうねぇ。この曲が好きだって言ってくれる人は多いんですよ。いまだにライブでやってほしいとはよく言われるんですけど。

―いまの言い回しからすると、どうやら夏目くん的にはあまり気が乗らない感じなんですね(笑)。

夏目:んふふ(笑)。でも、『たからじま』には気に入ってる曲がたくさんあるんです。“SUNNY”とかいまだに好きだし、菅原が初めてバンドに持ってきてくれた“手紙の続き”もすごくいいし、“金太郎飴”も個人的にすごく気に入ってて。

俺はすごくウジウジしてて、アーモンドもかみ砕かないような男なんだって。これは自分のことを吐露した曲なんです。

―なるほど。今日はいくつか質問が届いてるので、ここでひとつ読んでみますね。「“さよならアーモンド”と“金太郎飴”がすごく好きです。(中略)食べ物からインスピレーションをうけて歌を書くことはよくあるんですか?」。

夏目:よくあります。僕、明治のアーモンドチョコレートを食べるときは絶対に噛まないんですよ。アーモンドの薄皮がダルダルになるくらいに舐めながら食べるのが好きで。

“さよならアーモンド”には<透明なんて嘘だって知ってたんでしょ>って歌詞があるんですけど。これはのちに「ヤング」に改名する「乍東十四雄」というバンドが“透明”という曲を作ったとき、俺それがすごくイヤだったんですよ。本人にも言ったんです。「バンドとかやってて透明なわけねえだろ。汚れまくりだよ」って(笑)。

―(笑)

夏目:でも、確かにてっちゃん(高梨哲宏。「ヤング」のボーカルで、現在は三島で「ラーメンやんぐ」を営んでいる)はすごくピュアなやつで、透明っぽいんですよ。でも、俺はそうじゃない。だったらそういう曲をちゃんと作らなきゃと思ったんです。俺はすごくウジウジしてて、アーモンドもかみ砕かないような男なんだって。だから、これは完全に自分のことを吐露した曲なんです。

シャムキャッツ“さよならアーモンド”を聴く(Apple Musicはこちら

―なるほど。“金太郎飴”については?

夏目:“金太郎飴”は恋してたときに作った曲で。そのとき藤村に話したんです。「バンドよりも彼女といるときのほうが楽しいから、相対的に見るとバンドが楽しくなくなっちゃった」って。そしたら藤村から「ということは、楽しいことが増えたってことだよね? だったら彼女にも敵うようにバンドやれば、もっとバンドが楽しくなるじゃん。それってめちゃくちゃいいことだよ」と言われて。

たしかにそうだなーと。それで思ったんです。「楽しいことっていつまで経っても、どこを切っても楽しいんだな。それって金太郎飴だな」って。

シャムキャッツ“金太郎飴”を聴く(Apple Musicはこちら

―藤村くん、いいこと言いますね。

『はしけ』~『たからじま』の頃に俺がやってるのは、心情描写なんですよね。

夏目:『たからじま』の歌詞についてこまかい話をしていくと、“No.5”はジェラート屋さんで働いてたときに作った曲で。そのお店はヨーグルトのジェラートがめちゃくちゃ美味いんですけど、ヨーグルトって多分どの人に聞いても、なかなかいちばん好きな食べ物には挙がらないじゃないですか。まあ、ギリギリ5位くらいだろうなと。

―なるほど(笑)

夏目:ここでちょっとロマンチックなことを言うと、4人でバンドをやってると、やっぱり5人目が大事なんですよね。それはスタッフって意味でもあるし、お客さんって意味でもあるんですけど、とにかく5番目のものに愛情を注ぎたい。そういう感性を曲にできないかなと。

あと、これは他の歌詞にも言えることなんですけど、俺は金を支払うっていう行動が好きなんですよ。だから、この曲の登場人物には金を払わせてるんです。

シャムキャッツ“No.5”を聴く(Apple Musicはこちら

―どうして金を支払うのが好きなんですか?

夏目:すごいリアルっていうか、生きてる感じがするじゃないですか。俺は曲中の人物にリアルでいてほしいから、たまに金を払わせたくなるんです。それに不満足さを感じたりとか、逆にぜんぜん意味のないことに1万円を使ってみたら意外と満足感があったりとか、そういうやつでいてほしいんですよね。

―そのリアルであってほしいという思いは、ラブソングにも表れてますよね。たとえば“SUNNY”の<君のお腹んなかに入らせて>は、どういう発想からでてきたフレーズなんですか。

シャムキャッツ“SUNNY”を聴く(Apple Musicはこちら

夏目:プロデューサーの古里おさむさんに「こういう曲にしたんだけど歌詞が思いつかないんです」と話してたら、「自分のなかで最上級のだらしない表現にしたほうがいい」と言われて。だから、そのままですね。その頃の僕はとにかく疲れ切ってたんで、もう子宮にいたいなと(笑)

―酷い(笑)。

夏目:多分、それくらい言わないと伝わらないんじゃないかなって気持ちもあったのかな。ていうか、この頃から「あんまり伝わってねえなー」と思い始めたんですよ。「このままやっててもダメだ。ウケないなー」みたいな。そういう気持ちのピークが『たからじま』を出したあとだったんで。

―その気持ちはその後の作詞にどう影響していくんですか。

夏目:『はしけ』~『たからじま』の頃に俺がやってるのは、心情描写なんですよね。自分の気持ちの動きを語ろうとしてる。でも、この頃からThe Smithsとかスフィアン・スティーヴンスとか、海外の歌詞を積極的に読むようになって、気づいたんです。「これ、心情描写じゃねえな」って。

そのときに俺は「どう思ったか」ってことではなくて、その時何があって、誰がどう動いたかってことが語られてる。「あ、このやり方だったら自分のやりたいことがもっと伝わるかもしれないな」と思ったんです。心情じゃなくて風景を語れば、もうすこし伝わるかもしれないなって。で、それが『AFTER HOURS』につながってくんです。

『シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』第2回は10月25日(金)に開催
イベント情報
『第1回 シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』

2019年9月20日(金)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8 / MADO
登壇:
夏目知幸
渡辺裕也

『第2回 シャムキャッツ・夏目知幸が送る 10年分の歌とことば』

2019年10月25日(金)
会場:東京都 渋谷ヒカリエ 8 / MADO
登壇:
夏目知幸
渡辺裕也

リリース情報
シャムキャッツ
『はなたば』(CD)

2019年11月6日(水)発売
価格:2,200円(税別)
TETRA-1018
※特典DVD『バンドの毎日4』付属

[CD]
1. おくまんこうねん
2. Catcher
3. かわいいコックさん
4. はなたば ~セールスマンの失恋~
5. 我来了

シャムキャッツ
『はなたば』(12インチアナログ盤)

2019年11月20日(水)発売
価格:2,500円(税別)
TETRA-1019

プロフィール
夏目知幸
夏目知幸 (なつめ ともゆき)

東京を中心に活動するオルタナティブギターポップバンドシャムキャッツのボーカル、ギター、作詞作曲。2016年、自主レーベル〈TETRA RECORDS〉を設立し、リリースやマネジメントも自身で行なっている。近年はタイ、中国、台湾などアジア圏でのライブも積極的。個人では弾き語り、楽曲提供、DJ、執筆など。



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