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秘宝じゃなくて至宝になった、Turntable Filmsの大きな一歩

秘宝じゃなくて至宝になった、Turntable Filmsの大きな一歩

Turntable Films『Small Town Talk』
インタビュー・テキスト
渡辺裕也
撮影:永峰拓也

今は自分のペースでやることのほうが大事。なによりも今回のアルバムでは、自分がやりたいことだけをやりたかったので。

―今作からはリズムワークの変化を強く感じました。たとえば、前作には“Animal's Olives”というタテノリの曲がありましたよね。でも、今回の作品にはヨコノリの16ビートがけっこう多くて。ここにも意識の変化が表れていると思ったんですが、いかがでしょう。

井上:そうですね。それこそ『Yellow Yesterday』を作っているときは、ヨコノリさせないようにしていたんです。特にドラムに関しては。というのも、演奏の下手な人がアコギの曲にヨコで乗ろうとしたものって、僕からすると、ものすごく単調に聴こえるんですよね。それに僕は、たとえばグレン・コッツェ(アメリカのバンドWilcoのドラマー)みたいな、8拍のリズムに対して奇数で割り込んでいくようなスタイルが正解だと思ってるから、『Yellow Yesterday』ではそういうことがやりたかったんです。

井上陽介(Turntable Films)

―なるほど。

井上:で、そのヨコノリをなぜ解禁できたかっていうと、ここまで散々タテで頑張ってきた分のバックボーンができたからなんです。つまり、そういう蓄積のあるやつが改めてヨコで叩くと、ちょっとイビツなものが出てくるんじゃないかなと思って。

―技術面の自信がついてきたっていうこと?

井上:もちろん、それもあるでしょうね。それに、『Yellow Yesterday』を作れたことで、自分もいくらか落ち着いたんだと思います。いい意味で大人になれたというか、「自分のエゴはソロで満たせばいいんだから、バンドはバンドにしかやれない音楽をやった方がいい」と思えたので。

―レコーディングのやり方を変えたのも、そういう理由で?

井上:そう。今回のアルバムは前作みたいに時間をかけて音を重ねたりせず、一発でバッと録りました。ただ、制作に取りかかるまでの土台作りには時間をかけたから、今回のアルバムはサポートメンバーを含めた6人の「チーム」で作った感覚なんですよね。で、そのチームをサンドロ・ペリが監督してくれた、みたいな感じというか。

―そのサンドロのミックスを半年間も待てたというところに、今の井上さんの精神的な落ち着きが表れている気もします。

井上:(笑)。ミックスを半年間も待てたのは、それだけサンドロに頼みたかったっていうのはもちろんだけど、「ここで焦ったところで、何かが変わるわけでもないよな」と思えたからなんですよね。「3年も、3年半も一緒やろ」って。まあ、これでもし僕が1年に1枚だすことを信条としていたら、話は別なんやろうけど、それよりも、今は自分のペースでやることのほうが大事だと思ってるし、なによりも今回のアルバムでは、自分がやりたいことだけをやりたかったので。

井上陽介(Turntable Films)

嫉妬心の塊みたいな状態になって、自分の立ち位置とかも考えるようになった時期もありました。

―そういう気持ちのゆとりを持てるようになったのは、何かきっかけがあるんですか。

井上:うーん……。僕、JET SET(京都のレコード店)で働いてたんですけど、日頃レコード屋さんにいると、それだけで日本の新しい音楽がどんどん入ってくるんですよ。で、そういうのを聴いてたりすると、やっぱり嫉妬するんですよね。

―それは、聴いた作品の内容がよかったから?

井上:もちろんそれもあるんやけど、単純にそれが売れてるってことに嫉妬してたときも、正直ありましたね。それでもう、嫉妬心の塊みたいな状態になって、自分の立ち位置とかも考えるようになっちゃって。それこそ、「なんか、今はシティポップとかがキテるらしいな。俺らもそんな感じの曲をひとつくらいはぶちこんだ方がええんちゃうか?」とか(笑)。

―あははは(笑)。でも、たしかにそれはつらい時期だったと思います。

井上:それが、1年半前くらいにその仕事を辞めたら、そういう情報がまったく入ってこなくなって。というか、もともと僕は日本の音楽をそんなに聴かへんから、その動向すらまったくわからなくなったんですよね。そうしたら気持ちがすっかりフラットになって、ホンマに自分が好きな音楽だけに向き合えるようになったんです。

―他者からの評価があまり気にならなくなったということ?

井上:そうですね。とはいいつつ、「音楽的に評価されたい」みたいな気持ちがゼロになったわけじゃないですよ? 「自分の作っているものに、みんながもっと気づいてくれたらなぁ」とは、もちろん今でも思ってて。ただ、こうして自分が好きなことだけをやっておきながら、「今の音楽シーンが俺たちを評価しないのはおかしい!」と言うのは、ちょっとおこがましいような気もしてるんですよね。だって、今回のアルバムはホンマに自分の好きなことだけをやっちゃってるわけだし、やりたいことはぜんぶやらせてもらえたんだから。

―でもその結果として、今回のアルバムはものすごくスタンダードなポップスに仕上がっているじゃないですか。枕詞が要らない作品というか。そこがホントすごいなと思って。

井上:うん。今回はまさにその「スタンダード」なものを作りたいと思ってました。でも、ジャンル的な呼び名は、やっぱり何かほしいかな。

―へえ! なんでほしいと思うんですか。

井上:それこそ、初めて知り合った人に「どんな音楽やってるの?」と訊かれたとき、「○○です」みたいに言える言葉が、何かひとつくらいはあった方がいいじゃないですか。でも、それが「J-POPです」とかだと、なんかモテなさそうな感じがするんで(笑)。

井上陽介(Turntable Films)

―あははは(笑)。そもそも『Small Town Talk』がJ-POPなのかっていうと、僕はそれもそれで違う気がしますけどね。

井上:たしかに。このアルバムをJ-POPだといって聴かせたら「ぜんぜんちゃうやん!」と言われるのかも……って、そんなことはどうでもええか(笑)。

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リリース情報

Turntable Films『Small Town Talk』(CD)
Turntable Films
『Small Town Talk』(CD)

2015年11月11日(水)発売
価格:2,300円(税込)
only in dreams / ODCP-011

1. Light Through
2. What You Find
3. Cello
4. Nostalgia
5. Modern Times
6. Slumberland
7. I Want You
8. Breakfast
9. A Swollen River
10. Into The Water

プロフィール

Turntable Films(たーんてーぶる ふぃるむず)

井上陽介(Vo&G)、谷健人(Ba)、田村夏季(Dr)が京都にて結成した3ピース・バンド。2010年2月にミニ・アルバム「Parables of Fe-Fum」でデビュー。うち2曲が京都FM”α-station”のヘヴィ・プレイに選出され大きな話題を集めると、「ボロフェスタ」「京都大作戦」「都音楽祭」といった人気フェスにも次々と出演。2012年4月にリリースされたファースト・フル・アルバム『Yellow Yesterday』で、日本のインディーロ作・シーンでの確固たる地位を獲得。翌2013年4月29日、同郷のバンド”くるり”との共同イベント「WHOLE LOVE KYOTO」を京都KBSホールにて、同年8月からは、シャムキャッツとのスプリットアナログ盤を携えての全国ツアーを敢行、共に大成功を収めた。そして2015年11月、アルバムとしては実に3年7ヶ月振りとなる2ndアルバム「Small Town Talk」を、 ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文が主宰するレーベル「only in dreams」よりリリースする。

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