眠れない夜に咲いた、悲しくも美しいPredawnの世界

近年は女性シンガーソングライターが花盛りで、将来有望な若き才能が数多く登場しているが、その中でもPredawnこと清水美和子の存在感というのは特別である。英詞で歌われる洋楽然とした響き、卓越したアコギの演奏から録音までを自らこなすミュージシャンシップの高さといった部分ももちろん魅力だが、何より重要なのは、彼女にとって音楽が文字通り生きる糧であるということだ。前作にあたるミニアルバム『手のなかの鳥』から、初のフルアルバム『A Golden Wheel』の発表までに約3年間を要したのは、間に震災を挟んだことももちろん関係しているだろう。しかし、Predawnにとってのアルバム制作というのは、そもそもが相当な精神力と根気を必要とするものだったに違いない。だからこそ、遂に完成したアルバムは、繊細な美しさの中に確固たる意志の強さを感じさせるのだ。

彼女が常々フェイバリットに挙げているアーティストの一人として、Sparklehorseことマーク・リンカス(2010年、自殺によりこの世を去っている)がいるのだが、現在彼のドキュメンタリー映画が制作進行中で、そのタイトルは『The Sad & Beautiful World of Sparklehorse』なのだという。この言葉は、まさにPredawnの世界観にもぴったりだ。悲しくも美しいPredawnの世界、ぜひ多くの人に体験してもらいたい。

大きいものに対する敵対心というか、疑いの気持ちみたいなものは今もずっとありますね。

―清水さんって中学生のとき生徒会長だったそうですね。ライブのMCのときのフワッとしたイメージからは想像つかなくて、びっくりしたんですけど。

Predawn:先生に押し付けられた感じなんですけどね(笑)。ただ、それまでは結構社交的だったんですけど、高校でグッと閉じこもっちゃったんです。まあ、もともとどっちの面もあったとは思うんですけど、目立つのはあんまり性に合わないから、人の波に埋もれようと思って。

―それって誰にでもある思春期特有の自意識の芽生えのような気もするけど、Predawnの表現の根本に関わることのような気もします。中学から高校でそうやって意識が変わったのは、友達や学校、あるいは社会に対する違和感のようなものがあったのでしょうか?

Predawn:大きいものに対する敵対心というか、疑いの気持ちみたいなものは今もずっとありますね。ただ、当時はそこまで深く考えていたわけではなくて、音楽も趣味だったというか、作りたいときに作ってた感じなんですけど、あとから見れば音楽に救われていたようなところもあったのかなって。嫌なこととか悲しいことはやっぱりあったので。

Predawn
Predawn

―Predawn(夜明け前)っていう名前とも関連しますけど、曲の中に「眠れない夜」っていうモチーフがよく出てくるじゃないですか? 実際夜はなかなか眠れないことが多いのですか?

Predawn:小学校くらいからあんまり眠れなくて……だいたい朝寝坊でした(笑)。それが結構つらくて、ストレスでしたね。

―それは漠然とした不安のようなものがあったということでしょうか?

Predawn:理由はわからないんですけど……たぶん、そうなんでしょうね。小学校のときは10時くらいに布団に入るけど、2時くらいまで眠れなかったりしました。でも、今は逆に寝るのが好き過ぎて、12時間ぐらい眠れちゃうんです(笑)。当時からしたら幸せですけど、今も波はありますね。

―そういうときに、音楽が不安を解消してくれた?

Predawn:そうですね。ずーっと眠れなかったのに、曲ができたらいきなり眠れるようになったこともあるので、きっと曲を作ることで気持ちの整理をつけてたっていうことなんじゃないかと思います。

実際に音楽にできることっていうのは少なくて、やっぱり一番の拠り所は自分だなって、みんなきっとどこかで思ったと思うんです。

―『A Golden Wheel』は約3年ぶりの作品になりますが、資料には“Breakwaters”に関して、「2011年の初め、音を探しに伊豆まで行ったのがこのレコードのキックオフだった」とありますね。

Predawn:一つ探してる音があって、その音を入れたいと思ったんですけど、何の音かわからなくて。

―自分の頭の中で鳴ってる音だったんですか?

Predawn:確かに記憶の中にある音で、最初はブランコの音かなって思ったんですけど違って、そのうち海の音な気がしてきて、とりあえず身近な海に行ってみたんです。そうしたら、港で鳴ってました。

―何の音だったんですか?

Predawn:漁船に乗るための車輪がついてる階段があって、その車輪が潮で錆びて、キーキー鳴る音でした。みなさんが聴いて心地いい音ではないんですけど(笑)、私の記憶の中の思い出の一片みたいな音だったので、入れたかったんです。

―“Over the Rainbow”も“Breakwaters”同様に震災の少し前にできた曲だそうで、この2曲が序盤にできた曲だったんですか?

Predawn:いや、“Over the Rainbow”がこの中で一番新しい曲です。

―ってことは、全部の曲が震災よりも前にできてたということですか?

Predawn:はい、震災よりも全然古い曲です。

―曲はできていたけど、作品としてリリースするに至るまではかなり時間がかかったわけですね。

Predawn:私の中では一瞬なんですけどね(笑)。

―でもやっぱり、震災が起きて制作が止まってしまったわけですか?

Predawn:そうですね。しばらくはやる気になれなかったです。レコーディングは家でやってたんですけど、私の場合はすごく気力が必要なので、なかなかそういうところまでたどり着けなかったですね。

―その頃はどうやって過ごしてましたか?

Predawn:ずっとボケーッとしてました(笑)。ただ、確か震災の2週間後くらいに高松と広島でライブが入っていて、それは全部やったんですけど、そのときは何をしゃべっていいのかわからなくて。1年近く経って仙台に行ったときも、やっぱり何をしゃべっていいのかわからなかったです。

―サルトルだったり、ウィトゲンシュタインだったり、哲学がモチーフになってる曲がいくつかあるじゃないですか? 「曲は震災以前にできてた」っていう話を聞くまでは、震災後に哲学に関心が向かったっていうことなのかと思ったんですよね。

Predawn:大学で哲学を専攻していたので、そのときによく読んでた本が何となくモチーフになってるんです。やっぱり、何かに悩んでるときの心境が反映されていることが多いですね。

―震災以降、自分が音楽をやる意味を改めて考えましたか?

Predawn:でも、実際に音楽にできることっていうのは少なくて、やっぱり一番の拠り所は自分だなって、みんなきっとどこかで思ったと思うんです。家族とかも拠り所かもしれないけど、みんな自分の中に拠り所を探したんじゃないかと思うし、私もそうでした。分かち合えるものは分かち合いたいと思うけど、自分は自分が得意なことをやるしかないと思ったんです。

Predawn

「エモくなった」って言われます(笑)。

―アルバムを聴いて、清水さんの中で音楽に向かう覚悟が今まで以上に固まったんじゃないかって思ったんです。以前のインタビューで「音楽を嫌いになりたくないから、音大ではなく普通の大学に行った」っていう話をしてくれたと思うんですけど、今はその距離感も気にせず、「自分がやることは音楽なんだ」って、覚悟を決めたというか。

Predawn:それはでも、結構最近のことかもしれないです。「もうちょっと自分をさらけ出さなきゃ」みたいに思うようになったのが先か、ライブのときにちゃんと目を開いて人を見ながら歌うようになったのが先か、どっちが先かは忘れちゃったんですけど、そういう意識がどこかで芽生えて、そこからちょっと変わりましたね。「エモくなった」って言われます(笑)。なので、今は「もうちょっと開いていこう」みたいなことは思いますね。芝居を見るのも好きなんですけど、開いてる人の音楽とか演技は訴えかけるものがあるなと思って。

―芝居ってどんなのを見るんですか?

Predawn:あんまりたくさん見てるわけじゃなくて、知り合いのとかなんですけど、でもすごいですよね、若い人のお芝居って。同年代くらいの劇団を見ることが多いです。

―ライブハウスとは違う体験ですか?

Predawn:いや、基本的には同じだと思います。でも、開くっていう意味では、音楽より全然開いてますよね。音楽は「自分」としてやらないといけなくて、芝居の場合は「違う人」を演じているからこそ開けるっていうのもあるだろうから、またちょっと違うとは思うんですけど、やっぱり開いてる人間の方が研ぎ澄まされてるなって。もしくは、自分が研ぎ澄まされてきたからこそ、そういうのに気付いたのかもしれないですけど。

アーティストなんだから、自分の作品ぐらいエゴでいいというか……自分と会話して出てきたものが正解なんじゃないかって思いますね。

―Predawnの作品は清水さんが演奏から録音までをすべて一人で手掛けられていて、そこからはある種のさらけ出す強さ、開かれた強さを感じます。前作以降はバンドでもライブをやられていましたが、バンドで録音するっていう選択肢はなかったんですか?

Predawn:一人だと大変な部分もあるので、頼もうかとも思ったんですけど、今回の曲までは自分で録ろうと思いました。やっぱり、雰囲気が違うんですよね。スタジオで録るか、家で録るかでも全然違うし。まあ、すごいコントロールしたがりなので、そういう欲望もあったんだと思います。「全部管理下に置きたい」とか「この音をここに置かないと気が済まない」みたいな(笑)。

―もう一度だけ「震災」っていう言葉を使わせてもらうと、「死」っていうものを身近に感じたことで、後悔のないように、本当に自分のやりたいことをやろうと思った結果、一人を突き詰めたっていう部分もあるのかなって思ったんですけど。

Predawn:へこたれそうになっても、「これを録り終わるまでは死ねない」って思ってました(笑)。でも、そういうのはいつもありますね。やり始めちゃったら、「これ終わらせないと死ねないよな」って。

―制作中はそれぐらい身も心もすり減らして作ってる?

Predawn:サボって寝てるときもあるんですけど(笑)、でも、そうですね。「これだけは終わらせてから死のうかなあ」とか。

―アルバムタイトルもそのあたりが関係してるのかなって思いました。『The Golden Wheel』って、Predawnっていう名前のモチーフにもなってる小川未明さんの『金の輪』から来てるわけですよね? あの話って、「死」であったり、「輪廻転生」がテーマになってるわけで。

Predawn:あの話はそういう雰囲気がありますよね。向こうとこっちはつながってるんだよっていう。あと今回三拍子の曲だらけになっちゃったんですけど、三拍子の記号ってもともと丸だったらしいんです。その名残が今の(四拍子の)C記号らしくて、完璧なもの、三位一体みたいな意味があったらしいんですけど、そういう三拍子の象徴っていう意味もあるし、あとちょっと頭にあったのが「A Perfect Circle」で……。

―Tool(アメリカのプログレッシヴメタルバンド)のメイナードのバンド!?

Predawn:すごくいいバンド名だと思ってて(笑)。そのオマージュもありつつ……すいません、ゴリゴリで(笑)。あと「The Golden Wheel」でググると、チェコのホテルが出てきて、東っぽい雰囲気というか、色使いとかもイメージに合ってたんです。

―なるほど、そういういろんなものに当てはまる言葉なんですね。

Predawn:あと、最初に言った“Breakwaters”の車輪も。勝手に自分の中でつながっていったんですけど(笑)。

―これまで清水さんはずっと自分のために音楽を作ってきた人だと思うんですけど、ライブをたくさん行ったりする中で、他者に対する意識が芽生えたりもしているのでしょうか?

Predawn:うーん、でも帰ってくるのは自分ですね、やっぱり。人の目を意識して作るっていうのは考えられないし、アーティストなんだから、自分の作品ぐらいエゴでいいというか……自分と会話して出てきたものが正解なんじゃないかって思いますね。自分の中の子供みたいな部分と会話して曲と歌詞を書くことが多いんですけど、そうやって出てきたものが、何かしら自分の心の傷を癒すものだったり、書いてスッキリして眠れるようになったりすることもあって、自分にありうることは人にもあるんじゃないかとは思います。特に、同年代の女の子にはありうるんじゃないかって、そういう希望的観測はありますね。

Predawn

―結果的に他人に向けられることはあっても、根本にあるのはあくまで「自分」だと。

Predawn:そうですね。「自分が本当にやりたいことは何だろう」とか、「自分が本当に聴きたい音って何だろう」とか、そういうことですね。さっきも言ったように、常に自分の子供みたいな部分と会話をしていて、最終的に曲を完成させるときには、自分に戻ってくるんです(笑)。

―アルバムのラスト“Sheep & Tear”は、まさに最後に自分回帰してる曲ですよね。この曲も「眠れない夜」がモチーフになっていて、やっぱり漠然とした不安感みたいなものが常にあるけど、何とか前を向こうとしている。そういう自分に回帰してる曲なのかなって。

Predawn:『ハルーンとお話の海』っていうサルマン・ラシュディさんの本と、大森荘蔵さんっていう哲学者の方の本を読んでた時期に書いた曲なんですけど、やっぱり眠れなくて本を読んでたんだと思います。この曲は自分の友達みたいな曲というか、ライブの最後も大体この曲で終わってて、ちょっと特別な曲なんです。すごく懐かしい感じが自分の中ではあって、どんなにしっちゃかめっちゃかなライブでも(笑)、この曲を最後にやると落ち着くので、アルバムでも一番最後にしたかったんです。

―さらにはその後にもう1曲、シークレットトラックが入ってますね。この曲は嬉しい驚きでした。

Predawn:洋楽の日本盤のCDって、ボーナストラックが入ってるじゃないですか? たぶん違うEPの曲だったり、シングルのカップリングだったりすると思うんですけど、私そういうボーナストラックの曲って力が抜けてて好きで、そういうイメージで入れたいと思ったんです。最後ちょっと重めの曲で終わった後に、フッと軽くなるような、そういう感じにしたかったんですよね。

―今回のアルバムの収録曲はだいぶ前に書かれた曲が多いということだったので、「エモくなった」という最近のモードを体験したい人はぜひライブに、ということですかね。もちろん、音源化もお待ちしてます。今度はもう少し早いスパンで出るとリスナーとしては嬉しいです(笑)。

Predawn:そうですよね、みなさんに言われますね(笑)。でも、基本的にあまのじゃくなんで、言われるたびに遅くなっていくんです(笑)。

リリース情報
Predawn
『A Golden Wheel』(CD)

2013年3月27日発売
価格:2,400円(税込)
Pokhara Records / HIP LAND MUSIC / RDCA-1028

1. JPS
2. Keep Silence
3. Tunnel Light
4. Breakwaters
5. Free Ride
6. Milky Way
7. A Song for Vectors
8. Drowsy
9. Over the Rainbow
10. Sheep & Tear

プロフィール
Predawn

Predawn(プリドーン=夜明け前)を名乗る、女性ソロシンガーソングライター。かわいらしくも凛としたたたずまいと、天性の声に魅了されるリスナーが続出している。UKロック、オルタナティブロック、ルーツミュージックを独自に昇華し、少々ひねくれつつもドリーミングかつヒーリング的な聴き心地が融合した音楽は、国内のおいて類を見ない。2010年6月に1stミニアルバム『手のなかの鳥』をリリースし、日本全国でロングセールスを記録中。



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