ひとりぼっちの美学 倉内太インタビュー

現在の東京都内を中心に活動するシンガーソングライターの中では、今最もイビツな輝きを放っている存在だと、ここではっきりと言い切ってしまいたい。「倉内太と彼のクラスメイト」名義のデビューアルバムからほぼ半年で届いた2作目『刺繍』を聴き、そうした実感はさらに強くなっている。フォークやロックンロールのマナーを踏まえたソングライティングに乗せて歌われる、どこか頼りなくて人間臭いやつのストーリー。もしかするとそのほとんどは倉内自身のことを歌っているのかもしれないけど、彼の歌から立ち上がってくる男に、思わず自分の姿を重ねてしまう人はきっと少なくないんじゃないか。とにかく今、彼ほど内面の機微に触れてくる歌い手は他になかなか思い当たらない。

『刺繍』からは、劇団「ロロ」の三浦直之が監督を務めた映画『ダンスナンバー 時をかける少女』の主題歌でもある“時を踊る少女”をはじめとして、三浦とのコラボレーションによる影響がいくらかうかがえる。そして新バンド「ネイティブギター」との録音は、この作品に歯切れのよいリズムとグルーヴ感をもたらしている。こうして作品を耳にしただけでも、倉内を取り巻く環境が少しずつにぎやかになっていることが感じられるし、それが彼の音楽活動をさらに充実させたことは間違いないと思う。包帯で指をぐるぐるに巻いた倉内と、ゆっくり言葉を交わしてきた。

今は、一人でどこまでやれるか試したい。

―その指、どうされたんですか。

倉内:ちょっと前にライブでモニターに挟んじゃって骨折しちゃったんですよ。

―しかも左手だし、しばらくギターも弾けないんじゃ?

倉内:それでもなんとかして弾いちゃってるんですけど、痛いですね(笑)。

―変なクセがつくから、無理しない方が……。

倉内:そうなんですけど、つい弾きたくなっちゃって……。なんか今日、うまく声が出なくて。ちゃんと話せるかなあ……。

倉内太
倉内太

―小さい声で大丈夫ですよ(笑)。さっそく新作のお話なんですけど、前作より少し引いた視点から描かれている歌が増えたような気がしました。

倉内:そうですね。あんまり自分について歌うことが見つからなかったというか、なくなってきたのかもしれない。だから、物語みたいな歌の方が楽に作れたんです。

―今回のアルバムは映画作品『ダンスナンバー 時をかける少女』に提供した曲もありますよね。この曲はどういう経緯で作られたのでしょう?

倉内:あの映画に関しては、まず仮のシナリオが送られてきて。その段階でシナリオと似た世界観の曲がすでにあったんです。それが“時を踊る少女”なんですけど、もともとロロの三浦くんとは近いものを感じたし、やりとりを重ねる中でお互いに刺激し合った部分もあったのかもしれない。

―映像作品とリンクした楽曲制作って、実際にやってみてどうでしたか?

倉内:やっぱり頭の中にあるものを現実にしていくのってすごく難しい作業ですよね。自分の曲が使われることもあって、ただ単純に楽しんで観るわけにもいかなかったし、緊張感もありました。

―すごくざっくりした質問ですけど、今倉内さんが一番関心をもっているのはどんなことですか?

倉内:それはやっぱり弾き語りかな。今は一人でどこまでやれるか試していきたくて。

―なにかそう思うきっかけがあったんですか?

倉内:最近ちょっと歌うのがしんどかった時期があったんです。でも、自分が歌うのを止めたらすべて終わりだなっていう気持ちもあるから、なんとしても続けていこうと思っているんです。それで自分がずっと歌を続けられる形を考えると、やっぱり一人だろうなって。

小さな音でなにか強烈なことをやりたい。

―倉内さんは、ネイティブギターというバンドと一緒にやったりもしてますけど、ずっと続けるとなるとバンドじゃ難しいんですね。

倉内:今回のアルバムは半分ぐらい彼らと一緒に録ったんですけど、このバンドは僕の曲にすごく広がりを与えてくれたと思う。でも、バンドででっかい音をドーンと鳴らしてたくさんの人が一斉に盛り上がる感じに、なんかあんまり興奮できなくなってきてるんです。もともとはそういうのが大好きだったんですけど、そういうエンターテイメント的なものは、とりあえず今はいいやっていう気分なんです。それよりは小さな音でなにか強烈なことをやりたいっていう気持ちの方が強くて。

―どうして興奮できなくなってきたんでしょう? バンドをやっていくうちに、そう感じるようになったんですか?

倉内:自分でやるときも、他の人のライブを見ているときも、同じようなことを感じています。もちろん僕の原点にはガツンとしたバンドの音楽もあるんですよ。ただ、自分がやりたいものを突き詰めていくと、やっぱり一人になっていくんですよね。

―つまり今はまだ自分の弾き語りに物足りなさを感じているってことですよね?

倉内:今までの僕は曲ごとに別々のことを表現していたんですよ。でも、僕が本当にやりたいのはそうじゃなくて、たとえば自分がただそこにいるだけで1つの表現になってしまうようなことなんです。そういうふうになりたい。一人って最弱な感じもするけど、同時に最強な感じもするから、その最強な方をドカンと出せたらいいなって。でも、そういう表現はまだぜんぜんできてないんです。自分がやりたいと思っていることをすべて1つに注げればいいんですけど……。どう思いますか?

―僕は倉内さんってすごく受け皿の大きなミュージシャンだと思ってるんです。身近で私小説的なようでいて、すごく大きな歌だなって感じることもけっこうあって。

倉内:ああ、ありがとうございます。うん、確かに僕は大きな歌の方がいいなと思ってる。そういうのっていいですよね。

危なっかしくてダメそうな人の方が好きだし、僕自身はホンットにダメですよ(笑)。

―じゃあ、同時代に活動しているミュージシャンで今おっしゃっていたような表現がやれている人って、誰か思い浮かびますか。

倉内:あんまり思い浮かばないなあ。ダニエル・ジョンストンや友部正人さんは好きだけど、最初から「いいなー」と思って聴いてたわけじゃなくて。むしろ「なんだこれ?」みたいな感じだったんですけど、その違和感が気持ちよかったというか。ジョン・レノンのソロもそんな感じがしました。で、そういう感じの人って、最近いるのかなぁ?

―リアルタイムで出会えたミュージシャンで、そういう違和感を与えてくれるようなミュージシャンはあんまりいなかったのでしょうか?

倉内:あ、柴田聡子さんや豊田道倫さんなんかはそうかな。ちゃんと思い出そうとすればけっこういるかもしれない(笑)。

―あんまりミーハーに音楽で盛り上がったりはしないタイプだったんですか。

倉内:あ、僕はすっごくミーハーですよ(笑)。RANCIDやGreen Dayも観に行ったし、それこそThe LibertinesとかArctic Monkeysとか大好きで、キャーキャー言ってた。

―今挙げてくれた人たちって、倉内さんや僕くらいの世代が同じ方向を向いて盛りあがった数少ないバンドって感じですよね。

倉内:うん。そういうのってすごく楽しかったし、いまだに大好き。それにThe Libertinesのピート・ドハーティって、今は一人でやってるじゃないですか。特にライブのやり方とか、あれにすごく影響されてると思う。アコギ1本っていうのもそうだけど、あの人って曲によっては隣に踊子をおいたりしてるじゃないですか(笑)。あれがいいんですよねえ。

―あのちょっと退廃的な匂いがいいんですよねえ。言われてみると、確かに倉内さんとピート・ドハーティって近いところがあるかも。これは失礼かもしれないけど、ちょっと脆そうな面がある人を自分と重ねて見ているところもあるのでしょうか?

倉内:確かに危なっかしくてダメそうな人の方が好きだし、僕自身はホンットにダメですよ(笑)。なにもできないもん。歌ってないときはだいたいダメ。今もダメ(笑)。

一人でやり始めたら「今いるこの部屋の空気を変えたい」っていう、実際にできそうことが目標になって。

―でも、だからいいんですよ。僕が倉内さんは受け皿が大きいと感じたのもそれと同じ理由で、どこかダメな姿が歌の中に見えるからなんです。たとえばこういう音楽をやっている人が実際は喧嘩が強かったり、変に協調性があったりしたら、ちょっと説得力ないじゃないですか。

倉内:その通りですね。僕もダメな人を見ると嬉しくなるしなあ(笑)。でも、今になっていろいろ思い出してきたけど、僕ホントにミーハーだったから、けっこういろいろなバンドのライブを観に行ってたんですよ。BattlesとかArcade Fireなんかも大好きで。

―Battlesはちょっと意外ですね。でも、倉内さん自身がライブや曲作りをやる上で、そういうところから感化された部分もあるのでしょうか。

倉内:どうなのかな。でも、ライブハウスに出始めた頃なんて、ライブのノルマが載っている紙を見ているだけで勃起してましたから。「これから本当にライブハウスに出るんだ」と思ったら、興奮と怖さでいつの間にかそうなってたんですよ(笑)。友達に指摘されて気づいたんですけど。

―それって、ステージで感じる興奮が、性的な興奮とかなり近いってことですか?

倉内:うん、けっこうそこは一致してると思います。

―でも、当時感じていたような興奮も、だんだんと薄まっていきますよね? それこそイメージと違うこともたくさん出てくるだろうし。

倉内:まあ、最初から超満員を想像していますからね(笑)。もちろん現実はぜんぜん違うから、始めたばっかりの頃はホントに難しかったなあ。

―いつ頃から音楽活動が軌道に乗ったんですか? 以前にヨーコっていうバンドもやっていたそうですけど。

倉内:ヨーコはまったく軌道に乗りませんでしたね(笑)。あれはけっこう激しめで音が大きいバンドだったんですけど。なにか自分たちだけの面白いことをやろうとしても、結局そういうことって先に他の人がやってるから、そこでがっかりして(笑)。バンドでやることって、すでにいろんな人たちがめちゃくちゃなことをやってきてますもんね。あとはもうステージ上で死ぬくらいしかないんだろうな。あ、それもやってる人いるな(笑)。

―手ごたえを感じられるようになるまではけっこう時間がかかったんですね。

倉内:ここ2年くらいかな。やっぱり弾き語りをやり始めて、今歌っているような曲に変わってきてからですね。バンドでやってきたときは、ちょっと寒いことを言うようですけど、「ここから世界を変えてやる!」くらいの意気込みがあったんです。でも、一人でやり始めたら「今いるこの部屋の空気を変えたい」っていう、実際にできそうことが目標になって。目の前にいる人たちをクスクスさせようとか。あるいはちょっと気まずくさせたり、女の子を嫌な気持ちにさせてからサッと帰ろうとか(笑)。そのためにちゃんと準備もするようになったし、自分が面白いと思えることをやれるようになったんです。

倉内太

―準備をするということは、どこかステージ上で自分を演じているようなところもあるってこと?

倉内:ちょっと違うけど、確かに何回も同じことを繰り返していくと、やっぱり演じているような感じになるときはあるかもしれない。

―それは倉内さん的にOKなのでしょうか?

倉内:うーん、同じことを何度もやりたくはないですよねえ(笑)。同じ曲を前と同じように表現しようとするのって、けっこうつらいことだと思う。でも、そうなっちゃうこともやっぱりあって。だからこそ、自分が飽きないようなことをいつも考えていたいんです。

―自分が作った曲との付き合い方って、時間の経過と共に変わっていくものですよね。そこはシンガーソングライターの面白さでもあると思います。

倉内:そうですね。1枚目のアルバム『くりかえしてそうなる』に、自分が今も飽きずに歌っていられる曲がちゃんと残っているのは、すっごく嬉しいことで。たとえば“I've got a pop song”なんかを歌うと、昔の自分がけっこういいことを歌っていたことに、今になって励まされるというか。

―当時の心境が現在でもフィットするってことですか?

倉内:フィットはしないんですけど、当時とは別のものとして今の気分も乗せられるというか。これから先も歌えそうな気がしてて、そういうのは嬉しいものですね。

ヘンタイに見られたいと思うことってありませんか?

―じゃあ今作に関しては今のところどうですか? まさにこれが現在の倉内さんって感じ? それともまた新しい気分に移ってるのでしょうか。

倉内:個人的にはもう次のモードに行ってます。ライブでもここに入ってない新曲をどんどん歌っているし。だから、このアルバムの中にこれから先も残っていける子たちがたくさんいてくれたら嬉しくて。それがどういう風に決まっていくのかは、僕にもわからないんですけど。

―でも、こうして音源が全国流通していくと、ライブとは別の場所で倉内さんの歌と出会う人が増えていくじゃないですか。たとえばそれが音楽との付き合い方に影響を与えたりはしませんか?

倉内:たまにそういうことは考えるかも。でも、誰かのために歌ったりはしないんです。僕は自分を救うために歌ってる。それがたまたま誰かのためになっていたら、すごくラッキーですよね。でも、自分を救うなんて、僕は欲張りなんだろうな。身体だって健康なんだし。

―自分のために歌ったものが聴き手に歪曲されて解釈されることもあると思うんですが、そこはどう捉えていますか。

倉内:僕、そういうのがけっこう楽しくて。たとえば、聴いてくれた人から「倉内さんが歌うとみんなが笑うんです」という感想がもらえたんですけど、まずそんなわけないじゃないですか(笑)。僕は人を笑顔にするような歌なんて作ろうと思ったことないし。でも、それはどう思ってもらえても嬉しいものですよね。僕、勘違いってすごくいいと思う。

倉内太

―自分の音楽が人に触れていく中で多面性を持っていくのを楽しんでいるということでしょうか?

倉内:うん、それはすごく楽しい。それに、今一緒にやっているネイティブギターのメンバーは四人とも、ヘンタイに見られたいっていう気持ちが一致しているんですよ。

―ヘンタイ、ですか。

倉内:うん。ヘンタイに見られたいと思うことってありませんか? たとえば、キース・ムーンとかあんな感じ。

―ああ、キース・ムーンは僕も憧れます(笑)。


倉内:なりゆきで集まったメンバーなんですけど、どうも全員そんな気持ちみたいで。やっぱり、バンドってすごく楽しいんですよ。でも、僕はもっとさびしいやつになりたくて(笑)。ひとりぼっちになりたい。これはなんでだろうな。

―バンド活動の充実があるから、一人になりたいっていう欲求が余計に沸いてくるのかもしれないですね。

倉内:きっとそうなんでしょうね。あと、今作にしても、1つ前のアルバムにしても、僕はポップっていうものをどこかですごく大事にしていたんです。つまり、みんなで歌えるような歌や、ヒット曲ですね。でも、今はそういうものが気分に合わなくなってるというか。僕、ライブハウスが気まずい雰囲気になっているのとか、けっこう好きなんですよ。あの寂しい感じ。あれがいいんですよね。

―うん、あの寂しさに酔える人ってけっこういると思う。

倉内:うん、僕も酔いたいんです(笑)。でも、音楽のなにがいいのかわからなくなるときもたまにはあって。今回のアルバムを録っているときもそういうことがありました。録音場所に行くと、どうしてもそこで寝ちゃって、ぜんぜん録音が進まなかったり(笑)。けっこういろいろ忙しかったのもあるし。

―そうだったんですね。そういう時期を経てできあがったアルバムを今になって聴いてみて、どう感じますか。

倉内:最終的にはしっかり向き合って作れたから、すごくいい感じですね。前作とはまったく違う手ごたえなんだけど。

―またすぐに録音したいと思っていますか?

倉内:今すごくやりたいと思ってます。イメージだけですけど、次は内緒話を聞いているような気持ちになれる音楽にしたくて。そういうコソコソした音楽って、たぶん気持ちいいと思うんですよ。「これ、いいわー」と思って、その音楽をだれかと共有はしたいんだけど、気軽には友達に薦められないやつ(笑)。そういうヤバいのを作りたいなあ。

リリース情報
倉内太
『刺繍』(CD)

2013年5月29日発売
価格:2,310円(税込)
DCRC-0080

1. 時を踊る少女
2. cry max
3. 22.5
4. イライラキラキラ
5. 倉庫内作業員の遊び方
6. 失神させたい
7. どうしようもなく今
8. 愛なき世界
9. キッドのポエム
10. 倉庫内作業員の休日
11. 女の子が笑うと嬉しい

プロフィール
倉内太

1983年埼玉県に生まれる。小学校五年生の時にアコースティックギターを始め、地元でビートルズのコピーパンドに参加。リズムギターを担当する。2005年にロックバンド、ヨーコを結成。後のヨーコヨーコ。現在は解散。 2008年倉庫内作業員のアルバイトに採用されたことがきっかけとなり、意欲的に楽曲制作に取り組み、弾き語りのライブ活動を始める。2009年に自主制作で1stアルバム「倉内太と彼のクラスメイト」を完成させる。2012年新しいバンド「倉内太&ネイティブギター」を結成。2013年2stアルバム「刺繍」を完成。



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