都市の息苦しさから抜け出して SIDE-SLIDEインタビュー

「庭園の島」というニックネームを持ち、自然の宝庫として有名なハワイのカウアイ島。波乗りと自由を愛し、音楽という名の旅を続ける二人のミュージシャン、KazzとKeisonがSIDE-SLIDEというユニットを結成し、そのカウアイ島で過ごした2週間をそのままパッケージしたような作品、それが『Mahalo Ke Akua』だ。ENIGMAのヒット曲“Return To Innocence”のカバーや、それぞれが作詞作曲を担当した曲、ジャムって作ったであろうインストの小品など、実にさまざまなタイプの楽曲が収録されたこのアルバムを聴けば、あなたもカウアイ島に流れるゆったりとした時間を追体験することができるだろう。

「事前に何も決めずに行ったから、最初はアルバムが完成するか心配だった」というエピソードに象徴されるように、KazzもKeisonも理屈で考えるより、感覚で行動するタイプ。質問に対する答えも簡潔なものが多く、インタビュアーとしては困ってしまう瞬間もときどきあったりはしたのだが、日々時間に追われ、物事を複雑に考えてしまいがちな生活の中に、新しい風を吹き込んでくれる音楽の重要性を改めて感じた取材となった。写真撮影のために建物の屋上に上がった際、街並みを眺めていたKazzが「やっぱり東京って特殊な場所だよね」とこぼしたことを、今でもよく覚えている。

ミュージシャンってラッキーで、どこに行っても壁がないんだよね。(Kazz)

―お二人はいつ頃からのお知り合いなんですか?

Kazz:葉山の海の家で出会ったんだけど……10年ぐらい前かな。俺そこでライブやったり手伝ったりしてて、Keisonもそこでライブをやって、それで会ったんだよね。

Keison:一緒にツアーを回ったりするようになる前から、地方のイベントでちょくちょく一緒になったりもしてて。

左:Kazz、右:Keison
左:Kazz、右:Keison

―一緒にやるようになったのは、何かきっかけがあったんですか?

Kazz:いや、自然に(笑)。「これをこうやってこうやろう」みたいな話は一切したことなくて、大体流れだよね。

―昨年はスペインとフランスに行かれたそうですが、それはどういう流れで?

Kazz:向こうでサーフフェスティバルがあって、静岡で映像やったりしてる仲間が「出店するから、行く?」って。

Keison:あれも突発的だった。ちょうどスケジュールも空いてたから、「行く!」って(笑)。

Kazz:スペインは飯も美味かったし、波もよかった。女の子もすごいきれいだし、ビーチはトップレスだったし(笑)。

Keison:生ハムたっぷり食ったなあ。

―話を聞いてるだけで僕も行きたくなります(笑)。お二人はそれぞれいろんな国に行かれていると思いますが、その中でも特に印象に残っている国を挙げるとすれば、いかがですか?

Kazz:うーん、どこ行っても一緒っちゃあ一緒なんだよなあ。ミュージシャンってラッキーで、どこに行っても壁がないんだよね。普通に旅行に行ってもディープなところって入れないけど、音楽をやりに行くと、すごくローカルに受け入れてくれるから、全然違う。だから、どこに行っても自分がやることは基本的に変わんないし、人種が違ってもそんなには変わんないかな。日本人だって変なやついるし、外人だって変なやつもいれば、いいやつも悪いやつもいるし。ホントにどこも同じなんですよ(笑)。

Kazz

Keison:違うのは食い物くらいかな。あとは(海が)しけてるかしけてないかとか。

―音楽と生活の距離感の違いとかはどうですか?

Kazz:ああ、それは違うかも。日本が一番生活と音楽が離れてるかもしれないなあ。

―逆に、どこの国だと距離が近いとかってあります?

Kazz:それぞれいいところがあるから……比べることはできないよね。そこに行けばそこ、あっちに行けばあっちだし。

―例えば、ライブに来るお客さんだと、日本人は基本的にシャイで、欧米はもっと熱狂的とかってあるんじゃないですか?

Kazz:でも、日本も地方によって全然違うもんね。九州ひとつとっても宮崎と福岡だとノリが違ったりとか、寒い北海道でも小樽のやつが裸になったりしたし(笑)。

Keison:淡々と聴いてくれるところもあれば、誰も聴いてくれないところもあるけど、結局は同じ人間なんですよ。

バンド雇ったら金かかっちゃうから、Kazzさんとやると、俺は得した気分になれる(笑)。(Keison)

―自然と一緒にやるようになったとのことでしたが、お二人はどういう部分で波長が合ったんでしょうね?

Kazz:何も気を使わないからいいんじゃないかな(笑)。音楽の話とか、あんまりしたことないしね。何も気を使わないし、あれこれ考えなくても成り立ってるから、それが一番楽ですよね。ミュージシャンによっては、結構細かいやつもいるからさ。

Keison:細かいのはやりづらいね(笑)。あんまり几帳面なのはちょっとなあ。あと、Kazzさんとだとバンドがいらないから、動きやすいんですよ。Kazzさんはパーカッションとかカリンバとか、いろいろできるんで。バンド雇ったら金かかっちゃうから、Kazzさんとやると、俺は得した気分になれる(笑)。

Keison

―確かに、いろんなところに行くには小回りが利くっていうのは大事ですよね。

Keison:二人だとシンプルだから、片づけも楽だしね……酔っ払わなければ(笑)。

―ライフスタイルも含め、いろんな部分で相性がよかったんでしょうね。

Kazz:そんなこと考えたこともなかったからなあ……そう言われると、そうなんでしょうね(笑)。まあ、一緒に回ってもずっと二人でやるわけじゃないからさ。俺もソロやるし、Keisonもソロやるし、二人でもやるし、三部仕立てだったりするから。

Keison:ゆずじゃないしね(笑)。

―(笑)。Keisonさんは一時期Caravanさんとも一緒にやられてましたし、誰かと一緒にプレイするっていうことがお好きなんですか?

Keison:楽しいですね。今日ももう一人、カッチャンっていうギタリストと一緒にやるんですけど、基本は一人だから、何が混ざっても合わせてくれるし(この取材は7月3日に目黒CLASKAで行われたリリースパーティーのリハーサル後に行われたもの)。

Kazz:そうだよね。一人でも成り立っちゃってるんだから、あとは何が来ても大丈夫みたいなところはあるよね。

Keison:逆に、かっちりとキメキメなバンドとかはできないですね。ダラッと、そのときそのときにセッションするみたいな感じ。

Kazz:「曲順決めよっか」って話したの、今日が初めてじゃない? 「今日はリリースパーティーだし、ちゃんとCDに入ってるやつやった方がいいかな?」って、ちょっとは気を使って(笑)。

Keison:まあでも、客の顔を見てからね。「ザ・ショウ」みたいな、ディズニーショーみたいなのとは違うから。

カウアイが呼んでたんじゃないですか、俺たちのことを。(Keison)

―では、今回SIDE-SLIDE名義で作品を作ろうという話はどこから出てきたのですか?

Kazz:カウアイでレコーディングしたかったっていうか、カウアイに行きたかったから(笑)、「レコーディングしに行こうよ」って、俺が誘ったんだけど。

Keison:「行ったら何とかなるでしょう」みたいな(笑)。実際、あのときの演奏はもう二度とできないような感じ。

Kazz:何も決めないで行ったんです。ちょっとイメージはしてたけど、行ったら何か出てくるだろうっていう。

Keison:遊んで終わっちゃうんじゃないかって心配したけど、結構真面目にやったよね(笑)。

カウアイでのレコーディング風景 Photography by Denjiro Sato
Photography by Denjiro Sato

―Kazzさんはカウアイで録りたいって前から思っていたのですか? それとも、パッとひらめいたわけですか?

Kazz:レコーディングって、場所によって音が変わってくるから、カウアイに行けば何か面白いのができるとは思ってたけど、まあ、「行ったらできんだろう」ぐらいの感じで(笑)。

Keison:カウアイが呼んでたんじゃないですか、俺たちのことを。

Kazz:ああ、いいこと言うね。これ、ちゃんと書いといてください(笑)。まあでも、そんな感じがする。

―現地ではどんな生活だったんですか?

カウアイでの写真 Photography by Denjiro Sato
Photography by Denjiro Sato

Kazz:2週間ぐらいいたんだけど、基本的には、波乗りして、スタジオ入っての繰り返しで、あとライブもちょっとやって。時差が17時間とかあるから、最初の2、3日はきつかった(笑)。

―この曲ができて、「アルバムになりそう」と思えた曲とかってあります?

Kazz:スタジオの半分くらい「ホントにできんのかな?」と思ってて……あのカバーで3日ぐらいかかったしね。


―ENIGMAの“Return To Innocence”のカバーですね。カバーを入れようっていうのは最初から考えていたんですか?

Kazz:いや、Keisonが行きの成田で突然言うんだよ! 俺は「何その曲?」みたいな(笑)。

―(笑)。Keisonさんはなぜこの曲をカバーしようと思ったんですか?

Keison Photography by Denjiro Sato
Photography by Denjiro Sato 

Keison:俺よく台湾行くんですけど、この曲のサビの部分は台湾の原住民が歌ってるんです。キャッチーだし、日本でも結構流れてたから、たぶん誰でも知ってる曲だろうしっていう。

Kazz:思ったよりみんな知ってるんだよね。俺全然わかんなかったんだけど。

―ENIGMAとか曲名までは知らなくても、サビのメロディーはわかるっていう人は多そうですよね。

Keison:俺も熱心に好きってわけではなかったんだけど、あのメロディーとか、台湾の原住民の声が焼き付いてて、やってみようかなって。

―歌詞が日本語になっていて、タイトルも“Mahalo Ke Akua”に変わってますね。なおかつ、これはアルバムタイトルにもなっているわけですが。

Keison:向こうの人がビーチでこの言葉を言ってて、「どういう意味?」って聞いたら、「神様、ありがとう」だって言うから、「いいね、その言葉」と思って。これも流れで、「じゃあ、タイトルにしちゃおうぜ」っていう、他に何も考えてなかったし……ホント無計画ですよね(笑)。

―何かメッセージを込めているというわけではない?

Keison:この歌詞はTiger.Hっていうコーディネーターの人が書いてくれたんですけど、メッセージっていうのは……「楽しくやろうよ」みたいな(笑)。

Kazz:こっちが楽しんでれば、聴いてる人も楽しめるだろうなっていう。メッセージらしいメッセージっていうのはなくて、音を楽しむって書いて音楽だからさ。

Keison:メッセージって自分の国の言葉じゃないとわかんないもんね。だから音で、声も音だし、それでなんとなくわかるかなって。

Kazz:俺なんかはインストミュージシャンだし、言葉で発するだけがメッセージじゃないと思ってるところはあるかな。

音楽ってすごい力があるっていうことに、もっと多くの人が気づいてくれればなって。(Kazz)

―Kazzさんが作詞をされてる“雨”に関しては、どうやって書かれたのですか?

Kazz:ああいうのは一応メッセージになってますね。あれは言葉が先にあったんですけど……最近悪いやついっぱいいるしさ、なんていうか、いい人が増えれば世の中もよくなるでしょうっていう、そういう感じです。

―「悪いやつ」というのは?

Kazz:いっぱいいるじゃん(笑)。人を騙すやつもいるし、政治家もよくわかんないし。だからって、政治家の誰が何とかって、そんな細かいメッセージを言ってるわけじゃなくて、もっと大きな感じっていうか。聴いてもらえれば、たぶん伝わるんじゃないかと思うんだけど、世の中でいっぱいいろんなことあったけど、結局は何するのも人じゃんねっていうさ。

Kazz

―Keisonさんが書かれた“月の道”に関してはいかがですか?

Keison:ギターで作ったのかな? 弾きながら、メロディーと簡単な詞を当てて行って。

―シンプルな言葉を使うっていうのは意識されてる部分なんですか?

Keison:響きとかね。年をとっても、どこに行っても、ずっと歌えるような曲にしたいっていうのはあるかな。

―さきほどKazzさんがおっしゃった「世の中でいっぱいいろんなことがあった」っていう中には、当然震災のことも含まれると思うんですけど、震災による津波っていうのは、海の怖さであったり、自然と共生することの重要性を改めて考え直すきっかけになったと思うんですね。Kazzさんは現在葉山に住んでいらっしゃるそうですが、自然と音楽の関係をどのように感じていらっしゃいますか?

Kazz:やっぱり、落ち着かないといい音って出ないと思う。いい環境にいれば落ち着けるわけで、いい音が出てくるんじゃないかって思うけどね。やっぱり、自然とか政治が過酷なところだと、音楽もメッセージも直接的になると思うし、環境はすごく影響あると思うな。

―今の日本の状況を考えると、どんな音楽が必要だと思いますか?

Kazz:癒してほしい人もいっぱいいるし、騒ぎたいやつもいるだろうし、それぞれ求めてるものは違うだろうけど、音楽ってすごい力があるっていうことに、もっと多くの人が気づいてくれればなって。ホントに薬みたいなもんだからさ。「気分が沈んでても、この曲を聴けば上がります」とか、みんなそれぞれ持ってると思うし。

―Kazzさん自身、音楽の力で救われたことがありますか?

Kazz:俺は実はそういうのはないんだけど、逆に「Kazzさんの音楽を聴いて救われました」っていう人の言葉に救われてる感じかな。「ああ、やっててよかった」みたいな。

―東京で暮らしていると、すごく窮屈に感じる瞬間ってありますけど、お二人の考え方や生き方って、そういうものとは全然別ものだから、お二人の音楽を聴いて救われる人がいるっていうのはよくわかります。

Kazz:大変だなって思う、東京来るごとに。

Keison:駐車場探すだけで大変だもんね。

Kazz:何するにもお金かかるし、なんか人間関係も薄いしさ。東京は特殊な場所だと思うなあ。

―Keisonさんはいかがですか? 音楽で救われた経験はありますか?

Keison:大きいんじゃないですかね。ペンキ屋はもう飽きちゃったし。

Kazz:ペンキ屋やってたんだ? その後の生活が救われてるんじゃない(笑)?

Keison:そうだね(笑)。まあ、CDの売り上げだけで食えてはいないけど、自分で数こなせば、お客さんのチャージで生きてけるし、あと俺はひとつの場所にいられないから、いろんなところで車中泊もしたりしてて。

Keison Photography by Denjiro Sato
Photography by Denjiro Sato

―ひとつのところにいられないっていうのは何故なんでしょう? 窮屈に感じるようになってしまうとか?

Keison:うーん……好きなんですよ、ダラダラと、いろんなところに行くのが。

Kazz:旅人って感じだよね。

Keison:風来みたいな……自由が好きなんです。あんまり深くは考えてないですけどね。

―今回のアルバムジャケットの写真からしても、自由で、楽しんでる雰囲気っていうのはすごく伝わってきました。Keisonさんはブログで「ハワイのレジェンドと一緒に波乗りをしたことが一生の思い出だ」って書かれてましたね。

SIDE-SLIDE『Mahalo Ke Akua』ジャケット
SIDE-SLIDE『Mahalo Ke Akua』ジャケット
『Mahalo Ke Akua』のジャケット写真。
サーフィン写真家として世界的に有名な佐藤傳次郎が撮影した

Keison:嬉しかったです。こんなわけのわからない日本人なのに、すごくよくしてくれて。

Kazz:音楽やっててよかったなって思うよね、そういうとき。音楽やってないと、そこまで接近できなかっただろうからね。

―音楽は最良の薬であり、ホントに素晴らしいコミュニケーションツールですよね。では最後に、SIDE-SLIDEとして今後行ってみたいところとかってありますか?

Kazz:ヨーロッパツアーとかやりたいなあ。ハワイ全島ツアーもやりたいし、グァムツアーもやりたいし……スポンサー誰かいないですか?(笑)

Keison:でも、自由にさせてくれるスポンサーじゃないとね(笑)。

イベント情報

2013年10月3日(木)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:東京都 青山 CAY
出演:SIDE-SLIDE Kazz×Keison
フラダンス:フラ・ハラウ・カフラ・オ・ハワイ
Live Mix&Sound Design:久保田麻琴
料金:予約3,500円 当日3,800円

2013年10月27日(日)
会場:神奈川県 横浜 Thumbs Up

リリース情報
SIDE-SLIDE
『Mahalo Ke Akua』

2013年7月3日発売
価格:2,800円(税込)
UBCA-1033 / Tuff Beats

1. SLIDE TO OPEN
2. 5730
3. 雨
4. Mahalo Ke Akua
5. 砂嵐
6. SIDE-SLIDE
7. Hanalei-Hanauta
8. Ku'u Ipo Ika He'e Pue One
9. 月の道

プロフィール
Kazz(かず)

北海道出身、葉山在住。20代をアメリカ、フランス、西アフリカで過ごす。2年半滞在したニジェール共和国では、アフリカ人ドレッドロッカー達とニジェール初のレゲエバンドを結成。西アフリカをライブツアーして廻り、現地のTV・ラジオにも多数出演。帰国後、サイケデリック・ジャムバンド、“ミラクルサル”を結成、国内外で活動する。葉山に移り住んでからはアコースティックの音の素晴らしさに目覚める。2009年、久保田麻琴のプロデュースでアルバム『ギタレレ・トリップ』を発表。独特のオープンチューニングのギター、打楽器やサンプラーを操るトランシーな演奏は最高のライブ感を醸し出す。

Keison(けいそん)

1999年6月にはアマチュアながらDavid Lindrey、2000年3月にはSPEECHの来日時オープニングアクトを務める。2000年3月8日、シングル『Fine』(Epic Records)でデビュー。同年7月19日1stアルバム『Keison』(Epic Records)をリリース。2002年、"Keison&Caravan"としてLIVEを中心に活動を行う。2005年3月に2nd アルバム『BOTTLE』(Tuff Beats)を発売し、同年EDWINのイメージキャラクターとしてTV-CMに出演。ギターとサーフボードを片手に日本国内のみならず、オーストラリアや台湾など海外でも精力的にライブ活動を行っている。



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