批評家・佐々木敦が驚いた、CAPSULEの実験的なアプローチ

近年はPerfume、きゃりーぱみゅぱみゅなどヒットチャートを賑わす人気アーティストの楽曲を手がけていることでも知られる中田ヤスタカ。その彼が自らメンバーとして名を連ねる、ホームグラウンドとも言うべきユニットがCAPSULEだ。かつてのCAPSULEは完成度の高いサウンドと、こしじまとしこのキュートかつクールなボーカルで人気を不動のものとしてきたが、先日発売された最新アルバム『CAPS LOCK』は様相が異なる。今までに見られなかったほど実験的な音楽性に踏み出し、多くのリスナーを驚嘆させているのだ。日本の実験音楽 / エレクトロニカを長く追い続け、多数の著書もある批評家・佐々木敦もまた今まさにその驚きを共有しているという。CAPSULEは何が変わったのか。なぜ変えたのか。それを教示してもらうべく佐々木に話を聞いたところ、彼は1990年代からの音楽シーン全体を射程に入れた、広大なポップス論を語ってくれた。

僕は、「オールインワン的なプロデューサー」の最新進化バージョンとして中田ヤスタカを位置づけているんです。

―佐々木さんは日本の電子音楽に対して、長くリスナーであるだけでなく著述家としても大きく関わってこられました。今日はその立場から特にCAPSULEというユニットをどうご覧になってきたか、そして実験的なニューアルバム『CAPS LOCK』をどう聴かれたかをお話いただければと思います。

佐々木:もちろん中田ヤスタカや、彼のやっているCAPSULEというユニットのことはデビュー当時から聴いてはいました。ただ登場したときには、「ポスト渋谷系」みたいな文脈でしたよね。初期のCAPSULEってすごくピチカート・ファイヴっぽいというか渋谷系の感じがあった。だから「そういう人がいるんだな」くらいの認識だったんです。その後、中田ヤスタカという人を強く認識するようになったのはPerfumeの『ファン・サーヴィス』が出た2008年あたりからですね。

CAPSULE
CAPSULE

―Perfumeについては、エレクトロニカをマニアックなものにせず、ポップスとして昇華したユニットとして聴かれていたのでしょうか?

佐々木:僕はアーティストやアイドルに対して、キャラクター的にファンになったり、フェティッシュ的な愛情を注ぐことが全くない人間なので、まずは楽曲のプロダクションとしてPerfumeはすごいなと思いました。あの頃はいわゆるオートチューン的な声の加工がすごく印象的で、つまり、オートチューンによって人間が機械になっていく方向と、当時台頭してきた初音ミクのように、機械が人間になっていく方向が両方出てきたことが興味深くて。Perfumeっていう存在の浮上とともに、中田ヤスタカというプロデューサーのことを再発見したんです。

―ということは、そこからCAPSULEというユニットのことも再発見していったわけですか?

佐々木:そうですね。Perfumeに合わせて、ちょうどCAPSULEの音楽性もだんだん変化していってた時期だったと思うんです。2007年の“Sugarless GiRL”(シングル『Starry sky』のカップリング曲)って曲が、僕は大好きだったんです。劇団ハイバイの『霊感少女ヒドミ』っていう演劇を快快がカバーしたときにテーマソングとして使っていて、改めてすごくいい曲だなって思って、中田ヤスタカについての認識を新たにしていった。

―では、そのときに佐々木さんから見て中田さんというのはどういう存在だったのでしょうか?

佐々木:J-POP的な音楽史には「オールインワン的なプロデューサー」というのがいるんですよね。つまり作詞、作曲、編曲、録音まですべての面倒を見られるプロデューサーのことを僕は「オールインワン」って呼んでいるんだけど、その流れをはっきりと切り開いたのは、小室哲哉ですよね。そしてそれを、つんく♂さんがちょっと特殊な形で引き継いだ。

―過去に遡ると、さっきおっしゃったピチカート・ファイヴの小西康陽さんもそうでしたね。

佐々木:そうですね。僕は、その最新進化バージョンとして中田ヤスタカを位置づけているんです。単純に音楽性だけじゃなく、ある世界観をどういうふうに提示するか? というプロデュースにおける中田ヤスタカの底力というかポテンシャルをどんどん認識していきました。Perfumeの曲が新しく出るたびにすごく攻めているなと思ったし、きゃりーぱみゅぱみゅのファーストアルバムもCAPSULEとPerfumeでやってきたことを踏まえてこれがあるという感じで、本当によくできていたんですね。

中田ヤスタカは、オールインワンの中では一番すごいことをできている人。だからこそ、CAPSULEのニューアルバムにすごく興味がありました。

―中田ヤスタカは、今までもエレクトロニカの文脈にある音楽を作っていましたけど、実験的というよりはあくまでもポップスとして着地させることが彼のやり方だったわけですもんね。

佐々木:中田ヤスタカ以前にいた人として、やっぱり小室哲哉の存在って大きいと思うんですよね。小室哲哉は1990年代にプロデューサーとして急激に浮上したわけだけど、基本的には彼のやっていたことってすごく日本的な輸入業者だった。つまり海外でイケイケのハイテクノロジー的な音が流行ると、それを日本に持ってくる。特に初期は、ジャングルの流行を持ち込んだりもしたわけだし、海外のダンスミュージックやクラブミュージックの最先端のベタな流行にすごく敏感な人だった。それを日本の土俵の中でやっちゃうのが小室さんの面白みでもあり、90年代的な限界でもあったわけで。

佐々木敦
佐々木敦

―あの90年代の感じは、戦後にマンボ、サンバ、ボサノバ……と毎年のように新しいビートが輸入されていった、日本のリズム歌謡史のあり方と全く同じですよね。

佐々木:そうそう。戦後における洋楽の導入の典型ですよね。中田さんは小室さんのファンだったようなので、そういう小室さんのやり方に影響を受けているようなところがある。だからCAPSULEもPerfumeも、オケだけ見れば何をもとにしているか理解できるんですよね。だけど、それ以上に僕が考える中田ヤスタカの最大の才能は、メロディーじゃないかなと。すごく特徴的だし、それがあってこそブレイクした部分はあると思う。

―それもまさしく小室哲哉っぽいですね。小室さんも海外のリズムを日本に輸入しつつ、実はもともとプログレの人ですし、極めてメロディアスな音楽性なんですよね。メロディーの立った音楽を最新のダンスミュージックと合わせて世に送り出すタイプという意味では、中田さんが小室さんの後継として正統かもしれない。

佐々木:つまり海外における90年代以降のテクノ、ハウス、エレクトロニカみたいなテクノロジーを使った音楽の流れに敏感に反応しつつ、日本のメロディアスなポップスという文脈を踏まえてやっていかなければならない。そういう意味で中田ヤスタカは、当代きってのというか、オールインワンの中では一番すごいことをできている人だと僕は考えていたんです。だからこそ、今回のCAPSULEのニューアルバム『CAPS LOCK』に関しては、どういう音になっているのかすごく興味がありました。

―今年はCAPSULEに先行して、きゃりーぱみゅぱみゅ、Perfumeとプロデュースアルバムが出ていましたし、それを踏まえて今作のCAPSULEがどうなるかということですね。

佐々木:うん。中田ヤスタカにとってCAPSULEはホームグラウンドだから。もともとCAPSULEがあってPerfumeの表現が生まれ、そこからさらにきゃりーが出てきた。他にもあるけど、その3つは、やはり彼にとって存在感が大きい。だからPerfumeときゃりーのアルバムが出そろったときにホームグラウンドのCAPSULEがどう変化をするのか? 今回のアルバムは、そういうカードを切っていると思う。

―つまり従来はCAPSULEの作り方を前提としつつ、PerfumeやきゃりーをCAPSULEよりもポップな存在として作っていくという発想だったわけですよね。しかし今度は、たとえばPerfumeのあり方が変わってきたことで、CAPSULEに対してフィードバックするものがある。

佐々木:そうですね。だから3つの存在の三角形のあり方が変わってきたと思います。変わったのはCAPSULE本体というよりも、他の2つですよね。たとえばPerfumeは成長して世界戦略に舵を切っていて、ちょっとアーティスティックな方面に行っているじゃないですか。そして、きゃりーが出てきたことによって、おしゃれなポップスという方向性もそこでやれるようになった。でも振り返ってみると、それらはもともとCAPSULEが潜在的にやっていたことだと思うんですよ。

CAPSULE『CAPS LOCK』初回限定盤ジャケット
CAPSULE『CAPS LOCK』初回限定盤ジャケット

―中田さんは、特にPerfumeでそのポップさを重視してきたわけですよね。だからこそCAPSULEは世界的な音楽の流行のほうを強調するようになっていった。しかしPerfumeがブレイクして世界を視野に入れるようになった結果、CAPSULEでやっていたことをPerfumeでやれるようになってきた。今のお話はそういうことですよね。

佐々木:今回のCAPSULEの新作に先行してリリースされたPerfumeの新作『LEVEL3』も、実験的な作品ですよね。EDMという、海外における最新の音楽性がモロに入っている。あの前のアルバムが『JPN』だったんだけど、それとの差がすごい(笑)。『JPN』はタイトルからしてJ-POP的なことをやっていますよと標榜しているところがあるけど、『LEVEL3』は今までにも増して、いわゆるクラブミュージックやダンスミュージック的なものに寄っている。今までだったらまずCAPSULEでいろいろと実験をして、その実験結果を加減しながらPerfumeに採り入れていたんだけど。

―“ポリリズム”は、まさにそういう曲でしたね。

佐々木:そうそう。だけどPerfumeは成長してイメージも変わったし、できることの幅が広がってきた。CAPSULEでやっていたことをPerfumeでやれるようになってきたんです。じゃあCAPSULEは次に何をするのか? ということになりますよね。今までやってきたことは、他の2つでできているわけだから。

意外すぎるカードを切ってきたなと断言できるアルバムではあります。

―だから今回の『CAPS LOCK』は今までのCAPSULEとはガラッと違った雰囲気になったわけですね。しかしそこで面白いのは、エレクトロニカの文脈で言えば、1990年代後期的なアブストラクトな音楽性になっていることですよね。

佐々木:そう、それがすごく意外だったんですよ。そもそも中田さんって、自分がどういう音楽を聴いているとか語らないじゃないですか? でも今回のアルバム発売前のインタビューに、「フィールドレコーディングが2分以上続く」とか「ミュージックコンクレート的な要素が入っている」とか「ドローンが入っている」と書いてあって「これはかなりヤバいことになってるっぽいぞ」と思いましたよ。僕は90年代後半のいわゆるエクスペリメンタルな音楽や電子音楽、音響と言われるものにすごく深くコミットした人間なので、「どんなアルバムなんだよ!」ってすごく興味が湧いたんです。僕の中では、中田ヤスタカがそういう音楽をやる人だという認識は全くなかったので。

―先ほどのお話にあったように、海外のダンスミュージックを持ってきて、メロディーを乗せる人という印象のほうが強いですもんね。

佐々木:そうそう。仮に彼がそういう実験的な音楽を聴いていたとしても、「こういうのもあるよね」ってフラットに見ているような印象だった。実験的な音楽をそのままの形で売り物にしたいっていう野心を持つ人じゃないように思っていたんだよね。そういう試みは、歴史的に見ても、なかなかうまくいかないことですしね。たとえば、坂本龍一さんも何回も同じようなことをやってたけど、一番売れるのは“energy flow”とかになっちゃうわけで。だから僕が好きだったような超実験的音楽というのは、本来ポップミュージックとそのまんま合体できるものじゃないはずなんです。もちろん、それができたら面白いなとは思うんですけどね。だから今回のアルバムにフィールドレコーディングやドローンが入っていると聞いたとき、正直言ってお手並み拝見みたいな気持ちもあったんです。でも、いざ聞いてみたらモロに入っていたので、「えっ? こんなに?」ってビックリした(笑)。

―メジャーなミュージシャンが、ここまで実験精神に満ちた作品を出すことはあまりないですもんね。

佐々木:ないない。ちょっと軸は違うけど、こういうことができたのってこの『CAPS LOCK』の前だとCORNELIUSくらいなのね。今の中田ヤスタカがこれをやるというのは挑戦的だよね。リスナーがどう評価しているか僕はまだ知らないんだけど、それでも意外すぎるカードを切ってきたなと断言できるアルバムではあります。

―では実際に聴いてみて、今までダンスミュージックにメロディーを乗せていたように、今回もドローンなどをポップスとして成り立たせていると感じましたか?

佐々木:いや、そこが一番微妙なところなんですよね。今まで通りのやり方で実験音楽のフレイバーを入れるだけなら、表面的には全然簡単だと思うんですよね。僕は正直、聴く前はそういうようなもんだろうなって思ってたんです。ところがそうではなかったからこそ、この作品は聴き方が問われると思う。つまりこの『CAPS LOCK』というアルバムは、すごく攻めているんですね。今までやっていなかったような実験的な音響的要素が入っているだけでなく、もう1つ大きなこととしては歌が減っています。今までのCAPSULEのアルバムって、インストの曲があったとしても必ずアルバムの中に1曲か2曲はリードトラックって言っていいような「すごくいい曲」、つまりPerfumeが歌っていても不思議じゃないようなシングル的な曲が入っていたわけですよ。でも、今回はそれがない。僕が一番驚いたのはそこですね。声は入っているんだけど、声の使い方が今までと全く変わっていて、声も音の要素でしかなくなっている。

佐々木敦

―音色として声を使っているというか、端的に言えばDE DE MOUSEやCORNELIUSみたいなアプローチですね。しかし、だとするとこのアルバムはどこに向かってアプローチしているのか? というのが興味深いところですね。海外のエレクトロニカ的なシーンに本当に踏み出したいのか、もしくは先ほど佐々木さんがおっしゃったように、日本のメジャーな音楽シーンに対して「こういうものがあるんだ」ということを知らしめたいのか。それとも、中田さん自身はこれまでの作品と同じようにポピュラリティーと実験性が両立していると考えているのか。

佐々木:だから、これがどういう意味を持ったアルバムか理解するには、次の作品が出てこないとわからない可能性がある。今回のアルバムが野心的かつ実験的な作品であることは疑いようがないけれども、次のアルバムがどうなるか? あるいは次のPerfumeなりきゃりーがどうなるかによって、この作品の見え方は変わってくると思うんですよ。

―ひょっとすると今回は「ここだ」という方向性を見定めてはいるものの、まだ中田ヤスタカ本人としてはこの先を突き詰められると思っているかもしれないですしね。

佐々木:そうそう。そういう感じがするわけ。でも、本人はこれが完成形としてやっているつもりなのかもしれなくて、それがわからないから、次の作品が気になる。実際、ジェイムス・ブレイクもそうだけど、EmeraldsとかOneohtrix Point Neverとか、近年のチルウェイブやシンセウェイブ系の人たちってわりとドローンを多用してるんですよね。だから特に今のアメリカでは、昔の実験的電子音響リバイバルが起きている部分ってあると思うんです。『CAPS LOCK』はちゃんとそれにシンクロさせているというか、それをやろうとしていることはすごくわかる。

―そういう意味ではこれまでと同じように、最新の音楽性をCAPSULEで実験的に採り入れていると見ることもできますね。

佐々木:そうですね。だからもっと言うと、次はこれをやらないかもしれないしね。これはある意味、実験途中の過渡期の作品である可能性もある。ただこのアルバムは、一曲一曲考え抜かれていて、「ちょっとやってみた」という程度のものでは全くない。だからこそ、なぜレイト90s的な実験性みたいなものを今ここで出してきたのかが気になるよね。つまり、それはずっと彼の中にあったのか? とか、あったとしたら、なぜ今まで一度もそれが出てこなかったのか? とか。あるいは最近になって興味を持ったとしたらなぜ興味を持ったのか? とか。いろいろわからないところがあるんだよね(笑)。

従来の日本のポップミュージックが避けたり無視していた、あるいは見落としていた要素に、今回のCAPSULEは自然な形で手を出している。

―先ほどおっしゃったように、中田さんは自分の音楽体験もあまり語らないし、すべての音楽についてフラットな立場でありたいがゆえに、個人的な感傷や愛情を前に出さないことを重んじているように思います。しかし、だからこそCAPSULE、Perfume、きゃりーと別々のことができるわけですよね。言ってみればエレクトロニカというジャンルが自分の音楽の幅だとして、Perfumeときゃりーでカバーできていない、今ちょうど空いている部分が実験的な音楽だったからそれを選んだというようにも見える。

佐々木:「やっていないことがこれだった」というのはすごくありえると思う。Perfumeやきゃりーが育っていった先で、CAPSULEでしかできないことがこういう形で見出された。つまり、実験的なものをやれるし、やってよくなった。そこで初めて中田ヤスタカの隠された、今まで見せていなかった顔を覗かせてきた、と。

―それは面白いですね。実験的な音楽がやりたい人の多くは、まさにそれがやりたくて、それしかない自己表現としてやるわけじゃないですか。だけど中田さんはそれ以外のことをやったからこそ、最後にそれが出てきた。変わってますよね。

佐々木:変わっているし、中田ヤスタカはむしろそういうことをやらない人だと思っていたんですよね。今回はレーベル移籍もしたから、いろんな意味で心機一転という気持ちもあったのかもしれない。ただ一方で、中田ヤスタカの新しさの1つは、彼が自己模倣を恐れないことでもあるんですよね。例えば、きゃりーのアルバムを聴いていると、Perfumeでやってきたことがすごく入っている気がする。ある意味、自分のものをリサイクルしている。そのリサイクルっていうのは、「もう新しいものが作れない」みたいなネガティブな感覚じゃなくて、彼はそれが当たり前だと思っている気がする。絶対的に新しいものや絶対的にオリジナルなものなんてないという前提が、ほとんど血肉化されて、つまりごく自然なこととして中田ヤスタカの中にある。だから彼の曲ってみんなある意味では似ているんだけど、でも違うという形で成立しているんですよ。

―そういう、絶対的なオリジナルを求めないからこそ自由に物作りができるという考え方って、音楽に限らず今の若いクリエイター全般に見られますよね。

佐々木:そうそう。新しいものを生まないということが逆説的に新しい。彼のこともそういうタイプだと思っていたので、だからこそ『CAPS LOCK』で今までやっていなかったことにチャレンジしたのは僕の中では驚きだった。

佐々木敦

―従来のCAPSULEファンから拒絶される可能性だってあったわけですしね。

佐々木:でも、このアルバムを聴いていると、そういう可能性も考えた上でやってると思うんですよね。それでよけいに謎が深まる。だからこのアルバムを人々がどう思って聴いているのかっていうのは、すごく気になりますよね。使われている手法は僕自身にとってすごくこだわりのあるものだし、言ってみれば10年のタイムラグを経てやってきたような感じなので。まあ、何度も言うようですが、なぜその手法を今持ってきたのかというのはわからないんだけど(笑)。

―さっきの話にもありましたけど、こういう音楽性というのは、他のジャンルをやった後で出てくるタイプのものでもないですからね。でも中田ヤスタカのような新しい世代は、単純に「これは今までやってないな」と思って採り入れることができるのかもしれないですね。

佐々木:そうですね。もしかしたらこういう音楽に僕のようなこだわりがないからこそ、できた可能性もあるんだよね。

―もしそうだとしたら、まさにマッシュアップ世代というか、あらゆる音楽ジャンルをフラットに見ているからこそ、実験的な手法すらやれてしまうということになりますよね。

佐々木:そういうふうに考えるのが一番いいよね。今の話が一番ポジティブで、このアルバムの可能性の中心を射抜いている指摘だと思います。つまり、従来の日本のポップミュージックが避けたり無視していた、あるいは見落としていた要素に、今回のCAPSULEは自然な形で手を出しているわけだよね。CORNELIUSはまさにそういうことをやってきたけど、中田ヤスタカがそれをやるような状況に至ったってことは、彼のキャリアにおいても大きなターニングポイントになる可能性がある。ひょっとしたら中田さんがこういうことをやったことで、「これ、アリなんだ」って感じでみんなフィールドレコーディングをやり始めるかもしれないし。

―もしフォロワーみたいなものが生まれて、中田さんもこの路線を続けたとしたら、1990年代中期以降みたいなシーンがもう1回始まるようなことになるかもしれないですね。

佐々木:それは言える。僕はかねがね20年周期説というのを唱えていて、つまり世の中は20年ごとに同じことを繰り返している。ゼロ年代に80年代ブームが来たのもそうだと思うし。その理論でいくと今は93年ぐらいなので、そろそろグランジが流行ってジャングルが流行るはずなんだけど、まあ意外とそうなっていないんだよね(笑)。だから、この『CAPS LOCK』がその説を証明してくれる可能性があるわけですよ。

―その上で、今だからこそ、ポップスとの融合が計られたら面白いですね。

佐々木:そうですね。今後の展開としては、今回のような過去に見せたことのなかった中田ヤスタカの顔が、Perfumeやきゃりーの曲にも見出せるようになっていくのが一番ポジティブだと思うんです。それこそ今週末に池田亮司とかのライブがあるけど(本インタビューは10月中旬に収録)、ああいうクリック系の、周波数音楽みたいなものはまだやってないと思うので、そういう音楽の上にきゃりーのような音楽が乗っているものが出てきたら面白いですよね。そうすれば、90年代の後半に存在した実験的音楽を遺産としてうまく回収できると思うんです。あの時代の音楽はとても過激だったんだけど、やっぱりゼロ年代に入るとすごく飽和しちゃって、しかも海外だとダブステップとかでかなりうまく処理している人もいるけど、日本ではいい形で後継が生まれてこなかった。だから中田さんみたいな人がそういう引き出しを持っていたことは僕にとってはすごく新鮮であるとともに、嬉しいことです。だからやっぱり、この先どうなるかっていうのにはすごく期待してますね。

リリース情報
CAPSULE
『CAPS LOCK』初回限定盤(2CD)

2013年10月23日発売
価格:3,000円(税込)
WPCL-11582/3

[DISC1]
1. HOME
2. CONTROL
3. DELETE
4. 12345678
5. SHIFT
6. ESC
7. SPACE
8. RETURN
[DISC2]
1. CONTROL (extended mix)
2. DELETE (extended mix)
3. ESC (extended mix)

CAPSULE
『CAPS LOCK』通常盤(CD)

2013年10月23日発売
価格:2,520円(税込)
WPCL-11584

1. HOME
2. CONTROL
3. DELETE
4. 12345678
5. SHIFT
6. ESC
7. SPACE
8. RETURN

CAPSULE
『CAPS LOCK』

2013年10月23日からiTunes storeで配信リリース
価格:1,800円(税込)

1. HOME
2. CONTROL
3. DELETE
4. 12345678
5. SHIFT
6. ESC
7. SPACE
8. RETURN
9. 12345678(extended mix)

プロフィール
佐々木敦(ささき あつし)

1964年生まれ。批評家。HEADZ主宰。雑誌『エクス・ポ』編集発行人。『批評時空間』『未知との遭遇』『即興の解体/懐胎』『「批評」とは何か?』『ニッポンの思想』『絶対安全文芸批評』『テクノイズ・マテリアリズム』など著書多数。2013年度より早稲田大学文学学術院教授。新著『シチュエーションズ 「以後」をめぐって』(文藝春秋)が12月中旬に刊行。

CAPSULE(かぷせる)

Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースをはじめ、『LIAR GAME』シリーズのサウンドトラックや映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』の挿入楽曲ほか国内外数々の音楽制作を手がける中田ヤスタカ自身のメインの活動の場となるユニット。1997年にボーカルのこしじまとしこと共に結成。2001年にCDデビュー。作詞・作曲・編曲はもちろん、演奏・エンジニアリングなどすべてを中田ヤスタカ自らが手がけるオールインワンなスタイルから繰り出される自由奔放かつ刺激的な楽曲群に、音楽界のみならず、服飾や美容、映像などクリエイティビティーを共有するシーンからも熱い支持を得ている。ワールドワイドの大型フェスにも多数出演し、音響・映像・照明まで徹底的に構築したパフォーマンスでオーディンスを熱狂させている。

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