岩井俊二が運命的に結成した音楽集団 ヘクとパスカルインタビュー

今年1月にテレビ東京系で放送されたテレビドラマ『なぞの転校生』の挿入歌として、デビュー曲“風が吹いてる”が使用され、突如その才能の片鱗を見せた音楽ユニット「ヘクとパスカル」。メンバーは、映画監督としてはもちろん、音楽家としてもその才能を遺憾なく発揮する岩井俊二を筆頭に、テレビドラマ・映画・CM・舞台と多方面で活躍を広げる作曲家の桑原まこ、山下敦弘監督の『エアーズロック』で女優デビュー、自身もシンガーソングライターとして音楽活動を続ける椎名琴音の三人。

そして、先日ウェブサイトで公開されて話題を呼んだ、岩井俊二初監督アニメーション作品『TOWN WORKERS』の主題歌として書き下ろされたのが、ヘクとパスカルのセカンドシングル“ぼくら”だ。今回、その制作経緯を含めて、これまであまり明らかにされてこなかった「ヘクとパスカル」の結成秘話、メンバーそれぞれの音楽観や今後の展望など、その詳細に迫る初めての全メンバーインタビューが実現。大物映画監督が結成した音楽ユニットということで、少し緊張感を持ってのぞんだ三人との対話は、思いのほか非常にリラックスした雰囲気で行なわれた。

岩井さんから、夜中に「すごくいい声の子がいるんだ!」って、音源と一緒にメールが送られてきたことがあって。でも、(椎名)琴音ちゃんのことはすでに知っていたんですよ。(桑原)

―岩井さんを筆頭に、ものすごくバラエティーに富んだメンバーが集まったユニットだと思うのですが、三人の出会いから教えていただけますか。

岩井:(桑原)まこちゃんとは2、3年前だったかな。知り合いを通じて紹介してもらって、コンサートの仕事を一緒にしたのがきっかけですね。その後も、長澤雅彦監督の映画『遠くでずっとそばにいる』で、僕が音楽を担当したときに、曲のアレンジをお願いしたりもしました。それがヘクとパスカルの始まりだったんです。

岩井俊二
岩井俊二

椎名:しかも、その『遠くでずっとそばにいる』の打ち上げで、私とまこちゃんが知り合ったんだよね。

桑原:そうそう。岩井さんって、夜中に突然メールが来ることが多いんですけど(笑)、その頃に「すごくいい声の子がいるんだ!」って、音源と一緒にメールが送られてきたことがあって。でも(椎名)琴音ちゃんのことはすでに知っていたんですよね。

岩井:琴音ちゃんは昨年、テレビ番組用に作った映像のエキストラに来てくれて。自分が出演したドラマのDVDを持ってきてくれたり、交流しているうちに歌っていることを知って、聴かせてもらったら曲も声もすごく良くて、「一緒にやろうよ!」って誘ったんです。

―その後、長澤監督のCMのために書き下ろされた“風が吹いてる”が、ヘクとパスカルのデビューシングルになりました。

岩井:そうそう、彼はなぜか僕に音楽の発注をしてくれるんだよね。

桑原:Wikipediaに「音楽家」って書いてあるからいいんですよ(笑)。


岩井:最初はインストで、と思っていたんだけど、映像を見せてもらったら、これは詞があったほうがいいなと思って。年老いた夫婦が、あらためてもう1度結婚式をやろうっていう内容だったんですけど。それで、まこちゃんに声をかけて、ヘクとパスカルでやろうとなったんです。

―“風が吹いてる”は、曲も詞も岩井さんが担当されていて、その制作途中から椎名さんが加入されたそうですね。曲を書かれているときから、椎名さんの歌でと決めていたんですか?

岩井:そうですね。

桑原:そのレコーディングの日に琴音ちゃんが入った感じでしたよね。レコーディングの前も三人では1回しか会ってないし。

桑原まこ
桑原まこ

―椎名さんはいかがでしたか?

椎名:すぐにレコーディングだったので、「嬉しい!」というよりも「やらなきゃ!」って気持ちのほうが強くて、ずっと一人で練習していました。

岩井:メロディーがずっと同じだし、難しい曲なんだよね。

椎名:耳で聴いているよりも、10倍くらいテンポが遅いんですよ。ブレスを入れるタイミングが難しくて、本当に体力を使う歌だったんです(笑)。

岩井:考えずに作っているから、歌ってもらったらけっこう大変だった(笑)。一見簡単そうな曲なんだけどね。

椎名:それまで、自分で曲を作ったりしていたんですけど、誰かが作った曲を歌うのはほとんど初めてで、そこにも苦戦しましたね。

たまたま『リリイ・シュシュのすべて』の小説に出てくるネット世界の住人で「パスカル」っていうのがいて、じつは匿名だけど僕という設定だったんです。(岩井)

―「ヘクとパスカル」というユニット名には、不思議な印象がありますね。

岩井:『遠くでずっとそばにいる』の音楽を作ったときに、Twitterでユニット名を一般公募したんですけど、脚本家の北川悦吏子さんが「ヘクトパスカルってどう?」ってリプライをくれて。そのときは天気予報で使われる「ヘクトパスカル」の意味だったんですけど、たまたま『リリイ・シュシュのすべて』の小説に出てくるネット世界の住人で「パスカル」っていうのがいて、じつは匿名だけど僕という設定だったんですよね。プロフィールを見ると、映画を撮ったりしていて。

一同:(笑)。

岩井:『遠くでずっとそばにいる』のときは二人だったので、「僕がパスカルで、まこちゃんがヘクだね」って。それで「ヘクとパスカル」。

椎名:でも、急遽そこに私が入っちゃったんで、じゃあ琴音ちゃんは「と」だねって言われて。「と」はヤダと思って……。

椎名琴音
椎名琴音

桑原:結局「ヘク」を私と分担することになったんですけど(笑)。でも、初めて三人でやった“風が吹いてる”のレコーディングがすごく幸せな空気で、駅までの帰り道で盛り上がりながら「これからも頑張ろう!」って雰囲気で終わって。

岩井:決起集会じゃないけど、すごく盛り上がって「じゃあまた!」って。

桑原:「帰るんかい!」ってね(笑)。そこから飲みには行かないっていう。

―その後の活動についても話が出たりしたんですか?

椎名:岩井さんが「次はラップしよう」って言ってましたよね(笑)。半分冗談だと思うんですけど、そのくらい次のことをちゃんと決めてなくって。

桑原:岩井さんとのお仕事って、時がくれば自然にやってくると思っているので、その後も特に不安もなく待っていられました。そのときが来たら、また集まるんだろうなあって思っていましたね。

岩井さんは本当に音楽が好きですよね。しかも、少年のように純粋に好きなんだなって。レコーディング中も、嬉しそうにしている姿が素直すぎて、逆に感動してしまうというか。(桑原)

―岩井さんはこれまで、ご自身でバンドやユニットを組まれたことはあったんですか?

岩井:初めてですね。学生時代に遊びくらいではあったけど。

左から:岩井俊二、椎名琴音

―以前からバンドやユニットで音楽をやりたいという気持ちがあったんでしょうか?

岩井:自分があんまり楽器を弾けないから、憧れはあってもなかなかできなくて。だから、ようやく自分の音楽表現を具象化してくれる二人と出会えたという感じで嬉しいんです。

桑原:岩井さんは本当に音楽が好きですよね。しかも、少年のように純粋に好きなんだなって思います。レコーディング中も、嬉しそうにしている姿が素直すぎて、逆に感動してしまうというか。私は作曲家の立場から冷静に、琴音ちゃんにもディレクションしたりするんですけど、岩井さんは琴音ちゃんの声を聴くのがただただ嬉しそうで、「どうですか?」って聞いても「いいんじゃない!」って。「もう何でもいいんでしょ!?」みたいな(笑)。

意外に影響を受けているのが、3、4歳くらいの頃に聴いていた虫プロのアニメソングなんです。虫プロの音楽だけは、ちょっとジャズっぽかったり、音楽性が高かった。(岩井)

―岩井さんは、どういった音楽がお好きなんですか?

岩井:意外と抜き取れないくらいに影響を受けているのが、3、4歳くらいの頃に聴いていた虫プロ(手塚治虫が設立したアニメ制作会社)のアニメソングなんです。最近気が付いたんですけど、そこにルーツがあるのかなって。昭和40年代半ばかなあ……虫プロの音楽だけは、ちょっとジャズっぽかったり、音楽性が高かった。『ムーミン』の曲もいいんだよね。小さい頃はそういうのにやられてましたね。

椎名:子どもなのに、アニメを見る視点がすごいですね。

岩井俊二

岩井:『アンデルセン物語』のエンディングの“キャンティのうた”とか、女の子が好きそうな歌なんだけど、なんでこういうのにやられちゃうんだろう? って。その後もいろんな音楽を聴いたりするんだけど、好きな部分っていうのが、ほぼ1か所に集まってきちゃうんですよね。好きな曲を集めていくと何かテイストが似ていて、コード解析をするとほとんど同じだったりして。ジャズって微妙にコードが揺らぐじゃないですか。CからCmに行ったりとか、そういうのにクラッときちゃうんですよね。ずっと子どもの頃からこのラインが好きなんだなあって。

作る曲も一貫して「物語」なんですよね。自分の話ではなく、必ず「彼」とか「彼女」に置き換えて。物語を伝えたいっていう欲求が強くて、作詞するのもすごく好きですね。(椎名)

―メンバー最年少の椎名さんは、どんな音楽を聴いてこられたんですか?

岩井:(椎名さんをさえぎり)彼女をまず説明しておくと……。

椎名:私の説明を……(笑)。

岩井:椎名琴音は、女優でありつつ、シンガーソングライターとして一人でライブ活動もやっていて、ウクレレ1本で何とも素敵なワールドを作っているんですよ。

椎名琴音

―音楽を始められたのはいつ頃だったんですか?

椎名:曲を作り始めたのは18歳ですね。役者をやろうって思ったのは17歳くらいなので、だいたい同じ頃から。

―一気にいろんな表現活動をスタートしたんですね。

椎名:作る曲も一貫して「物語」なんですよね。自分の話ではなく、必ず「彼」とか「彼女」に置き換えて。物語を伝えたいっていう欲求が強いので、作詞するのもすごく好きですね。でも、音楽のルーツはクラシックとブルースだと思います。小さい頃からバレエをやっていて、ずっとクラシックを聴く生活だったのと、母がブルース好きで家でよく聴いていたので。

―先日公開された、岩井さんの初アニメ—ション監督作品『TOWN WORKERS』第3話の居酒屋のシーンでも、椎名さんの曲がBGMで使われているそうですね。

椎名:ロボットが主人公で、自分はずっと人間だと思っていたけど、お母さんと泣き方が違うし、お父さんと笑い方が違うなって気付いていく、っていう物語の曲で。「あんまり聴こえないから期待しないでね」って岩井さんに言われてたんですけど、見てみたらけっこう聴こえてて、教えていないのに友だちからも連絡が来たり、すごく嬉しかったですね。

『TOWN WORKERS』第3話『この遠い道程のため』
『TOWN WORKERS』第3話『この遠い道程のため』

岩井:居酒屋シーンのBGMどうしようかなぁ……って、ずっと悩んでて。もうナシでいいかって諦めていたら、琴音ちゃんから絶妙なタイミングで曲が送られてきて、聴いてみたらピッタリで、すぐに「使わせて!」って。シーンでは小さく流れているのですが、すごくいい曲なんです。

歌詞に曲をどう合わせよう? って考えるとワクワクすることに最近気付いたんです。結局音楽が好きなんだって認めようと去年くらいから思いました。(桑原)

―なるほど、桑原さんはいかがですか?

岩井:で、まこちゃんはですね……。

一同:(笑)。

岩井:音楽の世界ではかの有名な「桑原三姉妹」の次女なんです。姉妹全員が音楽をやっているんですけど、それぞれジャンルが違うんだよね。

桑原まこ

桑原:姉が現代音楽で、妹はジャズピアノ。私はこんな感じで何でもやっています。小さい頃から姉妹で音楽教室に通っていて、コンクールとかにも入賞して、プライドが高くなってしまっていたので、お二人のように音楽を楽しむということが、去年くらいまでできなかったんですよ(苦笑)。小学2年生くらいから、音楽教室で曲を作らされるんですけど、学校から帰ってきたら嫌でもピアノに向かわなくちゃいけなくて、「作らなきゃいけない」「練習しなきゃいけない」っていうので来ちゃったから、全然楽しめなくて……。

―好きで聴いていた音楽もなかったんですか?

桑原:唯一楽しめたのが、『美少女戦士セーラームーン』のミュージカルで流れていた、小坂明子さんの曲でした。小さい頃に観て、それだけが大好きでずっと聴いて育ったので、今でもそれは活きているってお姉ちゃんに言われます。あと、音楽を聴くときは歌詞を聴いているんですよね。自分がピアノを弾くときも、歌詞を聴きながら弾くというのが癖になってて、歌詞とメロディーのマッチングが最高だと、グッとくる瞬間みたいなのがあって。

―作曲・演奏されているのに、歌詞のほうが気になっちゃうんですね。

桑原:歌詞に曲をどう合わせよう? って考えるのがワクワクするんですよ。たぶん映像も同じで、台本を読みながらこれだったらこのメロディーが合うかも、って考えると楽しいっていうことに、最近気付いたんです。だから、ここ1、2年で音楽が好きになってきたのかなって。これまでは(音楽をやめて)美容師になりたいと思っていたときもあったし、でも結局音楽に戻ってきちゃうから、「音楽が好きなんだ」って認めようと去年くらいから思いました。

桑原まこ

―みなさん不思議と子どもの頃に聴いていた音楽が残っているんですね。

桑原:絶対残りますよね、きっと。

岩井:そこを拠りどころにしている気がします。結局ルーツに戻っていくというか。音楽って本当にいろんな世界があって、どれがいい悪いじゃないんだけど、自分が執着できるかできないかのゾーンってありますよね。たとえば、サカナクションは大丈夫なんだけど、その近隣は無理っていうのがけっこうあって。ここは刺さるのに、少しズレると自分にはちょっとわからなかったりするんですよね。

じつは一度、ヘクとパスカル解散の危機があって(笑)。私は、岩井さんがまこちゃんにダメ出ししているのとか、全然知らなくて。(椎名)

―『TOWN WORKERS』のエンディング曲にも使われている“ぼくら”は、ヘクとパスカルの2ndシングルになりますね。

岩井:他にもデモ曲はたくさんあって、琴音ちゃんの作詞作曲だったり、まこちゃんの作詞作曲だったり、いろいろ作っているんですけど、クレジットに三人の名前がキレイに並ぶのは今回が初めてなんですよね。

―作詞・岩井俊二、作曲・桑原まこ、歌・椎名琴音という。

桑原:レコーディングが終わった後、岩井さんから深夜に「完全コラボだったよ!」ってテンションの高いメールが来てて、眠くて返事できなかったんですけど(笑)。

―“ぼくら”は、どんな感じで作られていったんですか?

岩井:『TOWN WORKERS』を作っている最中に、ふと内容とリンクした詩を書けるかもっていう日があったんですね。こういう詞だったらいいなぁっていうのが、トライしたらなんとかいけそうだったので。

―歌詞の段階ではメロディーはまだない状態で?

岩井:そうですね。とりあえず詞だけ書いて、まこちゃんに「あとはまかせた!」って(笑)。自分で曲を作るより、今回はお願いしたほうがいいって直感的に思ったんです。でも非常にぴったりしたメロディーになったし、完成してみて「そっか、これは僕が作曲したんじゃないんだ」って思うくらい違和感がなかったんですよね。

―桑原さんは、どのように曲作りを始めたんですか?

桑原:歌詞を読んで、最初に浮かんだ曲のイメージがあったんですけど、今回は初めて岩井さんの詞に曲をつけるから、もっと頑張んなきゃって、何故か真面目になっちゃったんですよね。でも岩井さんに「どんなイメージですか?」ってわざわざ聞くのも悔しくて。それで、考え過ぎた挙句に作った曲を岩井さんに聴かせたら「全然違う」ってダメ出しされて、やっぱりそうですよね、と(笑)。結局、一番最初に思い付いたイメージの曲が採用されたんです。

ヘクとパスカル『ぼくら』ジャケット
ヘクとパスカル『ぼくら』ジャケット

椎名:全然違うよね。すごく展開がある曲で、それも好きだったけど。でも、じつはそのときに、ヘクとパスカル解散の危機があって(笑)。私は、岩井さんが、まこちゃんにダメ出ししているのとか全然知らなくて。

桑原:私はダメ出しの内容に全然納得がいってたので、悔しいから早く作り直して送りたいと思って、岩井さんの連絡に返事もしなかったんですよね(笑)。

椎名:そう、たしか3日間くらい何の返信もなかったみたいで、心配した岩井さんから私に電話がかかってきて、「まこちゃんにダメ出ししたんだけど、僕これで良かったのかなあ……」って(笑)。「もしこれでみんなの趣味が合わないみたいになって、バラバラになったらどうしよう……?」って、すごく気にしてて。

桑原:でも、そのエピソードは嬉しいですよね。琴音ちゃんが岩井さんを励ましてくれたんだよね。

椎名:そう。「大丈夫ですよ」って。

岩井:それ僕、すごくカッコ悪いね(笑)。でも返事がないから心配で、まこちゃんのTwitterを見たら、「泣いた」みたいに書いてたから、返事くれない上に泣いている!? と思って。

桑原:じつは全然違うことで泣いていたんですけどね(笑)。

―解散の危機を椎名さんが救ったんですね。

椎名:でも本当にまったく違う曲が来たからびっくりしました。私だったら1回思い付いて、これが1番だと思ったら絶対抜け出せないと思うんですよ。

桑原:私もそう。だから前の曲はゴミ箱に捨てて完全に消去してから、作り直し始めたんです。

いい曲を聴くと自然と嬉しいもんね。映画も同じで、ライバル監督とかいるんだろうけど、一番イラッとするのはやっぱりつまらない映画を見せられたときで。(岩井)

―でも三人ともが作詞作曲できるユニットって珍しいですよね。先ほど、桑原さんから「悔しかった」とあったように、良きライバル関係でもあるのでしょうか。

岩井:あんまりそんな感じでもないですね。いい曲を聴くと自然と嬉しいし。映画も同じで、ライバル監督とかいるんだろうけど、一番イラッとするのはやっぱりつまらない映画を見せられたときで(笑)。本来ならライバルがつまらないものを撮ったらホッとしてもいいわけなんだけど、あんまりそうはならなくて、いいもの見せられたほうが嬉しくなっちゃうんですよね。

左から:椎名琴音、岩井俊二、桑原まこ

―悔しさはありつつも?

岩井:いや悔しさもあんまりないですね。素晴らしいものを見たから感動のほうが大きくて。だからお互いの作品についてもそういう感じですね。

本当は何か違うんだよな、って感じながら続けている人たちも意外に多いと思う。だから、自分の長い人生をかけて見つけたこの二人と一緒にできることはラッキーだと思っています。(岩井)

―メンバー間でいい刺激を与え合っているんですね。今後の活動はどのようになりそうですか? まだ2曲しかリリースしていませんが、お話を聞いていると他にもたくさん曲がありそうですね。

岩井:何だかんだでけっこうあるんですよね。まこちゃんと二人でやっていたときの曲もあるし。

桑原:カバー曲もやりたいねって話もあったり。それぞれの活動もあるので一気にやらないと。

左から:椎名琴音、岩井俊二、桑原まこ

―ライブの可能性も?

岩井:(ぐっと身を乗り出して)やりたいですよね。僕はキーボードでコードを弾くくらいしかできないから、何を演奏するかという問題はありますけど(苦笑)。

椎名:MCとか?(笑)

―今のところ映像作品があって曲という流れですが、今後も映像作品ありきになりそうですか?

岩井:作品という口実がないと、忙しくて集まれない部分もあるからね。

椎名:でも映像に乗っかると、ヘクとパスカルの曲ってすごく良くなると思う。

桑原:世界観も映像に合うよね。それは岩井さんが映像監督だからかもしれないですけど。でも、作りためた曲をいつかアルバムにしたいですよね。

―目処は?

桑原:岩井プロデューサー、どうなんですか!?

岩井:出したいよね。いろいろやっていきたいけど、でもこの二人と一緒にできることはラッキーだなと思っています。こういうことがやりたかったんだよな、っていうのがありますね。

桑原:頑張らなきゃね。

椎名:うん(笑)。

左から:桑原まこ、椎名琴音、岩井俊二

岩井:本当に自分が思い描いていたのはこの人じゃないんだよ……って感じながら続けている人たちって意外と多いと思うんです。高校時代の仲間とバンドを組んで、たまたまその人が最高のボーカルだったなんて虫のいい話はないと思うし。

―たしかにそうですね。

岩井:だから、この二人は自分の長い人生をかけて見つけてきた感じがあるんです。運命というか運というか。琴音ちゃんなんか、何故か打ち上げにふっといたりしたわけだから、それはもう運命だよね。

これまでは、辛いときに現実逃避でファンタジーを求めているところがあったんですけど、岩井さんが「現実にもファンタジーはあるよ」って教えてくれている気がして。(桑原)

―椎名さんと桑原さんはいかがですか?

椎名:私は、自分の声をこんなにいいって言ってもらえることが本当に嬉しくて。物語を伝えたいっていう欲求ももちろんあるんですけど、他の人が作った物語を自分の表現で膨らませることの楽しさというか、ボーカリストとして声を使うということに集中するというのも今後はやっていきたいですね。

桑原:私は曲を作りまくりたい。岩井さんに添削してもらったりして、詞も書いてみたいし。ピアノと歌だけで聴かせられる曲って最近はけっこう少なくて、J-POPの曲でも、ピアノで弾いたらペラッペラだったっていうことがあるんですよ。でも、それも琴音ちゃんの声だったらどこまでも行ける気がするんですよね。

―「ファンタジー」な部分というか、そこは岩井さんも含めて、みなさんに通じる世界観がありそうですね。

桑原:これまでは、辛いときに現実逃避でファンタジーを求めていたみたいなところがあったんですけど、岩井さんが「現実にもファンタジーはあるよ」って教えてくれている気がして。だんだん年を重ねていくにつれて、そこに近付けるかもしれないって思えたりしますね。だからもうちょっと明るくなろうと頑張っているんです(笑)。

リリース情報
ヘクとパスカル
『ぼくら』
2014年9月24日(水)からiTunes Store、Amazonほか、各音楽配信サイトにて限定配信中 SPACE SHOWER MUSIC

作品情報
『TOWN WORKERS』

2014年9月18日(木)から特設サイトで公開中
監督・脚本:岩井俊二
エンディングテーマ:ヘクとパスカル“ぼくら”

プロフィール
ヘクとパスカル

岩井俊二(映像監督 / 作家)、桑原まこ(作曲家 / ピアニスト)、椎名琴音(女優 / シンガーソングライター)の三人による音楽ユニット。2013年、長澤雅彦監督の映画『遠くでずっとそばにいる』の音楽制作を機に、岩井と桑原で結成。その後、椎名琴音が加入し、デビューシングル『風が吹いてる』が、テレビドラマ『なぞの転校生』の挿入歌として話題となり、注目を集めたほか、先日公開された岩井俊二初アニメーション監督作品『TOWN WORKERS』では、エンディング曲に、2ndシングル『ぼくら』が使用された。



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