荒川ケンタウロス、スピッツや坂本九の深淵を探る。いい詞とは?

見た目は普通。バンド名やアーティスト写真、ミュージックビデオはちょっと変。でも、楽曲は普遍的な魅力を持った5人組、荒川ケンタウロスがミニアルバム『玉子の王様』で遂にメジャーデビューを果たす。そもそも、彼らはCINRAが定期開催している無料イベント『exPoP!!!!!』のレーベル出身で、2011年にシングル『天文学的少年』でインディーズデビューし、3年半の歳月をかけて一歩一歩着実に成長。昨年11月に行われたワンマンライブのアンコールにて、日本コロムビアの法被を着て、メジャーデビューを発表したのだった。前作『よどみに浮かぶうたかたは』に引き続き、高野勲と柏井日向が共同プロデューサーとして参加した『玉子の王様』は、三人のソングライターがそれぞれの色を発揮しつつも、アルバムを通して、せつなくも温かみのある荒川節が堪能できる作品となっている。

それにしても、インタビューでの荒川ケンタウロスは熱かった。もちろん、この日出席した楠本、一戸、尾越の三人は、基本的にマイペースで、ユーモラスな、愛すべきキャラクターの持ち主。しかし、話がジャンルという壁による断絶や、「普通」というキーワードに及ぶと、語気を強めて熱っぽく話をする姿が、実に印象的だった。スピッツやフィッシュマンズにも通じる普遍性、「いい曲」の定義を、歌詞やメロディーなどさまざまな側面から議論してみたが、その背景として重要なのはやはりこの熱さなのだろう。彼らがメジャーデビューへとたどり着いたのも、この熱意あってこそのものだと再認識させられた。

やり続けていれば、どこかから絶対に声がかかると思ってました。「絶対評価される」っていう自信はあったんですよね。(楠本)

―メジャーデビューおめでとうございます!

楠本:ありがとうございます。吉報を届けに来られて嬉しいですね。CINRAも当時よりオフィスが大きくなってるし、互いにコツコツやってきてよかったなあと(笑)。

左から:一戸、楠本、尾越
左から:一戸、楠本、尾越

―荒川ケンタウロスが初めて『exPoP!!!!!』に出たのはいつですか?

楠本(Gt):確か、2010年だったと思う(2010年6月24日開催の『exPoP!!!!! VOL.39』)。

一戸(Vo):出れるって知ったときはかなり嬉しかったですね。俺がお客さんとして観に行ったときの『exPoP!!!!!』は、トリに神聖かまってちゃんが出ててすごく盛り上がってたので、「あれに出れるのか!」って。

尾越(Dr):僕はそのときまだメンバーではなくて、お客さんとして観てたんです。土田(Ba)が大学の先輩なので、「観に来いよ」って言われて、「しょうがねえなあ」と思って行ったらすごくいいバンドで(笑)。

―まさか、後日そのバンドに入ることになるとは思いもよらなかったと(笑)。そして、翌年『exPoP!!!!!』のレーベルからデビューをしたわけですが、その頃からプロ志向があったのでしょうか?

楠本:やり続けていれば、どこかから絶対に声がかかると思ってました。好きなことをただやってただけなんですけど、「絶対評価される」っていう自信はあったんですよね。

一戸:僕も最初からプロになりたかったですね。でも、技術的にへたくそだったので、まずは成長しなきゃと思ってやってました。だから、何も飛ばしてない気がする。出たかったライブハウスに出て、応募して『exPoP!!!!!』に出て、インディーズでCDを出して、一歩ずつ一歩ずつ来たような気がしますね。


尾越:僕はこのバンドに入る前にも何個かバンドをやってきたんですけど、このバンドに誘ってもらって、本気で上を目指したいと考えるようになりました。「これが最初で最後だ。命をかけてやろう」ぐらいに思ったんです。

「普通」って言われると、最近ちょっとカチンと来るっていうか、「じゃあ、この音楽作れんのか?」って思うんですよ。(一戸)

―メジャーデビューということに関しては、「今はメジャーもインディーズも変わらない」という意見もあるし、「それでも、メジャーにはメジャーの意味がある」という意見もあるし、そのどちらも間違ってはいないと思います。荒川ケンタウロスとしては、どのようにお考えですか?

楠本:メジャーっていうのは、お茶の間まで届く可能性がすごくあると思うんですよね。やっぱりライブハウスに来れない人にも自分たちの音楽を届けたいですから。僕は、ジャンルは何でもよくて、自分の概念の中の「いい曲」を作ろうと思ってやってるんですけど、ホントにいい曲って、おじいちゃんおばあちゃんから子どもにまで聴かれると思うんです。

楠本

―荒川ケンタウロスとは、「いい曲」を世代問わずに届けるバンドだと。

楠本:このバンド名が足かせになるときが来るんじゃないかと思いますけどね(笑)。

―変わった名前ではありますもんね。プロフィールには「いたって普通の5人組バンド」とあるのに反して(笑)。

楠本:「普通」っていうよりも、「普遍」でありたいと思うんですよね。見た目は普通かもしれないけど、音楽に関しては絶対に普通じゃない。そこは自信を持ってやっているので。

一戸:普通のものを見たいっていう人もいないと思いますしね。なので「普通」って言われると、最近ちょっとカチンと来るっていうか、「じゃあ、この音楽作れんのか?」って思うんですよ。「普通」って言われるような簡単な音楽をやってるつもりはないので、悔しくなるんですよね。まあ、プロフィールでは自分たちから言ってる手前、言われて怒るっておかしな話ですけど(笑)。

―見た目は普通なんだけど、曲はしっかり練られていて普遍性がある。その一方で、バンド名だったり、アー写には遊びがあるっていうギャップというか、多面的な魅力っていうのが、幅広い人に届けるって意味では重要なのかなと。「いい曲」の定義を自分なりに言葉にすることってできますか?

荒川ケンタウロス
荒川ケンタウロス

一戸:人の心に入っていくかどうかですかね。音楽だけじゃなくて、詩集とかでも、いいものにはスッと入ってくる温かさがあると思ってて。心の壁を越えられるかどうか。そこはポップスには外せない要素だと思います。

―確かに、普通の会話だと入ってこないけど、詩や音楽だと入ってくることってありますもんね。尾越くんはBRAHMANやHi-STANDARDも好きだそうですが、その一方で荒川ケンタウロスをやってるっていうのは、ジャンルを超えた意味での「いい曲」っていう概念があるってことだと思うのですが、いかがですか?

尾越:昔は速い曲だったら大体好きだったんですよ(笑)。あとはスピッツが大好きだったんですけど、ほかに心に響くようなポップスってあんまりなくて。でも、荒川ケンタウロスの曲は初めて聴かされたときも何回も聴いたし、何か他のポップスとは違うものを持ってるなって直感で感じました。

尾越

―一戸くんの言葉を借りれば、心の中に入ってきたってことでしょうね。楠本くんはどうですか? 「いい曲」の定義。

楠本:形容し難いですね……目に見えない、形もないものに突き動かされる……言葉が見つからないですね。

一戸:それもひとつの答えかもね。

―もちろん、言葉にできないからこそ曲にしてるわけですもんね。楠本くんには、これから詞の書き方についても訊いたあと、もう一度同じ質問をさせてください(笑)。

楠本:わかりました(笑)。

(スピッツは)熟練されてるのに、あのフレッシュさ。ああやって今も輝き続けてるのはホントにすごいなって思うし、尊敬します。(楠本)

―荒川ケンタウロスは複数のメンバーが曲を書いてるのも特徴で、今回は楠本くん、一戸くん、場前くんがそれぞれ詞曲を担当しています。なので、今度はそれぞれの思う「いい詞」を探るべく、まずは楠本くんと一戸くんが思う「詞がいい曲」を挙げていただきたいのですが、いかがでしょうか?

一戸:パッと浮かぶのは、THE BOOMの“風になりたい”と、坂本九さんの“上を向いて歩こう”。自分の中でこの2曲には共通点があって、どっちも世界中で歌われている曲ですけど、いろんな状況の人がいる中で、誰も拒まない曲だと思うんです。誰もブロックしない言葉でできてて、意味は広いんだけど、わかりやすい。恋愛だろうが何だろうが、どんなことにも当てはまる。そういう曲ってあんまりないと思うんですよね。

一戸

―まさに、普遍的な曲ですよね。“上を向いて歩こう”なんて、それこそどんなジャンルで、どんなアレンジで演奏しても、“上を向いて歩こう”でしょうし。では、楠本くんは「詞がいい曲」というと、何が浮かびますか?

楠本:最近改めて聴き直したのが、スピッツの“魔法のコトバ”。<君は何してる? 笑顔が見たいぞ 振りかぶって わがまま空に投げた>って歌詞があるんですけど、これってなかなか書けるもんじゃないなと思って。この1フレーズには、殴られたような衝撃を受けましたね。しかも、この曲が入ってる『さざなみCD』って、12枚目のアルバムなんですよ。熟練されてるのに、あのフレッシュさ。ああやって輝き続けているのはホントにすごいなって思うし、尊敬します。

―途中で尾越くんからもスピッツの名前が出ましたけど、特にバンドをやってる人にとって、スピッツってホントに特別な存在だと思うんですね。オルタナティブな要素を持ちつつも、全世代に聴かれてて、CDを何百万枚売っている。ジャンルは関係ないし、すごく普遍性があって、荒川ケンタウロスにとってもひとつ理想形だと言えますか?

一戸:うん、そうなんじゃないかな。

楠本:昔はパンクだったし、その頃のにおいを今でもときどき感じさせつつ、何をやってもスピッツになるっていうのもすごいし、あと曲の量もすごい。素晴らしいですね。

―コンスタントに出し続けてるっていうのもすごいですよね。

楠本:スピッツの次って、いないんですよね。

―確かに、いないかも。

楠本:僕らなんですよ。

―おっ! 言いましたね!

楠本:ただ、スピッツは4人ですけど、荒川ケンタウロスは「5人」にすごくこだわってて、キーボードが絶対重要なんです。そこに関しては、フィッシュマンズの影響が大きいと思いますね。静寂を音で表していて、だけど心が踊っちゃうというか、あの高揚感はキーボードがすごく大事な役目を果たしていると思うので。

「せつない曲は嫌い」って人はいないんじゃないかと思うんですよ。僕も、テンポの速いパンクの中でも、HAWAIIAN6とかせつなくて速い曲大好物ですしね(笑)。(尾越)

―スピッツやフィッシュマンズと荒川ケンタウロスを比べると、「せつなさ」っていうのは共通点ですよね。それは“上を向いて歩こう”にしてもそうだし、そこにも普遍性の鍵があるのかなって。

楠本:「せつなさ」の表現でいうと、僕に関してはビジュアル系を通ってるのが大きいと思います。ビジュアル系って、ホント音楽としてのクオリティーが高いんですよ。「ビジュアル系」っていうだけで拒否反応を起こして聴かないとか大嫌いですし、「MALICE MIZERのクオリティーをホントに知ってるのか?」って思うんですよ。

―あのクラシカルな和声をちゃんと聴けと(笑)。一戸くんは「せつなさ」についてどう思いますか?

一戸:曲ってどれも、基本せつないんじゃないかなあ? みんなせつないことを歌ってるんだけど、それが響くか響かないかの差っていうか。基本、恋愛でも人生でも、手の届かないことだったり、自分に足りないことを歌にするじゃないですか? でも、それがちゃんと響くか響かないかは、サウンドだったり、アレンジだったりが大事になってくるのかなって。

一戸

―確かに、楽しいことっていうのはわざわざ歌詞にする必要はなくて、せつなさだったり、負の感情からこそ言葉って出るものですよね。

一戸:ほぼ100%そうだと思いますね。

尾越:「せつない曲は嫌い」って人はいないんじゃないかと思うんですよ。僕も、テンポの速いパンクの中でも、HAWAIIAN6とかせつなくて速い曲大好物ですしね(笑)。荒川ケンタウロスの曲はせつないコード進行の曲が多いんですけど、自然にいいと思うものを作ろうとすると、そういう曲になるんじゃないかと思いますね。

僕のフィルターを通してできたものが、「いい曲」であってほしいなって。それは願いでもありますね。(楠本)

―アルバムのリード曲である“ハンプティダンプティ”は、古本屋で買った小説にしおりがついていて、そこに童謡の『ハンプティダンプティ』の詞が書かれていたことがきっかけになってできた曲だそうですね。

楠本:『ハンプティダンプティ』の訳詞には、最後に「なぞなぞの答えは玉子」って書いてあることが多いんですけど、それは後づけで、ホントはなぞなぞでも何でもないんです。別に王様でもないし、ハンプティダンプティ自体が何かは明言されてないんですよね。それを僕の勝手な解釈で王様にしただけです。「塀から落ちしまったハンプティダンプティをどう手を尽くしても元に戻せなかった」っていうことを「おごっていて、気がついたら地位や名誉を失ってしまう」という話につなげて、それが王様にあてはまるなって。だから、この曲を教訓めいてると感じてくれてもいいし、ただの童話の世界だと思ってくれてもいい。いろんな受け取り方があっていいと思ってます。

―結論を提示するわけではなく、解釈の余白を残してると。

楠本:僕は「この曲はこうです」っていうのは言いたくないんです。受け取り方は自由だと思ってて、聴いた人が「これってこういう意味? いや、こうも取れるな」って思ってくれたらいい。曲って聴いた人のものになるから、僕の気持ちもその中に込めてはいるけど、どの曲も曖昧なところはあると思います。

―でも、その曖昧さがあるからこそ、どんな人でもその世界に入ることができて、それが普遍につながるとも言えそうですよね。ちなみに、『玉子の王様』というタイトルも、“ハンプティダンプティ”から来てるわけですよね?

楠本:そうですね。字面的に、『玉子の王様』って書くと、「玉」と「王」が似てるから、目を引くんじゃないかなって。パッと見、「王子の王様」にも見えるし(笑)。

楠本

―そこはやっぱり、ちょっと面白くしたがりな荒川ケンタウロスらしいところだと。でも僕はちょっと深読みして、途中で「見た目は普通」って話がありましたけど、玉子っていうのも、誰もが料理で使う普通の食材じゃないですか? つまり、その「普通」の中の「王様」が、荒川ケンタウロスだってことなのかなって思って。

楠本:それでお願いします(笑)。

一戸:俺も実は深読み解釈が1個あって、玉子って生まれたばかりでまだ成熟してないでしょ? 僕らもインディーズからメジャーに行くっていうタイミングで、ここから王様になるんだっていう意気込みなのかなって思った。

楠本:こういうことなんですよ! こうやっていろんな深読みができるのが大事なんです。

―では最後に、途中で保留にしておいた「いい曲」の自分なりの定義について、楠本くんいかがでしょうか?

楠本:僕、人の才能を見抜く才能はあると思ってて、「きっとこのバンドが売れる」とか、なんとなくわかる気がするんですよ。そういう中で自分がいいと思ったものを作ってるので、自分から出たものはいい曲であるに違いないと信じてて。その反面、不安で押しつぶされそうになるときもあるんですけど、CDを出した後とかに「いいね」って言われると、「今回もいい曲作れたんだな」って救われた気持ちになるんですよね。なので、僕のフィルターを通してできたものが、「いい曲」であってほしいなって。それは願いでもありますね。

リリース情報
荒川ケンタウロス
『玉子の王様』(CD)

2015年2月4日(水)発売
価格:1,944円(税込)
日本コロムビア / COCP-38946

1. ハンプティダンプティ
2. まぼろし
3. 冬の星座
4. 鳩のお嬢さん
5. 君の季節
6. コイン

イベント情報
『荒川ケンタウロス「玉子の王様」リリースツアー』

2015年2月21日(土)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:大阪府 天王寺 Fireloop
出演:
明日、照らす
完全にノンフィクション
荒川ケンタウロス
and more
料金:前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)

2015年2月25日(水)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 APOLLO BASE
出演:
パンパンの塔
muuka
Bob is Sick
荒川ケンタウロス
料金:前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)

『荒川ケンタウロス「玉子の王様」リリースツアーファイナル ワンマンライブ』
2015年3月20日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-WEST
料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)

プロフィール
荒川ケンタウロス (あらかわけんたうろす)

誰にでもある日常をキラキラとした世界に変える、いたって普通の5人組バンド。バンド名は漫画家・長尾謙一郎氏の『おしゃれ手帖』より名付けた。東京は国分寺にて結成。2009年7月より活動。2011年11月に1stミニアルバム『遊覧船の中で見る夜明けはいつも以上に美しい』をリリース。完全無名の新人ながらも各地の CDショップバイヤーの間で評判を呼び、「タワレコメン」(タワレコメンイベントは最多出演)や「iTunes今週のシングル」に選出される。2014年3月5日、高野勲(GRAPEVINE、斉藤和義、加山雄三 etc,,,)×柏井日向(エンジニア Kirinji、the HIATUS etc…)プロデュース による初のフルアルバム『よどみに浮かぶうたかたは』をリリース。2015年、満を持して日本コロムビアよりメジャーデビューアルバム『玉子の王子』をリリース。

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