DIYで成功させたNeat's『星空ヘッドフォンフェス』の作り方

2015年4月25日。富士山の裾野、キャンプ場の一角で開催された手作りフェス。本番開始直後からのあいにくの雨の夜、髪の毛から水を滴らせながらも、微笑みを浮かべてキーボードを弾き、歌うNeat'sがいた。彼女の前には、Neat'sの音世界をワイヤレスヘッドフォンを通じて聴き入る150人の静かなる観客たち。その光景はなんとも異様なるも、信じられないほど心地の良い空間が広がっていた。

メジャーレーベルを離れて以降、音源からアートワーク、ビジュアルワーク、通販の梱包からSNSでのプロモーションまで、すべてをDIYで手がけてきたNeat's。CINRAの連載『早く人間になりたい Neat's(26歳女子)』ではプロジェクト初期から彼女を追っているが、一時期は自分を見失いかけた彼女が取り戻したのは「自分の心に素直になること」。持ち前の感受性を活かして、国内でもほぼ前例のない、野外でのヘッドフォンライブ『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』を企てた。予算集めからスタッフ集めに至るまで当然DIY。すべての要素がリスキーゆえ、周囲の誰もに反対されながらも「絶対できる!」と確信してNeat'sと仲間たちが実現した『星空フェス』の道のりと、今のNeat'sを久々にじっくりと語ってもらった。

大人からいつも「ムリだ、ダメだ」と言われてきた反抗心が今も続いてて、「できない」と言われるとやりたくなっちゃうんですよ。

―まずは、先日の『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』(以下、『星空フェス』)のお話から。なぜやろうと思ったのですか?

Neat's:やりたかった! ただそれだけです(笑)。前に『フジロック』か何かに行ったときに、全員がヘッドフォンで音を聴いている屋内のDJイベントを見たんですけど、すごく異様な光景で。

―その光景が頭に残ってた。

Neat's:数年後、自分のライブでモニター(ステージ上でマイクや楽器の音声を聞き取るためのスピーカー)が聴こえなくなるアクシデントがあって、私だけヘッドフォンをつけて演奏したんです。そのときは自分が聴いている音が、みんなにどう聴こえてるかわからなくてすごく不安だったんですけど、自分がヘッドフォンで聴いてるのと同じ音をそのまま届けられたらもっとみんなと繋がれるんじゃないか?って思ったんですよね。しかも私が歌を作るときは、星や宇宙、自然を頭の中に浮かべていることが多いから、野外で星を見ながらヘッドフォンライブをしたら、頭の中の妄想をみんなに体験してもらえるんじゃないか? これは新しいぞ! って。

―面白いのは、野外で実現しようと思ったことですよね。音を均等に無線で飛ばせるヘッドフォンを用意することからすでに難しい。周囲の方には反対されませんでした?

Neat's:めちゃめちゃ反対されました。だからイラッときて、自分で調べまくったんです。そしたらJ-WAVEの知り合いの方がヘッドフォンライブをやったというブログを見つけて、ワイヤレスヘッドフォンを作っているAZDENさんを紹介してもらってお借りできることになったんです。「野外で使うのは初めてなので、成功するかどうかは保証できません」と言われましたけど(笑)。

Neat's
Neat's

―そういえば『星空フェス』のMCでも、「子供の頃から大人に『できない』と言われるのが理解できなかった」と言ってましたよね。

Neat's:「あれがやりたい! これが欲しい!」と大人に言っても、いつもムリだ、ダメだと言われてきたんですけど、それに対する反抗心が今も続いているらしくて。「できない」と言われるとやりたくなっちゃうんですよ。

―クラウドファンディングを使ったのはなぜですか?

Neat's:今回の会場として、アルバム『MOA』のジャケットやMV撮影をした、富士山麓の「ふもとっぱら」というキャンプ場を借りたんですけど、視察のときに見た星空がすごくて本当に感動したんです。「みんなに、この星空を絶対に見せてあげたい!」という気持ちがわき上がって、小規模なもので終わらせずに、もっと巨大なプロジェクトとして成功させたいと思ったし、単なる資金集めというよりは、「みんなで作り上げていく」っていうクラウドファンディングの意図にもしっくりくるなと思ったんです。それで「J-CROWD MUSIC」というJ-WAVEのクラウドファンディングのサイトに自分で企画を持ち込みました。そこでも、いろんな反対意見は出ましたけどね。

―またしても(笑)。でも、結果的には目標金額に対して、372%を達成したんですよね。

Neat's:サイトに載せる写真やプレゼントにたくさん工夫をしました。開始日はPCの前に正座するぐらい不安でしたけど、予想を100倍上回るスピードでみんなが応援してくれるのが嬉しくて、毎日チェックしていました。最初に設定した50万円は4日間で達成したのですが、もっとたくさんの人に知ってもらいたかったので、達成後もコツコツ情報をアップし続けたんです。私を知らずに「よくわからないけど面白そうな企画だから参加しました」というコメントを見たときには、新しいことができたんだと、報われた気持ちになりましたね。

私がスタッフ全員に「絶対に雨は降らない!」って言い続けてました。そういう気持ちを持ってやらないと、このプロジェクトは絶対に成功しないと思った。

―イベント本番までは、どのように進めていったのですか?

Neat's:『星空フェス』の実行委員会を作って、仲間と一緒に一つひとつ準備していきました。会場の装飾、ランタンの照明、看板、リストバンド、フードコートのメニュー、雑貨、ライブペインティング……など考えまくりました。チャーターした2台のバスの中の装飾や、車内放送用にオリジナルの番組を作ったり。野外フェスになじみがない人も多いだろうと思ったので、持ち物リスト入りのしおりや『MOA』の撮影スポット入りの会場マップをお手製で作って発送したり。でも、電源をどうするか、何も考えていなかったことに途中で気づいて……(笑)。

Neat'sが手描きで準備した『星空フェス』のしおり
Neat'sが手描きで準備した『星空フェス』のしおり

―野外でたくさんの楽器を演奏するNeat'sにとって、一番といっていいほど大事ですよね(笑)。

Neat's:それまで見て見ぬフリをしてきたんですね(苦笑)。そんなとき、車から1500ワットも電源が取れる「アウトランダーPHEV」という三菱自動車のハイブリッドカーが、偶然にも無料レンタルキャンペーンをやっていて。なので実は、当日のすべての電源は試乗車から取ったものなんです(笑)。

『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』会場風景 撮影:笹原清明
『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』会場風景 撮影:笹原清明

『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』会場風景 
撮影:笹原清明

―お天気についてはいかがでしたか?

Neat's:スタッフが打ち合わせのたびに、「雨が降ったらどうしよう」と言ってくるので、私が全員に「降らない!」って言い続けて洗脳していました。そういう気持ちを持ってやらないと、このプロジェクトは絶対に成功しない。もちろん、実行委員会のみなさんはプロ中のプロだから、雨のリスクに対応しないライブなんて本来絶対に許すはずもないし、これはNeat'sっていうプロジェクトだからやらせてくれたんだってこともわかってるんです。みんなもわかった上で、洗脳されて、楽しんでくれたんですよね。

―当日は、開場した頃は大丈夫かなと思ったのですが、演奏が始まってから雲行きが怪しくなって……。

Neat's:3~4曲目あたりはけっこうヤバかったですね。だんだん目が開かなくなるし。

―観ながら、これ、どうするんだろう? と思ってました。でもなにごともないように歌い続けていて。

『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』会場風景 

『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』会場風景 撮影:笹原清明
撮影:笹原清明

Neat's:どうしてもスタッフには止めて欲しくなかったんです。「ここまできたら、絶対に奇跡のライブになるに違いないから、よろしくみんな!」って念じるような思いでした。そこからは「恵みの雨だ」って自分に言い聞かせて。

―お客さんの様子は見えてました?

Neat's:はい、しっかりと。最前の女の子2人が、1つの傘の中に寄り添って座っている姿が、泣けるほど可愛かったのも覚えてます。一番嬉しかったのは、雨がひどくなっても、1人も避難しちゃう人がいなかったことですね。時間が経つにつれてみんなの集中力も高まっていくのがわかったし、自分のスペースでなんとかして「基地」を作って聴いてくれている感じを、愛おしく思いました。勝手な言い分かもしれないけど、でも終わった後のみんなの感想を見ていたら、雨がとても幻想的で思い出に残るライブになったというものが多かったんです。今となっては「良かった! 大成功!」と、胸を張って言えます。

『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』会場風景 撮影:笹原清明
撮影:笹原清明

―ヘッドフォンを通してNeat'sと完璧に一対一で向き合っているような、他のライブでは体験したことのない感覚がありました。

Neat's:うん、私にも、とても不思議な感覚がありました。遮られている感じと、すごく近い感じがあわさったような。それって、Neat'sのテーマの究極にすごく近いと思ったんです。人はみんな1人。全員違っていて、孤立している。だからこそ、一番近いところで繋がり合いたい。それが、ここで実現されてたんだなって。あのときヘッドフォンを通して伝わっていたのは、私の心の声だと思ってます。いわゆる「野外フェス」の一体感とは真逆のNeat's流野外フェスです。

『Neat's 星空Bedroom Orchestra ~サイレント・ヘッドフォン・フェス~』会場風景 撮影:笹原清明
撮影:笹原清明

―あの状況が観客の五感をこじ開けた感じがありますよね。Neat'sはこれまで、体当りしながらいろんな成功や失敗を全身に受けてきたと思うんですが、その一端を観客として体験できたというか。

Neat's:そう言ってもらえると嬉しいです。私も濡れてかなり寒かったし、指も動かないから鍵盤のミスタッチもありましたけどね。でも信じてついてきてくれてるお客さんが目の前にいるのに、ネガティブなことを言ったり、くじけるなんて選択肢はなかったです。

自分の気持ちが動かなくなることが、本当に怖いです。常に先入観を壊していかないと、何も生まれなくなるんじゃないかという恐怖があります。

―今回の『星空フェス』は、これまでのNeat'sの活動があってこそですよね。Neat'sのプロジェクトを進めてきたこの数年間で、すごくタフになった感じがします。

Neat's:だったら嬉しいですね。「妄想」という言葉が、Neat'sのキーワードとして一番わかりやすく広まっていますけど、私の「妄想」はただぼんやりした夢じゃなく、もっと明確な「野望」なんです。だから、それを実現しようとすると、タフにならざるを得ないのかな(笑)。今回の『星空フェス』も、やっている最中のビジョンが私にはしっかり見えていたから、やれると思いました。

―『星空フェス』は、音楽的には『MOA』を補完する絵本付きのBOXセット『Bedroom Orchestra II ~more MOA~』の具現化を目指していたわけですよね。

Neat's:はい。『MOA』はいわゆる大衆音楽として発信していますが、その作品の中にある私が感じてる景色を、絵と物語、パッケージを通じてさらに色濃く五感で受けとってほしいと思って作ったのが『Bedroom Orchestra II』。音楽的には絵本のためのサントラのように『MOA』の楽曲を丸ごとリアレンジして歌も録り直しています。そんな作品のリリースライブだから、五感で楽しめるライブをやりたかった。CINRAの連載でさんざん「人間になりたい」と言っていたのは、大人になって本当に心が動かなくなるのが怖かったから。もっと人間の感情に忠実になって、泣いたり、笑ったり、叫んだり自由にできる人になりたいという意味でした。その感覚はぼんやりしてると失われるものだってこともわかってるから、動いてないと怖い。Neat'sのプロジェクトは、すべてそれが原点にあります。

『Bedroom Orchestra II ~more MOA~』
『Bedroom Orchestra II ~more MOA~』

―それを探るために、音楽以外の取り組みにもイチから挑戦してきたんですね。

Neat's:そうですね。自分の気持ちが動かなくなることは、本当に怖いです。常に先入観を壊していかないと、何も生まれなくなるんじゃないかという恐怖があります。私は今でも5歳や10歳のときの気持ちを思い出せてると感じてるし、そうやって歌を作っているけど、それをリアルに感じられなくなったり、思い出せなくなったら……作り続けてないと死んじゃう。

―Neat'sにとって、自分の妄想をかたちにすることは、音楽以前に、生きていることの実感を得る手段なんですかね?

Neat's:そうかもしれません。でも私自身、思ったよりもオーガニックな人間じゃないというか、『星空フェス』が終わってから、山梨で自給自足をしているいとこの姉の家で少し暮らしてみたら、3日目で曲が作れなくなったんですよ。それが怖くて帰って来ちゃった。大自然の中にいると、最初は曲がどんどんできるんですけど……うーん、なんでなんだろう? 暮らすということだけで毎日が過ぎてしまうというか……。曲を作るときの感覚はお休みしちゃうみたいです。

―Neat'sの細やかさとパワーは女性的だなとも思うのですが、実際、Neat'sのスタッフには、女性クリエイターも多いですよね。

Neat's:そう。女性という生き物にすごく興味があるんですよ。女性って、相手が誰かによって何面性も持っていて、無垢なもの、無邪気なもの、わがままなものというのはその1つの側面です。そのパワーが、もの作りにとってすごく面白く働く。私が妄想を語るとき、ふわっとしたイメージで伝えても、理屈で返さずに感覚で理解してもらえるし、いざできあがったら意外なモノになってたりもする。そこがいいんです。Neat'sの創作に、女性クリエイターの存在は欠かせませんね。

―その力を結集してぜひもう一度、Neat'sがみんなに見せたかった、晴れた星空の下での『星空フェス』もやってほしいです。

Neat's:そうですね。うーん……でも同じことを同じようにやるのはなんかイヤなんですよ(笑)。そのときどきで「あっ!!」と閃いたことをやっていきたい。『星空フェス』が終わって旅に出たら、新しい「あっ!!」がいっぱい出てきちゃったから、今は「次はどうしよう?」と思っているところです(笑)。

―じゃあ今後のNeat'sの活動も何が飛び出すかはわからない?

Neat's:「Neat'sってこうだよね」と決まったカテゴリーにあてはめられるのもイヤだし、自分で「Neat'sってこんな感じのものかな?」とふんわりわかってくるのもイヤというか、そのうち壊したくなるときが来るかも(苦笑)。だけど私自身の中には、『MOA』を作り上げたことでひとつブレない軸ができました。だから、立ち上げの頃と今のNeat'sはまったく違う。私が目指しているのは、もっと大きくて、もっとポップなNeat'sだから、150人のファンにも1万人のファンにも対応できるよう、しっかり軸は持ちながら、いつも柔軟なNeat'sでいたい。そういられるように、たえず妄想していたいですね。

リリース情報
Neat's
『Bedroom Orchestra II ~more MOA~』(PLAYBUTTON+BOOK+DVD)

2015年4月11日(土)発売
価格:5,000円(税込)

[PLAYBUTTON]
1. prologue~淡い記憶~
2. MOA
3. グレイの森
4. 夕暮れレコード
5. 黄昏れに雨
6. monologue~孤独の星と金色の鳥~
7. 海
8. 砂漠のスコルピオン
9. end roll~夢と永遠のまんなか~
10. 風
[DVD]
・PV6曲と“新世界”PV、メイキング映像
※120ページオールカラーの絵本付き

イベント情報

2015年6月6日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:北海道 札幌 PROVO
Neat's
成山内(sleepy.ab)

Bedroom Orchestra2 朗読演奏会
2015年6月20日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:京都府 SOLE CAFE

Bedroom Orchestra2 朗読演奏会~マチネ
2015年6月28日(日)OPEN 13:30 / START 14:00
会場:東京都 新宿 プーク人形劇場

Bedroom Orchestra2 朗読演奏会~ソワレ
2015年6月28日(日)OPEN 17:00 / START 17:30
会場:東京都 新宿 プーク人形劇場

プロフィール
Neat's (にーつ)

Neat's / 新津由衣によるソロプロジェクト。作詞・作曲・編曲を自ら手がけ、Bedroomから発信する変幻自在のファンタジー。アートワークや作品のディストリビューションも自ら手がけるD.I.Y.な活動も話題になっている。バンドスタイルでのライブと並行して、”Bedroom Orchestra”と称した、ループマシーンやサンプラーを駆使した独奏スタイルのライブも精力的に行っている。2015年春には富士山麓にて初の野外ワイヤレスヘッドフォンライブを自主企画し、話題となる。Sound & Recording Magazine連載やJ-WAVEでの宅録講座レギュラー、Buffalo Daughter 大野由美子らと結成したシンセサイザー女子カルテット「Hello,Wendy」での活動にも注目を集めている。



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