ブレイク前夜の女性が集う『シブカル祭。』 haru.×津野青嵐登場

アート、ファッション、音楽、パフォーマンスと、ありとあらゆるジャンルの女性クリエイターが集結し、2011年より渋谷パルコで開催されてきたカルチャーイベント『シブカル祭。』。今年は、建て替えに入った渋谷パルコから飛び出して、渋谷の街全体を舞台に行われることになった。毎回、個性的な女性クリエイターたちが、他では見られないユニークな発想とセンスで、このイベントのために作品を制作・発表するのも見どころ。新しい才能の数々が、『シブカル祭。』から激しく芽吹いている。

そんな『シブカル祭。』の今年のサブタイトルは「この胸騒ぎは渋谷のせいだ。」。渋谷駅前の再開発がどんどん進み、文字通り、常にアップデートされている街全体をテーマに選んだ『シブカル祭。』で、今この時を渋谷で生きる若い女性クリエイターは、いったい何を表現するのか? その表現はどこから来るのか? そんな疑問を『シブカル祭。2017』に今年初参加となる注目の二人――社会的視点からアートの新しい在り方を提示するインディペンデントマガジン「HIGH(er)magazine」編集長・haru.と、看護師として働きながら、和洋とアニミズムが混在した超個性的なヘッドピースデザイナーとして活躍する津野青嵐(つのせいらん)に、『シブカル祭。』作品の見どころとともに語ってもらった。

「本当に読みたいと思える雑誌がないから自分で作る」とharu.が仲間と作った『HIGH(er) magazine』

東京藝術大学先端芸術表現科学部に通う現役大学生haru.が編集長を務め、仲間たち数人で制作しているHIGH(er)magazineは、2016年にNo.1を発行。現在、No.4まで刊行済みだが、そのすべてが瞬殺でソールドアウトする、今最も入手が難しいインディペンデントマガジンだ。扱うテーマもファッション、アート、政治からフェミニズムまで幅広く、haru.たちのリアルな肌感を、読者に媚びることなく先鋭的でアーティスティックなビジュアルと記事で発信し続けている。そして今は、今年の『シブカル祭。』に向けて「渋谷」をテーマにした最新のZINEを制作中だ。

―そもそもharu.さんが『HIGH(er) magazine』を立ち上げたのは、なぜですか?

haru.:ZINEは、高校時代から作り始めました。私は父の仕事の都合で小学生時代をドイツで過ごし、中学は日本で過ごしていたんですけど、2011年の東日本大震災が原因で、母が私と妹をドイツに送り、高校時代は再びドイツで暮らすようになったんです。

ところが、私はそもそもドイツ語が第一言語ではないので、人に想いを100%伝えられなかった。相手の言うことが100%入ってこないことにも葛藤していたし、当時のドイツで震災被害にあった日本人代表のように受け入れられたことにもすごく違和感がありました。そこで、自分の中に溜まっていたものを吐き出すために、高校時代にZINEをつくり始めました。高校卒業時にはクラスメイトを巻き込んで、みんなの協力のもと、ZINEを1冊作ったんです。

haru.
haru.

―そんな経験があったんですか。

haru.:はい。それで、「自分のことは吐き出したから、これからは人との関わりで生まれたものを世に出したい」と考えて、大学入学のために日本に戻っても、ZINEを続けようと思い、大学で出会った面白い子たちと一緒に『HIGH(er) magazine』を立ち上げました。当時から雑誌は買っていたけど、それは本当に読みたいものではなかった。だから、「自分たちの読みたい雑誌を自分たちで作ろう」と、みんなで始めたんです。

高校時代に一度、中里周子さんが『シブカル祭。』でファッションショーをやったときに、モデルとして呼ばれたことがあったんです。そのときの子たちとはずっと交流が続いてて、『HIGH(er) magazine』の仲間には『シブカル祭。』で出会った子も参加しているんですよ。

『HIGH(er) magazine Issue no.4』
『HIGH(er) magazine Issue no.4』(サイトで見る

―『HIGH(er) magazine』は、性問題や政治など、扱う題材もときに硬派で、haru.さん世代のリアルな問題意識をアグレッシブな表現を交えながら、素直に語っている。日本人が声高に言いにくいことをテーマに据える大胆さは、haru.さんのドイツでの経験が反映されているのではと感じました。

haru.:そうですね……例えば、『HIGH(er) magazine』2号で「性」をテーマに取り扱ったのは、私のドイツでの経験が反映されている気がします。ドイツは性教育が盛んで、小学生からしっかり教え込まれますが、日本はそうじゃないから、実践の場で困ってしまうんじゃないかって。だったら、私たちが知っていることを、ここで発信したほうがいいんじゃないか? と考えたんです。

当たり前だけど、ドイツで私は「外国人」でしたから、自分が「日本人であること」を強烈に意識させられました。それに、ドイツでは何事も自分で考えて発言することが求められます。日本にだけにいると、日本の政治もライフスタイルも客観視できないから、自分で考えることをしなくなる。自分がいる場所を客観視し、身の回りで起こっていることに敏感になり、いろいろな出来事をもう一度考え直してみようと思うようになったのは、ドイツ生活の影響だと思います。

haru.

―最近はウェブ発信のメディアも相当増えていますが、『HIGH(er) magazine』は紙の雑誌であることにこだわっていますね。

haru.:私自身、新刊だけでなく古本屋で雑誌を買うほど、紙の媒体が好きなんです。モノとして触れることに価値を見出している。それに、ウェブは記事が個別に上がるので、ひとつの世界観が作れない気がするんですね。ネットで拡散すると、自分のモノではなくなってしまう感覚が大きいんです。

『HIGH(er) magazine』は、メンバーのパーソナルなこともかなり書いているから、雑誌自体が自分自身。それが目の届かないところまで拡散されてしまう怖さもあるし、パーソナルなことをさらけ出す場だからこそ、モノとしてちゃんと残したい。世界をしっかりと、バラバラにならないように残したいから、雑誌という形態には絶対にこだわりたいんです。なので、今回の『シブカル祭。』も新しいZINE制作の過程そのものを作品として参加します。

haru.

アングラで毒々しい津野の作品のルーツは、妖怪や幽霊の脅威が間近にあった故郷にあり

haru.がZINEにこだわりながら、当たり前の日常に鋭く斬り込んでいくアーティティストだとすれば、ヘッドピースデザイナー・津野青嵐は、彼女の中に内在する非日常をファッションとアートに昇華していくクリエイターといえるだろう。毒々しさと過剰さをファンタスティックなヘッドピースに込めた彼女の作品は、一言では言い表せない独自の魅力を放っている。その根源には何が潜んでいるのか。

―津野さんがヘッドピースのクリエイトを始めたのは、何がきっかけでしたか?

津野:今、私は看護師として働いていますが、看護大学生時代に原宿のカルチャーにハマり、過剰なメイクや仮装で夜のイベントに行くのが好きな時期があったんです。とにかく目立ちたい、人と差別化したい。私が勝負できるのは何なのか? を考えて、頭に風車を付けたりして盛ることを思い付きました。

そこから、美術やファッションの知識が増えていき、ヘッドピースを作品として素敵に見せようと考えるようになりました。そのうちに、ネットでも話題にしていただいたり、反響が出てきたりして、本格的に作品として作っていこうという気持ちになったんです。

津野青嵐
津野青嵐

―たしかに、津野さんの作品にはダイナミックな「過剰」とともに、アンダーグラウンドな毒々しさ、摩訶不思議な美しさが同居しているように感じます。そのセンスには、何がルーツにあったのでしょうか?

津野:憧れたもののひとつに、中学時代に出会った寺山修司がいます。小説というよりも映画などに衝撃を受け、寺山修司と同年代の1970年代アングラカルチャーにはとても影響を受けました。見世物小屋風の感じとか、場末の飲み屋街の感じ……見てはいけない世界の表現に魅せられたんです。

そのビジュアルだけでも、「こんな世界があるんだ! 人の手でこんな世界が作れるんだ」と胸を掴まれ、想像力の凄さに感嘆しました。想像力があれば、もしかしたら自分も何か作れるんじゃないか? と思えたんです。

津野の作品『What do you feel this red in Japan?』
津野の作品『What do you feel this red in Japan?』

津野の作品『untitled』
津野の作品『untitled』

―非現実、非日常的な世界観に憧れたんですね。

津野:もうひとつ大きくあるのが、故郷・長野県での田舎暮らしです。私が育ったのは山の麓なので、妖怪とか幽霊という脅威が、当たり前に存在する。祖父もよく話を聞かせてくれたし、私も話をしてくれとせがんでました。夜の道を歩いていても、どこかにマズいものが潜んでるんじゃないかと想像するのが大好きで。そのアニミズム的感覚も今の作品にとても影響している。幼少期の怖い物見たさ、非現実見たさは、私自身のものづくりのベースにありますね。

津野青嵐

―そして今は、精神科の看護師というお仕事をしながらアーティスト活動を続けている。そのふたつを両立することは、津野さんにどんな影響を与えていますか?

津野:今日も仕事帰りでここに来たのですが、私自身にとっても作品にとっても、患者さんの存在はとても大切ですね。触れることで、常に新しい発見がある。それは、他のアーティストが見ることのできない、私だけが特別に見ている世界。ただ……病院の仕事は制作の源にはなるんですが、労働としては心身ともに負担の大きいものです。両立の難しさも感じていますね。

津野青嵐

―制作時間も限られますしね。ヘッドピースのクリエイトは学生時代から続けられていますが、社会人になって何か意識は変わりましたか?

津野:もともと将来的には何かしらの表現活動で生きていくつもりでしたが、学生時代は本当に趣味の範疇だったので、ヘッドピースは単なる自己表現でした。「自分がやりたいからやる」だけの。でも社会人になってからは、何を努力すれば勝てるか? を考えるようになりました。ファッションスクール「ここのがっこう」(ファッションデザイナー山縣良和らが設立した学校)で学び、誰かに作品を講評してもらおうと思ったのも、その表れです。今はさらに、「もっと戦いたい」気持ちがある。そのひとつの場が、『シブカル祭。』だと思っています。

公開撮影に、工事中の渋谷パルコ跡地でのショー。今年の『シブカル祭。』はストリートで生まれる

ジャンルも作品のテイストも異なる二人が、同じイベントで独自の表現を形にするというのも『シブカル祭。』の魅力だ。そこでこの二人がどんな作品を提示するかが、とても気になるところだ。まさに今、準備を進めている二人に、展示の見どころを訊いてみた。

『シブカル祭。2017』メインビジュアル
『シブカル祭。2017』メインビジュアル(公式サイトを見る

―haru.さんは、メイン会場であるGALLERY X BY PARCOでの展示に参加されますね。どんな内容になりますか?

haru.:今回は、普段私たちがZINEをどう作っているのか、毎日変化する作業の様子を見せたいなと。開催期間中は毎日大学があるので、学校帰りに会場に寄り、その場でZINEを作っていきます。公開撮影も予定していて、Instagramでライブ配信しようと思っています。

―ZINEのテーマは「渋谷」だそうですね。

haru.:はい。今まで『HIGH(er) magazine』は生き方にまつわる大きなテーマを扱ってきたんですが、今回は「自分たちの渋谷の街」をピンポイントでテーマにしたので、新しいものの見方ができて新鮮ですね。

内容は、全体的に「過去・現在・未来」を意識しています。渋谷の街はもちろん、そこにいる人々や音楽、映画などのカルチャーについて知って、考えられるようなものにする予定です。メインビジュアル撮影も時系列で撮影します。「過去」は、今の『HIGH(er) magazine』で渋谷のギャル像を作ったらどうなるか? 「現在」は、これから震災や災害が来たとときに生き延びるにはどうしたらいいか? 「未来」は、VRやロボットの開発によって人間の性欲はどこへいくのか? をテーマに撮影する予定です。

haru.

いっぽう津野青嵐は、10月22日、建て替え中の渋谷パルコ工事現場で開催される『シブカルファッションショー。2017“UNDER CONSTRUCTION”』で新作を発表する。

―工事現場で行われるファッションショーというのは、とてもユニークですね。しかも『シブカル祭。』発祥の地である渋谷パルコの場所であることも感慨深いです。

津野:そうですね。実際、会場となる工事現場を見せてもらったのですが、すごくいい空間でした。私はもともと、いろんな「場所」を見るのが好きで、渋谷の街ではとくに「のんべい横町」からホームレスの家が立ち並んでいるストリートとか、グラフィティがある宇田川町が気に入っています。工事現場や廃墟も大好きなので。私の作品を観てもらう背景としても、とても魅力的な場所でした。

普段人が立ち入れない場所でやらせてもらえるのも嬉しい。コンクリートの壁と青空に映える作品を、心掛けたいです。

津野青嵐

―新作ヘッドピースのコンセプトについてはいかがですか?

津野:ファッションショーと名付けられていますが、私は洋服作りは未経験なので、洋服のように身体まで覆ってしまうヘッドピースをお見せしたいと思っています。

―とても斬新ですね。

津野:ヘアメイクも自分でやりますので、どんなショーになるか楽しみにしていただければ。


話を聞くだけでも、何が起こるのかとワクワクさせられる、haru.と津野青嵐の『シブカル祭。』。会場を訪れる人たちに、本人はどのように楽しんでもらいたいと思っているだろう?

から津野青嵐、haru.

haru.:将来、どこかの古本屋に私が作ったZINEがポンとあって、「2017年の10月ってこんな感じだったんだ!」、「あの人、こんなことしてたの?」って思ってもらえたら面白い。2017年10月~11月現在の渋谷と私たちを残すZINEなので、未来の人が見て面白いものが作れたらいいですね。

津野:私は作品で、日常に退屈している人、期待していない人から、エネルギーを引き出したいです。工事現場でのファッションショーということ自体がすでに非日常だし、昔の私も様々な非日常的な作品から、生きる力を受け取りました。みなさんにも、非日常を見ることによって受けるエネルギーを、生きる糧にしてもらえたらいいなと思います。

左からharu.、津野青嵐

イベント情報
『シブカル祭。2017~この胸騒ぎは渋谷のせいだ~』

2017年10月20日(金)~10月29日(日)

展示
2017年10月20日(金)~10月29日(日)
会場:東京都 渋谷 GALLERY X BY PARCO
料金:入場無料

オープニングパーティー
2017年10月20日(金)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
料金:入場無料

『シブカルファッションショー。2017“UNDER CONSTRUCTION”』
2017年10月22日(日)
会場:東京都 渋谷パルコ工事現場

イベント情報
『シブカル音楽祭。2017』

2017年10月27日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
禁断の多数決
CHAI
小林うてな
AAAMYYY
Akiko Nakayama
伊波英里
大島智子
HATEGRAPHICS
and more
料金:前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)

プロフィール
haru. (はる)

同世代のメンバー5人を中心に制作されるインディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』の編集長を務める。『HIGH(er)magazine』は「私たち若者の日常の延長線上にある個人レベルの問題」に焦点を当て、「同世代の人と一緒に考える場を作ること」をコンセプトに毎回のテーマを設定している。そのテーマに個人個人がファッション、アート、写真、映画、音楽などの様々な角度から切り込む。また、雑誌に付随するトートバッグや缶バッジなどの制作も行っている。

津野青嵐 (つの せいらん)

1990年長野県生まれ。6歳まで長野県の小さな村で育ち、その後は東京へ。大学時代に原宿カルチャーにどっぷりと浸かり、自身に施した過剰なヘアメイクや奇抜なファッションが注目を集める。徐々にヘッドピース制作の依頼も受ける様になり、作品として制作をスタート。現在は看護師として働きながら、ファッションスクール・ここのがっこうで学ぶ。ヘッドピースデザインに留まらず、ファッション、ヘアメイク、空間演出まで、幅広い分野でビジュアルを具現化していくために模索しながら、日本的なアニミズムをテーマに作品を制作中。



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