永原真夏の告白 やはり苦しんだ活休からの1年半と、そこでの発見

SEBASTIAN Xの活動休止ライブから早1年半。歩みを止めることなく、すぐに新バンドSUPER GOOD BANDを結成し、意気揚々とソロ活動をスタートさせたかに見えた永原真夏だったが、実際には不安や葛藤とのせめぎ合いの中で活動を続けていた。

しかし、今年の3月に発表した『バイオロジー』でソロとしての最初のフェーズを終えると、偶然と必然の出会いを経て、SUPER GOOD BANDを再編。新たなメンバーと共に新作『オーロラの国』を完成させた。

<賢いきみならわかるでしょう? てきとうでも生きていける>と歌う“オーロラの国”は、適当なことが許されない世の中に対する真摯なメッセージソングである。「殻にこもっていた」と告白する永原真夏がいかにその殻を破るに至ったのか。ソロ始動後の1年半を改めて振り返ってもらった。

「このメンバーが心を震わせてできたものの中で歌いたい」って気持ちですね。それが自分にとってものすごい大きな原動力になる。

―新しいEP『オーロラの国』は、まずバンドのメンバーが変わっているのがポイントですね。

永原:今のメンバーって、「この人たちと何か作りたい!」って欲求が湧きあがってくるようなメンバーなんです。やっぱり自分はバンドの人間なので、替えの効かない人間とやるのが好きで、そういう人たちと替えの効かない表現をしたいと思ったんです。

―ホーン隊がいなくなって、ドラムが石塚健丸くん(ハラフロムヘル)に変わっています。健丸くんとはどのように出会ったのですか?

永原:夏前にハラフロムヘルの企画に出演して、打ち上げで話したんですけど、彼はポケモンがとても強いんです(笑)。私もポケモン非常に好きなので、そこで2時間くらいお話しして、この人ドラムもすごくかっこいいし、自分がポケモン強いことも振りかざさないし、なんていい人なんだと思って(笑)。それで、前にお願いしていたドラマーが出れないときに、声をかけさせてもらったんです。

永原真夏
永原真夏

―以前までのメンバーは、あえてこれまでの真夏ちゃんとは違う領域からメンバーを選んだ部分があったと思うんですけど、健丸くんのドラムは非常にパワフルで、SEBASTIAN X時代にも通じるものがあると思います。改めて、「自分はこっちだ」という感触があったのでしょうか?

永原:ありました! ソロの最初は「ポップスやるぜ!」って気持ちで編成を選んだ部分もあったんですけど、今はやっぱり「オルタナ~(涙)」みたいな感じですね(笑)。とはいえ、自分は究極的にオルタナな人間でもないし、まんまポップな人間でもないから、やっぱりその中間にあるものができるんだなって。

永原真夏

―LUCKY TAPESの高橋海くんが曲提供をした、“真夏の星座”が3曲目に入っていますよね。あの曲は、ソロ当初のポップス路線に近いものだと思いますが、やはり今の自分を表す表題曲は、“オーロラの国”だった?

永原:「バンド感」みたいなものが、重要だったんだと思います。“オーロラの国”って、スタジオで練習してるときはもっとテンポが遅かったんですけど、レコーディングしたら超速くなってて(笑)。でもそれで、すごくかっこ良くなったんですよね。今って、バンドで録ること自体が、どんどん高級になってると思うんですね。でも、そのバンドで高級品っぽくないことをやるのがかっこいいなって思うんです。

―「オルタナかポップスか」みたいなことよりも、「このバンドメンバーで音を鳴らす」っていう、それ自体が重要だった?

永原:「このメンバーの心が震える」っていうことが一番重要。「このメンバーが心を震わせてできたものの中で歌いたい」って気持ちですね。それが自分にとってものすごい大きな原動力になるんだって、今回改めて気づいたし、それが自分のバンド論なんだとも思う。

SEBASTIAN Xの活休からこれまで、超こもってました。ただ、今回やっと、自分の取り柄だったであろうものが、手のひらに帰ってきた感じですね。

―コメントでは今回の裏テーマとして「君の力が必要だ」という言葉を挙げていましたが、それはまさに今話してくれたような想いから出てきたもの?

永原:そうです。「君の力が必要だけど、その日スケジュール入ってるなら、他の人に頼むね」じゃなくて、「嘘でしょ!!」みたいな(笑)、本当に「君の力必要だ」って思う人たちと作ったって感じです。アートワークにしても何にしても、「この人に頼めばいいか」って適当さは一切排除しました。

心を閉ざしていたら、「君の力が必要だ」って思えないと思うんですけど、そういう素直さが自分の手のひらに戻ってきた気がする。自分の人生と照らし合わせて考えると、今回はそういう作品なのかなって。

永原真夏『オーロラの国』のジャケット
永原真夏『オーロラの国』のジャケット(Amazonで見る

―それって裏を返すと、ソロになってからこれまでは心を閉ざしていた?

永原:閉じこもってたと思う。まあ、ずっとやってきたことが終わって、新しく何かを始めるってなったら、堅くなるのは当然かとも思うんです。

ただ、今回やっと今まで自分が大事にしてきたり、自分の取り柄だったであろうものが、手のひらに帰ってきた感じですね。別にそんな大げさな話ではなくて、ホントにボールくらいのサイズのものがポンって乗った感じなんですけど、私にはそれがすごく嬉しかったんです。

永原真夏

―それって時間をかけて徐々に心を開いていった部分もありつつ、やっぱり今のメンバーとの出会いが大きかった?

永原:メンバーたちに言われたんです。「お前はポケモンで言うとパルシェンだ」って。

―ごめん、ポケモンわかんない(笑)。

永原:貝殻のポケモンなんです。「お前は殻にこもりがちだからパルシェンだ!」って言われて、そのパルシェンが強くなる方法が「からをやぶる」という技で、パルシェンは殻を破るとすごく強くなるんです。冗談みたいな話ですけど、自分の中ではすごく合点がいったんですよね(笑)。

今ってみんな、何者かになろうとし過ぎてるんじゃないかって思うんです。でも別に、頑張らなくてもいいと思うんですよ。

―閉ざしていた心を開いたことは、きっと“オーロラの国”の歌詞にも反映されていますよね。

永原:だと思います。自分が心を開くきっかけって、「もっと頑張ろう」とかじゃなかったんですよね。それよりもう少し怠惰な感じっていうか、今ってみんな何者かになろうとし過ぎてるんじゃないかって思うんです。 別に、何者でもなくても生きていけるし、何者かになることが重要でもないし、頑張らなくてもいいと思うんですよ。禅問答みたいな話ですけど、社会一般にある常識、たとえば「明るく元気に毎日を過ごしましょう」に対して、「何で?」って言われたら、答えられる人いないと思うんです。

永原真夏

―うん、確かに。

永原:じゃあ、自分が理想とする世界は何かなって思うと、歌詞にも書いてる通り「適当に生きる」ということで、そういう余白が欲しいなって。「クリエイティブであることが正しい」みたいな価値観ばかりがもてはやされる世の中は気持ち悪いと思うんです。

―<賢いきみならわかるでしょう? てきとうでも生きていける>っていう歌詞はまさにですね。

永原:「俺はこの風に立ち向かって勝っていく」みたいなメッセージは、「めんどくせえ」って思っちゃう(笑)。ただ、そこまでイージーではないっていうか、別にふざけてるつもりはないし、かといって、くそまじめに努力しようぜってメッセージはやっぱりハマらない。だったら、自分にとってしっくりくるメッセージを伝えたいと思ったんですよね。

―永原真夏にとってしっくりくるメッセージ。

永原:そう。「みんな特別」みたいなのも、「嘘つけ!」って思う。私は、「特別じゃなくても全然いいんだからね」ってメッセージが、今の時代から抜け落ちてると思うんです。別に「オンリーワン」である必要もないんじゃないかなって。年上の人が若者に「将来の夢は?」って聞いて、「会社員です」って答えるとびっくりされたりするけど、「別にそれでもよくない?」って思う。

永原真夏

―この話ってSEBASTIAN Xのときからずっとしてる「白でも黒でもなく、その間のグレイを表現したい」って話に通じると思うんですけど、たぶん今はそのどちらかっていう圧力がより強まってますよね。“世界に一つだけの花”的な言い方で言うと、「ナンバーワンかオンリーワンか」って選択肢になっちゃってるけど、「ナンバーワンにならなくてもいいし、オンリーワンじゃなくてもいい」っていう、今はそう歌ってあげる必要があるのかもしれない。

永原:うん、自分の肌感で思ってるのはそういうことですね。やっぱり、自分が声を大にするのであれば、まかり通ったものに属して心を病むような状況があるなら、それに抗っていきたい。“オーロラの国”はもともと最後の語りの部分がなかったんですけど、「くそー! もうちょっと言いたい!」って気持ちがあふれちゃって(笑)、最後にバーッて書いたんです。

永原真夏

―ここにはすごく永原真夏の表現の核心がこもってますよね。最終的に<知りもしないだれかといつか おなじきもちになれたりとか 泣いたり笑ったりできるんだよ>って締め括られるのは、やはり感情の豊かさこそを大事にしてるってことが伝わります。

永原:ワッて感情を爆発させる部分と、理屈で考えて「あってるのかな?」って思う部分と両方あって、ただ、どんな生き方をしたとしても、それこそナンバーワンじゃなくてもオンリーワンじゃなくても、泣いたり笑ったりはできるじゃないですか? 「人生そんな平坦じゃないからさ、泣いたり笑ったりすんだよ」くらいの感じかな。

「これクリアしたら絶対ネクストステージじゃん!」みたいな感じでした(笑)。

―海くんと一緒に曲を作ったのは、心が開けた後だったってことですか?

永原:そうです。今年って、人の曲を歌うことが多かったんです。この前はHave a Nice Day!の曲を歌ったし、その前は本田祐也さんって作曲家のプロジェクトで歌って、それは結構しごかれたんです(笑)。

ピアノと歌のデュオだったんですけど、ジモン(・ルンメル)っていう、いろいろ賞を獲ってるようなピアニストさんと一緒で、言葉は通じないし、急に二人でやることになったから「怖い!」って思ったんですけど(笑)、そういう現場をたくさん経験したので、海くんともすんなりやれたのかも。ホントに、いろんな人と会いまくった2016年下半期でしたね。

永原真夏

―心を開く方向に導かれた下半期だったと。

永原:そう思います。だから、CINRAの取材を受けるのも2年ぶりくらいに感じるんですよ(笑)。CD出すのもひさしぶりだと思ったんですけど、「違う、今年のアタマに出してる!」って思って……なんか長かったなって。

―きっと出会いって偶然と必然が交錯していて、たまたま今年多くの出会いがあったっていうのも事実だろうし、真夏ちゃんが何かきっかけを求めていたってことでもあるんでしょうね。

永原:求めてたと思うし、やっぱり作品ってこうやってできていくんだよなって思いました。必要な人たちと、ちゃんと濃い時間を過ごしてできるものなんだなって。

―今年を振り返るという意味では、3月に発表した『バイオロジー』のリリースツアーが終わって、8月には音沙汰(永原とキーボードの工藤歩里のユニット)として2年半ぶりのワンマンライブもありましたね。

音沙汰
音沙汰

永原:音沙汰に関してはホント究極的にマイペースでやってるから、ワンマンをやったのも、ほとんど思いつきでした。ライブ盤を作ったのも、計画を立ててどうこうっていうよりは、「スコットホール(早稲田奉仕園スコットホール講堂)でやってみたい」っていうところからワンマンライブが決まって、せっかく特別な響きがある場所だから、ライブ盤を作ってもいいんじゃないかって。そうしたら、たまたま音沙汰の初めてのライブから10周年で、「アニバーサリーじゃん!」みたいな感じ(笑)。

―そっか、音沙汰って10周年なんですね。

永原:そうそう。最初はドラムとピアノとピンボーカルっていう3人編成でカバーとかをやって。だんだんライブハウスにも呼んでいただけるようになって。途中から歩里と二人になったんですけど、いわゆる一人の弾き語りじゃなくて、ピアノとピンボーカルって意外と珍しい編成だと思うんですよね。

永原:一人だったら自分の裁量でスピード感からセットリストから臨機応変に変えることもできるけど、臨機応変を二人の阿吽の呼吸でやっていくのって、かなり大変なことでもある。でも、そこがピタッと合わさる瞬間があって、それは歩里とじゃないとできないと思うので、それを気の赴くままに楽しんでるって感じですね。

―だからこそ、気の赴くままに沖縄で撮った映像をアップしたりもできると(笑)。あれは音沙汰らしい、すごくいい映像だなって思いました。

永原:あれ友達の家の屋上なんですけど、「ここで撮影しよう」って前日の深夜1時に思いついて、翌朝開店と同時に100円ショップで電源タップを買って、午前中に撮ったんです。音もカメラのマイクで撮ってるだけなんですけど、それでも「オッケー、やろう」ってなれるのは、音沙汰だからかなって。

永原真夏

―スコットホールのライブに関してはいかがでしたか?

永原:あの日は……結構緊張しましたね。音沙汰は「ちゃんと見せよう」みたいな活動はあんまりしてこなかったから、当日になって「この環境で2時間やるのか」っていう緊張が私にも歩里にもありました。なので、正直自分のふがいなさを感じる部分も結構あったんです。ただ、それはミュージシャンとして嬉しかったですね。

―というと?

永原:どこかで常に淘汰されたいと思っているというか、「私なんてダメだ、最悪だ」って気持ちになることで頑張れる部分ってやっぱりあって、その「ダメだな」っていう実感を、私も歩里も同じ部分で感じてたのは、シンプルに財産だなって。

長く音楽をやってると、やっぱり滑りにくくはなってくるんですよね。ただ、表現者としてももう一つステージを上がりたいと思ったときに、時として壁にぶつかることも絶対に必要で。わかりやすくぶつかるっていうことは、次のステージが見えてるってことだから、それが嬉しかったんだと思います。

―10年目にして、「もっと上まで行ける」ってことを実感できたと。

永原:「これクリアしたら絶対ネクストステージじゃん!」みたいな感じでした(笑)。

永原真夏

永原真夏

―12月にはそんな音沙汰と、永原真夏+SUPER GOOD BANDのツーマン企画が東名京で開催されます。変化を迎えたSUPER GOOD BANDでのライブは、今日話してくれた通り、これまでとは感覚が違うわけですよね?

永原:違いますね。自分がワッてなったときに、演奏の音量も上がったりするんですよ。そういうコミュニケーションがちゃんと取れてるので、メンバーへの信頼はすごくあります。とてもいい状態だと思うので、いろんな人に観てもらいたい気持ちが強いですね。

―最初に話した音沙汰での阿吽の呼吸が、バンドとしてもできるようになってきてるってことかもしれないですね。

永原:そうそう! ずっとライブを撮ってくれてるカメラマンに、「音沙汰がバンドになったみたいだね」って言われたんです。「歩里が4人いるみたい」って。それがわかりやすい喩えな気がする。だから、「よくあのメンバー集めたね」って言われて、それがとっても嬉しいの。

―つまりは、そのメンバーたちに出会うための2016年だったと。

永原:ホントそれよ! いろいろあってよかったなって思いますね(笑)。

永原真夏

リリース情報
永原真夏
『オーロラの国』初回限定盤(CD+DVD)

2016年11月23日(水・祝)発売
価格:1,800円(税込)
WRDA-10

1. オーロラの国
2. 北斎の雪景色
3. 真夏の星座
※DVDには2016年9月27日@代官山UNITでのライブ映像を収録

永原真夏
『オーロラの国』通常盤(CD)

2016年11月23日(水・祝)発売
価格:1,080円(税込)
WRCA-10

1. オーロラの国
2. 北斎の雪景色
3. 真夏の星座

音沙汰
『荒野の彗星』特別盤(CD)

ライブ会場及びオフィシャルオンラインショップのみ数量限定取扱い
価格:2,700円(税込)
WRDC-11

1. ロリータ
2. サディスティック・カシオペア
3. 64
4. ASO
5. ルビーの唇
6. 荒野の彗星
7. 日向の国のユカ
8. バイオロジー
9. ホームレス銀河
10. リトルタイガー
11. 春の悪魔
12. しろくまオーケストラ
13. SUPER GOOD
14. DNA
※複数のカードを封入した「箱入り」仕様

音沙汰
『荒野の彗星』通常盤(CD)

ライブ会場及びオフィシャルオンラインショップのみ数量限定取扱い
価格:1,800円(税込)
WRDA-11

1. ロリータ
2. サディスティック・カシオペア
3. 64
4. ASO
5. ルビーの唇
6. 荒野の彗星
7. 日向の国のユカ
8. バイオロジー
9. ホームレス銀河
10. リトルタイガー
11. 春の悪魔
12. しろくまオーケストラ
13. SUPER GOOD
14. DNA
※ジュエルケース仕様

プロフィール
永原真夏
永原真夏 (ながはら まなつ)

2008年2月から2015年4月の活動休止までSEBASTIAN Xのヴォーカリストとして活動。作詞作曲、アートワークやMV、グッズなどを手がけていた。バンドの活動休止から19日後にソロ活動開始宣言、2015年7月には1stソロEP『青い空』をリリース。発売日にソロ初ライブを行なう。現在、ソロプロジェクト「永原真夏+SUPER GOOD BAND」やKey.工藤歩里とのユニット「音沙汰」などで活動中。2016年3月16日に1st Mini Album『バイオロジー』をリリース。11月23日に2nd EP『オーロラの国』をリリース。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 永原真夏の告白 やはり苦しんだ活休からの1年半と、そこでの発見

Special Feature

Habitable World──これからの「文化的な生活」

気候変動や環境破壊の進行によって、人間の暮らしや生態系が脅威に晒されているなか、これからの「文化的な生活」のあり方とはどういうものなのだろうか?
すでに行動している人々に学びながら、これからの暮らしを考える。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて