鈴木おさむが映画『モンスト』に見た、現代の「視聴者」の変化

大人気スマホアプリ『モンスターストライク』から生まれた劇場版長編アニメ『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』が、12月10日より公開される。モンストのアニメ版は、2015年にYouTubeにて配信がスタート。その好評を受けて制作された今回の映画は、少年少女の冒険譚、父子の絆と葛藤を描いた物語であると同時に、テレビ発ではない、ネット発のアニメ映画としても新鮮な作品になっている。

今回は同作を、数々の伝説的番組を手がけた放送作家であり、「父勉」を掲げ、1歳の息子の子育てに邁進する父親でもある鈴木おさむに見てもらった。映画の感想から始まった話は、近年の子どもと動画作品やメディア環境との関係性、新しい発信者の登場に伴って現れた、テレビの課題についての思考まで広がっていく。シビアな作り手としての、彼の話に耳を傾けてほしい。

ここまで父親と子どもの関係を主軸に置いた物語もあまり無いと思うんです。

―『モンスターストライク』(以下モンスト)のアニメは、2015年にYouTube配信というかたちでスタートし好評を博しました。今回の劇場版は、その物語を引き継ぎつつ、これまで語られなかった作品の背景を描く内容になっていますが、ご覧になっていかがでしたか?

鈴木:実は2015年のアニメ化の際、アプリの配信元であるミクシィさんから少しお話を聞く機会があったんです。そのときは、YouTube配信という手法の新鮮さに惹かれながら、「モンストのアニメ化って、どんな風になるんだろう」と思っていたのですが、この劇場版はかなり面白かったですね。

まず、劇中で『モンスト』というゲームそのものが描かれているのが、目を引きました。ゲームのアニメ化はたくさんありますけど、実際にキャラクターがスマホを使って、『モンスト』をプレイしているのが珍しいなと。それと、物語がけっこう複雑で、時間軸の描き方が巧みですよね。

鈴木おさむ
鈴木おさむ

―映画の物語は、YouTubeアニメの主人公たちの仲間「影月明」が、なぜか記憶から消えている4年前に、タイムトリップをするところから始まります。

鈴木:そう聞くと、YouTubeアニメを見ていないといけないと思うかもしれないけど、これまでを知らない人も世界観にグッと入っていけるんです。どんな人でも昔、友達とやり残したこととか、誰かを傷つけてしまったこととか、そんな淡い思い出を持っていますよね。大人が見ると、小学校くらいのそうした記憶があぶり出される。一方で、子どもはバトルシーンやモンスターの魅力を楽しめる。多面的な見方ができる映画だと思いました。

―たしかに、大人と子どもでは見え方が異なるかもしれないですね。

鈴木:実際、この映画を見ていると、僕らの子ども時代なら無かったような設定がいくつもあって、興味深かったんです。たとえば、主人公たちの4人グループが、男の子2人と女の子2人で描かれていること。

これって、20年前なら男3人組で描かれていたし、戦隊モノも男4人に女1人が定番だったじゃないですか。でも、最近の戦隊モノは女の子が2人になっていて、男女が均等に存在しているのが、すごく今の時代性を象徴していると思いました。しかも、女の子がぜんぜん弱くないという(笑)。

―男の子同士が揉めていて、女の子がそれを見守っているシーンもありました(笑)。

鈴木:そうそう。昔は女の子がピンチになって、男が助けに行くという構図があったけど、ここでは迷っているのは男なんですよね。それと、主人公のレンは、自分を置いてドラゴンを探しに行った考古学者の父親の影を背負っている。その父親の喪失という記憶が、物語を進めていく大きな動機になっているわけですが、ここまで父親と子どもの関係を主軸に置いた物語もあまり無いと思うんです。一方で母親との関係は、ほぼ描かれない。

鈴木おさむ

―そうですね。

鈴木:僕がすごく心に刺さったのは、片親の環境で生きるレンに対して、友達の春馬が「お父さんがいないのが、そんなに偉いのかよ!」と怒るシーンです。たしかに、レンには自分の家庭環境に甘えている部分があって、ワガママなんですけど、今は片親の家庭も決して少数派ではない。その現実の中で、このセリフを言わせるんだ」という驚きがありました。

冒険譚だから少年が過去を乗り越える過程も描かれているわけですが、そこには痛みもあって単純ではない。このセリフを聞いてドキッとする親子もいるはずで、厳しい現実を直視した作品だなと感じました。

『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』メインビジュアル ©mixi,Inc. All rights reserved.
『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』メインビジュアル ©mixi,Inc. All rights reserved.(公式サイトで見る

―鈴木さんは昨年の息子さんの誕生後、「父勉」と名付けて、育児に専念するため1年間、放送作家業を休業されました。ここで描かれる父子像にも思うところがあったのでは?

鈴木:レンのように、あれだけずっと思ってくれたら、父親としては嬉しいと思いますね。父親がなぜ家を去ったか、その理由を子どもも実はしっかり見ていますし。あと、映画って意外とお父さんと見に行くことが多いと思うんです。奥さんに「あんた、映画でも連れて行ってよ」と言われたりして(笑)。

でも、その帰りにお父さんが子どもの手を、子どもがお父さんの手をギュッと握りたくなる映画はそんなにない。この映画は、単に「楽しかった」という以上の父子の物語を描いているから、そうさせてくれるところも面白いです。

テレビの従来の枠の設け方、たとえばドラマが1時間というのは、僕は少し長いと思っているんです。

―現在1歳の息子さんとは、普段どのようなアニメ作品をご覧になりますか?

鈴木:よく見るのは『きかんしゃトーマス』です。タブレットをリビングのテレビにつないで見ています。今は多くのご家庭で、テレビ番組ではなく、YouTubeやHuluといった動画サイトを使って見せるのが一般的になっているんです。

鈴木おさむ

―アニメの見方がだいぶ変わってきているんですね。見放題というか。

鈴木:そうですね。うちもずーっとリピートして見ています(笑)。時間をきちんと定めれば、かけっぱなしにできるので親としては楽ですよね。子どもって、「まんま」とか「ねんね」とか、必要な言葉から覚えていきますけど、うちの息子は動画のことを「どぅ」って言うんです。「どぅ、どぅ」って言われたら、「動画を見せろ、動画を見せろ」という要求です(笑)。

―(笑)。お子さんと一緒に見ることで、鈴木さんご自身のアニメの見方は変わりましたか?

鈴木:僕は『トーマス』を知ってはいたけど 見たことがなかったんです。それで、息子と並んで見ていたら、けっこう悪いキャラクターが出てくるんですよね。もっと良いキャラばかりなのかと思ったら、機関車の中に、仕事をサボったり、怠けたりするヤツがいて、わりと毒っ気がある。でも、その悪さも度を超したものではなくて、「僕らの周りにもこういうヤツいるよな」という感じの悪さで。

鈴木おさむ

―度合いがリアルなんですね。

鈴木:そうなんですよ。だから、世の中にはこういう人もいるということを、こんな1歳くらいの子が見る作品の中でもわかりやすく伝えているんだ、すごく教育的な側面があるんだ、というのが新鮮な発見でした。僕らも『ウサギとカメ』の童話を聞いたりして、ウサギが先に走って行ってサボったとき、子どもながらにいろんな感情を抱きましたよね。それと同じで。

―今だとそれをYouTubeで見ているというのも面白いです。

鈴木:テレビだけじゃなくて、YouTubeも含め、子どもが動画作品に触れる選択肢が増えている。昔だったら教育テレビの決まった時間の作品とか、限られたチャンネルしかなかったから、今の環境はすごく良いと思います。あと、それに伴って動画の尺もかなり自由に選べるようになっている。『トーマス』も、1話が8分なんです。

鈴木おさむ

―『モンスト』のYouTubeアニメも、1話7分で公開されていましたね。

鈴木:その時間の短さも盛り上がりのひとつの要因でしょう。そもそも、テレビの従来の枠の設け方、たとえばドラマが1時間というのは、僕は少し長いと思っているんです。今の視聴者はテレビ以外にも、ブログにSNSと、何かと忙しい。そんな状況で、帰りの電車の中とか、自分の生活リズムにハマる尺の作品がウケているということもあると思います。

今の子どもは誰かが遊んでいるのを見て、疑似体験的に楽しむことができる。

―鈴木さんは、人気のあるネットの動画などは、やはりチェックするのですか?

鈴木:しますね。どんな部分が面白いんだろうって。最近だと、女子高生の間ですごく流行っている『イヤホンガンガン伝言ゲーム』って動画があるんです。イヤホンで大音量の音楽を聴きながら、ある言葉を伝言していくゲームで、言葉が変化するのをみんなで笑っている様子が動画に撮られ、アップされている。

面白いのは、早送りに編集されて流されているんです。動画をいじる簡易的なツールがあって、それを使って早送りにしたり、テロップを付けたりしている。だから、もうオンタイムでは見ていないんですね。早い動画で何となくの雰囲気を見ていると。

鈴木おさむ

―編集の技術を使って、一般の人たちが遊び始めている。

鈴木:そう。うちの子どもはまさにそれを見て育つ世代ですけど、そのうち小学生が当たり前に動画をいじる時代が来ますよ。映像編集が、みんなどんどん好きになっている。そこからどんな文化が生まれるのか楽しみです。それで言うと、YouTuberはその最たる例ですが、息子は彼らが作ったおもちゃの解説動画もよく見るんです。

―おもちゃやゲームで遊びながら、実況する動画がたくさん上がっていますね。

鈴木:僕らの子ども時代は、おもちゃもゲームも自分で遊ぶものだったじゃないですか。でも、今の子どもは誰かが遊んでいるのを見て、疑似体験的に楽しむことができる。そういう意味での楽しみの幅も広がっていて、僕が『モンスト』の映画で劇中にゲームそのものが登場することを面白いと感じたのも、それとの関係を感じたからです。主人公たちがゲームを使って戦うのを見て、モンストをプレイしたことがある人は、そこにリアリティーを感じるはず。この疑似体験の広がりも、今の動画文化の特徴だと思います。

かつて毎週楽しみにしていたバラエティー番組の中にあった身近なチーム感や空気感に、羨ましさを感じる人も多かったと思うんです。

―これまで視聴者だった人たちが、どんどん発信者的になっている。そして、彼らが上げる動画に、見る人は疑似体験的に関わっているというのは面白いですね。

鈴木:最近興味深いと思ったのは、フィッシャーズというYouTuberのグループがいるんです。中学の同級生で作られた大学生の7人組なんですけど、小中学生のアイドルらしく、毎日アップする動画でものすごい再生数を誇っている。

何をやっているかというと、たとえば人気のアスレチックシリーズというのがあり、彼らがアスレチックでキャッキャッと遊んでいる様子を見せているんです。たしかに編集はすごく上手いですし、キャラ設定もしっかりしているけど、正直、最初は見るに耐えなくて(笑)。

―たしかに、それだけ聞くと何が面白いのかわかりません(笑)。

鈴木:「なんでこんなものが!」と思ったんですけど、気がつくと、いつの間にか3本くらい動画を見ちゃっている自分がいて悔しかった(笑)。そこで、彼らの動画の何が好きなのかと大学生に聞いたら「自分の友達にいそうな人たちが、何かやっている感じが面白い」と言うんです。つまり、一種の疑似体験を楽しんでいるんですよね。

鈴木おさむ

―自分もそこに参加しているような感覚があると。

鈴木:以前はそれを、テレビが担っていたと思うんです。そもそも、僕がフィッシャーズの動画を初めて知ったのは、ある芸人さんから「これ、テレビのすごいライバルになりますよ」と言われて見せられたからなんです。最初は、その人が「僕ら芸人は、彼らのことを考えると夜も眠れない」と言うから、「何言ってんだ!」と笑っていたんです。

でも、彼から「いや、フィッシャーズがいまの小中学生にとって毎回楽しみなバラエティーなんですよ」と言われて腑に落ちた。たしかにかつて毎週楽しみにしていたバラエティー番組の中にあった、身近なチーム感や空気感みたいなものに、羨ましさを感じる人も多かったと思うんです。

―ああ、わかります。

鈴木:こうやって、YouTubeを通して視聴者の意識は変わっているんだと思いました。もちろん僕はテレビ出身の人間なので、テレビが最強だと思いたいですよ。でも、環境が変わってきていることは確実なので、そこは冷静に見ないといけない。多くのタレントやアイドルがテレビに固執していた時代があったけど、たぶん視聴者にとってはその見境は無くなってジャンルレスになっている。

テレビで見ていた楽しいワチャワチャ感を、ほかでも見ることができるし、しかも見る時間帯も自由に選べるとなれば、そちらに人が流れるのは自然でしょう。発信者もテレビで100万人に認められるより、ネットで10万人に熱狂的にウケた方が、本当はいいんじゃないかと思いますよね。

鈴木おさむ

―それは、そこで十分な利益が得られるからですか?

鈴木:たとえば、テレビのある時間帯で視聴率3%を取っている番組があるとしましょう。1%がおよそ30万人くらいだとすると、約100万人が見ているわけです。一方、YouTubeで100万回再生なんてザラにありますよね。そう考えたら、YouTubeは見たい時間に見られるわけなので、そこでお金を動かす作り方は十分あり得る。実際、ネットの広告費はもうすぐテレビを抜くと言われています。

今は、視聴者がどんなものに魅力を感じるかがすごく多様化していて、正解を見つけづらい時代だと思う。

―テレビ側としては、その状況に対して何を考えるんでしょう?

鈴木:そこが難しくて、ネットで言う100万回再生、テレビで言えば視聴率3%という数字は、テレビの視聴率にしたら低いと思われるわけです。だけど、実はすごくお金が動いている視聴率でもある。だから、そこに枠を切るかという話が問題になってくるんですよね。

要は、毎週必ず見てくれる人が3%いたら、それなりにお金は動くわけで、それでもいいという選択もある。あるいは従来の通りに、視聴率を10%狙おうという選択肢もある。すごく、過渡期になってきているんですよ。

鈴木おさむ

―なるほど。

鈴木:ただ、ネットの発信者がテレビを利用することも当然あって。話題のピコ太郎も、ネットで流行ったらテレビに出ましたよね。テレビに出てメジャーになるという流れは、現在も変わらない。だから問題は、メジャーになりたいかどうかでもあるんです。でも、テレビはメジャーになる上で必須だけど廃るのも早い。YouTuberの代表格のHIKAKINなどは、その線引きをしっかりしていますよね。

―古い時代の感覚では、YouTubeを舞台にしていると聞くと、どうしてもマイナーというイメージを持ってしまいますが、メインとサブが反転し得る時代なんですね。

鈴木:だからこそ僕は、この『モンスト』の映画にぜひヒットしてほしいと思います。というのも、従来のようにテレビを出発点にするのではなく、YouTubeというメディアでアニメを作っても、映画がヒットし得るというひとつのビジネスモデルになるから。テレビから映画という経路だけではない可能性が見えて面白いと思うんです。

鈴木おさむ

―誰もがテレビの視聴者だった時代は終わったと。最後に、そんなあらゆるメディアによる発信が可能になった時代に、制作者に求められる姿勢は何だと思いますか?

鈴木:今は、視聴者がどんなものに魅力を感じるかがすごく多様化していて、正解を見つけづらい時代だと思うんです。そのとき、制作のトップに立つ人には、自分が面白いと思うものをどれだけ考えられるかが、より求められると思う。

テレビには多くのルールがあるので、長くやっている人間ほど一種の落としどころがわかるものなんです。でも、そのルールの無い環境が整ったときこそ、作り手が何を面白いと信じるかの熱量が重要になる。『モンスト』には、そんな新時代の突破口になってほしいと思いますね。

作品情報
『モンスターストライク THE MOVIE はじまりの場所へ』

2016年12月10日(土)から新宿ピカデリーほか全国公開
監督:江崎慎平
脚本:岸本卓
主題歌:ナオト・インティライミ“夢のありか”
出演:
坂本真綾
村中知
Lynn
木村珠莉
河西健吾
福島潤
小林裕介
水樹奈々
山寺宏一
北大路欣也
配給:ワーナー・ブラザース映画

プロフィール
鈴木おさむ (すずき おさむ)

放送作家。1972年生まれ。千葉県出身。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。バラエティーを中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆等さまざまなジャンルで活躍。2002年10月には、交際期間0日で森三中 大島美幸と結婚。『「いい夫婦の日」パートナー・オブ・ザ・イヤー 2009』受賞。2015年には大島の妊娠・出産にあわせ「父勉」として1年間休業した。



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