AV監督×TVプロデューサーが唸る、ドキュメンタリーに潜む「嘘」

2014年に解散したアイドルグループ・BiS再始動のために行なわれた過酷な合宿形式のメンバーオーディションを経て、ある予定外のユニットが結成された。BiSの公式ライバルSiSだ。

しかし、お披露目ライブの直後、SiSの突然の活動休止が言い渡される。その理由は、SiSのマネージャーを務めていた人物が、「重大な背任行為を行った為」。土下座するマネージャーの姿を冷ややかな表情で見つめるメンバーたち。アイドルとは何なのか? その裏でうごめく大人たちの思惑とは? どこまで予定通りで、どこからが予定外なのかさっぱりわからない。その一連の出来事を追った異形の長編ドキュメンタリー映画『WHO KiLLED IDOL?-SiS 消滅の詩-』が劇場公開される。

今回、同合宿にBiSサイドから密着した映画『BiS 誕生の詩』を監督し、本作にも登場するカンパニー松尾と、松尾の映画『劇場版 テレクラキャノンボール2013』にインスパイアされたテレビ番組『芸人キャノンボール』をはじめ、先鋭的なバラエティー番組を次々と世に送り出しているTBSのプロデューサー・藤井健太郎の対談を敢行。

本作についてはもちろん、アイドルからAV、お笑い、あるいは映画とテレビなど、ジャンルを超えて次々と生み出されている「ドキュメンタリー的な面白さを持った攻めのエンターテイメント」について語り合ってもらった。

ドキュメンタリーが嘘をつくのは当たり前だし、その嘘がどこにあるのかという議論はナンセンス。(松尾)

―まずは、藤井さんが『芸人キャノンボール』を作ろうと思った理由から、改めて教えていただけますか。

藤井:松尾さんの『劇場版 テレクラキャノンボール2013』(以下、『テレキャノ』)を見て面白いと思ったのはもちろんなんですけど、そのあとに『BiSキャンボール』(2014年)を松尾さんご自身がやって、さらにマッスル坂井さん(レスラーであり、映像制作会社DDTテックの社長)が『プロレスキャノンボール』(2014年)をやって、というふうに派生していく感じが面白いと思ったんですよね。で、これは誰かテレビでやらなきゃダメだ、それなら自分がやりたいと思って。

左から:カンパニー松尾、藤井健太郎
左から:カンパニー松尾、藤井健太郎

―その話を藤井さんから聞いたとき、松尾さんはどんなふうに思いましたか?

松尾:いや、僕はもうラッキー! というか(笑)。そもそもは、AVのシリーズとしてやっていたものなので、テレビのゴールデンで『芸人キャンボール』がオンエアされることになるなんて、まったく考えもしなかった。それがどんどん広がっていくのはすごく面白かったし、僕自身が一番楽しんじゃいましたよ。

―派生作品が次々と生まれた『テレキャノ』の魅力って何だったんでしょうね。

藤井:やっぱり、AV抜きにしても面白いですからね。勝負事だったり、駆け引きだったり、くだらないことに本気になる様だったり、そういう面白みの本質が、僕らがバラエティーでやっていることと近いと思ったんです。

松尾:確かに、『テレキャノ』を公開したとき、最初に反応してくれたのは一部の芸人さんたちでした。自分たちでルールを作って、本気で何かをやる、という「男の遊び」の面白さがあるんですよね。

藤井:そうですね。『芸人キャノンボール』も一応賞金があるんですけど、みんなそこまで賞金が欲しいわけじゃない。そこに何があるわけじゃなくても毎回ものすごく本気でやってくれる。賞金とか名誉のためではなく、「仲間たち」から一目置かれるために頑張る感じなんです。

―『芸人キャノンボール』も含めて、ドキュメンタリー的な面白さを持ったバラエティー番組が、昨今増えているような気がします。

藤井:確かに最近はちょっとそういうものが流行っている感じですね。ネタ番組やコント番組も少ないですし、ドキュメンタリーバラエティーというか、現実に起こることを切り取る面白さに焦点を当てるものが多いですよね。

松尾:たしかに、コントみたいな作り込みの番組って最近あんまり見ないですね。

藤井:今は少ないですね。『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系のバラエティー番組)がバラエティー界の中心に来たあたりからの流れだと思うんですが、最初は素人を演者にしていたけど、芸人さんたちで企画をやるときも、あまり決め事は作らずに、やってみて面白いところを編集で切り取るっていう。そのへんから、リアルを売りにした番組が多くなっている気がします。

藤井健太郎

松尾:そういうリアルなものを抽出するためには、偶発ということだけでなく、やっぱり演出家的な発想で、芸人さんの置き方とかを事前に考えて作っているんですか?

藤井:そうですね。見ている人たちもある程度、芸能人のキャラでわかると思うんですけど、この人はこういう人だから、ここに置くとこうなるんじゃないかとか、そういうのは大事に考えているところです。

―そういったバラエティー番組の潮流も含めて、昨今「ドキュメンタリーの楽しみ方」が変化しているように思います。映画で言ったら、森達也監督や松江哲明監督のドキュメンタリー作品など……。

松尾:それはあると思います。楽しみ方の選択肢が増えたというか。ただ、ドキュメンタリーが嘘をつくとかっていうのは当たり前のことだから、その嘘がどこにあるのかみたいな議論はナンセンスというか。だから僕は、フェイクドキュメンタリーが嫌いなんですよね。

カンパニー松尾

―ほう。それはなぜでしょう?

松尾:というか、僕に言わせれば、ドキュメンタリーっていうのは、そんな難しいものじゃないんですよ。たとえば僕が撮っているようなAVのドキュメンタリーなんて卑怯なドキュメンタリーなんです(笑)。だって、そもそもカメラの前でセックスをするっていうだけで、そこには勇気が必要だし、変わっていることをやっている人たちを撮っているわけだから、それをそのまま撮れば面白くなるっていうのは大体わかる。

だから、どれが嘘とかそういう話じゃなくて、画面に映っている人に、行動原理というか、何かをしなきゃならない場さえ与えておけば……というか、極端な話、それを与えなくても、たとえば陸上のウサイン・ボルトみたいな人がいたら、ドキュメンタリーはできる。あとは、世界一足の速い男を使って何をするかなんです。

失敗っていうのは結構面白い。ダメな人って見ているだけで、ちょっと笑えたりするじゃないですか。(藤井)

―松尾さんの考え方って、藤井さんにも共通するところがあるんじゃないですか?

藤井:そうですね。ただ僕の場合、松尾さんの逆もあります。まず企画があって、じゃあそれを誰がやったらいいのか考えるっていう。

松尾:そういう場合、藤井さんは芸人さんのどこを見ているの? その人の芸じゃなくて、そのベースにあるもの? やっぱり芸人さんだと芸で番組をこなすときもあるわけじゃないですか。

左から:カンパニー松尾、藤井健太郎

藤井:僕は芸人さんが用意してきたネタをそのまま面白がるタイプではあまりなくて。基本的にこっちから何かしら仕掛けることが多いので、こう言われたときにどう返してくるだろうかとか、もっと追い込まれたらどう転ぶのかとか、そういうところを見ています。芸人さんのオンもオフもたくさん見ているので、だんだんわかってくるんですよね。

―なるほど。

藤井:あと、僕の企画はドッキリみたいなものも多いんです。なので、嘘の設定を与えたら、何をどこまで信じて、どう動くのかっていうのを何となく推し量りながらぶつけることが多いですね。

松尾:そのへんは、自分の中で緻密に構成を考えておくの?

藤井:そうですね。もちろん、最終的にどうなるかはわからないですけど、どう転んでも大丈夫なように考えておきます。あとは、最初から最後までガチガチに決めていると、現場で自分が楽しくないっていうのがあるんですよね。

視聴者にとっては週に1回の番組かもしれないけど、僕らからすれば毎日だから、視聴者よりも早く僕らが飽きてしまうところがあって。そこはちょっと、作り手のエゴの部分ではあると思うんですけど、「ここはどっちに転ぶんだろう」っていうのを自分で楽しみながらやっています。

左から:カンパニー松尾、藤井健太郎

―松尾さんも、ある程度構成を考えたりするのですか?

松尾:いや、僕はノープランですね(笑)。あらかじめ何かを考えていくと、それが外れた場合、頭の中が真っ白になってしまうので(笑)。もちろん、最初のルール決めだけはしておきますけど、現場対応でやっています。

―臨機応変な「現場力」が大事というか。

松尾:というか、俺は現場よりも編集が楽しいタイプなんです。だから、現場は最悪、素材集めに終わっちゃってもいいかなって思っているところがありますね。

―そう、松尾さんも藤井さんも、ご自身で編集をされるんですよね。松尾さんは、何を手掛かりに編集していくのですか?

松尾:僕はまず、全部の映像を見ます。要所要所を書き出す人もいるんだけど、僕の場合は素材を一通りさらうと、なんとなく作品の設計図が書ける。だから、何か法則があるわけじゃなくて、映像を頭の中に入れてガチャガチャ入れ替えたりしつつ、どうにかこうにか完成させるっていう感じですかね。

―藤井さんは、ご自身でナレーションも書いて、かなり緻密に編集されているとか。

藤井:そうですね。番組によって作り方は違うんですけど、やっぱり基本的には、まず現場で起きたことをどう面白く見せるかを考えています。レギュラー番組はフォーマットがありつつも、同じことばっかりしていると自分が飽きてしまうので、その中でいろいろやりたいタイプです。

藤井健太郎

松尾:僕もそうだけど、一定のクオリティーのものを作り続けるっていうよりも、その時々で変わっていくというか。毎回同じような現場をやって、同じように編集している感じではないですよね。

藤井:うん、そうですね。

松尾:でも、現場がうまくいかなかったときって、藤井さんはどう編集するの?

藤井:ホントにダメなときは、もうダメだったって言うことにしています。失敗したって言うことで、それを笑いに変えていく方向で編集することが多いです。

―はっきりと言ってしまうんですね。

藤井:ただ、失敗っていうのは結構面白いんですよ。ダメな人って見ているだけで、ちょっと笑えたりするじゃないですか。そのリアルな面白さが、失敗にはあると思うんですよね。

―リアルな面白さというところで言うと、『テレキャノ』ブームに火をつけたのは、渋谷の映画館での限定上映の熱狂でしたよね。昨今、映画館というリアルな現場の「熱」を感じることも多いように思います。

松尾:そうですね。ネタバレ禁止といったお約束もありつつ、そういう共犯関係も含めて盛り上がりました。あとは、映画館でみんなと一緒に声を出して笑えるとかね。

左から:カンパニー松尾、藤井健太郎

藤井:そういう意味では映画のハードルが最近少し低くなっているし、映画館がちょっと攻めていて面白くなってきている流れはあるかもしれないですよね。

松尾:昔は、映画は映画、AVはAV、テレビはテレビっていう区別みたいなところがあったけど、そうじゃなくなってきたっていうのは、確かにここ何年かの動きかも。

映画を見ている人たちにも、事件が突然襲い掛かってきたほうがいい。そこらへんがドキュメンタリー編集の面白さです。(松尾)

―なにがきっかけで、ジャンルの区別が緩やかになくなっていくような変化が起こり始めたんでしょうね。

松尾:それこそ松江くんとかの世代が、そういう流れを作ってくれたと言えばそうなんですよね。彼はレンタル世代として「レンタル屋においてあるものは全部同じだ」って言うんですよ。

ハリウッド映画もマニアックな映画も、それこそAVも同じ店の同じフロアに陳列していたりするわけで、全部並列なものとして考えている。そういう考え方だから、AV監督の僕のことも普通にリスペクトを公言できるし、その一方で偏狂的な映画マニアでもあるっていう。

左から:カンパニー松尾、藤井健太郎

―そういう考え方もそうですが、松江さんはテレビ東京の深夜でドキュメンタリードラマを制作したりもしていますしね。

藤井:ジャンルは違えど、クリエイティブの根底って全部繋がってきているような感じがしますよね。

松尾:藤井さんが『芸人キャノンボール』をテレビでやってくれたことも、ひとつブレイクスルーになったと思うんですよね。だから、テレビマンにも、藤井さんのような人がいるっていうのは非常に心強い。

―確かにいろいろなものが繋がっている感じはありますね。今回、松尾さんが出演者として登場する『WHO KiLLED IDOL? -SiS消滅の詩-』と、松尾さんが監督した『劇場版 BiS誕生の詩』についても聞かせてください。この一連の企画は、どのように生まれたのでしょう?

松尾:僕はそもそも、スペースシャワーTVの番組用に、新生BiSのオーディションを撮りに行ったんです。で、そのオーディションの落選者を撮ろうと思っていたら、その子たちで急遽「SiS」という新しいユニットを組むことになって……。で、僕は「落選した子たち」に興味はあったけど、落選者が救済される形でできたSiSについては、あまり乗り気じゃなかった。だから、僕は追いかけなかったんです。

―なるほど。

松尾:でも、一応、このオーディションにテレキャノチーム(『BiSキャノンボール』も参加したバクシーシ山下、ビーバップみのる、タートル今田、梁井一、嵐山みちる、カンパニー松尾のAV監督六人)を呼んでおいたんですよね。もし何かがあったときのために、ちゃんとパンツを脱げるのはこの六人なので(笑)。

そしたら、『BiS誕生の詩』と『SiS消滅の詩』のプロデューサーである高根さんから、「松尾さんには言ってなかったけど、実は、オーディションの参加者たちがテレキャノチームに気づかれないようにミッションをこなして得点をかせぐ裏企画がありまして」という話を聞いて……。

―何かいろいろ複雑な構造になっているようですが、両作のプロデューサーである高根さんは……、ちょうどこの場にいるので、どういう意図だったのか直接話してもらってもいいですか?

高根:はい、もちろん。そもそもは、BiSのプロデューサーである渡辺淳之介くんから、「BiSを復活させる」という話があって、オーディション合宿をしますよと。で、以前松尾さんに撮ってもらった映画『BiSキャノンボール』は、BiSの終わりの話だったから、次に撮影するなら始まりの話かなって思ったんです。ただ、それをそのまま撮っても……何となく仕上がりが見えるじゃないですか。

藤井:まあ、普通のドキュメンタリーっぽくなっちゃいますよね。

新生BiSメンバーオーディションの様子 / 映画『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』より
新生BiSメンバーオーディションの様子 / 映画『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』より

高根:そう。だから、そこに何かしら仕掛けを突っ込まないといけないと思って。で、エリザベス宮地くんに別の切り口からBiSを撮ってもらおうと思ったんです。

―なぜ宮地さんだったのでしょう?

高根:彼は松尾さんに憧れて映像を始めた人で、『BiSキャノンボール』も手伝ってもらったんですけど、テレキャノチームのメンバーではなく、『BiSキャノンボール』にも正式に参加していない、唯一の部外者だったんです。

そこで彼に、「BiSのドキュメンタリーを松尾さんに撮ってもらおうと思っているんだけど、別の軸でちょっと撮ってみない?」っていう話をして。とりあえず『HMJMキャノンボール』という仕掛けをやってみたんですけど、「これは多分、跳ねないな」っていうのが撮っている最中にわかってきて……。

―(笑)。劇中でも、その仕掛けはだんだんフェードアウトしていきますもんね。

松尾:だから、もともと仕掛けとして入っていた裏工作隊が失敗して、SiSに突っ込まざるを得ない状況になったんです。で、彼らがSiSの動向を追っていったら、予告編にもあるように、ある衝撃的な事件が起こったという(笑)。

藤井:ああ、なるほど。あれがなかったら、ちょっとドキュメンタリーとしてはきつかったですよね。

松尾:そう。だから、僕が撮ったBiSのドキュメンタリー(『BiS誕生の詩』)に、プラスオンで何かっていうところの仕掛けが、結果的には功を奏したんですよね。じゃなければ、宮地はあそこまでSiSを追っかけてないですから(笑)。

―いろいろ偶発的な出来事があったと(笑)。そんな『SiS消滅の詩』を、藤井さんはどんなふうに見られましたか?

藤井:単純に目の前で起きる出来事が面白いですよね。それはドキュメンタリーとして、やっぱり強い。で、高根さんが何かを起こす起爆剤として、プラスオンで仕掛けを入れるっていうのにすごく共感します。

ストレートに撮るドキュメンタリーよりも、そういう仕掛けや、それに対する生の反応がガツンと出ているものが好きなので。だから、結果、仕掛けが失敗したことも含めて、すごく面白かったです。

―最初の枠組みがどんどんズレていく不思議な面白さがありますよね。

松尾:今回の映画の場合、起きたことを説明しすぎてもあんまり面白くないというか、実際SiSのメンバーたちがそうだったように、見ている人たちにも、事件が突然襲い掛かってきたほうがいいと思う。まあ、そこらへんがドキュメンタリー編集の面白さですよね(笑)。

作品情報
『WHO KiLLED IDOL ? -SiS消滅の詩-』

2017年2月4日(土)からテアトル新宿ほか全国で公開
監督:エリザベス宮地
出演:
BiS
SiS
GANG PARADE
渡辺淳之介
清水大充
エリザベス宮地
高根順次
バクシーシ山下
ビーバップみのる
タートル今田
梁井一
嵐山みちる
カンパニー松尾
配給:SPACE SHOWER FILMS

『劇場版 BiS誕生の詩』

2017年1月28日(土)からポレポレ東中野ほか全国で順次公開
監督:カンパニー松尾
出演:
BiS
BiSオーディション参加者
渡辺淳之介
清水大充
エリザベス宮地
高根順次
カンパニー松尾
バクシーシ山下
ビーバップみのる
タートル今田
嵐山みちる
梁井一
配給:SPACE SHOWER FILMS

プロフィール
カンパニー松尾 (かんぱにーまつお)

HMJM。『BiSキャノンボール』の監督にして、AV業界に「ハメ撮り」を定着させたAV監督。『テレクラキャノンボール』シリーズをはじめ、『私を女優にして下さい』『僕の彼女を紹介します』『麗しのキャンペーンガール』など数々の人気作を制作した。その人気はAV業界にとどまらず、音楽や映画など幅広いジャンルのクリエイターから支持を集めている。

藤井健太郎 (ふじい けんたろう)

演出家、プロデューサー。1980年生まれ、東京都出身。2003年TBS入社後、『リンカーン』『ひみつの嵐ちゃん!』などの人気番組のディレクターを経て、『クイズ☆タレント名鑑』『テベ・コンヒーロ』『水曜日のダウンタウン』などの演出、プロデュースを手掛ける。



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