ナツノムジナ×田渕ひさ子のセッション&対談 音と言葉で熱く語る

沖縄出身の若き4ピースバンド、ナツノムジナ。彼らが去年リリースした1stフルアルバム『淼(びょう)のすみか』は、この国の音楽史における、ひとつの流れの先端に位置するアルバムだ。それは、スピッツやbloodthirsty butchers、NUMBER GIRLやOGRE YOU ASSHOLEといったバンドたちが脈々と築き上げてきた、オルタナティブギターロックの最先端。移ろいゆく季節と僕らの心の関係を、身を切る風の冷たさのなかに幻視する誰かの姿を、焦燥を、そして、シュールな夢想を……あらゆる心象風景を描き得る、豊潤な文学性を持ったアートフォームとしてのギターロックの最先端――いま、そこにいるのがナツノムジナなのだ。

そんな彼らのバンド活動において大きなターニングポイントになったのが、2011年、まだ高校生だった彼らが地元・沖縄でbloodthirsty butchersのオープニングアクトに抜擢されたことだったという。そこで今回は、bloodthirsty butchersのメンバーであり、toddleなどでも活動するギタリスト、田渕ひさ子を迎え、ナツノムジナとの特別セッションを敢行した。題目は、ナツノムジナのレパートリーである“天体”と、フリーセッション。以下に始まる2組による対談は、その熱く饒舌なセッションの終了後に行われたものだ。記事中に埋め込まれたセッション時の動画とともに、2組の「音」と「言葉」による対話を楽しんでいただきたい。

私は強烈なリーダーがいるバンドに関わることが多かったので(笑)、ナツノムジナみたいにみんなが意見を出し合うなかに入っていくのは新鮮でした。(田渕)

—セッション、お疲れ様でした! 本当に素晴らしい演奏を聴かせていただきましたが、まず、それぞれの感想から伺えればと思います。

田渕:去年、ナツノムジナの『淼のすみか』をよく聴いていたので、あたかも最初からメンバーだったかのように弾かせていただきました。私自身、気軽に人とハイタッチができない性格だし(笑)、そんなにセッションが得意なほうではないんです。でも、今回のセッションは誰か一人がずば抜けてリーダーシップを取るわけでもなく、みんなが同じ目線で演奏できている感じがして、楽しかったです。

左から:ナツノムジナと田渕ひさ子のセッション風景
左から:ナツノムジナと田渕ひさ子のセッション風景

—田渕さんはサポートも含めて、いろんなバンドで演奏されてきていますが、「同じ目線」というのは珍しいものですか?

田渕:そうですね。やっぱり、私は強烈なリーダーがいるバンドに関わることが多かったので(笑)、ナツノムジナみたいにみんなが意見を出し合うなかに入っていくのは新鮮でした。

仲松(Gt):僕らは、そもそも友達同士から始まったんですよ。僕と粟國と(久富)奈良は小学校3年生の頃から一緒だし、窪田と僕も高校生の頃からの付き合いで。そのせいか、誰かが「俺が絶対に正しい!」って言い張るというよりは、みんなで話し合って問題を解決していく関係性なんです。

—ナツノムジナの四人は、田渕さんと一緒に演奏されてみていかがでしたか?

仲松:僕が初めて、ひさ子さんが関わったバンドを聴いたのはNUMBER GIRLとbloodthirsty butchers(以下:ブッチャーズ)で、ひさ子さんのギターにはめちゃくちゃデカくて、どこまでも抜けていくイメージがあったんです。でも、合わせてみるとめちゃくちゃ周りに親和性がある音で。ただ抜けるのでもなく、埋もれるのでもなく、間をグワッと埋めてくれるような感覚がありました。

仲松拓弥
仲松拓弥

粟國(Vo,Gt):“天体”の間奏で、田渕さんが地鳴りのような低音を出していたと思うんですけど、その瞬間、スイッチが入った感覚があって。あのとき、“天体”がまた違う表情を見せてくれて、すごい体験でしたね。

窪田(Ba):田渕さんが入るだけで、音にすごく奥行きが出たよね。Z軸に伸びていく感覚というか。“天体”を演奏しているとき、田渕さんのこれまで聴いたことのないフレーズが入ってきてテンションが上がったんですけど、同じくらい、グルーヴっていう意味でも新鮮でした。

田渕ひさ子
田渕ひさ子

窪田薫
窪田薫

—久富さんはどうでしたか?

久富(Dr):いやぁ、気持ちよかったです。

仲松:シンプルだなぁ(笑)。やっぱり、ドラマーから見て、ギターが3本あるっていうのは、2本のときとは全然違うものなの?

久富:う~ん、ひさ子さんのギターばっかり聴いていたから、他の2本はあんまり意識してなかった。

仲松:なんだよ、それ! 頑張ったんだけどなぁ。

久富奈良
久富奈良

リハーサルで“7月”をやったとき、ステージ袖から吉村さんがチラッと見ているのがわかったんですよ。(仲松)

—田渕さんとナツノムジナの直接的な出会いは、2011年に、地元の沖縄でブッチャーズと共演したときだったんですよね?

仲松:そうですね。当時はまだ半分コピー、半分オリジナルみたいな感じで、高校生バンドとして沖縄で活動していて。あるとき、ブッチャーズの“ファウスト”をカバーしたんですけど、その演奏を、桜坂セントラル(ライブハウス)のタケマサさんという方が観てくださっていたんです。それで、ライブ後に粟國がタケマサさんに呼ばれて、「来年、ブッチャーズが沖縄に来るから、オープニングアクトやらない?」って言われて「やります!」って。

—地元の高校生バンドがブッチャーズのオープニングアクトをやるって、すごいことですよね。

仲松:もう本当に。四人ともブッチャーズが大好きだったから、嬉しくて嬉しくて。嬉しすぎて、「当日、“7月”やっちゃおうぜ!」ってなったんですよ。

左から:田渕ひさ子、ナツノムジナ(粟國智彦、仲松拓弥、久富奈良、窪田薫)
左から:田渕ひさ子、ナツノムジナ(粟國智彦、仲松拓弥、久富奈良、窪田薫)

—本人たちの前でカバーって、すごい度胸ですね……。しかも、代表曲である“7月”を!

窪田:恐れ知らずですよねぇ(苦笑)。

仲松:普通、怖くてできないよね(苦笑)。本番の1週間前くらいに、事の重大さに気づいたんです。「これ、ヤバいんじゃない?」って…。

田渕:ふふふふふ(笑)。

仲松:リハーサルで“7月”をやったとき、ステージ袖から吉村さんがチラッと見ているのがわかったんですよ。「うわっ、見てる!」と思って……怖くて表情は見ることができなかったですけど、リハが終わった直後、吉村さんとひさ子さんがTwitterで褒めてくださったんです。それで、「よかった~、許された~!」って(笑)。

窪田:しかも、僕らの番が終わったあと、吉村さんに「今日、ストラトで弾きたいから貸して」って言われて、あの日、吉村さんは仲松のギターでステージに上がったんだよね。

—それもすごい出来事ですね……。

仲松:ステージで吉村さんが“7月”を弾いたとき、同じギターなのに、鳴りの違いに驚きました。「エフェクターが違うから」とか、「アンプが違うから」とか、そんな単純な理由でもなく、根本の音が全然違った。1弦1弦の音の広がりや奥行きが、全部吉村さんの色で……衝撃でしたね。

粟國:曲が始まる前に、吉村さんがジャラ~ンって弾くコードの音が、聴いたことあるようで、絶対に真似できない音だったんだよね。

仲松:そうそう、普通のコードを押さえているだけなのにね。

粟國:僕はあの日まで、CDのなかで出会う素晴らしい音楽と、自分との間に距離があったような気がするんです。常に、自分の理想を入れ込みながら音楽を聴いていた、というか。

でもあの日、実際にブッチャーズを観て、オープニングアクトまでやらせてもらって、素晴らしい音を鳴らす人たちと、同じステージでギターを弾くことができて……「もしかしたら自分も、あんなふうにすごい音を出せるようになれるかもしれない」って思ったんです。それまで持っていた理想に、現実味を感じられるようになったというか。曲作りをするのも、「もっと大きいものを追い求めていいんじゃないか?」って、想像する領域が広がった感じがしたし。

窪田:きっとああいう経験がなかったら、理想が理想のままだったかもしれないね。

仲松:うん、「楽しいからやっている」みたいな感じじゃなくて、「ちゃんとバンドを続けたい」って思うようになったのも、あの日がきっかけだと思う。

レコーディングしたセッション音源を確認する五人
レコーディングしたセッション音源を確認する五人

ナツノムジナ『natsunomujina – EP』(2015年)収録曲

誰がカバーしても吉村さんは喜ぶわけではなくて。ナツノムジナの四人だったからよかったんだと思うんですよね。(田渕)

田渕:私、ブッチャーズで高校生の頃のナツノムジナと対バンしたときのことはハッキリと覚えているんですけど、あのとき使っていたベースって……。

窪田:TUNEの青いベースですかね(笑)。

田渕:そうそう! とてもブッチャーズの曲を弾くようなベースではないんですよ(笑)。むしろ、フュージョンとかポップスとかの人が使う楽器で。それで“7月”を弾いていて、「なんだ、これは~!」って(笑)。

四人:(爆笑)。

田渕:「とにかく、すげぇ若いぞ」って思いました。「しかも、“7月”やっちゃうのかよっ!」って(笑)。“7月”って、ブッチャーズでも「ここぞ!」というときにしかやらないスペシャルな曲で。自分がメンバーになってからも、“7月”をやる / やらないの法則は結局わからずじまいの曲だったんですよ。「その“7月”をやってるで~!」って(笑)。

仲松:ですよねぇ……(苦笑)。

田渕:でも、吉村さんは大層ご満悦でしたよ(笑)。もちろん、誰がカバーしても喜ぶわけではなくて、ナツノムジナの四人だったからよかったんだと思うんですよね。

田渕ひさ子
田渕ひさ子

田渕:スレた若者が、いろんな機材を仕込んで“7月”をやるわけではなく、本当にピュアな気持ちで演奏しているのがわかるから。それに、歌がよかった。もし変なビブラートとかかけて歌ってたら、吉村さんから「バンッ!」ってくらっていたと思う(笑)。

四人:ははははは(笑)。

田渕:でも、あのときから粟國くんの歌は本当によかったから。あと、私が覚えているのは本番前にみんながレッドブルを飲んでいたら、吉村さんが「おいっ! お前らはまだコーラとジャンプで十分だろっ!」って怒っていたことで。あれは面白かった(笑)。

窪田:ちょうどレッドブルとかを覚え始めた頃だったんですよ(笑)。

仲松:背伸びしたかったんです(笑)。……吉村さんに言われて、そっと缶を置きましたけど(笑)。

左から:田渕ひさ子、ナツノムジナ(粟國智彦、仲松拓弥、久富奈良、窪田薫)

人間的に、真っ当に生きて、いろんな経験を積んでいけば、自ずといい音は出るんじゃないかなぁって。(田渕)

—改めて今日、ナツノムジナと「音」で対話してみていかがでしたか?

田渕:やっぱり、会ってその人と話すよりも、一緒に音を合わせたほうが、その人を信用できるかどうかの判断になるもので。今日、一緒に演奏して、ナツノムジナはあの頃から、いいところを全く失わずにここまで来たんだなって思いました。

音がキラキラしているんですよね。そういう音って誰でも出せるわけではないし、どうやったら出るのか、答えがあるわけでもない。ただ、ナツノムジナの音には、沖縄という生まれ育った場所も含めて、自分たちが生まれてから全部のものが注がれている感じがして。それはあの頃から変わっていないです。

—人生が、音になっているというか。

田渕:そう。「その人」が音に出ていると、いい音だなって思うんです。やっぱり私自身、音自体に感情を乗せるっていう点に関しては、NUMBER GIRLの頃から鬼コーチに訓練されてきましたし(笑)。私、ぺらっとした音とか、キンキンした音は好きじゃないんですよね。艶があるというか、色気があるというか……ふくよかさがある音が好きなので。

仲松:ブッチャーズに限らず、toddleにしろ、ひさ子さんが関わってきたバンドって、どれも音が映像的ですよね。粒子が細かくて、綺麗だなって思います。

窪田:いくらバンドスコアを見ても、絶対に1割くらいしか載ってないだろうっていうくらい、ひさ子さんのやられてきたバンドは全体の鳴りが複雑だし、一言で言えないものがそこにあると思う。

田渕ひさ子
田渕ひさ子

窪田:ひさ子さんのピッキングで音が鳴るタイミング、それに他のメンバーの合わせるタイミング……そういう部分も単純ではなく、すごく情報量が多いんですよね。ミクロな部分ですごく発見がある、というか。だからこそ、CDでもライブでも、何度も繰り返し聴きたくなるし。

田渕:おぉ~、嬉しい(笑)。きっと、自分の好きな音を純粋に選択していった結果だと思うんですけどね。でも、人間的に、真っ当に生きて、いろんな経験を積んでいけば、自ずといい音は出るんじゃないかなぁっていう気もするんです。

toddle『Vacantly』(2016年)収録曲

田渕加入後に初めてリリースされたbloodthirsty butchers『birdy』(2004年)を聴く(Spotifyを開く

田渕:私は、音楽を辞める / 辞めないの境目はないと思っていて。きっとばあさんになってもポロポロとギター弾いていると思うんです。「聴いておくれよ、今日ね~」ってギターをスリスリしながら(笑)。

四人:ははははは(笑)。

田渕:私、他のことをやっていても「なんか、すいません」って思っちゃうんですよ(笑)。他に特技もないし。でも、ギターを弾いているときは「すいません」って思わなくていいし、ライブで、デカい音でメンバーと一緒に「ドンッ!」って鳴らすときが最高に高揚するし、感情の振れ幅を表現できるんです。ギターを弾いていると、「生きているぞ!」っていう感じがする。

仲松:それ、僕も一緒です。自分の好きな音を追求するのが好きだし、とにかくギターを弾くのが大好きだし。

粟國:僕も、自分に一番身近な楽器がギターで、他の楽器と比べても一番混じりけのないもののように感じています。だから、ギターを弾きながら歌えるけど、もし僕がピアノを弾きながら歌おうとすると、いままで聴いてきた他の音楽の要素がもっと強くなってしまって、自分のものではないような感覚に陥ってしまうんじゃないかと思うんです。

粟國智彦
粟國智彦

後々まで影響を与えられるものって、最初に触れたときには「わからない」って思うものが多い。(窪田)

—演奏する人が生まれ育つなかで見た景色や心象風景が、ギターミュージックの音像として表現される……この点はやはり、NUMBER GIRLやブッチャーズ、そしてtoddleのような、田渕さんが関わられてきたバンドに共通する部分であり、ナツノムジナが受け継いでいる部分だと思うんです。具体的に、ナツノムジナの音楽的なルーツとして、そうしたバンドたちの存在は大きいのでしょうか?

窪田:そうですね。四人それぞれが普段聴いている音楽はバラバラだけど、共通項として持っているのは、1990年代~2000年代の日本のオルタナティブロックなんです。なので、そこはかなり血肉化していますね。最初の頃は、くるりや七尾旅人さんのカバーもやっていたし。

粟國:僕と奈良が仲良くなったのは小学4年生くらいだったんですけど、どちらもくるりを知っていて、それがきっかけだったんです。で、小学5年生の頃にNUMBER GIRLのベスト盤(2005年リリースの『OMOIDE IN MY HEAD 1 ~BEST & B-SIDES~』)が出て、いろんな感情を教えられた気がするんです。

あの頃、世界の見え方がガラッと変わったというか。そこからずっと、成長とともに音楽があったので、そのぶん、何重にも塗り重ねられて、音楽に対する憧れは色濃くなり続けていると思います。それはいまもそうだし。

粟國智彦
粟國智彦

ナツノムジナ『淼のすみか』収録曲

—ナツノムジナは全員、小学生の頃から日本のオルタナティブロックを自然と聴かれていたんですか?

窪田:僕も聴いていましたね。

仲松:僕は、小学生の頃はORANGE RANGEとHYばっかりでしたね。やっぱり、地元なので(笑)。オルタナティブロックに出会ったのは、中学に入って、奈良がゆらゆら帝国の『Sweet Spot』(2005年)を貸してくれたのがきっかけだったんですよ。そこには、ドロドロとした、全然触れたことのない音楽があって……「全然わかんない!」っていう衝撃がありました(笑)。でも、奈良はこれを「めっちゃいい!」って言っているし。「なんでだろう?」って繰り返し聴いていくうちに、ハマっていったんです。

ゆらゆら帝国『Sweet Spot』を聴く(Spotifyを開く

—久富さんは、どうして最初に『Sweet Spot』を貸したんですか?

久富:なんでだろう……なんとなく、家にあったから。

仲松:なんだよ、それ(笑)。

窪田:(笑)。……でも、やっぱり後々まで影響を与えられるものって、最初に触れたときには「わからない」って思うものが多いよね。

仲松:そうだね。正直、NUMBER GIRLやブッチャーズも、最初に聴いたときはわからなかった。でも、気になって繰り返し聴くうちに、生々しく色が見える瞬間があって。その瞬間がくると、ハマっていくんですよね。

田渕:私もその感覚はわかります。音楽の向こう側に「この人たちはどういう人たちなんだろう?」とか、「なにを聴いてこうなったんだろう?」っていう興味を持てるバンドが、いいバンドの基準だと私は思っていて。ナツノムジナも、曲の構成とかアレンジから、そういうことを思わせるバンドだなって思う。

ナツノムジナ『淼のすみか』収録曲

左から:窪田薫、仲松拓弥、久富奈良、田渕ひさ子、粟國智彦

言葉にできないものを大事にしたいって思うし、それを音楽にしたいって思うからこそ、苦闘できる。(粟國)

—先ほど、粟國さんがおっしゃったような、日本のオルタナティブロックに出会うことで知った「いろんな感情」とはどのようなものなのか、言葉にすることってできますか?

粟國:うーん……。

窪田:どちらかといえば、言語化できない感情の存在を知ったっていう感じじゃない?

粟國:そうだね。むしろ、その感情がどんなものなのかを知りたくて、切なくなるような感じ、というか。そういう言葉にできないものを大事にしたいって思うし、それを音楽にしたいって思うからこそ、苦闘できるなって思います。

—言葉にできない、その感情を追い求めることが、音楽を鳴らす原動力にもなっている?

粟國:そうですね。高校1年生の冬に“渚にて”という曲ができたんですけど、そのときに自分のなかで、ひとつのきっかけが生まれた気がしていて。自分で「こうしたい」って思って歌詞を書いたわけではないんだけど、「渚」という場所に、過去も現在も未来も一緒になって、いろんな人がいて、何度も同じ行為をなぞったり、反復したりしている……そういう、すごいエネルギーの塊みたいなものを「見つけた!」っていう感覚があって。

粟國智彦
粟國智彦

粟國:全部がひとつになるようなエネルギーの渦巻くもの……それが、自分たちの音楽性なんじゃないか? っていう……すみません、抽象的で。

—いえいえ。「渚」という景色を見つけたとき、粟國さんのなかに「自分が表現で辿り着きたかったのはここなんだ」というような感覚が生まれた、ということでしょうか?

粟國:うん、そういう感じでした。「渚」という、その場所に連れて行ってもらって、「俺、この場所を見ていたんだなぁ」っていう感覚というか……「この状態を実現したいんだ」「これを感じる瞬間を表現したいんだ」っていう感覚がありました。

田渕:わかりますよ。原風景というほどではないけど、「あのとき見たものを、ここに」っていう感じで音に刻みつけたり、演奏しながら、ずっと「そのとき」を思い浮かべて演奏する、みたいな感覚は私にもありますね。

田渕ひさ子
田渕ひさ子

ナツノムジナは、なにかが研ぎ澄まされているというよりは、「純度」のバンドだと思う。(田渕)

—ちなみに、“渚にて”は去年リリースされた1stアルバム『淼のすみか』の最後を締めくくる曲でもありますね。

粟國:“渚にて”という曲で与えられたイメージには、きっと物語があるような気がして……。それで『淼のすみか』は、“渚にて”ができたことで表れたイメージが、なぜ自分にやってきたのか? ということを考えるアルバムにしようと思ったんです。なので、2曲目の“暈(かさ)”から10曲目の“渚にて”に至るまでの物語として、時間軸を意識しながら歌詞を書きました。で、1曲目の“灯台”は、最後の“渚にて”とノイズでつなげていて、アルバムが一回転するようにしていて。

ナツノムジナ『淼のすみか』を聴く(Spotifyを開く

—では、かなり明確なコンセプトアルバムなんですね。でもなぜ、1曲目の“灯台”だけは“渚にて”へと至る物語から外れているんですか?

粟國:“灯台”だけは、“渚にて”に至る物語とは別に、作り手である自分の意識の誕生を表せたらいいなと思ったんです。音楽のなかだけの物語ではなく、ひとつ離れた次元に自分を置くための曲なんです。

—いま話していただいたアルバムコンセプトの重厚さや熱量の高さって、たとえばブッチャーズの『kocorono』(1996年)などに通じるものがあるなと思うんです。即効性の高い快楽ではなく、ギターミュージックを通してこれだけ作品性の高いものを作り上げる新世代が登場したということは、やはり意志は受け継がれているんだなと感じます。

田渕:そうですね。でも、私としては、「ここにもいたか!」っていう感じですけどね(笑)。

左から:ナツノムジナ(仲松拓弥、粟國智彦、久富奈良、窪田薫)、田渕ひさ子
左から:ナツノムジナ(仲松拓弥、粟國智彦、久富奈良、窪田薫)、田渕ひさ子

田渕:「このタイプ、ここにもいたのか!」っていう(笑)。……きっといま、みんなは持っている全てのエネルギーを賭けるぐらい真剣に、作品作りに向き合っていますよね。そうやって全部を賭けるには、やっぱりある程度の若さが必要なんですよ。ナツノムジナには、この先、歳を重ねても、その純度は失わないでほしいなって思います。ナツノムジナは、なにかが研ぎ澄まされているというよりは、「純度」のバンドだと思うから。その純度は、私が見る限り、高校生の頃からいままで失われていないし、この先も失わないでほしいなって思います。

四人:はい、がんばります!

2018年3月24日(土)開催の自主企画『HARVEST』のメインビジュアル
2018年3月24日(土)開催の自主企画『HARVEST』のメインビジュアル(ライブ情報を見る

イベント情報
『HARVEST』

2018年3月24日(土)
会場:東京都 新代田 FEVER
出演:
ナツノムジナ
CHIIO
GRASAM ANIMAL
ベランダ
料金:前売2,000円 当日2,500円 『淼のすみか』LP&ポスター付限定チケット4000円(全てドリンク別)

リリース情報
ナツノムジナ
『淼のすみか』(LP)

2018年3月28日(水)発売
価格:¥3,000(税込)
トーキョー=コミューン / FSJM2

[SIDE-A]
1. 灯台
2. 暈
3. 凪
4. 泊地
5. 艀

[SIDE-B]
1. 深海
2. 辷る
3. 天体
4. 伴侶
5. 渚にて

ナツノムジナ
『淼のすみか』(CD)

2017年9月6日(水)発売
価格:2800円(税込)
FSCT-1008

1. 灯台
2. 暈
3. 凪
4. 泊地
5. 艀
6. 深海
7. 辷る
8. 天体
9. 伴侶
10. 渚にて

toddle
『Vacantly』(CD)

2016年7月27日(水)発売
価格:2,808円(税込)
KICS-3397

1. Disillusion
2. Beat Rotates
3. Branch in the Road
4. Parallel Lanes
5. Bitter Hours
6. Cloud Eater
7. Stirrer
8. Right-Hand Drive
9. Where the Alley Ends
10. Round Arrow
11. Vacantly
12. Illuminate

プロフィール
ナツノムジナ
ナツノムジナ

2010年、沖縄にて、高校の入学を目前に粟國智彦の呼びかけにより小学校の頃の同級生でナツノムジナを結成。同年の10月ごろにベーシストが抜け、現メンバーの窪田薫が加入。2011年7月、bloodthirsty butchersのライブのオープニングアクトを務めたことをきっかけに音源作成を決意。同年10月、に山本精一のオープニングアクトを務めたライブで2曲入りの音源『黒点/渚にて』を販売開始。2012年、窪田が一足先に東京に上京することになり活動休止。2013年、メンバー全員が上京をし、東京で活動を再開。2015年、自主製作音源の『natsunomujna-ep』を4月にリリース。同年にLAMAやbonobosと共演。2016年、自主企画『Pale』を定期的に開催。同年9月に2曲入りカセット『Driftage vol.1【艀・凪】』を会場限定でリリース。2017年、3月に2曲入りの7inchレコード『Driftage vol.2【天体・月の裏側】』を会場限定でリリース。9月に初の全国流通版1stフルアルバム『淼のすみか』をリリース。

田渕ひさ子 (たぶち ひさこ)

福岡県出身。1975年12月9日生まれのO型。13歳でギターを始めて以来、途切れることなくギャルバンでギターを弾き続ける。19歳でNUMBER GIRLに加入し、98年に上京。2002年に解散し、toddleを始める。03年bloodthirsty butchersにメンバーとして加入。寝た子も起こす強烈なギターが印象的だが、toddleでは初めてのボーカルも担当し、これまでとは違った一面を見せる。忙しい毎日を送りつつ、色んなことを日々イメトレ中。



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