SSFF・アップリンク・ギャガの三者が語る、ネットと映画の現在

いま国内のオンラインシアターで、興味深い試みが行われている。Netflix、Hulu、AmazonプライムといったSVOD(Subscription Video on Demand=定額制動画配信)が活況を呈する中、独自の道を進む三者が集った。

「アップリンク・クラウド」を運営するアップリンク代表取締役社長・浅井隆、「青山シアター」を手がけるギャガ執行役員・松下剛、そして「ブリリア ショートショートシアター オンライン」の編集長を務める大竹悠介。それぞれの視野から見えてくるのは、映像をめぐる「現在と未来」だ。

網羅的なプラットフォームにユーザーとして登録するのは、一人ひとつで充分じゃないですか?(松下)

—ひとくちにオンラインシアターといっても、みなさんそれぞれ、三者三様の取組みをしていらっしゃいます。「青山シアター」と「アップリンク・クラウド」は、共にTVOD(Transactional Video on Demand=都度課金型動画配信)ですが、青山シアターは2013年12月という、今日のメンバーの中では早い時期のローンチですね。

松下:実はその前、2012年に「GAGAシアター」という動画配信サービスを立ち上げていました。その理由は至ってシンプル。僕たちはそもそも配給がドメイン(業務の領域)で、映画を買いつけて、映画館でかけ、Blu-rayやDVDにし、テレビで放映して、インターネットライツを売る、というのが一連のビジネスのスキームです。

左から:松下剛(青山シアター)、浅井隆(アップリンク・クラウド)、大竹悠介(ブリリア ショートショートシアター オンライン)
左から:松下剛(青山シアター)、浅井隆(アップリンク・クラウド)、大竹悠介(ブリリア ショートショートシアター オンライン)

松下:一方で、それ以外にも異なる枠組みはありえないだろうか、という思いがありました。うちは国内でもトップクラスの配給作品数なんです。大きな映画から小さな映画まで、そして洋画に邦画、アニメーションまで、雑食であるところがGAGAの特長。そうした作品群を世に出す手段や機会を、もっと作れないか――そうした思いからGAGAシアターをスタートさせたんです。

そこからさらに、映画や映像を見る手段が多様化していく中、他社さんの作品を含めて扱わせていただく青山シアターとしてリニューアルオープンしたんですね。

ギャガ執行役員の松下剛
ギャガ執行役員の松下剛

—そうした雑食なオンラインシアターは、外からはどう見えていらっしゃるんでしょう。

浅井:うーん、iTunesには負けるかな……(笑)。

松下:たしかにそうですね(笑)。でも逆に言えば、そうした網羅するようなサービスはiTunesがやっている。それ以降もNetflix、HuluにAmazonプライムといった定額制動画配信のサービスが続々と上陸しましたけど、そうした網羅的なプラットフォームにユーザーとして登録するのは、一人ひとつで充分じゃないですか?

自分たちとしては、Netflixのようなサービスとは異なる道を探っていきたい。「すべてを集める」というよりは、映画が好きで特定の作品を見たいとか、その「深さ」も大事にしている雑食の人に向けてのサービスとして、存在意義があると思っているんです。

「青山シアター」トップ画面
「青山シアター」トップ画面(サイトを見る

浅井:なるほど。2016年11月にオープンしたアップリンク・クラウドも、配給を手がけている会社が行っている都度課金型動画配信のサービスという点では、青山シアターとほぼ同じです。

アップリンク代表取締役社長の浅井隆
アップリンク代表取締役社長の浅井隆

浅井:ひとつ異なるのは、僕たちは「アップリンク渋谷」という映画館を運営しているということ。日々、いろいろな配給会社の作品を劇場で上映させていただいているわけです。そうした劇場の延長として、まだ自社作品が中心ではあるけれど、オンライン上映をしています。

先ほど定額制サービスの話が出たけど、新作はなかなかそちらで観られないんですよね。彼らもオリジナルの作品を作ってサブスクライバーたちを惹きつけようとしているけど、僕たちは「アーリーTVOD」と言って、劇場公開前、公開と同時、あるいは公開の少し後とケースはさまざまですが、「早い段階でオンライン上映する」という試みを行っています。

「アップリンク・クラウド」のトップ画面
「アップリンク・クラウド」のトップ画面(サイトを見る

—最近だと、アレハンドロ・ホドロフスキーの話題作『エンドレス・ポエトリー』(2016年)も早い段階で「アップリンク・クラウド」で見られるようになっていましたね。

浅井:あれは劇場公開のちょっと後かな。いろいろとテストしているところですね。

—他方、2018年2月に産声を上げたのが「ブリリア ショートショートシアター オンライン」(以下、「BSSTO」)ですね。このたび『第90回アカデミー賞』主演男優賞にノミネートされたティモシー・シャラメや、マイケル・ファスベンダーの主演作などが並んでいます。

大竹:母体となっているのは、1999年に始まって現在に至る、『ショートショート フィルムフェスティバル & アジア』という国際短編映画祭です。世界中から1万本もの短編が集まるんですよ。日本ではなかなかショートフィルムを見る機会がない中、代表の別所哲也が中心となって、良質な短編を紹介すべく、活動を続けてきました。

そうした1年に1度の映画祭に加え、常に短編が上映されている劇場の運営なども行ってきましたが、今度はオンラインで作品をリコメンド、配信しよう、ということで始まったのがBSSTOなんですね。

「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長の大竹悠介
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長の大竹悠介

「ブリリア・ショートショートシアター・オンライン」のトップ画面
「ブリリア・ショートショートシアター・オンライン」のトップ画面(サイトを見る

浅井:定額でも都度の課金でもなく、東京建物の「ブリリア」という名前を冠した、広告(Advertisement)で無料鑑賞してもらえる形式ですね。ちょっと聞いてみたいんだけど、作品のことは普段、「映画」って言っていますか? それとも、「コンテンツ」と呼んでいますか?

「映画」としてではなく、何十本もまとめて「コンテンツ」として扱われがちだな、と実感があります。(浅井)

大竹:僕たちは「映画」、もしくは「ショートフィルム」と言っていますね。オンラインでの短編配信は、普段映画を見ない人にも見てもらえるのみならず、短い時間だからこそ、生活の中のいろんな空き時間で楽しんでもらえるんじゃないか、という思いがあります。

僕たちは「サプリメントムービー」という言い方で、ライフスタイルの中でのショートフィルム鑑賞を考えているんです。いわば仕事帰りに戦闘モードから、プライベートに戻る瞬間、ちょっとショートフィルムを見て肩の力を抜いてもらうようなイメージです。ですから作品も、見終わってポジティブな感情になれるようなものを選んでいます。

大竹悠介
大竹悠介

—映画がより暮らしの中に入っていくイメージですね。

浅井:そうか。いや、なぜ「映画」と「コンテンツ」のことについて聞いたかというと、定額制配信サービスのプラットフォームではどうしても一つひとつの作品、つまり「映画」としてではなく、何十本もまとめて「コンテンツ」として扱われがちだな、というのが実感としてあるからで……。僕もユーザーとしては、定額制配信サービスを楽しんでいるんですけどね(笑)。

浅井隆
浅井隆

浅井:「アップリンク・クラウド」をやっているもうひとつの理由としては、ドキュメンタリー映画を見てもらうためのプラットフォームを自分たちで持たないと駄目だ、という思いもあるんです。

僕らが配給している作品の多くはドキュメンタリーなんだけど、社会派の作品だと、リアルな場、言ってしまえばシネコンではなかなかかけてもらえない。そして、レンタルショップでもドキュメンタリーは、ほとんど棚に入れてもらえないんです。シネコンの論理と同じで、回転する作品から入れていくわけだから。

—ドキュメンタリーを見たい人に届けるための場としての「アップリンク・クラウド」という側面もあるんですね。

浅井:レンタルショップでは大概、ドキュメンタリーというジャンルの時点で、カットされちゃうんですよ。仮に棚に入れてもらったとしても……昔、レンタルショップの店頭でショックだったのは、うちのドキュメンタリーと、白熊のドキュメンタリーが一緒の棚に入っていたこと。

一同:(笑)。

浅井:「ああ、同じなんだな」と思って……(笑)。

才能のある人たちが階段を上がっていくのを、バックアップできればいいなと思っているんですよね。(松下)

松下:僕たちの作品のセレクションとしても、他のところがやっていないものを、頑張って青山シアターで見られるようにできないか、という面があります。いろんな映画祭の人たちと組んでいるのは、そうした流れなんですよね。

—『ぴあフィルムフェスティバル』や、『未体験ゾーンの映画たち』といった映画祭とコラボレーションした特集を組んでいらっしゃいますね。

松下:そうですね、「見たい!」と思ったときに、その作品を見ることができる環境がなかなかない、という限定された状況を変えて、PCでもタブレットでもスマートフォンでも、いつでもどこでも見られるようにできればいいなと思っているんです。

あと最近感じることとして、邦画の中で明確に、インディペンデントとドメジャーの「中間」が存在していないなあ、と。映画祭とのコラボレーションをする過程で、これからメジャーになれるような、実力のあるクリエイターの方と知り合えるんです。配給会社として、彼らをフックアップするお手伝いができるんじゃないか、と。それは青山シアターがなければ、たぶんできない気がする。

松下剛
松下剛

—たとえば、近年注目が集まる今泉力哉監督の作品を青山シアターで取り上げていらっしゃるのも、そうした流れの中での話ですよね?

松下:まさにそうです。青山シアターの取組みの過程で作品を見て、「面白い!」と思って。そこから実際にお会いして、この4月にはギャガが中心になって今泉監督の新作がクランクインするんです。それが、伊坂幸太郎さん原作、三浦春馬さん主演の『アイネクライネナハトムジーク』(今冬公開予定)なんですよ。僕にとっても夢物語のような話です。

今泉力哉監督『パンとバスと2度目のハツコイ』予告編

松下:こうやって、まだたくさんいるはずの、信頼できるクリエイターの人たち、才能のある人たちが階段を上がっていくのを、バックアップできればいいなと思っているんですよね。

—なるほど。この辺り、大竹さんは少し違う感覚をお持ちなのではないかと思うのですが。

大竹:そうですね……。「いい映画ならばお客さんが来る」のはもちろん理想的ですが、それだけでは難しい時代なのではないか、と思っています。関心があるのは、3.11以降の世の中の価値観です。映画ファンの人たちに観てもらうよりも、映画を手段にして生活をより良く変えていこうしている人たちに届けたいです。ミクロな人と人のつながりやコミュニティーに、価値の中心が移って行っているのではないか、ということです。その価値観を、映画を用いてどう届けられるか、ということですね。

リアルな場で映画を紹介することは、人々の記憶に残るために重要だと思います。(浅井)

—BSSTOでは、どう届けようとされているのでしょう?

大竹:BSSTOでは、読み物の記事を充実させようとしています。僕としては、ショートフィルムと同じくらい、掲載している記事も読んでもらいたいんです。屋外映画フェスや、途上国での移動映画館を運営している方など、いろんな映画体験を作っているフロントランナーの方たちのインタビューを載せています。

いま、屋外上映なども含めて、「映画を見ることの価値」が変わってきているような気がするんですよね。いわば「映画×ナニカ」、つまり映画と掛け合わせる「ナニカ」に何が入るのか……たとえば、「映画×誰かとつながること」ですとか、新しい時代の価値観を探っていきたいな、と。語弊がないといいのですが、映画を手段として考えて、面白いことをやっていきたいんですね。

大竹悠介
大竹悠介

—それは、「映画が作品単体で終わらない」とでも言いますか、映画を鑑賞してその作品への感想を抱くだけではないあり方、というような言い方もできる気がしますね。

浅井:なるほど。それはここにいる僕たちの誰もが同じだと思いますよ。取り扱っている映画が長編か短編かの違いだけで。

松下:作品による気もしますけどね。たとえば、オンラインではないですが、『バーフバリ 王の凱旋』などを「応援上映」する劇場も増えたじゃないですか。映画を見て、ただ面白かったと感想を書く、というところじゃないことに楽しみを見出す映画体験は出てきていますよね。作品の特徴に沿って、楽しみ方がより拡大されている。

浅井:うちの映画館でも『バーフバリ 王の凱旋』を上映しているけれど、若い観客がたくさん来てくれます。高校生くらいまでお客さんが広がってきている。それはオンラインで1人で見ているのではできない体験ですし。

『バーフバリ 王の凱旋』予告編

松下:それはインタラクティブな経験ですよね。

—劇場への配給、あるいは映画館の運営をしながら並行して、異なる鑑賞のプラットフォームとしてのオンラインシアターを手がけているお二方の視点としては、とてもよくわかります。

大竹:オンラインでその体験ができるわけではないですが、そうしたインタラクティブな経験や、そこにある価値観を、オンラインで紹介、提案することはできると思うんですよね。

浅井:僕が配給と劇場、オンライン、そのすべてをやって実感するのは、オンラインだけで何かが起きても、ウェブメディアでは記事が出るけれど、従来のメディアはなかなか取り上げない、ということなんですよね。リアルな場でしっかり新しい映画を紹介することも、人々の記憶に残るために重要だと思います。

浅井隆
浅井隆

オンラインシアターは、ひとつのメディアなんですよね。(大竹)

—単に、「映画館をめぐる状況が厳しいからオンライン」ということには、ならないということですよね。

浅井:いや、そもそもいろんなメディアでいわれる「ミニシアターがいま、厳しい」というのは根拠なく言ってることが多いです。確かに東京でもこの10年でいくつかのミニシアターがなくなりましたが、映画館自体の経営の問題とは別の問題ばかりです。

日本全体では少子高齢化で人口が減少していますが、東京、神奈川、埼玉に限ると戦後右肩上がりに人口は増えています。したがって、都心ではミニシアターの動員はどこも伸びているはずです。その証拠に最近いくつかの映画館の椅子は新しくなりましたしね(笑)。ただ、これはあくまで東京でのことで、地方の厳しい状況はアップリンクで配給をしていて実感します。

松下:配給としては、そうした現実の人の流れを踏まえて、1つの作品を公開する劇場の館数を考えているのが現状です。場合によっては絞らなければいけないこともあるので、こうした状況がオンラインシアターによって解決できるならいいですよね。その解決手段がもっと一般的になっていくのは、オンラインシアターとしての、ひとつのあるべき形なのかな、という気がします。

松下剛
松下剛

大竹:なるほど。僕としては、いま余暇の楽しみ方がいろいろあって、音楽を聴いたり、絵を見たり、本を読んだりと、それによって自分の価値観を作っていって、気の合う人と友だちになる、という傾向がある。そのとき、もちろん映画も「共通の話題」のひとつになっている。

好きな映画のジャンルはどんどん細分化されていっていると思いますが、ウェブのいいところは、よりニッチなところに手が届きやすいところ。似たような趣味を持つ人同士が、ネットを媒介にしてつながり合えるんですよね。

右:大竹悠介

—オンラインシアターのひとつの形として、そこでハブになっていく、という考えでしょうか。

大竹:そうですね。若い子たちは、グーグルで検索してウェブサイトを見るより、FacebookやInstagramをチェックする、という比率の方が大きいと思います。映画も含めて、友だちがオススメしているから自分も、という動きがますます強くなっていくのでしょう。

だからこそBSSTOとしては、「僕たちの目線で選んだものを、ここで紹介しているんです」というメッセージを発していきたい。オンラインシアターは、ひとつのメディアなんですよね。そうした役割を、僕たちは果たしていきたいと思っています。

左から:松下剛、大竹悠介、浅井隆

リリース情報
ブリリア ショートショートシアター オンライン

2018年2月14日(水)サービス開始

アップリンク・クラウド
青山シアター
プロフィール
大竹悠介 (おおたけ ゆうすけ)

早稲田大学文化構想学部卒業、同大学院政治学研究科ジャーナリズムコース修了。広告代理店、情報誌制作会社勤務などを経て2016年よりショートショート実行委員会Webマネージャー。ショートフィルムを無料で配信するライフスタイルウェブマガジン「Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE」の立ち上げに携わり、ローンチ後は編集長を務める。マイクロシアターや鑑賞ワークショップなど、映画を軸にした場所やコミュニケーションに関心があり、各地の実践者を取材したインタビュー記事を展開している。

浅井隆 (あさい たかし)

1955年大阪生まれ。1974年演劇実験室天井桟敷に入団し舞台監督を務める。1987年アップリンクを設立。デレク・ジャーマン監督作品をはじめ、国内外の映画を配給。カンヌ映画祭に出品された黒沢清監督作品『アカルイミライ』などの製作プロデュースを担当。2005年には渋谷区宇田川町に映画館、ギャラリー、カフェレストランが集まるカルチャー・コンプレックス『アップリンク渋谷』をオープン。2011年にカルチャー・マガジン『webDICE』、2016年にはオンライン・シアター『アップリンク・クラウド』をスタート。アレハンドロ・ホドロフスキー監督の2017年公開作品『エンドレス・ポエトリー』では、共同プロデューサーを務める。

松下剛 (まつした つよし)

1977年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2000年4月ギャガ入社。宣伝部に配属。宣伝プロデューサー業務を担当。08年7月に宣伝部長、11年7月宣伝部担当執行役員に就任。昨年は『ラ・ラ・ランド』『三度目の殺人』など約30作品の宣伝を統括した。一方で11年から邦画の企画業務も兼任。『味園ユニバース』『映画 みんな!エスパーだよ!』ではプロデューサーを務め、今年はテレビドラマに進出。MBS/TBSドラマ『賭ケグルイ』の企画・プロデュースを手掛けた。最新作は今冬公開の伊坂幸太郎原作、三浦春馬主演の『アイネクライネナハトムジーク』。加えて14年より、自社運営の動画配信サイト、青山シアターを企画・制作・運営する部署の責任者も兼務している。



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