阿部芙蓉美インタビュー 伝えたい想いより、作品の手触りが大事

あるとき、ふと耳にして、気がついたら忘れられなくなっている。シンガーソングライター、阿部芙蓉美の歌には、そんな不思議な魅力がある。彼女の4年振りとなる新曲が、CINRA主催の文化祭イベント『NEWTOWN 2018』で11月10日から販売される。

初めての7インチシングルとなる本作には、最近のライブで欠かさず演奏される“Heart of Gold”と、書き下ろし曲“ゴミ溜めのバラード”の2曲が収録されている。近年はハナレグミや赤い靴などに歌詞を提供し、昨年からはマンスリーライブを行うなど、あくまでも自分のペースで歌の世界を深めていくなか、彼女はどんなふうに歌と向きあっているのか。話を訊いた。

自分の歌をカセットテープに録音して、それを聴きながら、研究して、練習して、それをまた録音して。疑似レコーディングを楽しんでいる子どもでした。

—唐突ですが、「芙蓉美」って珍しいお名前ですよね。これは本名なのですか。

阿部:本名です。私が生まれる予定日が3月だったらしくて、「芙蓉雛」っていうお雛様から名前をとったそうです。

—お雛様からですか。ご両親の気持ちが伝わってきますね。

阿部:でも、生まれたのは2月で、ちょっとフライングしました(笑)。

阿部芙蓉美

—お雛様から名前をもらった阿部さんは、どんな幼少期を過ごしたのでしょう。子どものころから歌は好きでした?

阿部:好きでした。テレビの歌番組が好きで、テレビから歌が流れてくると、家にある楽器を手にして、それっぽく弾いたりして遊んでいました。小学校にあがると、音楽の授業で使うリコーダーとかピアニカを家で弾いていて、相当うるさかったと思います。

—ご両親に怒られませんでした?

阿部:いない隙にやってました(笑)。恥ずかしいから、あまり聴かれたくなかったんです。

—楽器が恥ずかしいのなら、歌なんてもっと恥ずかしいですね。

阿部:歌の練習は、こっそりやっていました。夜になるとラジカセでカセットテープとかCDをかけて、それにあわせて歌ってたんです。

—どんな音楽をかけていたんですか。

阿部:幼いころ歌番組を観て夢中になったのは光GENJIとか工藤静香。昔の曲はすごく練られていて、歌い手さんのイメージも曲に合わせて変幻自在で「いいなあ」って思って聴いていましたね。それで自分の歌をカセットテープに録音して、それを聴きながら、「こんな感じなのか」「もっとこういうふうに歌いたいな」とか研究して、練習して、それをまた録音して。疑似レコーディングを楽しんでいるオタクみたいな子どもでした(笑)。

—小学校のころから疑似レコーディング(笑)。

阿部:最初のころは、「私はこんな声なんだ。気持ち悪いなあ」と思いつつ、それを乗り越えて練習していました。「ビブラートって、どうやってかけるんだろう」とか、いろいろ考えながら。

—熱心だったんですね。

阿部:それで、歌の研究の次は言葉の研究にいったんです。CDのブックレットを見るのが好きで、ブックレットごっこみたいなことをはじめて。最初は好きな曲の歌詞をワープロで打っていました。そうすると本物っぽく見えるじゃないですか。あとは、「これがブックレットに載ってたらいいな」という言葉を、歌詞っぽく並べてみたり。そういう遊びをしていましたね。

阿部芙蓉美『沈黙の恋人』(2012年)を聴く(Apple Musicはこちら

—歌詞を通じて気持ちを表現するというより、ブックレットというモノに興味があったわけですね。

阿部:そうですね。ブックレットを眺めていると落ち着くというか、しっくりくるんです。本は好きだったけど、そんなには読んでなくて。歌詞ぐらいの文字数が並んでいるのを見るのが好きだったんです。そのうちに、歌詞っぽいものを書くようになって。

—阿部さんにとって音楽は一人遊びというか、パーソナルなものだったんですね。

阿部:そうですね。

あれこれ音を重ねるより、本当に必要な音だけで曲を作りたいと思うようになった

—曲を作るようになったのはいつごろからですか?

阿部:北海道の高校を卒業したあと、音楽の仕事がしたくて東京の音楽専門学校に進学したんです。そこで歌を歌ってみたんですけど、ぱっとしなくて「スタッフコースに移ろうかな……」とモヤモヤしていたころに、授業で関わった作曲家の谷本新さんが私の歌を聴いて「いいじゃん」って言ってくれて。

「自分で書いた歌詞とか曲はないの?」って訊かれて「歌詞っぽいものならあります」って、歌詞ごっこで書いたものを見せたら褒めてくれたんです。「これで曲を書けば?」って言われて、「えっ? これでいいんだ」って驚きました。

2006年発表の配信限定シングル

—それまで、自分で書いてきた「歌詞っぽいもの」を曲にしようとは思ってなかった?

阿部:全然。思いつきもしませんでした。こそこそとやっていたものだから、それを発表するなんて考えもしなかったんです。でも、面白いと言ってもらえたので、「じゃあ、やってみようかな」と思うようになって。

そこから2人で曲を作リ始めたんです。2007年にメジャーデビューするんですけど、最初のころは、谷本さんの影響が大きかったですね。

—デビューしてから10年以上経ちますが、最近ではデビュー時に比べると音数が削ぎ落されて、ミニマルなサウンドになっていますね。それは自然な変化だったのでしょうか。

阿部:あれこれ音を重ねるより、本当に必要な音だけで曲を作りたいと思うようになったんです。あと、洋楽を聴くと英語の響きって、日本語と全然違うじゃないですか。英語の響きの心地よさやリズム感といったものに憧れたとき、音数を減らすことが効果的なんじゃないかと思ったんです。

阿部芙蓉美『ABEFUYUMI EP』(2014年)を聴く(Apple Musicはこちら

基本的に書きたいことやメッセージはないんです。

—4年振りの新作となった7インチシングル『Heart of Gold / ごみ溜めのバラード』も必要最小限の音数で、繊細に作り込まれています。トラックを担当しているのは、付き合いが長いDadaDのSHIGEKUNIさん。

阿部:彼のことは100%信頼しています。音楽に対する考え方とか、自分自身と音楽との関係性が似ているんですよね。音数を減らしていく作業も彼から影響を受けているところがあります。

いつも、彼に曲のイメージを伝えて、やりとりを重ねて作っていくんですけど、今回の曲はライブを一緒にやっている東川亜希子さんにも参加してもらったので、3人でいろいろ話をしながら作っていきました。

—“Heart of Gold”は、最近ライブでよく歌っているそうですね。

阿部:“Heart of Gold”は去年からやっているマンスリーライブで毎回歌っています。何気なく作った曲なんですけど、「優しい感じの曲にしようかな」と思って、メロディーに沿って言葉を埋めていきました。

—それで「太陽」とか「温もり」とか、そういった穏やかな言葉を?

阿部:そうです。基本的に、私にはメッセージとか書きたいことって特にないんです。まず、メロディーありき。歌詞は歌うための言葉だと思っていて、「このメロディーを活かすための言葉は何だろう」って考えるんです。あとは全体の構成とかバランスを見て、引っかかるところがあったら、そこを変えていく。そうすることで、曲の内容が変わったりもするんですよね。

—歌詞の内容より、メロディーを活かす言葉の響きが大切なんですね。“ごみ溜めのバラード”は、どういったイメージで作られた曲なのでしょうか。

阿部:家をすごく綺麗にしている人と、そうでない人っているじゃないですか。その人っぽさって家や部屋に出るから、そんなようなテーマが面白いと思って作った曲です。

—たしかに部屋に行くと、その人の素顔が垣間見える気がしますね。何を大切にしているかもわかるし。

阿部:そうそう。別に綺麗でも汚くてもどちらでもよくて。この曲に関しては、どちらかというと相手の散らかった部屋に愛着をもったパターンです。

私自身、音楽の手触りとか存在感に救われてきた人間なので、なるべく、そういう手触りがある作品を作りたい。

—阿部さんの歌詞って、シンプルだけど行間で想像が広がるのが特徴ですよね。サウンドと同じように、いい意味で隙間があるところが魅力だと思います。前作から4年の間に、ハナレグミや赤い靴に歌詞を提供していますが、やってみていかがでした?

阿部:ハナレグミも赤い靴も、すごく好きな人たち。その人たちが書いたメロディーがまずあって、どんな曲にしたいかっていう意見を訊きながら、自分なりに発展させていく。面白い作業でしたね。

—それぞれのミュージシャンの世界観をイメージしながら、歌詞を考えていくわけですね。

阿部:「彼らが今歌うとしたら、どんな内容がいいんだろう」とか「歌詞を渡したら、どう思うんだろう」とかいろいろ考えながら。

—相手のことを想いながら書くっていう意味では、ちょっと手紙みたいなところもありますね。

阿部:ただ相手が納得してくれたらいい、それだけですね。歌詞を提供するのは好きなので、作詞家として経験を積みたいです。

阿部芙蓉美が作詞を手がけた赤い靴の楽曲

—作詞家としての活躍も楽しみですが、シンガーソングライターとしての阿部さんの最大の魅力は歌声だと思います。ボーカルとしての存在感を際立たせるのではなく、楽器の一部のように歌声を聴かせていて、歌声がすっと入ってくる。

阿部:そういうふうに歌うのが自然かな、と思っています。とにかく曲が最高の形になるように歌いたい。曲がよくなるためなら何でもやりたいと思っているので。

—感情を表現するというより、曲に豊かなニュアンスを与えるような歌声ですよね。

阿部:私は曲が仕上がった段階で、自分の感情はすべて消化しているんです。作り上げるまではいろいろ考えているけど、完成したら曲をただ歌うだけ。

阿部芙蓉美『沈黙の恋人』(2012年)収録曲

—阿部さんの歌はメッセージを伝えたり、技巧を凝らしたりするタイプではなく、質感とか空気感を大切にされているような気がします。感覚的というか、独特の手触りみたいなものがある。

阿部:そういうものに触れた瞬間に「あっ!」ってひらめきがある。「これ、いいな」っていう、ひらめきが起きるか起きないか、私の音楽はそこにかかっているんです。自分がどういうふうに音楽を作ったとか、自分の想いがどうしたっていうより、私の音楽を聴いた人が、「あっ!」って思う瞬間があるのかないのか。私自身、音楽の手触りとか存在感に救われてきた人間なので、なるべく、そういう手触りがある作品を作りたいと思っているんです。

阿部芙蓉美1stアルバム『ブルーズ』(2008年)収録曲

無理してやろうとは思っていません。ただ機会があれば、いろんな人と巡り会って作品を作っていけたらいいなって。

—多くの人たちが声高にメッセージや想いを発信している世の中で、そういう感触を大切にして歌い続けるというのは大変ですね。

阿部:例えばどこかで誰かが私の曲と出会って、好きになってくれて、ライブに来て「ありがとう」って言ってくれる。それってすごいことだと思うんですよね。そういう出会いがあるから、音楽はやめられない。

実は、音楽活動はしなくてもいいかなと思っていた時期もあったんです。別の仕事で生計を立てて、音楽はやりたいときにやればいいって。CINRAの採用募集をチェックしたこともありました(笑)。

—そうなんですか!? もしかしたら、取材する側にいたかもしれないんですね。

阿部:面接ではじかれていたかもしれないですけど(笑)。まぁある程度時間を経て、もう一度、人前に出てみようと思ったんです。それでライブをやってみて、お客さんが1人か2人しか来てくれなかったらやめようって決断できたけど、意外と来てくれたんですよね。それで「じゃあ、もう少しやってみよう」って。そういうことの繰り返しです。

—そんな阿部さんが、CINRAの企画で7インチを出すというのも、感慨深い巡りあわせですね。

阿部:ですよね。ずっと「また音源を作りたいな」と思っていたときに今回のお話をいただいて、リリースに向けて作業するという目標ができました。

—さらに、CINRA主催のイベント『NEWTOWN 2018』に出演が決まっています。去年からマンスリーライブをやられていますが、阿部さんにとってライブはどんな場所なのでしょうか。

阿部:とても大切な場所です。しばらくライブをやってない時期があったんですけど、そのころに私の音楽に出会って好きになってくれた人が、「ライブが観たかったんです」って来てくれたりするんですよね。

かと思ったら、前から聴いてくれていた人が、ふと「ライブも観てみたい」と思って来てくれたり。いろんな理由やきっかけでライブに来てくれて、終演後に声をかけてくれる。嬉しいですね。

—これからも音楽は続けていきたいと思われますか?

阿部:どうでしょうね。どういう規模でどういうことをやるのか。それによるんじゃないですか? 無理してやろうとは思っていません。ただ機会があれば、いろんな人と巡り会って作品を作っていけたらいいなって思います。

リリース情報
阿部芙蓉美
『Heart of Gold / ごみ溜めのバラード』(7inch)

2018年11月10日(土)、11月11日(日)よりNEWTOWN先行販売
価格:1,620円(税込)
ALPC-0002

[Side A]
1. Heart of Gold
[Side B]
1. ごみ溜めのバラード

イベント情報
『NEWTOWNジャム・コンサート』

日程:2018年11月10日(土)、11月11日(日)
会場:東京都 多摩センター デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧 八王子市立三本松小学校)
出演(五十音順):
[10日]
阿部芙蓉美
おとぎ話
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プロフィール
阿部芙蓉美
阿部芙蓉美 (あべ ふゆみ)

シンガーソングライター。2007年にメジャーデビュー以降、発表する作品が数多くのCMソングや映画の主題歌に起用される。近年は都内を中心とするライブ活動、CMや他アーティストへの楽曲提供、ナレーションなども行なっている。



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