松居大悟×石崎ひゅーい×タカハシマイ 生き方は一つだけじゃない

生き方の選択肢は、無数に広がっている。たとえば、副業や兼業を推奨するなど、働き方を見直す企業が増えたことで、一つの所属先や肩書きにとらわれない、新しいことに挑戦できる環境は浸透しつつある。そんな風に、いろんな顔を持つこと、いろんな居場所があることは、人との出会いを増やし、自分の可能性を広げる。

松居大悟作・演出による舞台『みみばしる』は、ラジオのリスナーとともに舞台を作るという、メディアの境界を越えた前代未聞の新しい挑戦だ。松居がナビゲーターを務めるJ-WAVEのラジオ番組『JUMP OVER』では、リスナーからのアイデアを取り入れたり、オーディションを通して出演者を募るなど、約1年を通してリスナーとともに舞台を作り上げてきた。主演には本仮屋ユイカ、出演には今作が演技初となるタカハシマイも参加。音楽監督は石崎ひゅーいが務める。

演劇や映画を横断して表現し続ける松居大悟と、シンガーソングライターでもありながら、役者としての顔も持つ石崎ひゅーい。そしてバンドCzecho No Republicで音楽活動をしながらモデルとしても活躍するタカハシマイ。肩書きにとらわれない3人は、これまでどんな経験を経て、表現の場所を広げてきたのか? 広げた先には、どんなことが待ち受けていたのか? 3人が表現活動を始めたきっかけを振り返りながら、舞台『みみばしる』に迫った。

「演劇だけを続けていても、限界ありそうだぞ」と思い、自主映画を撮り始めた。(松居)

—表現者には、一つのことを突き詰めるタイプもいれば、いろんな表現を横断する方もいると思います。みなさんは、いろんな顔を持ちながら、領域を超えて表現活動をされていらっしゃいますよね。

松居:たしかに。ひゅーいもマイさんも僕も、音楽だったり役者だったりモデルだったり、いろんなことをしてますね。

—みなさんは、どんなきっかけや経験を経て、いろんなことに挑戦するようになっていったんでしょうか?

松居:僕は、もともとは漫画家になりたかったんです。一つの世界を作りたいと思って、中学生のころから漫画を描いていたんですけど、挫折しちゃって。

それから、誰かと一緒に世界を作りたいと思って、大学で演劇を始めたんですよね。演劇は、人が集まれば世界が作れるから。演劇、映画、ミュージックビデオ(以下、MV)、ドラマ、それぞれアプローチの仕方がちょっとずつ違うので、より別の世界の作り方ができると思って、いろんなものに手を出して広げていった感じでした。

左から:松居大悟、石崎ひゅーい、タカハシマイ

—なぜ、漫画家に挫折したんですか?

松居:一人で漫画を作ることに限界を感じたんです。だから、演劇にいったのは逃げですよね。漫画から逃げたかった。

—松居さんはそこからさらに、映画やMV、ドラマなどにも場所を広げています。

松居:それも、「演劇だけをずっと続けていても、限界ありそうだぞ」って思って、自主映画を撮り始めたんです。逃げるようにいろんなことをやっていたんで、そんなにポジティブな感じじゃなかったですね。結果的に、いろいろやってきたから今帰ってこれた感じもありますけど。

でも、MVを作るきっかけは、人との出会いでした。音楽はもともと大好きだったんですけど、自分ではできないから、ミュージシャンに憧れを抱いていて。それで、クリープハイプの尾崎(世界観)君とか、ひゅーいとかと出会って仲良くなったときに、MVを撮りました。そういう、人との出会いがあって表現の場所が変わっていったのもありましたね。

松居大悟

歌った瞬間に、すっごくモテたんです。(石崎)

—ひゅーいさんは、どんなきっかけでしたか?

石崎:僕は、中学2年のときに演劇をやったんですよ。母親は僕のことを役者にしたかったみたいで、児童劇団に入っていたんです。夏休みの稽古も発表会も、すごく楽しくて。

その後、学園祭のときに友達に「バンドをやるから歌ってくれないか」って誘われて、初めて歌ったんです。母親には「また演劇をやってね」って言われたんですけど、いかんせん、音楽はモテるわけですよ。

松居:あー。

石崎:歌った瞬間に、すっごくモテたんです。でも、演劇はモテないんですよね。中学2年なんて、とくに。

松居:むしろ、ちょっとダサいとされるよね。

石崎:そう、演劇はダサい分野に入っていた。そのことに気付いてから、モテたいって理由だけで音楽にいきました。

石崎ひゅーい

—でもひゅーいさんは、役者の顔もありますよね。松居さんの『アズミ・ハルコは行方不明』(2016年)にも役者として参加されていますが、それはどんなきっかけだったんですか?

石崎:それは、松居くんが声をかけてくれたのがきっかけでした。お芝居に対する憧れはずっとあったんですよ。中学生のときにやっていたから、観にいくのも好きで。お芝居をやりたい思いはずっとあったので、挑戦するきっかけを松居くんとかが作ってくれたんです。実際にやってみたら、これはまた楽しかったですね。

松居:ひゅーいがすごいのは、撮影の後にめっちゃ曲を作るところなんですよ。役者で得たものを、ちゃんとミュージシャンに返してるんだなと思って。

石崎:そうそう。演劇とか役者をやるのって、僕にとってインプットなんですよね。だから、この『みみばしる』の現場にいるといろいろ溜まっていくので、それを音楽に返すような感じ。松居くんと仕事をやらせてもらうと、いっぱい曲ができるんですよね。

音楽をやりたかったけど、モデルとしての方が取り上げていただけるようになって。(タカハシ)

—マイさんは、表現の場所を広げていったのは、どんなきっかけがあったんですか?

タカハシ:もともと歌うことが好きで、バンドをやっていたんです。高校を卒業して、音楽をやるために上京しました。そのときに、ファッション誌の方に街で声をかけられて、雑誌に出たのがきっかけでモデルの活動を始めました。

音楽をやりたかったんですけど、モデルとしての方が取り上げていただけるようになっていって。なので、モデルから音楽に挑戦したという感覚ではなかったです。

タカハシマイ
松居:モデルから、どうやって音楽にいったの?

タカハシ:当時、雑誌のプロフィール欄に「音楽やってます」みたいな、一言コメントを書けたんですよ。そしたら、それを見たレコード会社の方が「歌を聴いてみたいです」って連絡をくれて。それがきっかけで、いろいろ経て今のバンドにいるという感じです。

石崎:へー! すごい。

—『みみばしる』では、役者にも初挑戦ですよね。

タカハシ:お芝居自体は少しやったことがあるんですけど、長い公演は初めてですね。いつか挑戦してみたいと思っていたので、今回、初めてオーディションを受けて。お稽古が毎日楽しくて、本当にやってよかったと思っています。

演劇や映画は関わる人数が多いし、いろんな感覚を持ってる人がいて、外国に来た気分になれるんです。(石崎)

—逃げとかモテたいとか、案外、何かを始めるきっかけは、そういうエネルギーだったりするものなんですね。いろんな肩書きや居場所があることは、みなさんにとってどんなプラスがありましたか?

松居:僕は、自分が閉じなくなりました。演劇しかやってなかったころは、周りにいる人はみんな演劇しか愛していなかったんですけど、僕は、芸術は全部対等であると思っていて。いろんな表現方法の一つとして演劇がある。ひゅーいやマイさんもきっと、全ての芸術をリスペクトしているんです。だから話が合う。

20代前半で演劇しかやってなかったときは、すごく血の気が多くて、いつも自分を追い込みながら生きていたから、日々疲れていたんです。いろんなことができるようになってからは、いっぱい呼吸ができるようになりました。

松居大悟

—居場所が多いほど、出会う人も増えていきますね。

松居:そうそうそう。

石崎:音楽の現場って、けっこう閉鎖的なんですよ。とくに、僕みたいなシンガーソングライターは一人で作っているし、自分から会いにいかないと人に会えないんです。

でも、演劇とか映画は関わる人数が多いし、作品ごとに人が入れ替わる。そこにはいろんな感覚を持ってる人がいっぱいいて、外国に来たみたいな気分になれるんですよね。それが、さっき言ったようなインプットの感覚なんだと思います。いろんな人に会えるのは、刺激的ですね。

石崎ひゅーい
タカハシ:自分を出す場所がたくさんあることは、安心感がありますよね。たとえば、バンドだけじゃ出しきれない自分を、モデルやお芝居でなら出せる。たくさんの場所があるって本当に贅沢だなと思います。

松居:オーディションでマイさんがお芝居したとき、「ミュージシャンが芝居やってます」ではなく、めちゃくちゃ誠実に台本を信じてお芝居してくれていたんです。2日前に渡した台本を、全部ちゃんと覚えてきてくれて。今回一緒にやりたいと思った人は、僕たちを信じてくれてると思ったから、僕もこの人を信じたいって思った人ばかりで。

タカハシ:よかったー。じつは、台本をいただいてから14時間くらい練習したんです……。だけど、松居さんにそう言ったら「そんなに練習しないで!」って、ちょっと引かれました(笑)。

タカハシマイ
松居:(笑)。舞台は長期間拘束されるし、ギャラもそんなに良いわけではないし、挑戦するってリスクだらけだと思うんですよね。マイさんは本職において、すでにキャリアがあるにもかかわらず、一般参加の人たちと並列で並べられるオーディションを受けてくれて。

そんな中で、台本を真剣に信じて、覚えて、やってくれたのが伝わってきた。ものすごく、境界を越えようとしているって僕は思ったんです。

タカハシ:ありがとうございます。

松居:稽古が始まってから知ったんですけど、すごい思い切りがいいんです、マイさん。恥ずかしがって、できないこともあったりすると思ったら、率先してボケとかも乗っかってくれたり(笑)。頼もしいです。

僕はいろんなものが交わりあった作品を作ってきましたけど、多分今回は、その究極なんだと思います。(松居)

—『みみばしる』自体、ラジオであり演劇であるという、横断や越境を体現した作品ですよね。松居さんの得意とする表現なのかなと思いますが、ラジオと演劇の境界を越えるというアイデアはどういうところから生まれたんですか?

松居:J-WAVEさんが初めて演劇をやりたいということで、どんな作品が面白いか考えたとき、プロデュース公演として、ただJ-WEVEの冠だけある舞台をやるのは新しくないと思いました。やるなら、ラジオと組むことでしかできない演劇にしたいと思ったんです。それで、舞台の制作過程をラジオで実況しながら作るのが面白いんじゃないかってアイデアが出てきて。

松居大悟

—リスナーから募集したアイデアを作品に取り入れたり、リスナーから出演者を出すことも、最初から考えていたんですか?

松居:そうですね。ラジオ番組の内幕もののドタバタ劇は、ドラマは作りやすいけど、新しさはないのでやりたくなくて。それで、ラジオのリスナーを主役にした劇を作りたいと思ったんです。

だからこそ、『JUMP OVER』という番組を通してリスナーと交流しながら、どんな風にラジオを聴いているとか、ラジオで人生が変わったり心が揺さぶられたりした体験を募集して、それを演劇に乗せて作りたいと思ったんです。僕はこれまで、いろんなものが交わりあったりクロスオーバーした作品を作ってきましたけど、多分今回は、その究極なんだと思います。

出演者も音楽も、みんなごちゃ混ぜのクロスオーバーな感じ。そういう人たちが一斉に走り出す作品です。(石崎)

—ひゅーいさんの音楽も作品の重要なポイントなのかなと思いますが、どんなやりとりを重ねて作られたんですか?

松居:僕がひゅーいの家に行って、こんなシーンでこんな曲がほしい、ということを伝えて作っていってもらいました。音楽も台本と並行して作っていたんですけど、「この部分のストーリーどうしよう」ってときに、ひゅーいから上がってきた曲がカレーライスをテーマにしてて、ストーリーにすっごくしっくりきたんです。それで、カレーライスのシーンができたりもしました。だから、音楽も台本も相互的に影響を受け合っていましたね。

左から:松居大悟、石崎ひゅーい
タカハシ:ってことは、曲ができるまでは、カレーライスの部分のストーリーはなかったんですか?

松居:そうそう。劇中劇のストーリーをどうしようと思っていたときに、ひゅーいから“カレーガール”っていう曲が上がってきて。そこから、カレーライスの劇にしようってことで作りました。

タカハシ:え! すごい、そうだったんですか!

—マイさんは、歌ってみてどうでしたか?

タカハシ:これまで自分では歌ったことのない感じの歌詞で、面白かったです。<干したままのブラジャーとパンツ>とか、<牛肉か豚肉かで悩む>とか(笑)。

タカハシマイ
石崎:よかったです。怒られたらどうしようかと思ってました(笑)。今回は、松居くんが詞を書いてくれた曲もあるんですよ。

タカハシ:そうだったんですか!

—どんな歌詞なんですか?

松居:なんか恥ずかしいな(笑)。みんなでとりあえず踊ろうぜ、言葉なんてどうでもいいから、とりあえず集まろうぜ、みたいな感じの歌ですね。ひゅーいが作ってくれた音楽は、どれもすごい素敵です。

石崎:出演者も音楽も、みんなごちゃ混ぜのクロスオーバーな感じなんですよ。そういう人たちが一斉に走り出すような作品なんです。だから、観終わった後に走り出したくなるような作品になったらいいなと思って、音楽をがんばって作りました。

松居:出演者もスタッフも僕も初めての挑戦をしていて、きっとみんな一人ひとり足が震えながら日々やってくれている。だから、現状に悩んでいたり、新しいことをやってみたいと思っていたり、言葉にできないモヤモヤを抱えていたりしている人の背中を押してあげられる作品だと思います。

イベント情報
『みみばしる』

2019年2月6日(水)~2月17日(日)
会場:東京都 下北沢 本多劇場

2019年2月23日(土)~24日(日)
会場:福岡県 久留米シティプラザ 久留米座

2019年3月1日(金)~3日(日)
会場:大阪府 近鉄アート館

作・演出:松居大悟
音楽監督:石崎ひゅーい
主演:本仮屋ユイカ

『「アイスと雨音」本多劇場 特別上映&トークイベント』

2019年2月12日(火)
会場:東京都 下北沢 本多劇場

プロフィール
松居大悟 (まつい だいご)

1985年11月2日生まれ、福岡県出身。ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。12年に「アフロ田中」で長編映画初監督。その後「スイートプールサイド」、「私たちのハァハァ」、「アズミ・ハルコは行方不明」など監督作を発表、枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。近年は、テレビ東京ドラマ「バイプレイヤーズ」シリーズ、若者たちの1ヶ月間を74分ワンカットで撮った「アイスと雨音」、「君が君で君だ」など。ナビゲーターを務めるJ-WAVE『JUMP OVER』は毎週日曜23時から放送中。

石崎ひゅーい (いしざき ひゅーい)

本名。母親がDavid Bowieのファンで、その息子がZowie(ゾーイ)という名前だったことから、もじって、Huwie(ひゅーい)と名付けた。2012年7月25日にミニアルバム「第三惑星交響曲」でデビュー。感情のままに歌うまっすぐな声と全てのエネルギーを爆発させるライブパフォーマンス。ソロアーティストとしてのスケールを無視する規格外なシンガーソングライター、石崎ひゅーいが出現した。松居大悟監督・蒼井優主演「アズミハルコは行方不明」(2016年)にてスクリーンデビュー。舞台『みみばしる』では音楽監督を務める。

タカハシマイ

バンド「Czecho No Republic」のギター / シンセサイザー / ボーカル担当。2013年に日本コロムビアよりメジャーデビュー。カラフルでポップでファンタジックなサウンドに、男女のボーカル、多重コーラスが織り成す多幸感溢れる楽曲・ステージは必聴必見。テレビ東京『音流~ONRYU~』MC担当。2019年2月からは、松居大悟作・演出、本仮屋ユイカ主演舞台『みみばしる』に出演する。2019年春にCzecho No Republicの新EPリリース決定!5月からは全国10箇所を回る、ワンマンツアー『ツアーオデッセイ~未知との遭遇2019~』を開催。



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