KEN THE 390を変えた3つの出会い。自分らしく闘ってきた道のり

「音楽との偶発的な出会い」をコンセプトに、東京・銀座にある「Ginza Sony Park」で毎週金曜日の夜をはじめ、不定期に行われている入場無料のライブプログラム『Park Live』。毎回、ジャンル、世代、国境を超えた様々なアーティストが出演するこのイベントに、去る5月24日、MCバトル番組『フリースタイルダンジョン』の審査員でも知られるラッパーのKEN THE 390が出演した。

KEN THE 390は、Ginza Sony Park内にあるサテライトスタジオ「TOKYO FM | Ginza Sony Park Studio」にて毎週金曜日に公開生放送しているラジオ番組『TOKYO SOUNDS GOOD』のメインパーソナリティーも務めており、Ginza Sony Parkにゆかりのある人物だ。ラジオの生放送を終えた後のライブとなったこの日のステージの模様を、終演後のインタビューと共に振り返る。

「枠の外にいる人たちに対する憧れは、いまでも残っている気がします」

この日の「Ginza Sony Park」地下4階は、フロア中央には飲食を楽しみながらライブ鑑賞できるテーブル席が設置されており、その周りを取り囲むようにスタンディングの観客がステージを見つめている。

さらに、KEN THE 390と共に『TOKYO SOUNDS GOOD』でパーソナリティーを務めるチーム未完成の砂糖シヲリの司会で始まるという、様々な面で通常のライブとは違った特殊な空間だったが、KEN THE 390は1曲目“Rain”からDJと生ドラムをバックにした3人編成の強みを生かし、屈強なパフォーマンスを繰り広げる。そのステージ上の立ち姿からは、どんな場所でも関係なく己を貫き通すことができそうな力強さを感じさせた。まずは終演後、彼にとってのライブ作りに対する考え方を聞いてみた。

ライブ中の様子

―今日のライブはいかがでしたか?

KEN THE 390:今日はスタンディングと座りが混ざっていたので、最初はビックリしましたけど(笑)、「よく見てくれている」っていう空気感もひしひしと伝わってきたので、普段、オールスタンディングでやるときには勢い任せになりがちなところを、「丁寧にやるべきところは丁寧にやろう」っていう集中力を発揮できた気がしますね。あと、銀座のビルでヒップホップをガンガンに鳴らしてできるっていうのは、いいですよね(笑)。

―KEN THE 390さんにとって、理想の「ライブ作り」、ひいては「場作り」というものは、どのようなものなのでしょう?

KEN THE 390:僕が自分のライブに求めるものって、「場作り」というよりは、とにかく自分自身が身軽でありたいっていうことなんです。ラッパーだから、どんな場所にだって行くんですよ。だからこそ、常に「手ぶらで、いつでも行けるぜ」感を持っておきたいというか。

もちろん、構築していくライブも素敵だと思うんですけど、究極は、「いまからここでライブをしてください」と言われても、確実にその場を盛り上げてサッと帰っていくようなことができれば、かっこいいと思うんです。もちろん、それは適当にやる、ラフにやるっていうことではなくて。身軽であるには経験値が必要だし、「ここではこの曲だ」っていうことを瞬時に判断できる「場を読む力」も必要になってくる。そういう能力に憧れがあるんですよね。

KEN THE 390(けんざさんきゅーまる)
1981年6月17日生。ラッパー、音楽レーベル「DREAMBOY」主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年にアルバム『プロローグ』をリリース。2011年12月に主宰レーベル・DREAMBOYを設立し、活発なアーティスト活動を続けながら、レーベル運営からイベントプロデュースに至るまで多岐にわたって活躍している。

―身ひとつで動くというのは、粋な感じもしますよね。今日、砂糖シヲリさんとのトークで、任侠映画がお好きだというお話もされていたじゃないですか。そういった感性も、「身ひとつ」で動くということへの意識につながっていたりしますかね?

KEN THE 390:どうでしょうね?(笑) でも、僕がヒップホップを好きになったきっかけも、枠外の人のかっこよさに憧れた部分はありますからね。

僕は高校で進学校に通っていたので、勉強もするし規則も守る真面目な生活を送っていたんです。そういうときにラッパーという存在を見ると、彼らはまったく規則を守っていなくて(笑)。無茶苦茶な人も多かったけど、それがすごくかっこよく見えたんですよね。「この人たちは、自分が持っていないものを確実に持っているんだ」と思った。

いま、大人になった自分がそういう人たちの真似をするかと言えば、そうではないですけど、でも、枠の外にいる人たちに対する憧れは、いまでも残っている気がします。だから、任侠映画やメキシコのカルテルものの映画なんかも好きなんですよね。

ライブ中の様子

「自分らしくいながらヒップホップをやる道を作る貢献を、自分はしてきたと思います。風当たりも強かったですけどね」

発言からもわかるように、KEN THE 390は独自の距離感でヒップホップに向き合い続けてきたアーティストだ。彼の端正なルックスや身のこなし、あるいはデビューした当初は会社員をしていたという出自は、「はみ出し者」的な旧来のラッパー像からはかけ離れたものでもあった。

しかし、そのラッパーとしてのアンビバレントな佇まいこそがKEN THE 390の魅力であり、この日のライブでも、その人柄から滲む「ジェントルさ」と、時折溢れ出る「やんちゃさ」が混ざり合うことで生まれる特異な魅力を強く実感することができた。彼は一体どのようにして、他の誰とも違うスタンスを築き上げることができたのだろうか。

KEN THE 390:ヒップホップは、僕が始めた頃よりも、いまはすごく風通しがよくなったと思うんですよ。先輩後輩関係においても、いまは誰かの下につかなくても有名になることができるし、どんな服装や髪形をしていても、「そんな格好をしているのはヒップホップじゃない」なんて言われることはない。そんなことを言っているほうが野暮だと思われる時代になっていますよね。

でも、そういう空気はいきなり生まれたものではなくて、すごく長い時間をかけてできてきたものなんです。その長い時間のなかで、自分らしくいながらヒップホップをやる……そういう道を作るための貢献を、自分はしてきたと思います。もちろん、風当たりも強かったですけどね。

―風当たりのなかで、ここまでご自身の姿勢を変えずに活動し続けることができたのはなぜだったのだと思いますか?

KEN THE 390:僕は、「自分はラップミュージックではあるけど、ヒップホップではない」みたいなスタンスには行かなかったですからね。あくまでも「ヒップホップであること」にこだわり続けてきたし、アンダーグラウンドのヒップホップシーンにい続けたからよかったのかなと思います。

オーバーグラウンドのシーンでは、KREVAさんのような人がヒップホップのイメージを変えてきたと思うんですけど、普通のルックでありながらもアンダーグラウンドにいて、MCバトルにもガンガン出ていくっていうことを矢面に立ちながらもやり続けてきたのは、僕ら世代の数少ない人たちが頑張ってきたことだと思うんですよね。

ライブ中の様子

―そうした活動のなかで、悩まれたことはありますか?

KEN THE 390:いっぱいありますよ。僕はヒップホップに対して「自分と違うから」という理由で憧れを抱いた人間だし、勉強すればするほど、ヒップホップはルードな部分がエネルギーになるカルチャーだっていうこともわかってくる。でも、そうじゃない自分がいて、それでも、ヒップホップを好きになってしまった……そこには常に葛藤はあります。

僕はMCバトルに出ていたから、自分を保つことができたんだと思うんですよね。MCバトルに出ると、自分が葛藤している部分を、相手にストレートに指摘されるんですよ。でも、「うるせぇ、何が悪いんだ」って、相手に言い返す。それを、ずっとお客さんの前で繰り返してきたんです。その経験が、自分のメンタルにとってはプラスになっていたんだと思います。

―確かに、MCバトルで言い返すということは、世の中に向けて自分のスタンスを主張することにもつながりますもんね。

KEN THE 390:そう、ちゃんと指摘されて、ちゃんと言い返してきたのがよかったと思います。それができなければ、メンタルは屈折していたかもしれない。「思われているだけ」だとどうしようもないけど、直接言ってくれて、それに言い返すことができると、そこにはコミュニケーションが発生するんですよね。そうすれば、自分とは違うスタンスでいる人たちとも、お互いに理解し合える。

やっぱり、交わって、ぶつかり合わないと、わかり合えないまま断絶していくだけなんですよ。MCバトルって、どんなスタンスであろうと同じ板の上で向き合わされるので。その衝突によって生まれるコミュニケーションがあってよかったと思いますね。

「自分自身と向き合ったときに生まれてきたのは、クラブの『アゲ』とは逆の質感を持った曲だったんです」

この日のライブは、アルバム『Unbirthday』のリリース直後ということもあって、新作からの楽曲がメインのセットリストとなっていた。『Unbirthday』には、「誕生日以外の日=なんでもない日」という意味が込められているという。

この日も披露された“何もしたくない”や“どうでもいい”などは、日々の退屈にもそっと寄り添い、音楽としてすくい上げるような魅力を持つ楽曲たちだ。その「生活」と歩調のあった楽曲たちは、見栄を張るのでなく、若者に合わせるのでもない、「自分自身に向き合った曲を歌う」というKEN THE 390の姿勢を感じることができる。

KEN THE 390『Unbirthday』を聴く(Apple Musicはこちら

―新作『Unbirthday』の楽曲は、非常にKEN THE 390さんにとっての「年相応」な質感があるなと思ったんです。だからこそ、すごく身に沁みるというか。

KEN THE 390:確かに、いまの自分の年相応のアルバムになりましたね。結局、ヒップホップって、どんなスタイルで曲を書こうと「俺」が主人公になるんです。だから、いまの僕が20代前半の「俺」みたいな曲を書いてしまうと、どうしても違和感が出てくるものなんですよ。

今回のアルバムは「アゲ」を求められるクラブのような場所で盛り上がる曲は少ないと思うんです。でも、「いまのラッパーはこういうものを求められている」っていうことではなく、自分自身と向き合ったときに自ずと生まれてきたのは、クラブの「アゲ」な感じとは逆の質感を持った曲たちだったんですよね。

―『Unbirthday』というタイトルも、まさにそれを表していますよね。要は「パーティーじゃない日々」ということでもあると思うし。

KEN THE 390:『Unbirthday』っていうタイトルは、言葉のなかに否定形が入っているのもいいなと思ったんです。「なんでもない日」と直接言うよりは、「Un」っていう言葉があることによって、ニュアンスが強くなる。それが、いまの自分のスタイルを表現する言葉として打ってつけじゃないかなと思ったんですよね。

KEN THE 390のキャリアを変えた、3つの出会い

先にも書いたように、この「Park Live」は「偶発的な出会い」をコンセプトに掲げられたライブイベントだ。デビューから10年以上の月日が経ち、他の誰とも違う足跡を日本のヒップホップシーンに築き上げてきたKEN THE 390に、彼を形成してきた「出会い」についても聞いてみた。

―KEN THE 390さんのキャリアのなかで、エポックメイクな「出会い」というと、誰との出会いを思い浮かべますか?

KEN THE 390:自分のキャリアを変えてくれた出会いでいうと、3人います。まずはダースレイダーですね。僕が大学生のときに「Da.Me.Records」という自主レーベルを仲間たちと作ったんですけど、彼は、そこのボスだったんです。

当時、彼の家に行くと、暇な人たちが集まっていたんですよね。そこにはゲームをやっている人もいれば、歌詞を書いている人もいて、みんなで溜まりながら遊びで作ったラップを、ダースレイダーがパッケージングしてリリースしてくれたっていう。あの頃、ダースレイダーの家に集まっていたのは、僕も含めて、アウトローじゃない人たちばかりで。こんな自分たちでも、固まって好きなラップを続けていれば、仕事に繋がっていくっていうことを教えてもらいました。

KEN THE 390:それからラップでデビューして、会社員を辞めた後に、RHYMESTERのMummy-Dさんが、SUPER BUTTER DOGの竹内朋康さんとやっていたマボロシっていうユニットの客演に、僕とTARO SOULを呼んでくれたことも大きいです。それが、僕にとっては初めてのメジャーの客演だったし、それをきっかけに全国ツアーも連れていってもらえたんです。

自分たちを待っている何百人、何千人という人を相手にするツアーというのを、そのとき初めて経験して。それによって意識が変わった部分は大きかったと思います。やっぱり、言われるだけじゃわからないことって多いけど、実際に見せてもらえたことによって、背中から伝わってくるバイブスがあった。それを感じることができたから、「楽しいだけじゃなくて、もっとストイックに、この世界で勝負したい」って思えましたね。

その後、自分自身もメジャーに行って、そこで上手くいくこともあればいかないこともあって、独立した後に声をかけてくれたのがKREVAさんでした。KREVAさんは『908 FESTIVAL』(KREVAが主催する音楽イベント)にも呼んでくれて、アリーナや武道館の規模でライブをするとはどういうことかを、身を持って見せてくれた気がします。

あの規模になってくると勢いでは通用しない、精密さが求められるというか。お客さんも、ステージと同時にモニターを見ていたりするわけで、じっくり見られている。大きい規模でやるからこそ生まれるストイシズムを、KREVAさんからはすごく感じました。

「若者が簡単にヒップホップを始められる状況になっているのは、めちゃくちゃいいことだと思う」

この日のライブのラストで演奏されたのは、“Funk U Up”。<昔の俺はもういない / 現状維持なら停滞>とラップされるこの曲は、自分のスタンスで周りを納得させながら歩き続け、年齢と共に変わり続けてきたKEN THE 390のスタンスを見事に象徴しているような1曲だ。いま、KEN THE 390はヒップホップの状況に対して、そして若いアーティストたちに対して、どのような想いを抱いているのだろうか。最後に聞いてみた。

KEN THE 390:若者たちが簡単にヒップホップを始められる状況になっているのはめちゃくちゃいいことだと思うんですよ。いまは自己表現を始めようと思ったら、ギターを持つよりも、ヒップホップのほうが速度は早いですよね。それに、僕が高校生の頃はRIP SLYMEやKICK THE CAN CREW、キングギドラのような人たちが売れていたので、彼らに憧れる若者は多かったですけど、それから5年くらいしたら、リスナーの年齢層が上がっていくだけの辛い季節がやってきたんです。

それが、いまは『高校生ラップ選手権』や『フリースタイルダンジョン』のおかげで、もう1度ヒップホップが「若者の音楽」に戻っている。それはすごくいいことだと思います。やっぱり、「持たざる者」がアイデア一発で逆転できるのが、ヒップホップの素晴らしさなので。そういうなかで、いまは実力主義だから、いいものを残せた人が勝つ時代になっている。それは本当にいいことだと思いますね。

ライブ中の様子

―本当にいまは、実力や作品性で評価される時代になっていると思います。

KEN THE 390:だからこそ、僕らくらいの世代の人間が、若い人たちがより活動しやすい環境にできればいいのかなと思います。もっともっと若いスターの数は増えてほしいですからね。なので、自分がやっているラジオでも若いアーティストの曲はいっぱい流したいです。

SoundCloudやYouTubeに音源を上げるのは、若者たちが自分たちの手でできると思うけど、不特定多数の人の耳に入るラジオのような場所で曲が流れるのってやっぱり嬉しいし、自分はいま、それをできるポジションにいますから。それは、積極的にやっていきたいと思いますね。

イベント情報
『Park Live』

2019年5月24日(金)
会場:Ginza Sony Park 地下4階

ライブハウスともクラブとも一味違う、音楽と触れ合う新たな場となる"Park Live"。音楽との偶発的な出会いを演出します。
開催日:毎週 金曜日20:00 - 、不定期

リリース情報
KEN THE 390
『Unbirthday』(CD)

2019年5月22日(水)発売
価格:3,240円(税込)
DBMS-0045

1. You Like That
2. Rain
3. Black Hole
4. Won’t Stop
5. Nobody Else feat. ACE COOL.MOMENT JOON
6. Let Me Know
7. 何もしたくない
8. どうでもいい
9. Secret feat. Ymagik
10. Hollywood
11. Play That Music

イベント情報
『KEN THE 390 Unbirthday’s Birthday Tour』

2019年7月18日(木)
会場:東京都 WWW

2019年7月20日(土)
会場:福岡県 Kieth Flack

2019年7月25日(木)
会場:愛知県 名古屋 HeartLand

2019年8月3日(土)
会場:大阪府 CONPASS

プロフィール
KEN THE 390
KEN THE 390 (けんざさんきゅーまる)

1981年6月17日生。読みはケン・ザ・サンキューマル。ラッパー、音楽レーベル”DREAMBOY”主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年に1stアルバム「プロローグ」をリリース。2011年12月に主宰レーベル・DREAM BOYを設立し、活発なアーティスト活動を続けながら、レーベル運営からイベントプロデュースに至るまで多岐にわたって活躍している。現在はテレビ朝日系で放送中のMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員としてもレギュラー出演中。2019年5月に10枚目のフルアルバム「Unbirthday」をリリース。



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