スカパラ谷中敦×藤枝伸介に訊く「カッコいい大人」でいるために

たった2本のサックスで奏でる、バトルのような音楽

「偶発的な出会い」をコンセプトに、東京・銀座の「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」で開催されているライブプログラム『Park Live』。2月11日、その『Park Live』に東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦とi-dep / Sound Furnitureの藤枝伸介によるサックスデュオ・2 of a kindが出演した。

『Park Live』は、ライブハウスともクラブとも一味違う、音楽と触れ合う新たな場。CINRA.NETでは、これまで『Park Live』に出演したさまざまなアーティストを取材。15歳のトラックメイカー・SASUKEやシャムキャッツのインタビューを実施してきた(参考記事:「デビューから10年を迎えるシャムキャッツ 目指すは争いなき場作り」

左から:藤枝伸介、谷中敦

さまざまな種類のクラフトビールが飲める、落ち着いた雰囲気のGinza Sony Park地下4階には30代から50代の男女が集まっている。谷中、藤枝のファンはもちろん、連休最終日の銀座を散歩中に今日のイベントを知り、ふらりと立ち寄った人もきっと多いだろう。いわゆる通常のライブイベントとは一味違った高揚感が会場全体を包み込んでいた。

開演時刻の19時を回り、颯爽とステージに登場した2人。まずは指慣らしとチューニングを兼ね、お互いバラバラに吹き始めたフレーズが徐々に響き合い、規則性を帯びながら気づけば1曲目“Happily Ever After”へと変わっていた。谷中のバリトンサックスがリフを奏で、その上で藤枝のソプラノサックスが縦横無尽に駆け回る。かと思えば藤枝がサポートに回り、谷中がソロを受け継ぐなど、文字通り「組んず解れつ」のサックスバトルが1曲の中で何度も展開された。

「似た者どうし」という意味を持つ2 of a kindが結成されたのは、今から10年近く前。東京タワーのふもとにあるカフェで、谷中が詩を朗読するというパフォーマンスに、藤枝がサックスで参加し意気投合したのがそもそものキッカケだったという。終演後のインタビューで、藤枝は2 of a kind結成時を振り返り、こう語った。

藤枝:どういう編成でやるかいろいろと考えたのですが、最終的に「サックス2本だけでいいんじゃない?」という話になったんです。お互いにソロを取りながらアンサンブルが続いていくスタイルって実はあまりないし、僕らはストリート出身だからパフォーマンスとしても面白いものになるんじゃないかと。

藤枝伸介

続く“Marriage In Clover”は、ディキシーランドジャズをベースとしつつもさまざまな音楽的要素が散りばめられた楽曲だ。たった2本の単音楽器が入り乱れるアンサンブルは、どこかバッハを彷彿とさせるし、延々と繰り返されるリフレインにはハウスミュージックの陶酔感に通じるものもある。もちろん、谷中のスカや藤枝のジャズなど、それぞれが主戦場で培ってきたスキルもふんだんに盛り込まれている。

谷中:最初に2人でスタジオ入りしたときは、それこそバッハのインベンション(2声体の鍵盤楽曲)を試してみましたね。ピアノでいうと左手のパートを僕が、右手のパートを藤枝くんが吹けば成立するんじゃないか? って。楽しいけど、とにかく休む暇なく演奏し続けるから、1曲終わるとヘトヘトになるんですよ(笑)。

谷中敦

谷中敦が「愛」を語る「摩擦って『めんどくさい』けど、それによって熱が生まれて愛になると思うんです」

この日はバレンタインが近かったということもあり、ゲストギタリストの伊藤智也と藤枝による演奏で、「愛」をテーマにした詩を谷中が朗読するという、粋な演出もあった。そのダンディな声とロマンティックな詩の内容に惹きこまれ、「愛は目には見えない。まるで目には見えないのに、それが『素晴らしい』って分かるのは、君たちが拍手をくれるからだ」という、ユーモアを含んだラインを読み終わると、会場からは大きな拍手が上がった。

伊藤智也

終演後、控え室で「愛」について尋ねたところ、谷中からこんな言葉が返ってきた。

谷中:「愛」というと男女の恋愛を思いがちですが、それだけじゃない。僕は友情も愛情も見境のない男なので(笑)。銀杏BOYZの峯田(和伸)くんは、僕らスカパラと一緒に作った“ちえのわ”という曲で<めんどくさいのが愛だろっ?>と歌ってくれたけど、今の時代って「めんどくさいこと」を嫌がるし、いろいろ気にしちゃってぶつかり合わないじゃないですか。

でも、ぶつかり合わなければ摩擦は起きないし、熱も生まれない。摩擦って「めんどくさい」けど、それによって熱が生まれて愛になると思うんですよ。今の世の中、もっと摩擦が必要なんじゃないかな。

摩擦は心を大きく揺さぶり、ときに怒りや憎しみも生み出す。愛と憎しみが、実は紙一重の感情だと知っているからこそ、私たちは「めんどくさい愛」から自分を遠ざけたり、逃げたりしてしまうのかもしれない。

谷中:たしかに最近は、怒りや憎しみの感情ばかりが目につく世の中だなと思います。だからこそ、それに対抗する「愛」をもっと表明すべき。憎しみって、実は効率が悪いんですよ。復讐することや憎むことで、何かが上手くいくとは思えなくて。

人は好きな人より嫌いな人を頭に浮かべちゃうじゃないですか。嫌いな人のことを考えて練習に身が入らなくなったり、本を読んでいても内容が頭に入ってこなかったり(笑)。自分ではどうしようもなかったりするんだけど、だからこそなるべく好きなこと、好きな人、大事にしなきゃいけない人やモノを意識して考えるほうが、自分の人生にとっては効率がいいと思うんですよね。

自分の中の負の感情を受け入れつつ、それをポジティブに昇華しようとする不断の試みが、男女問わず多くの人たちを惹きつける彼の魅力へとつながっているのかもしれない。

「いいことをしたら絶対に見てくれる人がいるって僕は信じたい」(谷中)

トランペット奏者のチェット・ベイカーが、バリトンサックス奏者のジェリー・マリガンと共演した“Line for Lyons”をカバーしたあと、谷中がTwitterにも投稿していた、落し物についての「素敵なエピソード」をステージ上でも紹介し、「やっぱり日本っていい国だなって思いましたよ」と話していたのも印象的だった。

谷中:悪意のない人もたくさんいるはずなんですけど、悪意のある人の声が目立つじゃないですか。そうするとつい、「なんだか嫌な世の中だな」ってなってしまう。でも、それってすごく危険なことだと思うんですよね。

正月にもTwitterで「日本にはまだまだたくさんの神さまがいる」って書いたんだけど、いいことをしたら絶対に見てくれる人がいるって僕は信じたい。実際その通りで、いいことをしていれば人は集まってくるし、誰か助けてくれるし、今日のようにお客さんが集まってくれる。見ている人は見ていてくれて、知らないところでつながっていたりするんじゃないかな。

谷中と藤枝、偶然の出会いが「2 of a kind」という名の必然につながった

冒頭で述べたように、本イベントのコンセプトは「偶発的な出会い」。しかし、こんな話を聞いていると、自分では「偶然」だと思っていたことも、実は些細なことが積み重なった先にある「必然」ではないか? とも思えてくる。そもそも、何が偶然で何が必然なのだろう?

藤枝:谷中さんとの縁も、たまたまイベントでご一緒したところから始まっているんですけど、そこからユニットを組んで、最初のライブもすぐに決まって。何か物事が上手く運ぶときって、連鎖していくような感覚があるんですよ。ときどきインターバルがありながらも、こうやって続いているのは必然ともいえますよね。谷中さんのおっしゃるように、損得勘定なく出会いや偶然を大事にした結果、つながった縁が僕には多いんです。

谷中:思ったのは、偶然を必然にするのは自分次第かなってこと。スカパラも、僕は入る予定じゃなかったんですよ。高校生の頃に組んでいたバンドでは、ずっとボーカルでしたし。サックスを始めたのは大学時代、遊び仲間とバンドのメンバーをスカパラに取られちゃったから(笑)。「俺も(スカパラに)入れてもらえないかな」と思ってスタジオへ行ったら、「君は背が高いからバリトンサックスが似合うと思うよ」って言われて。すぐに購入してメンバーになったんです。だから、本当に行きがかりと成り行きの人生。

藤枝:僕がサックスを始めたキッカケも偶然です。高校3年生のとき、友人が聴かせてくれたジャズのレコードに感動して「大学へ行ったら絶対にサックスをやる!」と思ったその初期衝動が、今につながっている。

当時ちょうどアシッドジャズが流行っていて、そのルーツでモダンジャズ、チャーリー・パーカー(アメリカのジャズミュージシャン。アルトサックスを演奏する)のCDを聴いて、「こんな世界があるのか」とハマり、気がついたら20数年も続けてこられた。谷中さんを始め、大抵の人は音楽でつながった縁ですし、全ては偶然とも必然とも言えるなって思いますね。

谷中:出会おうと思って出会えるわけじゃないのが人の縁だからね。2 of a kindも、「誰かサックスいないかな」と思って探したから組めたわけじゃない。出会いに対して、誠実になることがこの仕事では大切なんですよね。大切にしなかったら、ただ通りすぎちゃうだけだから。

余裕がないときでも、人に優しく。勇気を持った優しさが「ダンディズム」のもと

ステージには再び伊藤が登場し、この日が初お披露目という新曲“Skamba”を披露。「一度しかリハしてないから大丈夫かな……」と演奏前に谷中が明かしたが、哀愁漂うコードをギターがかき鳴らす中、緊張感たっぷりのサックスソロを奏でると、フロアからは自然発生的にハンドクラップが沸き起こった。

たった2人、ないし3人によるアンサンブルは、少しでも綻びを見せればあっという間に破綻してしまうような、ギリギリのバランスで成り立っている。すでに不動の地位を築き上げている谷中と藤枝が、このようなリスキーなユニットを続けているのは何故だろう?

谷中:人って年齢を重ねると、それまでの成功例に頼りがちですよね? 「俺はこうやって成功してきたから、この先もこれで通用するんだ」みたいな……そのほうが楽だしね。でも、その固執した部分から腐っていくと思うんですよ。常に新しいことにチャレンジしたり、自分自身を疑ってみたりしながら、どんどんアップデートさせることが大事じゃないかな。僕が尊敬する人たちは、みんなそういうチャレンジ精神の持ち主だからね。

それに、リスクがあることのほうが、夢中になれる。こうやって少人数で演奏するのってドキドキするんですけど、だからこそ没頭できるし、飽きない。緊張感のない現場を続けていると、やっぱり退屈だし自分自身にも甘えてしまう。だからスカパラでも僕は、プレイをちょっと変えてみたり、自分なりの課題を見つけたりしているんです。

そう微笑む谷中の、皺に刻まれた笑顔はとても眩しかった。それにしても、どうしてこんなにダンディなのだろう。普段ならとても聞けない、そんな野暮な質問を酔いに任せてぶつけてみた。

谷中:はははは! そんなリスキーな質問を、面と向かって言うあなたにもチャレンジ精神を感じましたよ(笑)。いや、どうだろう……自分じゃダンディなのかどうかは分からないけど、僕は品がある人が好きなんですよね。あと、カッコ悪いところを人に見せたくない。飛行機の中で靴を脱いだりするのもイヤなんです(笑)。他の人がやっていても別に気にならないけど、自分はできない。

なるほど、誰も見ていないところでカッコよくいられるかどうかは大きなポイントかもしれない。

谷中:「勇気とは、窮地に陥ったときにみせる気品のことである」というヘミングウェイの言葉が好きで。自分自身が参っているとき、精神的に余裕がないときって、人に優しくできないじゃないですか。でも、そういうときにこそ優しくなれるのが勇気のあるダンディな人だと思うし、自分はそうなりたいんですよね。

スカパラの名曲“Stroke Of Fate”を3人で演奏し、再び谷中と藤枝に戻って“Cuban Twister”を披露。名残り惜しくもこの日のライブは全て終了した。年相応の落ち着きとフレッシュな感性を持ち続ける男たちの、真髄を垣間見たような一夜だった。

イベント情報
『Park Live』

2019年2月11日(月)
会場:Ginza Sony Park 地下4階

ライブハウスともクラブとも一味違う、音楽と触れ合う新たな場となるPark Live。音楽との偶発的な出会いを演出します。
開催日:毎週 金曜日20:00 - 、不定期

プロフィール
2 of a kind (とぅー おぶ あ かいんど)

東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦と藤枝伸介 (i-dep / Sound Furniture)によるサックス・デュオ。2本のサックスにより織り成されるシンプルかつ色気漂う音色は、2人のこれまでの活動から引き継がれたSKA、JAZZなどの音楽的要素を内包しつつ、映画や映画音楽への愛着、傾倒を感じさせる情緒をも醸し出す。シンプルかつ自由な音の織り成す世界に、観るものはある一遍の物語をも見出すであろう。



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