柴田聡子を紐解く3つの「出会い」今、一番大切なのはおしゃべり

銀座の真ん中にある「Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)」。そこで毎週金曜夜のほか不定期に行われているのが、「音楽との偶発的な出会い」をコンセプトにした入場無料(ワンドリンクオーダーが必要)で楽しめるライブプログラム『Park Live』だ。気まぐれに足を運べば、そこで新しい音楽に出会える。そんななか、2月22日に登場したのはシンガーソングライターの柴田聡子。最近では、バンド、inFIREを従えたライブを行ってきたが、この日はギターの弾き語りで新作『がんばれ!メロディー』の曲を中心に披露。ギターと歌というシンプルな構成でメロディーのよさが引き立つなか、躍動感溢れる演奏で観客を惹きつけた彼女に、終演後に話を聞いた。

私にとっておしゃべりって大切なんです。しゃべると相手のことが好きになって、いろんなアイデアが出てくる。

—柴田さんのライブは、今日みたいな弾き語りもあれば、バンド編成のときもあります。演奏するうえで気持ちの違いはありますか?

柴田:ひとりはちょっと寂しくて、バンドのときは「無敵!」って気持ちですね(笑)。

柴田聡子

—デビューしたときはひとりでしたが、バンドとやるようになって寂しさを感じるようになったんでしょうか?

柴田:そうかもしれません。今のバンドと2年くらい一緒にやって仲よくなってきたっていうのもあって、「今日はひとりか……」みたいな感じで。

—今回は柴田さんといろんな出会いについて伺いたいのですが、まずはバンドとの出会いから聞かせてください。現在、一緒にやっている柴田聡子inFIREのメンバーは、イトケンさん(Dr)、かわいしのぶさん(Ba)、岡田拓郎さん(Gt)、ラミ子さん(Cho)という強力な顔ぶれですが、このバンドのよさってどんなところですか。

柴田:まず、仲がいいってことですね。みなさんの演奏の素晴らしさは言わずもがなですが、おしゃべりしててすごく楽しいんです。レコーディングのときもすごく楽しくて、それって、すごく重要だなって思いました。これまでは「バンマスとしてしっかりしなきゃ!」と思って番人みたいな感じになってたんです。でも、今のバンドでは、「わーい!」みたいにバカな感じでいられるし、メンバーをちゃんと頼ることができる。ようやく、そういうふうになれました。

—新作を聴くと、そういう仲のよさが反映されている気がします。どのパートも同等に存在感があって、音でおしゃべりしているような感じで。

柴田:ほんとにそうだと思います。それぞれがアイデアをどんどん出しあって、思いついたことは全部やってみました。私が最初に持っていったアイデアを、このバンドだから覆すことができたりもしたんです。

—自分が思ってもいなかった仕上がりになった?

柴田:そう。そういうのもすごく嬉しくて。たとえば“涙”っていう曲は、最初は「打ち込みみたいに作りたいね」って言ってたんですけど、それがうまくいかなくて。それで一度バンドで一緒に演奏してみたら「これでいいんじゃない?」ってなって、人力で録りはじめたんです。そしたら、すごく自然な感じでまとまったんですよね。

—このバンド独自のグルーヴがありますよね。イトケンさんとかわいしのぶさんのリズム隊もタイトだし。

柴田:グルーヴは今回意識しました。たとえば“佐野岬”とか“東京メロンウィーク”は、このバンドでしか出せない不思議なグルーヴが生まれたと思います。“佐野岬”はバンドでおしゃべりしたことが、グルーヴの向上につながったところがあって。

—というと?

柴田:最初、みんな「歌詞がよくわからない」って言ってたんです。それで内容を説明したら、「えっ!? そうなんだ。へぇー!」ってなって、みんなが曲を好きになってくれた。そしたら、グルーヴがすごく出るようになったんです。

柴田聡子“佐野岬”を聴く(Apple Musicはこちら

—<3万借りたら5万返すよ>という面白い一節ではじまる曲ですが、どういう内容なんですか?

柴田:めちゃくちゃなことしているけど、なぜか愛されてる「伝説の先輩」みたいな人、地元にいませんか? そういう先輩がいて、そういう先輩と付き合う女の子って、たいてい可愛くてしっかりした人で、その先輩には舎弟もいたりする。で、これはその舎弟の話なんですけどって話をすると、しのぶさんが「いた! いた! めっちゃ美人の彼女と付き合ってた!」って驚いてて(笑)。話をしたあと、演奏をしたら、いい感じにグルーヴが出るようになったんです。

—メンバーが歌詞のイメージを掴むことで、バンドサウンドが変化していくんですね。

柴田:私にとっておしゃべりって大切なんです。しゃべると相手のこととか曲のことが好きになって、いろんなアイデアが出てくる。

—バンドとの出会いが、グルーヴとの出会いにつながったと。

柴田:そうだと思います。

「ちょっと恥ずかしいぞ」ぐらいの王道でも、私がやったらズレるっていうことがわかってきて(笑)。

—もうひとつ、メロディーとの出会いについても聞かせてください。アルバムタイトルからもメロディーを大切にしていることが伝わってきますが、今回のアルバムはこれまででいちばんポップな作品になりましたね。

柴田:そうですね、常にメロディーを意識して歌いました。楽器のチューニングが狂ってたら気持ち悪いのと同じで、歌も楽器と同じように、音を外さずにメロディーをしっかり聴かせることが大切だと思ったんです。今回、楽器もみんな歌ってくれているような感じがしました。

—初期の頃と比べて、王道のメロディーを堂々と歌うようになった気がします。

柴田:やっぱり王道ってすごく楽しいし、みんなに伝わるんですよね。それに、今の私はそういうものを望んでいて。「ちょっと恥ずかしいぞ」ぐらいの王道でも、私がやったらズレるっていうことがわかってきて(笑)、私が王道過ぎるメロディーをやれば世間的にはちょうどいいバランスじゃないかと。

—王道をやっても「柴田聡子は不動なり!」っていうことを証明したアルバムだと思います。“ラッキーカラー”みたいにドラマの主題歌になった曲もあるし(CBCテレビ連続ドラマ『ゼブラ』に起用)。

柴田:“ラッキーカラー”は「すごくいい曲を作りたい!」と思って作った曲です。その頃、人間関係にすごく悩んでいて、悩むよりなんとかやっていく工夫をしたほうがいいんじゃないかと思って、この曲を書いたんです。これまで王道の曲をあまりやってこなかったんで、ちょっと恥ずかしいというかソワソワしたりもするんですけど、バンドのみんなが「大丈夫! これは王道でいこう」って支えてくれる。それもこのバンドのいいところなんです。

柴田聡子“ラッキーカラー”を聴く(Apple Musicはこちら

—もともとはひねくれているんですね。

柴田:ほっとくと、ひねくれちゃうんです。でも、そうすると自家中毒を起こしてしまうので、そういうときは自然に楽しいことをやればいいと思うんです。このバンドといると、ひねくれ過ぎないでいられる。メンバーの演奏も音楽性も幅が広いので、メロディーが王道でもかっこよく仕上げてくれるんです。

—今回のひねくれ路線の代表は、7インチシングルを切った“ワンコロメーター”ですね。能天気な打ち込みで、ポップ路線をひっくり返すような異物感が(笑)。

柴田:やっぱり、出ちゃいましたね(笑)。最初からワンコードで打ち込みにしようと思ってたんです。「う~……」ってなりながら自分で打ち込んでいました。

柴田聡子“ワンコロメーター”を聴く(Apple Musicはこちら

—“ワンコロメーター”のB面曲“セパタクローの奥義”も民謡みたいな不思議なメロディーです。

柴田:シングルのB面といえば変な曲、というイメージがあったので「変な曲を作ろう!」と思ったんです。そしたら、ある日、夢のなかで「セパタクロー」っていうメロディーが浮かんだので、「これはいけるかもしれない」と思って。そこからグググッて無理矢理作りました(笑)。

—その無理矢理感が曲から伝わってきます(笑)。歌詞も意味不明な感じだし。

柴田:やっぱり、伝わりませんか。いや、これで伝わると思うほうが甘いですよね。流しそうめん大会の歌なんですけど。

—そうなんですか!? お祭りっぽい曲だなとは思ったんですけど、流しそうめん大会とは……。

柴田:<流しはじめは 町内会長で>とか、それとなく匂わす歌詞は入れたんですけどね。すべて説明できるので、いつか全部説明します(笑)。

柴田聡子“ワンコロメーター”を聴く(Apple Musicはこちら

—やっぱり、おしゃべりって重要ですね(笑)。でも、内容がすぐに理解できなくても歌詞に独特の世界観があるし、内容がわかるとさらに世界が広がる。“佐野岬”の説明を聞いてバンドが盛り上がったのがわかります。

柴田:いやー、バンドのみんなとアルバムを作っているときはほんとに楽しくて、その雰囲気がアルバムにも出ていて、すごくあたたかい音になったと思います。

いろいろ考え過ぎてうまくいかなかったり、次の一歩が踏み出せないときにイ・ランと会うと、もやもやした気持ちを取っ払ってくれるんです。

—『がんばれ!メロディー』と同時期に、韓国のシンガーソングライター、イ・ランさんとの共演作『ランナウェイ』がリリースされました。イ・ランとの出会いについても教えてください。

柴田:在日韓国人の友達から「これいいから聴いてみて」って、2曲くらいデータをもらったんです。「いい曲だな~」と思ったんですけど、アーティスト名がハングル語で誰かわからなかったんですよ。

そのあと、初めて韓国でライブをやったときにイ・ランが観に来てCDをもらったんです。それを聴いたら、そこに友達からもらった2曲が入ってたんですよ! 奇跡でしょ? それですぐにメールしたら「わーい!」ってなって。イ・ランも私の歌を気に入ってくれたみたいで、それから一緒に遊んだりするようになったんです。

—2016年にふたりで日本を縦断する『ランナウェイ・ツアー』をしますが、『ランナウェイ』はツアーのあとにレコーディングしたそうですね。

柴田:そうです。夜中に2日間でレコーディングしました。イ・ランが夜型なんで喜んでいましたけど、めちゃくちゃ眠かった(笑)。最初に簡単に打ち合わせをしただけで、すぐ録音に入りました。

—全曲、ふたりで一緒に演奏して歌っていて、ふたりの仲のよさが伝わってきます。ツアー中に食べたものをひたすら歌う“おなかいっぱ~いです”からは、深夜のノリが伝わってきたりもして(笑)。

柴田:「大丈夫かな、これ」って話をした覚えがあります(笑)。ツアーの間、いつもふたりでお腹空いたねって言ってたんです。

—女子は常に小腹が空いてる印象です(笑)。

柴田:実際そうですからね(笑)。そして、人が食べてるものを欲しがる(笑)。

—“バカ 漏斗”はツアーが終わることの寂しさが歌われていて、ほろりとさせられます。

柴田:「やっと録れたな」と思った直後に、某大物バンドの有名曲に似ているような気がして、「パクったかも……」って落ち込んじゃったんです。イ・ランは全然気にしてなくて、聴き比べて「大丈夫だよ」って言ってたんですけど。

—柴田さんはイ・ランのどんなところに刺激を受けますか。

柴田:イ・ランはすごくピュアでストレートなんです。いろいろ考え過ぎてうまくいかなかったり、次の一歩が踏み出せないときにイ・ランと会うと、ごちゃごちゃした気持ちを取っ払ってくれるんですよね。すごく勇気づけられる。

—そういう素直さって音楽にも出ていますよね。メロディーは王道で、すごく聴きやすい。

柴田:そうですね。小細工の効いたコード進行を聴かせてもピンとこないみたいで、キャッチーなコード進行を聴かせると「これ、いいじゃん!」って。メロディーで曲が色づく感覚が洋楽っぽい気がします。

本来、音楽は自分がいる世界をいい感じにしてくれるものだと思うんです。

—『がんばれ!メロディー』は、どちらかというと邦楽の匂いがしますね。歌謡曲っぽい曲もあって。

柴田:大学のとき、歌謡曲とかJ-POPをたくさん聴いたんです。松本隆さんが好きになって松本ワークスを辿っていくうちに、細野晴臣さんとかユーミン(荒井由実)がアイドルに曲を提供していることを知って、それでアイドル歌謡に目覚めました。

—そういえば、昨年末にリリースされた大瀧詠一トリビュート『GO! GO! ARAGAIN』では、松田聖子“風立ちぬ”を忠実にカバーしていました。

柴田:もう、完コピしたいなと思って(笑)。私は自分色に染められないタイプなので、私にとってカバーは偉人ワークスを追体験することなんです。「どんだけすごかったんだ!」って思いたい。“風立ちぬ”をカバーして、めちゃくちゃ勉強になりましたね。一つひとつの音が狙い澄まされているけどおおらかで。それぞれのメロディーや音色がしっかりと役割を果たしているんです。

—お話を伺っていると、今、柴田さんが楽しみながら音楽をやっていることが伝わってきます。

柴田:安室奈美恵さんの引退コンサートを観に行って、すごく感動したんです。コンサートの最後に「一音楽家として、みなさんの素晴らしい人生に素晴らしい音楽が溢れているのを祈っています」みたいなことを言っていて、やっぱり安室ちゃんは音楽が好きだったんだなと思って。安室ちゃんが音楽に真っ直ぐ向き合っている感じとか、音楽への愛情にすごく励まされた。そして、改めて音楽っていいもんだなあって思うことができたんですよね。

—音楽を仕事にすると、そういう素直な気持ちは忘れがちになるかもしれませんね。

柴田:こだわって何かを作っているんだと思っていても、いつのまにかそれから離れて自分のことばかり考えて頑なになってしまうときがある。でも、本来、音楽は自分がいる世界をいい感じにしてくれるものだと思うんです。だから、このアルバムを作っている間は、すごく幸せだったんです。

柴田聡子『がんばれ!メロディー』で聴く(Apple Musicはこちら
イベント情報
『Park Live』

2019年2月22日(金)
会場:Ginza Sony Park 地下4階

ライブハウスともクラブとも一味違う、音楽と触れ合う新たな場となる"Park Live"。音楽との偶発的な出会いを演出します。
開催日:毎週 金曜日20:00 - 、不定期

リリース情報
柴田聡子
『がんばれ!メロディー』(CD)

2019年3月6日(水)発売
価格:2,800円(税込)
PCD-18862

1. 結婚しました
2. ラッキーカラー
3. アニマルフィーリング
4. 佐野岬
5. 涙
6. いい人
7. すこやかさ
8. 心の中の猫
9. ワンコロメーター(ALBUM MIX)
10. 東京メロンウィーク
11. ジョイフル・コメリ・ホーマック
12. セパタクローの奥義(ALBUM MIX)
13. 捧げます

イベント情報
柴田聡子 TOUR 2019 “GANBARE! MELODY”

出演:柴田聡子 inFIRE
料金:前売3,500円 / 当日4,000円

2019年4月13日(土)
会場:北海道 札幌 ベッシーホール

2019年4月14日(日)
会場:宮城県 仙台 FLYING SON

2019年4月25日(木)
会場:京都府 磔磔

2019年4月26日(金)
会場:愛知県 名古屋 得三

2019年4月09日(木)
会場:大阪府 十三 FANDANGO

2019年4月11日(土)
会場:福岡県 UTERO

2019年4月12日(日)
会場:岡山県 ペパーランド

2019年4月16日(木)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

プロフィール
柴田聡子 (しばた さとこ)

1986年札幌市生まれ。大学時代の恩師の一言をきっかけに、2010年より都内を中心に活動を始める。ギターの弾き語りでライブを行う傍ら、岸田繁、山本精一など豪華ミュージシャンを迎えた最新作『愛の休日』まで、4枚のアルバムをリリースしている。2016年に上梓した初の詩集『さばーく』が第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。現在、雑誌『文學界』でコラムを連載しており、文芸誌への寄稿も多数。歌詞だけにとどまらず、独特な言葉の力にも注目を集めている。2018年3月、アナログ・マスタリング / カッティングまで本人が完全監修した4thアルバム『愛の休日』のLPレコードを発売に続き、11月、ライブではすでにキラーチューンの座を確立している『ワンコロメーター』を7inch EPで発売。2019年3月6日には待望のニューアルバム『がんばれ!メロディー』の発売が決定。初のバンドツアー『柴田聡子 TOUR 2019 “GANBARE! MELODY”』を全国8都市で開催することも決定している。



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