21年目の韻シストが語る、目指すは全世代に届くヒップホップ

昨年結成20周年を迎え、CharaやPUSHIMといった縁の深い仲間を迎えて開催された自主企画『NeighborFood』の特別編を大成功させた韻シスト。さらに、今年4月には大阪城野外音楽堂で初の主催フェス『OSAKA GOOD VIBES』を開催し、こちらはNulbarichをはじめとした下の世代を迎えることで、新たな一歩を示した。幅広い世代との交流を経て、5人の奏でるヒップホップは世代を問わない音楽へと今も進化している。

8月7日にリリースした『SHINE』は、流行りのビートやフロウを用いずとも、「ヒップホップバンドがジャンルの枠に捉われずにグッドミュージックを演奏し、歌う」という本質において、韻シストが現代的なアーティストであることを証明した作品。「One For All, All For Shine」(一人はみんなのために、みんなは輝くために)というテーマは、メンバー間の関係性の強さやケミストリーを表しているそうだが、同じことがオーディエンスにも、仲間のミュージシャンにも言えるはず。韻シストを取り巻くさまざまな関係性について、BASIとTAKUに聞いた。

子供からおじいちゃんおばあちゃんまで参加できるようなフェスをやって行きたい。(BASI)

―今年の4月に大阪城野外音楽堂で開催された初の主催フェス『OSAKA GOOD VIBES』の感想から話していただけますか?

BASI:20代のころは、若者というか同世代に聴いてもらうために韻シストをやっていたんですけど、結成20年を越えて、子供からおじいちゃんおばあちゃんまで参加できるようなフェスを継続してやって行きたいと考えるようになりました。今回、第1回目を成し得て、それをちゃんと自覚できたというか。

―実際に、当日は幅広い世代が参加していた?

BASI:いましたね。親子連れもすごく多かったし、「3世代のファミリーちゃうかな?」っていうような仲睦まじい場面もめっちゃ見たんで。これからもヒップホップをやっていくことには変わりないんですけど、「大人も子供も一人でも多くの人が楽しめるような、いい音楽って何やろうな?」って、考えるきっかけにもなりました。

韻シスト(いんしすと)左から:TAKU、BASI
生々しく独創的でグルーヴィーなサウンドと極上のライブパフォーマンスが圧倒的な評価を受け続ける、大阪をベースに活動するファンキーグルーヴマスターと称される唯一無二のヒップホップバンド。数度のメンバーチェンジを経て、2 MC(BASI,サッコン)、Gtr.(TAKU)、Bass(Shyoudog)、Drs.(TAROW-ONE)からなる鉄壁の現メンバーとなる。2019年4月には、超満員の大阪城野外音楽堂で初の主催野外フェス『OSAKA GOOD VIBES』を開催。また、8月には早くもミニアルバム『SHINE』をリリースする。

―これまでも大阪と東京で主催イベント『NeighborFood』をやってきたわけですが、そこでのお客さんの世代も広がって行くなか、その延長線上でフェスを開催したわけですか?

BASI:「そろそろやれる」というよりは「そういうことをしたい」っていう始まりだった気がします。個人的に頭のなかにあったのは、10-FEETの『京都大作戦』。僕らも呼んでいただいたことがあるんですけど、その1日がすごく楽しくて、楽園に遊びに行ったような感じで。同じバンドマンとして、自分たちもああいうことをしていきたいと思ったんです。

―TAKUさんはいかがでしょうか?

TAKU:地元の野外音楽堂にあれだけ多くの人が集まってくれて、「街が応援してくれてるんや」ってことがすごく嬉しくて。「もっと日常にGOOD VIBESを」っていうテーマを掲げていたんですけど、よくメンバー同士で話していたのは、おじいちゃんおばあちゃんが「えらい今日賑やかやなあ」「GOOD VIBESやってるからやろ」みたいな感じになったらいいなってことで、その第一歩になったんじゃないかなと思います。

―いいですね、ファンキーなおじいちゃんおばあちゃん。

TAKU:あとは自分らだけでやってるんじゃなくて、みんなでやってるんやなって、ちゃんと指差し確認できた。みんなのGOOD VIBESがあってのフェスだったというか。若いときはどうしても「俺たちが」って感じになると思うけど、今この年齢になると、「この方はこう思ってはるんや。そんなら、こうしようか」とか、一つひとつ確認しながらできて。ただ「イベントを盛り上げた」じゃなくて、ひとつの行事になったんです。

TAKU

―地域の盆踊り大会をヒップホップでやるような?(笑)

TAKU:そういう感じがありました。あの野外音楽堂の景色を実際に見て、初めて湧いてきたイメージもあったので、これからもっと大きくしていきたいですね。

Charaさんからは、めちゃめちゃ影響を受けてます。(BASI)

―昨年20周年を記念して開催された『NeighborFood』の3デイズは、CharaさんやPUSHIMさんといった縁の深いアーティストを招いたのに対して、『OSAKA GOOD VIBES』では下の世代のバンドを呼んでいたことも非常に印象的でした。

TAKU:それは結構イメージしていたかもしれないです。もちろん、ずっと一緒にやっていきたい仲間というか、同世代や先輩もいるんですけど、そこで固まるんじゃなくて、若い世代のアイデアも取り入れたいし、実際ここ数年10個以上下の世代から刺激を受けることが増えたと実感していて。なので、若い世代を呼ぶのは、今回フェスをやるにあたって最初に思ったところなんです。

―Nulbarich、SANABAGUN.、踊Foot Worksって、三者三様の絶妙なバランスでしたね。

BASI:今の年齢でヒップホップをやってる自分たちが言うとちょっと矛盾しますけど、ヒップホップは基本若者の音楽やと思ってて、つねに若い世代によって塗り替えられていくものだし、そうやって進化していく音楽やと思う。

普段は好んで現行の音楽を聴くので、トラップも理解してるし、三連のフロウやオートチューンも好きなんです。でも、今の自分たちがやっても似合わない部分もあって、僕らは僕らでやるべきことがきっとあるはずだから、それを探求したい。

その代わり、自分たちがオーガナイズするフェスに下の世代を呼ぶことで、今の時代に対する自分たちの発信にもなるなって。もちろん、単純に「かっこいいから出てもらいたい」っていうのもあるけど、彼らと一緒に、同じ目線で発信したいと思っていて、その方法がこのフェスなんだと思いました。

BASI

―20年を経て、成人した韻シストの第一歩として、すごく明確なステートメントになっているように感じました。Charaさんが今も若いミュージシャンをフックアップすることで、自らを更新している、あのかっこよさにも通じるものがあるなって。

BASI:そこはめちゃめちゃ影響を受けてます。こういう風に音楽を発信して、積み重ねていくんやっていうのを、真横で教えてもらっている感じがありますね。普段Charaさんは「こうしたらいい」って言語化することはないんです。音だけで物事を進めていく方なので、僕らなりに「こうしたらいいんや」っていうのを横で学ばせてもらってます。

―近年のパートナーであるTENDREもちゃんと盛り上がってきて、やっぱりすごいなと。

TAKU:Charaさんはフックアップの天才ですよね。僕らもそのひとつだと思いますし。センスの塊みたいな方やから、肌でキャッチしはるんやと思うんですけど、そのアンテナが僕らにもビッとなっていただいたのは、すごくありがたいです。

BASI:実際プライベートの時間を割いて、現場まで足を運んで、オーディエンスと一緒にライブを観ているんですよ。そうやって、自分の目と耳で選んで、声をかけているんです。

TAKU:「最近誰かおすすめいる?」ってポロッと言わはって、「かっこいいじゃん、観に行ってみる」っていう、本当にピュアな感じ。見習うところはすごく多いですね。

僕らの思うヒップホップ的な手法と、合わなくなってきたのかもと感じています。(BASI)

―韻シストとオーディエンスの関係性をもう少しお伺いしたいのですが、韻シスト自体は「あくまで自分たちのやりたいことを貫く」というスタンスがありつつ、一方では、音楽シーンの流行みたいなものがあって、近年はまたヒップホップが盛り上がっている。そういうなかで、お客さんのノリにも時期によって変化があったりするのかなと。

BASI:僕らが10~20代のころって、ヒップホップには「DIG」って言葉があるように、掘り下げていって、「こんな音楽あるんや、これ俺しか知らんやろな」って、そこに喜びとか面白さを感じていた。なので、1990年代のアーティストへのリスペクトを込めて、そのころの曲を演奏したり、自分が好きで聴いていた音楽を流して、懐かしい気持ちになってもらおうとか、僕らはそういうアプローチをずっとやってきたんです。

でも、3~4年前くらいから、だんだんそこに対してお客さんの反応があるのかわからなくなってきたんですよね。今の子からすると、「その曲知らないから、韻シストの曲が聴きたい」っていう風に変わってきた。僕らの思うヒップホップ的な手法と合わなくなってきたのかもと感じています。

―なるほど。考えさせられますね。

BASI:それに対して悲観的なわけではなくて、あくまで事実としてそうなんです。だったら、どんなことをすればもっと面白いのかを追求しようと思うんですけど、事実として、昔とはちょっと変わったなっていうのは、ステージの上に立っていて思います。

―音楽との接し方が変わって、「若い世代は自分の興味の対象にはストレートに飛びつくけど、その周りにはあまり関心を持たない」ということも言われるので、それがライブにおける反応の違いともつながっているのかもしれないですね。

BASI:でも、熱が減っている感じではなく、ちゃんと今の音楽とか自分の好きな音楽にエネルギーを注いでいる感じはします。僕らが掘り下げるときに使うエネルギーと、若い子らの「今はこれなんだ」っていうエネルギーは同じで、ただ「昔はこんなんあったんよ」って言ったときに、「へー、そんな時代があったんですね。でも、今私はこれが好きなんです」っていう感じ。

―世代が変われば音楽の楽しみ方も変わるのはある種当然で、でもだからこそ、幅広い世代の集まるフェスのような場所で、それぞれの世代の楽しみ方を紹介して、シェアすることで、いい循環が生まれるような、そんなことができるといいですよね。

BASI:「今はそういう音楽の聴かれ方をしているんだ」っていうことを理解して認めたうえで、「これのどこが好きなん?」って聞くと、すごく熱心に教えてくれて、そこで気付くことや学ぶことも多いんです。20年もやっていれば、そういう変化が出てきて、面白いし、やりがいを感じますね。

韻シストで発信するときに守っているのは、哀愁とか切なさ、完璧じゃないものなんです。(BASI)

―新作の『SHINE』には「One For All, All For Shine」(一人はみんなのために、みんなは輝くために)というテーマが掲げられていて、やはり20周年を経て、オーディエンスとの関係性を再確認したからこそ生まれたテーマなのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?

BASI:去年はやはり、ある種の達成感を感じていました。だけど今作に関しては……言うたら、このジャケ写にこのアー写ですよ?(笑)

韻シスト『SHINE』ジャケット
韻シスト アーティスト写真

―かなりユルいですよね(笑)。

BASI:今回はどちらかというと、ちょっと肩の力を抜いて、笑えるものにしたかったんです。ジャケットを陽気で明るいバイブスのものにしたくて、『SHINE』って言葉が浮かんできました。そこから派生させて、「どんな曲が必要か?」っていうプロセスでアルバムを作っていった感じです。

―たしかに、肩ひじ張った感じではないですもんね。『SHINE』というタイトルではあっても「ギラギラ」みたいなイメージではなくて、楽曲もわりとチルな感じですし。

BASI:来年が今のメンバーになって10年になるんですけど、そこで「こういうものを作りたい」っていうビジョンを設定してあるんです。だから今回はその分、遊び心のあるちょっとユルいものにしたかったんですよね。

TAKU:韻シストのメンバーを石で例えると、変な形の石ばっかりなんですけど、それを削っていい感じにするんじゃなくて、マネージャーも含め、6個集めたらたまたま上手いこと大きい石になった、みたいなイメージなんです。「One For All, All For Shine」っていうのもそのイメージで、一つひとつはいろんな形なんですけど、6個集まったらきれいに輝くのが理想的やなって。

今回40曲くらいデモがあって、そこから10曲に絞って、そのなかから多数決で被ったものを選ぼうって話をしたんですけど、マネージャー含めて6人全員割れたんですよ(笑)。それで「じゃあ、その6曲を収録しようか」ってなったんです。このエピソードが今回のテーマをすごく象徴してるんですよね。

韻シスト『SHINE』を聴く(Apple Musicはこちら

BASI:個人的に、韻シストで発信するときに守っているのは、哀愁とか切なさ、完璧じゃないものなんです。“Just like this”も「結局何が言いたかったんかな?」って、解決しないんですよね。サビで「明日は言える? 明後日なら言える?」って言っているこのニュアンスって、韻シストとしてずっと守ってるところ。何かを言い切ったり、「これが正解」っていうのはあんまり好きじゃなくて、日常って上手くいきそうでいかなかったりするし、ほんまに完璧な人なんていない。そういうことをいかに表現するかは大事にしています。

また『OSAKA GOOD VIBES』の話になりますけど、子供から大人までが聴いているなかで、嘘っぱちなことじゃない、日常のなかで「僕も、私もそう思う」っていうリアルなことを、言葉を通じて表現したいとずっと思ってますね。

ヒップホップがイロモノじゃなくなりましたよね。(TAKU)

―哀愁とか切なさという意味では、TAKUさんがボーカルを担当した“よあけの歌”も象徴的な1曲ですよね。

TAKU:ヒップホップを生演奏する自分たちのスタイルからするとちょっとシュールかもしれないですけど、いろんな音楽を吸収してきて、楽器ができるやつもいれば、リリックを書けるやつもいる、そのクルーでエバーグリーンな曲というかずっと語り継がれるような曲を作ってみたいと思ったんです。

「みんなのうた」とか、音楽の教科書に載るような、シンプルに詞とメロディーが素晴らしい曲を、ヒップホップバンドでやる。だから、「僕が歌う曲を作りたい」ではなくてみんなで歌いたいし、カバーとかもしてほしいんです。

―スタンダードとして、みんなに歌われるような。

TAKU:はい、そういう曲をヒップホップバンドが作るっていうのが……ひょっとしたら自己満足なのかもしれないですけど、そういうスタンスで音楽とかカルチャーに触れることが自分はすごく好きで。そうやって作ったものを誰かが歌ってくれたら、僕としてはすごく嬉しいんです。前々からそういうことがやりたいと思っていて、それを一個形にできた感じはあります。

―あくまでもヒップホップに軸足を置きつつ、自由に好きなことをやる精神性を持ったバンドだと思うので、それが強く反映された1曲だと思うし、さらに言えば、フェスで幅広い世代へのアプローチを始めたこのタイミングで、スタンダード感のある曲が生まれたことには意味があると思います。

BASI:最初はサッコンが歌っていたんです。世の中にはいろんなラッパーがいますけど、こうやって「歌」として成立させられる人ってあんまりいないと思っていて。結果的にTAKUが歌っていますけど、自分たちのやっていることに改めて自信が持てる1曲になりました。

―ある意味では、非常に今のヒップホップ的でもあると思うんですよね。近年の海外のヒップホップって、もはやラップじゃなくて歌だったりするわけで。

BASI:たしかに、タイラー(・ザ・クリエーター)の新しいアルバムとかそうですよね。

―そういう意味では、すごく2019年のヒップホップ的というか。

BASI:本当ですね。それは自分たちでも気づけてなかったです。今って、「これはヒップホップじゃないよ」って言われたところで「かっこよければいいじゃん」とか「パソコンで作ったんすよ、かっこいいっしょ」で成立するもんね。

TAKU:アンダーソン・パークとかもそうですけど、音楽的になってますよね。ヒップホップ自体が多様になってるというか。

BASI:別ジャンルの人でも、「絶対この人ヒップホップ好きやな」とか、わかるもんね。昔は「そんなのヒップホップじゃない! セルアウトだ!」みたいなことを言う人が大半だったけど、今やそっちの方がマイノリティで、「関係あらへんですやん。これがかっこいいですもん」っていう方が圧倒的に多いし。

TAKU:ヒップホップがイロモノじゃなくなりましたよね。前は特殊枠、風変わり枠だったというか、1990年代はまだ「お前ラップ聴いてんの?」って感じがあったけど、今は普通も普通。「市民権を得た」とまで言っていいかわからないけど、ヒップホップカルチャーに対する一般の方の理解度は、僕らが10代のころとは全く変わりましたね。

―途中BASIさんから「基本的に、ヒップホップは若者の音楽」という話がありましたけど、でも今の韻シストはそれを幅広い世代に届けようとしていて、その意識の変化もヒップホップという音楽の一般化と結びついているように思いました。

BASI:これまでは第一に「ヒップホップをやろう」と考えて、音を作ったり、ライブをしてましたけど、今は順序が変わったんです。「子供も大人も楽しめるノリやグルーヴを持ったグッドミュージックを作りたい」っていうのがあって、それを何と呼ぶかっていうと、「ヒップホップです」っていう。だから、順番は逆転してるんですけど、結局やってるのは今もヒップホップだっていう、それ自体は変わってないんですよね。

リリース情報
韻シスト
『SHINE』(CD)

2019年8月7日(水)発売
価格:2,000円(税込)
TKCA-74810

1. Shine
2. Come around
3. Just like this
4. SMILE
5. よあけの歌
6. Get out of my head

プロフィール
韻シスト
韻シスト (いんしすと)

生々しく独創的でグルーヴィーなサウンドと極上のライブパフォーマンスが圧倒的な評価を受け続ける、大阪をベースに活動するファンキーグルーヴマスターと称される唯一無二のヒップホップバンド。数度のメンバー・チェンジを経て、2 MC(BASI, サッコン)、Gtr.(TAKU)、Bass(Shyoudog)、Drs.(TAROW-ONE)からなる鉄壁の現メンバーとなる。2019年4月には、超満員の大阪城野外音楽堂で初の主催野外フェス“OSAKA GOOD VIBES”を開催。また、8月には早くもミニアルバム「SHINE」をリリースする。



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